石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる   作:Una

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第31話 幕間 1999年

 1999年、秋。

 

 ライネス嬢がウェイバーをロードに指名し、現代魔術科の学部長に封じてから約半年。

 

 アーチボルト家凋落から続いていた時計塔の混乱は少しずつ収まりつつある。

 

 エルメロイ派閥はとりあえず自分たちの派からロードの席を守ることができたことで落ち着きを取り戻し。

 

 さらに以前オークションで散逸しかけていたロード・エルメロイの研究の数々。これらのほとんどをわがガリアスタ家が買い取って保存していたわけだが。

 

「……これが、義兄殿の研究資料か」

 

 場所はエルメロイ家の屋敷の一つ。ライネス嬢がかつてウェイバー君を拉致って無理難題を押し付けたあの部屋である。

 

 脚の長い椅子に座っているライネス嬢は、その自分の目線とほぼ同じ高さまで積みあがっている資料の山々を前にして、彼女のぷにぷにな頬を引きつらせている。

 

 とんでもない量である。

 

 これだけ大量の研究、しかもどれか一つでも完成させて時計塔に発表できていたらそれだけで開位や典位を授与されるようなレベルの高いものばかり。もちろんその研究テーマは鉱石魔術と降霊魔術を中心にした多くの分野と融合した高度なものを扱っており、それらの分野に同時に精通している魔術師でなければ内容を把握することすら難しい。

 

 だがその難易度に比例するようにその研究の希少性、優位性は高く、魔術師からすればこの紙束の山はまさしく宝の山である。

 

「かのケイネス師の研究です。我々は十分に内容を堪能いたしましたので、ご入用であれば次期エルメロイ家当主たるライネス嬢にお売りしようかと」

「……売るとして、いくらになるのかな?」

 

 私の隣には元ケイネス師ことケイネちゃん。ライネス嬢の隣には現ロードであるウェイバー君が、それぞれ向かい合って座っている。

 

 ガリアスタで蒐集した研究資料は、全てケイネちゃん本人とメディア様とで研究が進められ、彼女たちの知見はさらなる段階へと進んでいる。

 

 いずれケイネちゃんが成人し、時計塔での後ろ盾を得たときにでも改めて発表しようかと準備を進めているところである。

 

「お値段は、特別価格なんと3億ドルでのご提供になります」

「払えるわけないんだよなぁ」

 

 ライネス嬢は袖を垂らした両手を上げて投げやりな声をあげた。わかりやすいお手上げのポーズだ。

 

 そんな金がアーチゾルテ家にあるわけないなんてこちらも承知している。

 

「もちろん、友人のウェイバー君がいらっしゃるので無利子無担保無催促という特別待遇です」

「ぼ、僕か?」

「まあ、うちの借金はお兄様が負うことになるからな」

 

 にやにやと告げるライネス嬢の言葉に、うぐっとウェイバー君がつぶれた蛙のような声をあげた。

 

「いえいえ。ウェイバー君の義理の妹殿であるから特別待遇でお売りするというだけで。こちらの返済義務はあくまでライネス嬢にあります。借金兄妹ですね」

 

 うぇ、とライネス嬢はシュールストレミングを口に突っ込まれたかのように顔を歪めた。

 

「それにこれは、今は亡きケイネス師の遺言でもあります」

「ゆ、遺言? あの義兄が? 自信ばかりが肥大して自分の失敗や敗北の可能性をまるで予想できない想像力の欠如したあの義兄が、遺言?」

 

 隣に座るケイネちゃんからムカっとした雰囲気が伝わる。が、ケイネちゃんは口をつぐんだままだった。肥大していた自信はケリィ教官や3番個体の指導でバキバキにへし折れていたし、遺言を残さないままにあっさり殺されたのも、そのせいでエルメロイが凋落してしまったことも事実だからだ。

 

 私は遺言について言葉を続ける。

 

「遺言には、自身の研究内容はエルメロイの魔術刻印を継ぐ者が引き継ぐこと、となっております。ウェイバー君はロード・エルメロイⅡ世の名を継ぎましたが、エルメロイの魔術刻印は継承できません。そのためその適合率から次期当主に選ばれたライネス嬢が刻印とともに研究を継ぐことになります。こちら遺言書です。筆跡鑑定も残留魔力波長も一致しております」

 

 もちろんこの遺言書は、ウェイバー君がロード・エルメロイⅡ世を継ぐことが決まってから書かれたものだ。

 

