石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる   作:Una

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第29話 幕間 1997年

 1997年、冬。

 

 アイリさんは魔法少女として銀幕デビューして以来、モデルおよび俳優として世界中を飛び回っている。

 

 生まれてからずっと城から出たことのない彼女にとって女優として他人の人生を演じることは切嗣君から聞いたりネットで見たりするよりずっと刺激的なことなんだろう。

 

 ホムンクルスであるから自身の肉体に対する統制能力が人間よりけた違いに高い。その能力を使えば涙腺や表情筋を自在に操ることは造作もなく。加えて彼女は優秀な魔術回路を持つ魔術師であり、回路を用いた記憶処理は当然のように行えるため、ここ数年の女優業の中でNGを出したことは一度もない。

 

 女優って天職かも! と大喜びのアイリさんである。ちょくちょく撮影現場に同行するイリヤ嬢もアイリさんと一緒に大喜びだ。その様を見る周りの映画スタッフもほんわかである。

 

 しかもアイリさんを出演させればもれなくガリアスタカンパニーがスポンサーとして付くのだから、製作側としては是非とも出演してほしいとアイリさんの出演料はうなぎ登りであり、アイリさんの芸能活動をマネージメントするために設立したガリアスタ芸能事務所の経常利益がえらいことになっていた。

 

 そんな彼女の現在の在り方にクレームを入れてくる切嗣君である。

 

「『メディアちゃん!』のドラマ出演までは、神秘の秘匿のためと納得した。だがそれ以降の芸能活動はむしろ魔術の漏洩に繋がっているんじゃないか?」

「そんな、別にテレビで魔術使ってるわけじゃないんだから」

 

 ロンドンは時計塔。メディア様が開発した魔術刻印の修復にまつわる術式について特許申請するために今日はわざわざロンドンまで訪れたわけである。

 

 まあメインはウェイバー君に顔を見せることなのだが。

 

 ウェイバー君の執務室に向かう途中の廊下で、こうしてエルメロイ教室の近代魔術CQC担当三級講師ケリィ君につかまってしまったのである。

 

 なお、切嗣君の魔術師殺しとしての悪名は時計塔にも知れ渡っているので、メディア様が調合した若返りの薬を使って20歳ほどに戻り外見をごまかしている。

 

「そもそも魔術師がメディアに露出するのはどうなんだ。そういった世俗の文明とは離れておくのが魔術師のスタンスじゃないのか。アイリは見た目でホムンクルスだと丸わかりなんだ、いずれ協会から勧告が出るかもしれないだろう」

「魔術師がメディアに出て金を稼ぐなんて今更じゃない? それこそ今世界で大人気の世界的アイドルシンガー『リデルリドル』ちゃんなんてアーシェロットのご令嬢だぞ」

 

 パッションピンクのツインテにパッションピンクの衣装を着て、パッションなロックを歌うリデルリドルちゃんことメイ・リデル・アーシェロット。世界的アイドルとしてワールドワイドに活躍し、そこから得た収入が実家であるアーシェロットの収入を上回っており、当主でありロードである彼女の義父が彼女には頭が上がらないというのだから相当である。

 

「……アーシェロット? 植物科(ユミナ)のロードの?」

「うんそこ」

「馬鹿な、そんな馬鹿な! 植物科は貴族主義派だったはずだ、そこの人間がテレビに出てアイドルをやっているだって⁉」

 

 びっくりだよね。彼女はもう24歳になるというのにまだ髪の毛ピンクでツインテールなんだから。

 

「まあもともとアーシェロットは魔術師の家にしては珍しく、科学技術や軍事産業、マスメディアに携わる多国籍企業のオーナーさんだからね。テンプレな魔術師像には当てはまらないんじゃないかな」

「貴族主義派なのに?」

「貴族主義派なのに」

 

 時計塔三大派閥のうち最も保守的な貴族主義派でこれなのだから、もはや魔術師がメディアで金を稼ぐ流れは止めようがないと思う。

 

「というかガリアスタ、その流れを不可逆にした最後の一押しはやはりメディアちゃん! のドラマなんじゃないか?」

 

 そうかもしれない。

 

 

 

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 天文科に潜入させていた3番個体から報告があった。

 

