石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる 作:Una
1996年、秋。
魔術を使ったオーバーテクノロジーな特撮技術てんこもりな『婚活魔法少女メディアちゃん!』のドラマが終了し、実写映画版メディアちゃん! も公開開始して、日本アカデミー賞ノミネートの連絡がメディア様とアイリさんに届いた頃。
ウェイバー君から電話がかかってきた。
彼は聖杯戦争が終結してから半年ほど旅に出ていた。マフィアの抗争に巻き込まれながらなんとかかんとかロンドンに帰還して、それからどうやってだか時計塔の三級講師の資格を取得し、どこからか調達した資金でもってエルメロイ派の教室を没落寸前のアーチボルト家から購入して、その後1年半もの間どうにかこうにか運営を続けている。
『久しぶり。悪いな、いきなり電話なんかして』
「直接電話してくるなんて珍しいじゃん。どうしたの? 金なら貸すよ」
『久しぶりに知人から連絡がきたら普通は金は貸さないぞって釘を刺すものなんだけどな。まあお前だものな』
「最近どう? 教室の方は」
などと聞いてみるが、実は大体のことは教室に送り込んだケイネちゃんから報告を受けている。というかケイネちゃんもネットワークに組み込まれているから、教室の様子やウェイバー君の奮闘具合は直接この目で見ているようなものだ。
『相変わらず講師ごっこの域を出てないよ』
魔術師としてなんの業績も後ろ盾もない20歳そこそこの魔術師に師事しようなんて魔術師が時計塔に入学することなどほぼない。他の教室や学科では門前払いのような扱いをされた、低い家柄出身あるいは魔術師として初代のような存在ばかりが集まってくる。
言ってしまえば吹き溜まりである。
それですら新米教師であるウェイバー君だけでは回らなくなっているのだが。
むしろたった一人でよく1年以上教室を運営できたものだと思う。時計塔なんて権力欲と自己顕示欲をこねて固めて人の形にしたバケモノの巣窟だ。新米三級講師が開いている『新世代』の集まっただけの教室であるから奪うほどの価値がないと言われればそうかもしれないが、それにしたって付け入られる隙を全く作らず存続させているのだから驚異的である。
『というわけでな、ガリアスタ。お前の実家でいろんな魔術師を雇ってるんだろ? 何人か紹介してくれないか。生徒はだいたい『新世代』だから基礎的なところを教えられればいい。分野は問わない。僕も引退した元講師にお願いして講義してもらっているけど、僕の人脈じゃ頼める人にも限りがあるし』
そう語るウェイバー君の声には疲れが滲んでいる。
猫の手も借りたい状況なのだろう。
「ライダーはどしたの? あれでも神代の王様なんだから魔術には多少の知見はあるんじゃないの?」
『灯台だか図書館だかを見に行くと言ってどっか行ってるよ』
また世界地図を盗んでなきゃいいけど、とウェイバー君がぼそりと呟く。
ライダーは受肉の方法を求めて世界中を探し回っている。たまにウェイバーのいるロンドンに戻って進捗の報告をしているようだが、基本的には自慢の戦車で放浪しているのが常だ。
『それに多分魔術については役に立たないと思う、錬金術の基礎的な実験を興味津々で見てたし。軍略や帝王学を教えるというならともかくな。というか、ゴーストライナーを人前に晒すようなことはできないだろ特に時計塔では』
「それはそうか」
大騒ぎになるわな。下手すれば封印指定だ。どう封印するのか知らんけど。
「じゃあメディア様派遣する? 受肉してるからゴーストライナーとは違うし、外見は認識阻害をかければメディアちゃんとばれることもないと思うけど」
『恐れ多いわ』
最近はドラマや映画の撮影も終了して暇しているのだ。あまりにも暇すぎて日本からアラブに持ち帰った柳洞寺の神殿がメディア様の作製したプラモやボトルシップで溢れそうになっているほどである。
魔術の研究については、ムジーク家に新たに作製してもらったホムンクルス5体とそれらを管理する7番個体で作られた魔術研究チームに、メディア様がネットワーク越しに同調して常に作業を進めているような状態だ。分割思考はメディア様も統括個体から教わっていたため、メディア様本体が遊興にふけっていようともその作業効率は全く変わらないのだった。
『そんな人類史最高峰の魔術師に出張ってもらうような環境じゃないんだって。申し訳なさで気絶してしまうわ。もっといないのか手頃な魔術師』
「手頃と言われてもねぇ。雇ってる魔術師の半分は油田開発と原発研究のために習得魔術を特化させた人だし、もう半分は魔術協会から身を隠すためにうちにいるようなやつだし」