 ウェイバー君だけが借金を背負ってライネス嬢との関係の主導権を握られ続けるという状況に、私、メルヴィン君、ケイネちゃんらが我慢ならなかったからである。

 

 特にメルヴィン君なんかは、ウェイバー君との友情の証と思っていた借金をライネス嬢に無理やり買われてしまって大層ご立腹だった。かならずやあの邪悪ロリに一泡吹かせてやろうと考え、じゃあウェイバー君と同額の借金を背負わせちゃおうぜ、とそういうわけでこの遺言書が書かれたのである。

 

「ははは、これで私もお兄様と同じ借金持ちだね。せっかくエルメロイの借金をお兄様が肩代わりしてくれたというのに」

 

 あーあ、とライネス嬢はため息を吐く。

 

 そんな彼女をウェイバー君が窘めた。

 

「いいじゃないか。僕の借金と違ってこの資料がそのまま金の成る木なんだから」

「というと?」

「特許制度だよ。先生の研究を完成させて術式について特許を取れば、そのパテント料が入ることになる」

「……いや、そうは言うがね。あの兄の研究なんて私が引き継げるような温いものではないよ」

「僕も手伝うよ」

 

 ウェイバー君は真摯な瞳でライネス嬢を見つめた。

 

「エルメロイの再興を目指すにあたって、先生の研究を完成させることは重要なステップだ。パテントでの金銭的な利点だけじゃなく、魔術業界への影響力を取り戻す意味でも。それに、このまま先生の研究を埋もれさせたら、それこそ僕は先生に顔向けできない」

「……」

「なにより、僕はお前の家庭教師でもあるからな。先生の研究全てを理解できる程度には成長させないと契約の反故同然になる」

「私が、そこまで優秀な魔術師になれると?」

 

 ライネス嬢の問に、ウェイバー君は首を傾げた。

 

「当然だろ?」

 

 ライネス嬢がわずかに赤面した。

 

 それを見てケイネちゃんの眦が少しだけ吊り上がった。

 

 ライネス嬢が早口でまくし立てる。

 

「ま、まあお兄様は利子付きの借金を抱えている身だからな。それを少しでも返済するためには私を少しでも魔術師として成長させなければならないものな。ああわかっているとも」

 

 そんな照れ隠し丸だしな悪態を聞いて、ケイネちゃんが口を挟んだ。吊り上がった眼差しそのままな攻撃的な口調でケイネちゃんが言葉を投げつける。

 

「ライネス嬢、義理とはいえ自分の兄をそこまで悪し様に言うことはないのではないか? まるで金のためだけに君に関わっているかのような物言いだ」

「んん? 私が自分の兄をどう評価しようが私の勝手だろう? と言うか誰だね君は」

 

 ライネス嬢10歳の問いかけに、ケイネちゃん肉体年齢14歳が厳然と返答した。

 

「私はケイネ・ガリアスタ。エルメロイ教室の最古参の生徒だ」

「ただの生徒が私たち兄妹のことに口を挟まないでくれるかな? 部外者じゃないか」

「兄妹? 血も繋がらない義理だろう? 私はここ3年近くほぼ毎日先生の講義を受けてきたんだ。ただ金のために生徒の相手をしているなんて言われては弟子の一人として看過できない」

 

 はっ、とライネス嬢は鼻で笑った。

 

「教師と生徒の関係というのも背徳的で盛り上がるのだろうけどね。そりゃあ借金まみれのお兄様だ、金づるの生徒には優しくもするだろうさ。その優しさを勘違いしてしまったのかな? まったくお兄様も罪作りな男だ。興味のない女に無駄な期待を持たせないよう注意しておくことにしよう」

「何を言っている? 私はウェイバー君の講師としての才覚について論じているのであって」

「ウェイバー君? お兄様は年端も行かないいたいけな美少女生徒に君付けさせているのかね! これは驚いた。不純異性交遊で法政科に訴えなければね」

「異性交遊? 異性? なにを言って、あ」

 

 なんかロリ二人が男を巡って争いだしたので、私とウェイバー君は二人でそっとその場をあとにした。

 

「そういえばこれからカミュ嬢とカンファレンスがあるんだけど、ウェイバー君も来るんだっけ?」

「ああ、今日は僕も呼ばれているよ」

 

 

 

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 カミュ・ペリゴール。

 