 なんでもマリスビリーが以前出した聖杯戦争についての調査依頼、その結果が報告されたとのこと。

 

 なんでロードの通信について知ることができるのかと言えば、準備の賜物と言おうか。

 

 まさか時計塔のロードが直接手紙を運ぶわけもなく。使い魔で情報のやり取りがあってもそこはメディア様とネットワークで繋がっているのだから視認して即・術式解体して込められたメッセージを把握できる。

 

 もちろん電話など使おうものなら即盗聴だ。

 

 信頼できる人間にメッセージを運ばせたなんて飛脚のような原始的な手段を取っていたならばその時は金の力が牙を剥く予定だった。

 

 アニムスフィア対策は万全である。

 

 そうして聞き取ったその調査結果から、マリスビリーはすでに大聖杯が汚染されてたり解体されてたり、挙句巨大な魔法少女になって暴れていたなどと知り、そちらからのアプローチを断念したようだった。

 

 よしよし、そのまま何もできずに朽ち果てればいいよ。

 

 ただ、その頃からマリスビリーから娘にして次期当主候補であるオルガマリーへの関心が目に見えて減っているようだった。

 

「まったく、まだ5歳の娘をネグレクトだなんて、信じられないわ」

 

 とはメディア様の談。

 

 しかも娘視点では、自分とほぼ同じ年齢の少年を一番弟子として魔術の教育を施しているというのだから、どれほど傷ついていることか。

 

 痛ましくはあるが、こちらから何かするほどの間柄でもなく。介入するにしてもあと数年待ってほしい。

 

 それに気にするべきことは他にもある。

 

 イギリスを中心に、世界各地で猟奇的な殺人事件が多発しているのだ。

 

 名付けて「首狩り殺人事件」。

 

 被害者は皆首を切断され、頭部を持ち去られているというのである。

 

 犯人不明、動機不明。被害者の共通点不明。と一般的には思われている。

 

 この事件でなにより特異なのは、時計塔の法政科が情報統制をおこなったという点である。

 

 買収した法政科の職員複数から得た情報では、犯人についてはおおよその目星がついているのだとのこと。

 

 ただその人物がかなりの大物であり、表立って問題にすることができず、情報統制が行われることになったのだとか。

 

 職員の皆さま、お疲れ様です。

 

 しかし時計塔の法政科は、その人物がなぜ被害者たちの首を持ち去ったのか、彼らの共通点には気づいていない。

 

 被害者たちが全員魔眼保持者であったという事実。

 

 この頃から犯人は魔眼を、というより魔術回路を集めていたのだろう。

 

 これはまずい。

 

 強力な魔眼持ちを、彼に持ち去られる前に確保しなければならない。

 

 

 

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 そんなわけで、私はハサンさんを引き連れて東京は新宿までやってきた。

 

 数ヵ月の間ハサンさんに礼園女学院を監視してもらい、外出した浅上藤乃を尾行させた。

 

 その後なんやかんやあって善良な一般人男性7人が惨殺の憂き目に遭い、最後にはブロードブリッジが凹み、捻じれ、倒壊するという、ゴジラでも暴れたのかというような大惨事になった。

 

 あーあ。

 

 ほどなくして救急車がやってきた。その近くには赤い髪の女性、今年になって封印指定を受けた挙句東京に雲隠れした蒼崎橙子がいて、その対面には白い着物に赤い血を滴らせた黒髪の女がいて、その隣には見た目普通な詩人のような眼鏡の青年がいた。

 

 救急車から降りた救急隊員が担架を降ろし、下手人である浅上藤乃を搬送していく。

 

 それをしっかり確認して、蒼崎女史や両儀嬢に見つからないように救急車を追跡し、人の目が届かない路地に入ったところで強襲した。

 

 同乗している隊員をハサンさんに一瞬で気絶させる。『蛇香』のハサンのスキルでもって、救急車内を睡眠効果のある香で充満させて、意識のなくなった浅上藤乃を拉致した。どうせ父親も娘の殺害依頼なんて出すくらいだし、捜索願いなんて出さないでしょ多分。隊員たちにはかかりつけの病院に搬送したと偽の記憶を魔術で埋め込んで万事OK。

