石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる 作:Una
ホムンクルスの外見設定を変更しました。
タイトル一部変更しました。
「報告が上がってきました」
「いいよ、何?」
「以前から狙っていたと仰っていた海底油田の件です。指示にあった三つの海底油田すべて、イギリスの採掘会社を経由して買収することに成功しました」
よしよし、と少年、アトラム・ガリアスタは笑顔で頷いた。
ところで弊たちは今この国で一番高い場所にいる。
以前彼が自慢していたブルジュ・ハリファと呼ばれる建物だ。
なぜあの時彼がああも自慢げだったのかと言えば、それは彼がこの建物のオーナーの一人だからである。石油依存からの脱却および経済の多様的発展の象徴として世界一高い建物を建てようという企画をぶち上げたのだ。80億ドルという多額の費用と様々な地域からかき集めた魔術使いたちのもたらす魔術的技術をふんだんに盛り込んだことで建設が科学的にありえないスピードで進められ、1989年に完成してしまったのであった。
ちなみに、ビル内の居住区900区のうち825区は空室のまま、と見せかけてその9割がガリアスタ家子飼いの魔術使いのための工房として使用されている。
「言われた通りに暗示まで使用して強引に買収しましたが……本当に必要だったのですか? どれも古くて石油プラットフォームを改修しなければまともに採掘できませんし、できたとしても採算が取れるほど可採埋蔵量が残っているとは思えません。北海全体の石油生産量が減少傾向であることは知られていることですし、だからこそ売りに出されていたのでしょうし」
そもそも中東で権勢を振るうガリアスタ家が、わざわざリスクを背負って北海まで進出する必要があるのだろうか。
「大丈夫。科学技術で見積もった可採埋蔵量なんてあてにならないよ。何年前から石油枯渇論が叫ばれていると思ってるのさ」
少年は長いソファに仰向けに横たわって、古びた本を片手で開いて眺めている。
「魔術を使った建設技術はしっかりノウハウを積めたから、プラットフォームの改修には想定されてるほどお金はかからないはずだよ。油田開発のためのダウジング魔術を習得させた魔術使いを何人も用意しているし。やっぱり魔術使いは専門性だよね。なんでもできるよりたった一つの魔術を窮めた究極の一を目指したほうが潰しが利くんだよ」
「はあ」
そういうものだろうか。
そう首を傾げたとき、強烈な頭痛がこの自分を襲った。
「──っ」
「また頭痛? 魔術じゃ消せないし大変だよね。大丈夫?」
「……大丈夫、です」
幣たちの中で最も適性が高いという理由で、この自分がホムンクルスを統括する立場にされてしまった。統括個体、なんてこの褐色肌の少年からは呼ばれている。
しかしこれは統括と言うより、子守りではないだろうか。
弊たちの体に埋め込まれた原始電池と呼ばれる魔術礼装によって、この自分を中心とした電気ネットワークが形成されている。そのネットワークに弊たちの思考と魔術回路は一つながりに接続されてしまったのだ。
魔術回路は一種の演算装置だ。回路を介して情報のやり取りを行うことも術式次第で可能である。単純なものであれば念話の魔術がそうだ。しかし念話の魔術は一般的には思念を伝える程度のものでしかないし、一定以上の距離が空けばそれも届かなくなる。この原始電池を用いた電波ネットワークのような、思考と魔術回路を複数人の間で、それも世界規模の距離で繋ぎ続けるような性能は出せない。
「距離を伸ばせたのは原始電池の術式のおかげだけどね。ネットワークが形成できたのは君たちが同じ素体から生まれた、同一の魔術回路を持つクローンだからだよ。魔術回路や魔術刻印の直接的な接続や移植でのパス形成なんて、副作用がひどくて本来まともに活用できる手段ではないんだ。ある魔術師の家系では移植の副作用を克服して、他の魔術師を乗っ取るなんて芸当ができるらしいんだけど誰だったかな」
「話しかけないでください……」
割れそうになる頭に、アトラム・ガリアスタと呼ばれる少年の飄々とした声が響く。
世界中に散らばった七人の幣たちから送られてくる膨大な情報を処理するのに、いまだに脳と魔術回路が慣れていないのだ。
「大丈夫、そのうち慣れる予定になってるから。その頭痛は、元々自我と肉体が一対一だった頃の名残というか幻肢痛というか? だから魔術じゃどうしようもないんだけど」
「お願いします黙って下さい」
さらに、このネットワークでやり取りできるのは情報だけではない。魔術回路どうしがつながっており、なおかつ魔力と電気への変換を自在に行える魔術礼装を備えているのだ。しかもこの男は自身の肉体に組み込んだ原始電池を媒介にして、そのネットワークに自由に介入することができる。
それはつまり、アトラム・ガリアスタは弊たちから魔力と情報を自由に取りだせるということだ。
それをこの男はクラスタリングだとかスケーラビリティだとか分割思考の再現だとか、なんだかよくわからない呼びかたをしていたけれど。
ムジーク家で弊たちに入力された魔術の知識と照らし合わせても、このような魔力の扱い方は記載されていない。
ちらり、と弊たちは男、アトラム・ガリアスタへと視線を向ける。
「ん? どうかした?」
「……どうもしません。追加の報告です。幣た弊ちの一人とともにロンドン郊外に向かった石油ダウジング魔術の使い手が、反応があったと騒いでいます。土地購入に着手してよろしいですか?」
「いいけど、もう? ずいぶん早かったねたった半年だよ。2015年までに見つかればいいかなって思っていたのに」
「25年以上もダウジングを続けさせるつもりだったのですか」