 ハイテク・通信・ゲームなどの分野でヨーロッパをけん引する多国籍企業ペリゴール社。弱冠24歳でその大企業のCEOに収まった才媛、それが彼女である。

 

 彼女には大企業のトップの顔とは別にもう一つの顔がある。

 

 それは、魔術師であること。

 

 かつて私やウェイバー君とともに旧エルメロイ教室の生徒であった彼女は、私たちが第四次聖杯戦争に参加してから時計塔に戻ってくるまでの時期に時計塔を去ってしまった。

 

 当時こそ内気で、引っ込み思案で、父の形見であるカメラで遠くからウェイバー君とのツーショットをこっそりとったりする少女だったが、今では男装の麗人とでも言おうか、凛々しくもセクシーな服装や髪型を好むようになっている。

 

 猫背だった背筋もピンと伸び、身長も私ほどにまで高くなっている。

 

 彼女と、ウェイバー君を交えた意見交換会は毎回白熱する。

 

 カミュ嬢が扱う魔術は『外殻投影』と呼ばれるもの。オリジナルの外側だけを投影して、モニターを使わないで3D映像を空間に投影するという技術だ。

 

 この技術をさらに進めれば、データで世界を創造し、その中を自分で作製したアバターで入り込んで旅をするような、フルダイブ型VRマシンの開発が可能になると私は睨んでいる。

 

 そんな技術の原型ともいえる術式を持っていたカミュ嬢を、私は彼女が時計塔を去った時点でスカウトし、ガリアスタ家がスポンサーとして技術研究に投資しまくったのだ。

 

 メディア様は残念ながらフルダイブだとかVRだとかにあまり興味がなかったようでこちらにはほとんど関与していない。その代わりとして、カミュ嬢と顔見知りでもあるウェイバー君を魔術方面からのアドバイザーとして雇い定期的に三人で進捗報告と意見交換を行っているのである。

 

「やあやあ、よく来たねウェイバー! そしてアトラム」

「ああ、久しぶりだね。メールではよく話しているけど」

「メールと直接会うのでは全然違うさ。ほら座ってくれ。二人とも時間はあるんだろう?」

 

 もちろん、と私たちは同時に頷いた。

 

 夢のフルダイブ型VRマシンにもっとも近い位置にいる研究をまとめている彼女との時間は、ガリアスタ的には現在もっとも優先度の高いテーマの一つなのだ。その彼女が求めるならいくらでもウェイバー君を連れて来よう。

 

 そう。カミュ嬢はウェイバー君に淡い思いを時計塔時代から抱いているのである。

 

 私は二人の関係にワクテカしながら、ウェイバー君の近況を彼女に報告する。

 

「そんなわけで義理の妹と生徒が本気で喧嘩を始めてね。その原因がウェイバー君の奪い合いなんだから笑っちゃうよね」

「笑いごとじゃないぞガリアスタ。月霊髄液と52の悪霊を使って二人が本気で暴れたら教室が崩壊するぞ。毎回あいつらは僕の胃をいじめるんだから」

「ははは、それは災難だねウェイバー」

 

 カミュ嬢は朗らかに笑う。その笑い声にウェイバー君も苦笑いを返し、落ち着いた様子で紅茶をすする。そして私は気づいている。ゆったりと紅茶を飲んでいるウェイバー君を見つめるカミュ嬢の目から、少しずつハイライトが消えつつあるのを。

 

「ウェイバー君も、そんなこと言いながら満更でもないんじゃないの? 二人とも超美少女だし」

 

 ピキリ、とカミュ嬢の持つティーカップに罅が入る。それに気づかないウェイバー君。

 

「そんなわけないだろガリアスタ、勘弁してくれ」

「ははは、そうだよねウェイバー。そんな年下に懐かれたってね」

 

 若干上ずるカミュ嬢の声を聴きながら思う。

 

 あー楽し。

 

 

 

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 ところで冬木ではこの時大事件が起こっていた。

 

 

 遠坂の家には高純度の魔力が込められた各属性の宝石が遺されている。数代前から莫大な魔力が込められたこれらは、炎属性しか持たない先代当主遠坂時臣には使用できないまま工房の奥にしまわれていた。

 

 それが、五大元素(アベレージ・ワン)という類稀なる才能を持つ遠坂凛の代になることで日の目を見ることになる。

 

 6番個体が見つけたそれらは、当然このまま使用してもただの使い捨ての一発芸にしかならないが、ケイネス師の教室の同期だったあるハイテク技術を扱う女性CEOことカミュ・ペリゴールと、ウェイバーも交えてとある技術について意見交換をしていたある日、その同期魔術師の魔術特性からあることを閃いたのだ。

 

 宝石魔術の宝石って、投影魔術で作ればよくね? 