 

『魔眼蒐集列車』の招待状は、貸しがあるレーマン家からもらい受けることができるので、魔眼を研究しつくしたら列車に売るなり希望するホムンクルスに移植するなりしようと思う。

 

 そういえば。

 

 封印指定うけた蒼崎女史の潜伏場所を時計塔に通報して金をせしめるのと、蒼崎女史に恩を売るのとではどちらがメリット大きいだろうか。

 

 

 

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 突然の話であるが、聖杯戦争の技術が流出した。

 

 冬木の聖杯はメディア様が第四次終了後に即解体したのでそちらから流出するはずがない。

 

 そう考えて可能性のあるところを片っ端から調べさせた結果、流出元はなんとムジーク家である。

 

 アインツベルンに殴り込みに行った際、アインツベルンの財宝を回収し査定していた間に、ムジーク卿はこっそり聖杯や聖杯戦争に関わる術式および魔導書をいくつか回収していたのだ。

 

 廃棄されていたホムンクルスの中に、聖杯の器の失敗作やユスティーツァ・フォン・アインツベルンの後継機のなりそこないなどがあったため、そこから逆算して大聖杯の概略について把握することはムジーク卿にとっては難しいことではなかった。

 

 そこはさすが錬金術の大家であるムジーク家の当主であると言える。

 

 それに、ただ術式を把握し保存するだけならば問題はなかった。

 

 問題は、ホムンクルスの残骸から再構築した聖杯戦争の術式に関する資料を、知らないうちにムジーク卿は他者に譲ってしまったのだということ。

 

 わざわざアラブの本邸まで来てそう報告したのは、ムジーク家で雇用されている、トゥールと名前を付けられたホムンクルスだ。ショートの髪から覗く吊り目は彼女の気の強さをうかがわせる。

 

 その横にはぼろ雑巾のようになっているムジーク卿が転がっていた。

 

 こいつほんまにホムンクルスに下剋上されてんですけど。

 

「全くもってふがいない……」

 

 彼女はショートカットの髪を若干乱したまま私に頭を下げた。

 

「まあまあ。そこまで真剣に頭を下げないで。トゥールさんだっけ? ムジーク家での生活はどう?」

「ホムンクルスとしてはありえないくらいの厚遇を受けております。最近はご子息のゴルドルフ殿の家庭教師の真似事をさせていただいておりまして、それに文句垂れた奥様を張り倒して、ついでに主も張り倒しましたところ私がムジーク家のヒエラルキーの頂点に立つことになりまして」

「それは厚遇と言うの?」

 

 こんな美人な外見してるのにかなりのパワー系じゃん。

 

 ついでで主人を張り倒すなよ。

 

「まあ、うちにもムジーク家で錬成されたホムンクルスが働いてるからさ、気が合ったらお茶でもしていきなよ。時間は作らせるから」

「お気遣いありがとうございます。こんな失態をしでかしてしまいましたのに……」

「いや仕方ないよ、相手が悪いよ相手が」

 

 私の言葉に、絨毯に転がっていたムジーク卿が声をあげた。

 

「アトラム殿は誰がやったのか知っているのかね? 私の意識に干渉し、記憶にも阻害魔術をかけて、それを数ヶ月気づかせなかった魔術師を」

 

 むしろ、そこまでの凄腕であるから心当たりは一人しかいないというか。

 

 ハウダニットとワイダニットから考えれば、フーダニットは明らかだ。

 

 ドクター・ハートレス。つい先日、マリスビリーの依頼で聖杯戦争について調査し、その後時計塔から出奔し姿をくらました、元現代魔術科の学部長である。

 




メイ・リデル・アーシェロット
出典:魔法使いの夜 番外編『誰も寝たりしてはいいけど笑ってはならぬ』

番外編でのみ登場するキャラクター。
二つ名は『史上初の億超えウィッチ』『協会ナンバーワンのアイドル』『稀代の天才マイスター、新世代の魔女』『関わったら破滅する女』『資本主義の犬』『煤の魔女の末裔』等。なお前者3つは自称である。
魔法使いの夜のヒロイン久遠寺有栖の幼馴染にしてライバル。
ピンク。
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