石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる   作:Una

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第30話 幕間 1998年

 1998年、秋。

 

 聖杯戦争の技術が流出してほぼ1年が経過した。

 

 結局私が恐れていたようなアポクリファ展開は今のところ起こっていない。

 

 もし起こった時にはライダーに頼んで召喚されたサーヴァントたちをプチプチ潰して回ってもらう予定だ。その頼りにしているライダーも、世界中を巡って受肉の方法を探しているようだが、今のところは特に騒ぎを起こしていない。

 

 重畳重畳。こっちにはギルガメッシュを倒したイスカンダルさんがいるんだぞ舐めんなよ、なんて考えていたけれど、とりあえず亜種聖杯戦争が乱発するような兆候はない。

 

 ユグドミレニアとやらいう魔術師の互助団体が発足する気配もなし。

 

 まあ、下手人がドクター・ハートレスであるならその技術を自分以外に漏らすようなことはしないだろう。

 

 もう面倒くさいからドクター・ハートレスをハサンさんか切嗣君に暗殺してもらおうかと思ったけど、墓地アルビオンに出入りできるあの男を捕捉するのはハサンの力をもってしても無理だろう。

 

 あと一年早ければ、現代魔術科の学部長として時計塔に在籍していたのだからまだ暗殺する機会はあったのだけれど、既に出奔して行方不明だというのだからどうしようもない。

 

 でもなんだっけ、ドクター・ハートレスの目的って魔術協会でも賛否が分かれるようなものだったような。マリスビリーの目的は宇宙規模の恥だけど、ハートレスのそれはそこまでではないというか、賛成するような魔術師もいるのであれば、ガリアスタ家がわざわざ介入する必要って正直ない。

 

 あ、でもアルビオンに入る方法は知りたい。呪物の密輸とかめっちゃしたい。

 

 

 わたし:というわけで、聖杯戦争の流出についてはステイで。なにかあったらライダーを派遣。なにか質問ある? 

 第0番:聖杯戦争が発生する可能性の高い地域にホムンクルスを何人か派遣しますか? 

 わたし:たしかに。ムジーク家のトゥールさんとは連絡つくよね? その辺中心にした北欧とかルーマニアを監視しておいて。

 

 そんな感じで、亜種聖杯戦争の兆候については監視を続けておくことにした。

 

 

 

 ¥¥$$€€ ¥¥$$€€ ¥¥$$€€

 

 

 

 ウェイバー君の教室も軌道にのり、時計塔きっての戦闘集団なんて呼ばれるようになってきた。

 

 ウェイバー君をはじめとしたディンベルグ卿、シャルダン翁、ミセス・ガウリカなどの講師陣が魔術の基礎について講義し、その後魔術や魔力の効率的な運用について個別にアドバイスをする。ケリィ教官こと若返りの薬を飲んだ切嗣君外見年齢20歳が各々の魔術の実践的な運用について指導し、実践訓練では3番個体が生徒を模擬拳銃と模擬ナイフだけでぼこぼこにする。その中で浮彫になった反省点についてレポートを書かせてウェイバー君が採点し助言する。そんなサイクルが良い感じに回るようになった。

 

 ちなみにケリィ教官や3番個体の指導を受けるのは希望者だけだ。全員にそんなことやらせてたら入塾希望者がゼロになってしまう。

 

 とはいえ一度ケリィや3番個体に実践訓練でぼこぼこにされると、ほとんどの生徒は現代戦闘術について学ぶ意思を見せるようになる。二人は魔術なしで自分だけ魔術ありかつ複数で挑んでいるのに何もできず完封された、という経験が魔術師=非一般人という無意識下にあった選民思想的な認識を叩き壊してしまうためだ。

 

 そんな中で一番熱心に現代戦闘術を学んでいるのが、意外なことにケイネちゃんである。

 

 銃器の取り扱いも、遠距離射撃訓練も、土に塗れる匍匐前進も、ナイフ一本で密林に放り込まれるサバイバル訓練も、その愛らしい外見に関わらず文句ひとつなくこなしていく。

 

 それらを教室にて最速で習得し、現在はそれら現代戦闘術と自身の魔術をいかに融合させるかの段階だ。

 

 彼女の目的は単純だ。

 

 ケリィ教官こと衛宮切嗣の抹殺である。

 

 彼女はケリィの技術を吸収しながら、虎視眈々と彼を殺害する機会を狙っているのだった。

 