『あー、そうか……』
後者のような研究一筋な魔術師が、後継者にならともかく不特定多数の学生相手に有用な講義ができるかというと望み薄である。
「あ、ホムンクルスを派遣するのは? 製造過程でプリインストールしてるから魔術についてもある程度教えられる」
『た、頼めるか? 正直めちゃくちゃありがたい』
「あと魔術を使ったマジカルコンバットのプロフェッショナルも知り合いにいるけど。その人も暇してて『お父さんっていつ働いてるの?』なんて娘に言われて焦ってるんだって。魔術師やってれば荒事に巻き込まれることもあるだろうから、自分の魔術と科学技術を戦闘に流用する思考は役に立つと思うよ」
そう提案すると、ウェイバー君は電話越しにうーんと悩み、
『せ、戦闘か……お願いできるか?』
そりゃね。聖杯戦争やその後の旅でも戦わざるを得ない状況に巻き込まれてきた彼だもの。戦闘技術や戦場における振舞いの大切さは文字通り身をもって学んでいるはずだ。
魔術師とは研究者であるが、戦えない魔術師の研究成果など奪われても文句は言えない。なぜなら奪われた時には死んでいるのだから。
知と暴を兼ね備えて初めて魔術師は魔術師を名乗ることができるのである。
時計塔でも、魔術の研鑽という名目で魔術師同士の戦いを奨励しているのはそういった現実を知るが故だ。
「わかったよ。他にも誰か思いついたらまた連絡するね」
『すまない。この借りは必ず返すから』
電話を切り、しばし考える。
切嗣君とアルトリア顔の二人組が、ケイネちゃんのいる教室に魔術やマジカルCQCを教えに行くの、意図していなかったけどだいぶ愉快な状況じゃないかこれ。
サツバツ!
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ガリアスタ家が弊こと6番個体を遠坂邸に置いている理由はいくつかある。
まず一つは、この6番個体としての個人的な理由として日本のBL文化の最前線に身を置きたいということ。
一つは冬木のセカンドオーナーの所有する霊地の管理。
一つは遠坂凛という世界有数の才能の教育と、彼女を自分に依存させること。
一つは遠坂家が代々伝えてきた魔術理論の把握である。
魔術の家系としての遠坂の初代、遠坂永人の日記によれば、彼はおよそ200年前に宝石翁と出会い、『転換』という特性を持つ宝石魔術を伝えられたとある。
遠坂家はそれを用いて魔術礼装『宝石剣』の再現をグランドオーダーとしてその設計図とともに与えられた。他にも数多の魔導書や各種礼装、そして一つの宝箱が与えられたのだとか。
宝石翁の気まぐれとしては至れり尽くせりである。時計塔の人間がこれを知れば嫉妬で憤死するかもしれないほどの名誉であり幸運であった。
それがなにをどう間違えたのか、遠坂永人は武術と魔術を等しく捉え、両者を混じり合わせることで宇宙と同一化、無の境地へと至ることで根源への道筋を探る手法を選んだらしい。
なんでそうなる。
首をひねる。しかも遠坂永人の娘である二代目はその後すぐにマキリやアインツベルンの勧誘に乗り、アプローチ法を切り替えて大聖杯敷設に協力したというのだからもう何が何やら。
宝石翁から「最も芽のない教え子」と評されるのもむべなるかな、といったところだろうか。
その後の当主に至っては武術なんて見向きもせずに聖杯の成就に躍起になっていた。そりゃあ根源に至るまで何百年・何十代かかるかわかったものではないのだから、目の前にその解答が用意されているのであればそちらに注力するのは魔術師の本能と言えるものだろう。
しかし既に聖杯を用いた根源へのアプローチは破綻している。
故に、遠坂凛が魔術師として真っ当に根源を目指すとすれば、元来遠坂の家が追い求めていたアプローチでもって探求を進めていかざるを得ない。
ではそれがどんなアプローチだったのかを調べているうちに見つけたのが、遠坂永人の時代にしたためられたとある魔導書だった。
もう一つ、工房の奥の奥、厳重な封印が幾重にもかけられた宝石箱をその調査の途中で発見した。それはあまりにも禍々しい空気を溢れさせており、騎士王と繋がっているパスから伝わる直感がけたたましい警報を頭に響かせる。
──『これ』には、決して触れるな。
閑話休題。
遠坂が宝石翁に師事していた頃から紡いできた魔術理論や魔術礼装については最奥の『あれ』以外は把握できた。
それを踏まえて、続いては遠坂凛の教育についてである。