「そうだよ。カスみたいな家柄で魔術的にもカスみたいな才能しか受け継げなかった、カスな人生しか送れない魔術使いに一発逆転のチャンスをあげたんだ」
鬼畜か。
人の心を無くした金の亡者だこいつは。
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わざわざ北海の海底油田まで手中に収めようとしているのは、何も金だけが目的ではないんだけどね。
まあ対外的には金の亡者と思われていたほうがいいか。実際お金は必要だし。
「ところで日本に向かわせた君さ、世界ふしぎ発見! てテレビ番組はチェックしてる?」
統括個体は緑がかった髪を揺らして首を振った。
「そもそも弊たちはテレビなどという低俗なものに触れる時間なんてありません」
「これからその番組の制作会社の社員とプロデューサーをまとめて暗示かけておいて」
「……可能ですが、僭越ですがその番組はどういった内容のものなのか教えていただけませんか?」
聞かれて、私は眺めていた本をテーブルに置いて寝転がったまま統括個体に顔を向けた。
「確か……今からだと四年前から始まった、長寿番組になる予定のものなんだけどね。ミステリーハンターのお姉さんが世界中のミステリーを取材している様子を見ながらクイズに答えるクイズ番組」
「なんですかミステリーって」
「メインで扱っているのはエジプト。ピラミッドをどうやって作ったのかとか、三大ピラミッドの並びはオリオン座のベルトと同じ並びだとか、ツタンカーメンはどんな王だったのかとか、専門の研究家を監修に招いて真面目に取材している教育的な番組だよ。ゴールデンタイムに放送されてるからお子さんのいる家庭での視聴率が高め」
「……はぁ、まあ現地の弊たちにチェックさせますが。その番組を乗っ取ってどうするつもりですか?」
私は体を起こして、大げさに肩をすくめ、あえてわざとらしくため息をついた。
「そりゃもう、今日本のごく一部で瞬間的に流行しているメディア様を特集してもらうために決まっているじゃない」
「はあ」
1990年である今年は、とある小説が発売された記念すべき年なのだ。
天才美少女魔法使いが主人公として活躍するあの不朽の名作。
後の識者はかの名作の創刊された1990年を振り返り『ラノベ元年』と位置付けている。
そのタイミングに合わせて、私はその名作を出版した出版社を札束でぶん殴り、札束に魅了された社長やら編集長やらに暗示をかけてと、半年以上に及ぶ工作によって無事『「お前のせいで追放された」と言って別の女と結婚しようとした夫にメディア様はざまぁする ~夫のために国も家族も捨てて尽くしたのに逆恨みで捨てられたのできっちり復讐、その後はエリュシオンで真の英雄に溺愛されました~』略して『メディざま』を出版させることに成功したのだ。
在庫がめちゃくちゃ余ってるけど。
なんで売れないのか理由はわからない。さっきから言ってるあの名作と同じ天才女魔術師が主人公なんだから便乗できると思ったんだけどなあ。
打ち切りを打診されるたびに暗示をかけ直してるんだけど、そろそろ限界かもしれない。
考えられる理由としては、そもそもメディア様が日本じゃマイナーだからなのではないかと思うのだ。原作を知らない二次創作小説はどれだけ評価が高くてもクリックしようとは思えないでしょ? それと同じ理屈じゃないかなって。
そんなわけで、『メディざま』をヒットさせるにはそもそもメディア様の知名度をあげなければならないと思い立ったのだ。そうでもしなければアニメ化も実写化も夢のまた夢である。
「第四次の開催まであと3年半。それまでにふしぎ発見で10回くらいはギリシャ神話メイン回をやらせて、改編期のスペシャルではメディア様特集を組んでもらうから。あと高齢層をターゲットにして大河ドラマの主人公をメディア様にして作ってもらえないかな、札束と暗示でどうにかなると思うんだけどさすがに大河は厳しいかな」
「タイガドラマが何かは存じませんがいい加減にしないと時計塔に怒られませんか」
それもそうか。
「じゃあしょうがないから世界名作劇場にしようか。こっちなら大河よりもぜんぜんありでしょ。あと『王女メディア』を日曜洋画劇場と金曜ロードショーで年に4回ずつ放送させるよう働きかけて。実弾はいくらでもあるから。反対する偉い人は事故に遭ってもらってもいいから。そうやってメディア様の知名度を上げて、『メディざま』の売り上げを伸ばして、アニメ会社からのオファーを待つ」
「初めからアニメ会社の社員を暗示とお金で従わせればいいのでは?」
「そんなことしてアニメ化しても嬉しくないでしょ!」
常識で考えてよ全く。これだからホムンクルスは。
「なんなんですかそのアニメ化への熱意は……あ」
「今度はどうしたの?」
統括個体が眉根を顰め、口元を押さえた。嘔気をこらえているように顔色が悪くなっていく。
「……日本の冬木市に潜入させていた弊たちからの報告です」
「なになに」
「円蔵山の地下に降りる隠し通路を発見したと。そして、その中も調査したところ、その」
「ああ、いいよ視覚情報で頂戴」
いいながら私は統括個体の背中を走る魔術回路に触れる。
統括個体を介してネットワークに入場し、日本の円蔵山に向かわせたホムンクルスの視覚と同期させる。
そこには。
見るだけで精神がただれるような、言語に尽くしがたい憎悪と憤怒と絶望の坩堝が広がっていた。
「……うん、すぐ撤退していいよ」
それだけを告げて、私は視覚の同調を殴りつけるように叩き切った。耐えられなかったのだ。
目を向ければ、実際に嘔吐している統括個体が床にうずくまっていた。今日はまだ食事をしていなかったのだろう、その口からあふれていたのは黄色い胃液だけだった。
うん。
とりあえず、第四次が冬木で行われることは確定らしい。