 狙っていると言いながら月に一度の頻度で殺しにかかっては無傷で無力化されているのだけれど。その度にケイネちゃんは涙目で切嗣君を睨みつけている。

 

 一方の切嗣君はなぜほぼ初対面の少女にこれほどの殺意を向けられるのかてんで見当が付いていない。多分この男、嵌め殺したケイネス師とその婚約者の顔を覚えていない。そのためきょとんとした顔で奇襲をいなされて、ますます殺意が高ぶるケイネちゃんなのだった。

 

 今日もエルメロイ教室は平和です。

 

 そのように教室が順調に運営されている最中、ウェイバー君が拉致されるという大事件が発生する。

 

 ケイネちゃんは焦った。

 

 ケイネちゃん視点では本来は大して才能も歴史もないポンコツ聴講生でしかなかったが、彼がかつて自分が開いていた教室を借金してまで買い取り、この数年間講師として四苦八苦している様を見て、それなり以上に愛着が湧いてしまっていたのだ。

 

 それに彼の講義を聞いて、確かに元一級講師として口出ししたくなる部分も多かったが、最近ではそういった甘さもなくなりつつある。それどころか、最近増えつつあるそこそこ以上に歴史ある家出身の生徒に対してもしっかりとした講義ができるまでに成長しており、こと魔術の解体と講釈に至っては、元ケイネス・エルメロイ・アーチボルトをしてなかなかのものであると認識するに至っている。

 

 魔術師としては素人に毛が生えた程度の3流未満だが、講師としては1流あるいはそれ以上。

 

 そんな風に見直すようになった矢先の拉致騒動である。

 

 関係者の中で一番慌てたケイネちゃん外見年齢12歳であった。

 

 ケイネ:ウェイバー君が! ウェイバー君が! 

 わたし:大丈夫だからそんなに慌てないでってば。

 ケイネ:何が大丈夫なものか! エルメロイ教室を立て直した講師が拉致されたんだぞ! もし殺されるようなことになればせっかくここまで盛り返した私の教室が他の派閥に売り払われてああああ! 

 

 

 発狂してんなあ。

 

 

 わたし:誰が誘拐したかも、どこにいるかももうわかってるんだよ。

 

 

 切嗣君やメディア様とリンクしている3番個体が彼の傍にいるのだから、下手人は実行する前から明らかだったりする。

 

 

 ケイネ:貴様なぜそれを先に言わない! 早く教えたまえ、この私がマジカルコンバットで下手人どもをまとめて呪殺してくれるわ! 

 

 

 ケイネちゃんの扱う五十超の激やば怨霊を用いたマジカルコンバットは、標的とした相手をどこまでも追跡し呪い殺すというホーミング機能を銃弾に付与させてばら撒くというものだ。ライフル弾に付与させれば有効射程距離が3キロに迫るという。殺意高い。

 

 

 わたし:首謀者はライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。没落したエルメロイ家の当主を遠縁から押し付けられた、皮肉を込めて『エルメロイの姫』なんて呼ばれる9歳女児だよ。

 

 

 ケイネちゃんからの返信が途絶えた。さもありなん。

 

 犯人はあなたの義妹ですよと言われたら誰だって混乱する。

 

 

 わたし:呪殺? 呪殺? 

 ケイネ:ま、待ってくれ。ガリアスタうるさい。なんだってあの妹がウェイバー君を? まさか私の死に間接的にせよ関わった復讐か? いやしかしあの妹にそんな兄妹愛など期待するだけ無駄だ。

 

 ひどい言いぐさである。

 

 わたし:大丈夫だよ、別にウェイバー君を傷つけるために攫ったわけじゃないみたいだし。

 

 むしろウェイバー君のファンというか。

 

 ケイネ:いやわからんぞ。復讐ではないにせよ、あの性悪のことだ、ウェイバー君の弱みにつけこんでどんな拷問を施していることか。

 わたし:そんな様子はないみたいよ。3番個体が会話の盗聴に成功したから同調すればいいよ。

 

 

 なお、ウェイバー君とライネス嬢のいる部屋には、外から窓越しにライネス嬢の頭部に向かってライフルを構えている切嗣君が引き金に指をかけて待機している。

 

 切嗣君にはウェイバー君の護衛も任せているからね。

 

 