遠坂凛の教育は『五大元素』の基礎と変換という遠坂の魔術の土台から始まり、現在は時計塔の必修と言われる類感魔術、感染魔術、地脈、マナ学を習得し終えたところだ。次なる段階として鉱石魔術をはじめとした、降霊魔術、召喚魔術、呪詛、天体魔術、治癒魔術、錬金術、占術などの基本を学ばせて適性を観ていこうかと考えていたところである。
はっきり言って異常な学習ペースだ。
主(笑)であるアトラム・ガリアスタが天才と称するのもわかる。時計塔に潜入させていた3番個体の経験もホムンクルスたちにはフィードバックされているが、そこで見たどの生徒よりも既にデキがいい。なんなら2級講師に匹敵する魔力運用の精密さだ。
8体しかいないアルトリア型ホムンクルスの1体を費やす価値のある才能。
「ここまであなたに教えた内容は、時計塔の必修科目であり20歳前後で習得するような内容です。それを弱冠8歳で十全に学び終えたのですから本当に将来が楽しみでなりません」
「それは、先生のご指導の賜物です」
誉めれば、頬を薄く染めて照れくさそうにそんな謙遜をする。
「ここからは、リン、あなたの適性に合わせて科目を選択していきます。遠坂の魔術師として宝石魔術を中心に様々な系統の魔術を適性に合わせて練度を高めていきます。では、魔術師が何のために魔術を修めるのかリンならわかりますね」
「根源に至るためです」
「その通り、それが魔術師と単に魔術が使えるだけの人間の違いです。つまり魔術の習得はただ闇雲にあれもこれもと学べば良いという訳ではありません。根源という目的地に至るまでの果てしない道のりを進むために必要なものを取捨選択しなければならない」
凛は真剣な面持ちで頷く。
「そこで、私はミセス葵立ち合いの元で工房を調べさせてもらい、このような魔導書を見つけました」
告げながら、私は件の魔導書を凛に差し出した。
魔導書の名は『宝石による近接格闘礼装全種』。
著者が宝石翁なのか初代当主なのかは不明だが、少なくとも遠坂が目指すべき道筋を示した魔導書である。
「近接格闘……?」
「一緒にこれも。こちらは遠坂家の初代、遠坂永人が遺した日記です。宝石翁からもたらされた魔術の秘奥について、遠坂永人の視点で書かれています。これを読めば、遠坂が如何な方法でもって根源を目指すべき家系であるかわかるでしょう」
私は声を潜めて凛にささやく。
「そういう意味では、遠坂の魔術刻印の大半が失われたこともさしたる問題ではないと言えます」
「……え? 何故ですか先生」
「読めばわかりますが、遠坂家の二代目からは完全に根源への探求を聖杯戦争に依存しています。つまり刻印に刻まれた秘奥も、多くは聖杯に関わるものであった可能性が高い。もちろんお父上を含む歴代当主が聖杯に懸けた意志を否定するつもりではありませんが、その聖杯が解体されている現状、あなたは原点回帰して遠坂を本来の姿に戻す義務があります」
「……はい」
凛は神妙に肯定した。
「あなたが背負うのはまさに新しい遠坂の再興というとても重いものです。しかしそれこそが今までの遠坂の、お父上の意志を無為にしない唯一の道でもあります」
「お父様……」
「もちろん弊も協力します。戦闘技術については(騎士王の経験をダウンロードできるので)一家言ありますから」
凛はしばし自身の父親について思いふけっていたが、すぐさまその目に強い意志をもった輝きを取り戻した。
「はい! よろしくお願いします、先生!」
主(笑)へ。
遠坂凛を依存させる計画は着々と進んでおります。
『宝石による近接格闘礼装全種』
出典:Fate/unlimited codes
宝石翁キシュア・ゼルレッチにより執筆され遠坂永人に渡された魔導書。
アンコにおいて凛はこの魔導書を携えて第五次聖杯戦争を単身で駆け抜け勝利した。
凛ルートのシナリオはギャグテイストになっているが生身の人間が単独でサーヴァントを屠る力を与えるような魔導書を執筆しちゃうのはさすが宝石翁である。
こんなすげーものを時臣が使わなかった理由として凛曰く「父さんは生粋の魔術師だったからこの手の野蛮な魔導書はお気に召さなかったんでしょ」とのこと。
『なんか禍々しい宝石箱』
出典:Fate/hollow ataraxia
宝石翁キシュア・ゼルレッチにより作製され遠坂永人に託された魔術礼装『カレイドステッキ』が封印されている箱。魔力の無限供給、並行世界のマスターが所有するスキルのダウンロードなど、型月世界ではオーバースペックというかオーバーテクノロジーというか。こんな代物を宝石翁は宝石剣の片手間に作ったらしいがあきらかにステッキの方がスペックが高い。
ホムンクルスはアルトリア譲りの直感スキルで回避したが、今後凛がうっかりしてしまう可能性はある。