 

 投影魔術とは魔力で鏡像を物質化させる魔術。ほとんどはオリジナルの外見だけを、一瞬から数分程度のみ映し出して代用する魔術である。投影されたそれらはオリジナルから大きく劣化しており、時間経過によって世界からの修正を受けて魔力に戻ってしまう。

 

 カミュ嬢の習得しているペリゴール家伝の術式『空殻投影』はさらに外見だけの投影に特化させることで持続時間を延ばすことができるのだが。

 

 逆に宝石魔術で消費するだけの宝石を投影するなら、世界をだます時間は一瞬だけで十分じゃないか、と。時間を制限することで別のところにリソースを割けるんじゃないか。そんなことをウェイバー君が言い出したのだ。

 

 モデルとなる魔力が蓄積した宝石はすでにある。

 

 ではそれを投影できるのか。

 

 それが世界に修正されるまでに魔術式を行使できるか。

 

 むしろ初めから魔術式と魔力を内包した宝石を投影すればいいのではないか。

 

 そんな試行錯誤の果てに、遠坂凛の魔力を偏向させ術式を付与させることを目的とした宝石を投影する方法が最も武術と合わせやすいと6番個体をはじめとしたガリアスタ一味の結論として出た。

 

 

 閑話休題。

 

 

 魔術と武術を融合させた真・遠坂魔術の再興を目指す遠坂凛と6番個体は、あれから基本的に山での修行を行っている。

 

 型月といえばYAMAである。

 

 もちろん10歳かそこらの少女をいきなり山に放り込むようなことはしない。修行場の周囲に魔猪やTSUBAMEのような型月名物のやべー存在が侵入してきた場合すぐ知覚できるよう結界を張っておいてある。

 

 そのようにして張っていた遠坂家修行結界の中に、一人の男が迷い込んだ。

 

 その男は、複数の男に追いかけられていた。

 

 時たま接触し、追われている側が影からの不意打ちの形で数人を殺害あるいは昏倒させ、そしてまた逃げる。

 

 逃げる男は既に満身創痍。

 

 そのまま力尽き、朦朧とした状態で結界へと近づいていく。

 

 人避けの効果は対象の意識に働きかけるタイプのものであったため、半ば無意識に歩を進める半死人のような相手には効果が薄かった。

 

 そのため、追われている男は結界に侵入することに成功し、逆に追いかけていた側は結界の作用を受けて道に迷い、揃って山の麓へと戻ってしまっていた。

 

 そうやって一人の男が結界に侵入したことを、6番個体も凛も結界越しに感知していた。

 

 このまま見捨てるのも寝覚めが悪い。

 

 そういうわけで、二人は侵入者を保護することになった。

 

 修行の中心として使っている山小屋の藁でできた寝台に寝かせる。

 

 見れば、男は長身痩躯であるが全身がバネや蛇を思わせるような筋肉で覆われている。その歩き方だってあまりにも静かで隙がない。

 

 年の頃は、老練して見えたが顔立ちは20前後といったところか。

 

「もしもし、身体を起こせますか」

 

 出血部位を山小屋に置いていた縫合セットで処置した。その途中で消毒液を掛けた刺激で目を覚ました男に、水を飲めるか尋ねた。

 

「すまない、恩に着る」

「お名前は言えますか」

 

 水を汲んできた凛が尋ねると、男はしばし逡巡してから、こう答えた。

 

「葛木。葛木、宗一郎」

 

 

 もう大事件である。

 




カミュ・プレゴール
出典:TVアニメ ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 -魔眼蒐集列車 Grace note- 特別編

ウェイバーの元同級生の女性魔術師。
ウェイバーが世界旅行に行っている間に時計塔から去り、その後ハイテク開発企業プレゴール社のCEOに就任した。
アニメでは2004年頃に外殻投影という技術を別の元同級生とともに開発した。
カメラ好きということで蒼崎橙子と既知。
男装、細身のパンツスーツ、一人称「僕」と私はめっちゃ好きなキャラ。
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