 第3番:『僕のことを、エルメロイの教室を奪った泥棒と思っているんじゃないのか?』

 第3番:『いやいやまさか! ちゃんと金を出して買ってくれたんだから不服があるわけないさ』

 

 

 3番個体の聴覚情報がネットワークに共有され始めた。

 

 

 第3番:『ひょっとしてうちの義兄に贖罪の気持ちでもあった?』

 

 

 ネットワーク越しでは無言であるが、ケイネちゃんに何かしらの動揺があったことが伝わった。

 

 

 第3番:『ケイネス先生を死に追いやったのは僕の愚かな暴走によるものだからだ。先生とは穏やかな仲ではなかったけれど、僕があの教室によって育てられたのは事実だ。だったら、かつての僕と同じような生徒たちから学ぶ機会を奪うわけにいかない』

 

 

 わたし:ウェイバー君真面目すぎない? つか気負い過ぎでは? この辺どうなのケイネス先生。

 ケイネ:……ふん、私の死は私の責だ。むしろ恨むとすればあの魔術師殺しへの恨みの方が強いとも。ウェイバー君に聖遺物を盗まれたことなど今の今まで忘れていたわ。

 わたし:イスカンダルも結局先生との相性悪そうだったしね。多分先生は参加を決めた時点でどうあがいても死んでたよ。

 ケイネ:呪い殺すぞガリアスタ。

 

 そんなこと言いつつ、切嗣君の指導を受けるにつれ、自分が聖杯戦争に臨むにはあまりにも足りていなかったと思い知らされる日々を送るケイネちゃんなのである。

 

 

 第3番:■■■■■■■■■■■■

 

 

 ケイネ:なんだ? 

 わたし:ノイズキャンセル入ったね。なんだろ。

 第3番:ライネス嬢の笑い声ですね。

 

 なにわろとんねんメスガキ。魔法少女にして銀幕デビューさせるぞ。今実写劇場版第二章の脚本会議やってんだからな。ねじ込もうと思えばまだいくらでもねじ込めるんだからな。第一章で倒されたアイリさんの血を引く二代目魔法悪女役にイリヤスフィール嬢を起用すること以外まだ決まってないんだから。

 

 

 第3番:『いやいや失礼』

 

 

 謝れて偉い。

 

 とりあえず銀幕デビューは一旦保留にしておいてやる。

 

 

 第3番:『まさかそんな生真面目な理由だとは思わなくてね。うんうん、君が貴重な聖遺物を盗み出したりしなければ我が義兄と婚約者ももう少し長生きできたかもねぇ。いやぁ残念なことをしたなあ。天下のロード・エルメロイを失うとは魔術協会の大損失だなあ』

 

 

 ケイネ:思ってもいないことを……! 

 わたし:そうなの? 

 ケイネ:こういった語尾を上げる挑発するような口調の時は、相手を追い詰めるための口八丁なのだ。妹はそういう奴だ。今後顔を合わせることがあれば折檻だ。妹は私に気づかないだろうがな。

 わたし:9歳でもう人格終わってるのな先生の妹さん。まあ魔術協会の損失なのはその通りだけどね。

 ケイネ:それはそうだとも。わかってるではないかガリアスタ。

 

 

 ケイネス先生は時計塔の研究を10年は進めたと言われる人だったし、彼が遺した研究はメディア様をして天才の所業と太鼓判を押すレベルのものだった。

 

 逆に言えば彼の不慮の死は時計塔の発展を10年遅らせたということであり、その点だけでもウェイバー君は時計塔の魔術師に襲撃を受ける可能性があるのだ。

 

 でも最近はキリシュタリアとかいう子供が魔術基盤の立て直しが可能なレベルの天才と期待されているなんて話が出てきて、ケイネス師が亡くなってから4年も経っていることもありそういった恨みを向けられる頻度は減ってきている。

 

 

 第3番:『今、エルメロイ派の借金は大変なことになっていてね。これがちょっと利息を払うのも難しい。責任を取るというのならまずはこの借金からどうにかしてほしい』

 

 

 わたし:借金ていくらくらいだっけ。

 第3号:おおよそ3億ドル超といったところでしょうか。

 わたし:やっす。そんなもんか。魔眼を売れば払える額じゃん。

 

 

 去年入手した歪曲の魔眼なら片方売るだけでもお釣りくるわ。売らないけど。

 

 

 ケイネ:そりゃ貴様からすればその程度と思うだろうがな。エルメロイに残った霊地や工房を処分して返済に当てても3億ドルの借金が残ったという状態なのだ。エルメロイからは逆さにしてももう何も出んぞ。

 わたし:数億ドルの値が付く呪体や礼装がビルごと爆散したからね。あの時はごちそうさまでした。

 ケイネ:? ごちそうさまとはどういう意味だガリアスタ。

 

 

 やべ。工房跡地から環境保護のために拾得物横領したのバレる。

 

 

 第3番:『……分かった。可能な限り善処する』

 ケイネ:なぜ頷くのだ借金の額も聞いてないのに! やはり阿呆なのかウェイバー君は! 教室を購入した時の借金だってまだ残っているだろうが! 

 わたし:それだけ責任を感じていたんじゃないの。

 

 真面目だなあウェイバー君は。

 

 そうやって借金まみれなのに、今まで私に奢りどころか借金をせびったことも一度だってないんだよね。貸すよって言ってるのに。パブで飲んだ時に潰れちゃって私が代わりに払ったことはあったけど、それだって次の日にはきっちり飲み代払ってたものね。

 

 まったくもうね。

 

 ただメルヴィンの野郎がウェイバー君とこんな会話をしたとかこれだけ借金をしてるとかよくわからん基準で親友アピールしてくるのがうざいのだけども。なんなんだあの動くスプラッタは。

 

 

 第3番:『あと、これは風の噂で聞いたのだけれど。エルメロイの源流刻印を君が回収しているというのは本当かい?』

 第3番:『僕じゃない。僕の知り合いだ。特殊な礼装で破壊されていたらしくて、9割は損壊していたとのことだ』

 第3番:『ふむ。それはなんとも。ではやはりエルメロイ家は私が継ぐまでもなく終わりかな?』

 第3番:『いや、その知り合いの伝手で修復が進んでいる。あと10年くらいで形にはなると聞いてる』

 

 

 刻印の拡張は今もメディア様とケイネちゃん主導で研究が進んでいる。次期当主が既に選出されていたことは知らなかったが、あと10年ほどで元の魔術刻印程度の分は株分けできるようになるとは以前ウェイバー君に伝えていた。

 

 そのうちケイネちゃんが次期当主を選んでから株分けを行う感じで考えていたのだけれど、アーチボルトの人間が先に当主を選んでしまったようだ。

 

 エルメロイ派から上位の分家が逃げた後に残った家で、刻印の移植を受けていない子弟の中で刻印の適応率が一番高かった。それだけの理由で借金の塊でロードの地位以外なにもないゴミの山を無理やり押し付けられたライネス嬢。

 

 恐らく彼女も彼女なりに、味方を作ろうと必死なのだろう。

 

 

 第3番:『それは重畳。というか随分早いね? それほどの損傷なら50年や100年は修復にかかりそうなものだが』

 第3番:『あいつの人脈は異常に広いから』

 

 

 まあね。メディア様やヴァン・フェムとコンタクトとれる人間なんてこの世に数える程度だろうさ。

 

 

 第3番:『では二つ目。こちらの方が重要なのだけれど。どうか私が適齢期になるまでエルメロイのロードの席を維持してもらえないかな』

 第3番:『それはかまわないけど……具体的にどうすれば?』

 

 

 ケイネ:だからよくわからないうちに同意の言質を相手にとらせるんじゃないと何度言ったらわかるんだ! 阿呆を超えてただのイカレか! 

 わたし:言ってない、言ってないよ。

 

 

 第3番:『私が成人するまで誰かにロードの仕事をしてもらう、ということだよ』

 第3番:『待ってくれ、それはつまり』

 第3番:『そういうことだ。つまらないと思うが頼んだぞ、新たなロード・エルメロイ』

 ケイネ:は? 

 第3番:『それともこう呼ぼうか? 親愛なるお兄様、と』

 ケイネ:は? 

 第3番:『ついでに私の家庭教師になること。うん、兄殺しの兄に指導を受けるのは倒錯していて実にいい』

 ケイネ:はあ? 

 

 

 こうしてウェイバー君はロード・エルメロイⅡ世を名乗るようになり。

 

 数カ月前に椅子が空いた最弱の学科『現代魔術科』の学部長の座にウェイバー君は就任したのだった。

 

「な、にを考えているんだあの妹はぁあああ!」

 

 ケイネちゃんは激おこだった。

 

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