石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる 作:Una
穂群原学園は冬木の深山町にある、小等部から高等部までを備えた私立の学校法人である。
グラウンドには野球場、サッカー場、ラグビー場に加えて陸上トラックまで備えており、年中使用できる水泳部のプールもある。高等部校舎の裏手にはしっかりした弓道場なんかもあったりして、私立だけあって体育系の設備にはずいぶんと金がかけられている。
風のうわさでは遠坂や間桐が出資していたとかいないとか。
さて、そんな大き目な学園の高等部に、2000年の夏、一人の女教師が赴任した。
20代前半の若い女性である。
科目は数学と化学、物理。
その美貌の噂は数日で学園全体を覆いつくした。白衣が似合うヨーロッパ系の外国人で独身だという。長く美しい直毛の髪は紫を帯びた青。その顔立ちは日本人離れどころか人間離れした完璧な比率だった。若干とがっている耳もよく見ていると時折ピコピコと動き愛らしいと評判である。
学校は沸いた。
夜の居残り授業や二人きりの特別授業を受けたいなどとほざくお調子者が続出したが、そんな男子生徒どもを彼女は笑顔でちぎっては投げちぎっては投げ。
モテに対してもクールにあしらう様が女生徒にも好意的に受け入れられ、彼女は一躍学園の人気教師となった。
隠す必要もないので言ってしまうが、この女教師の正体はメディア様である。
遠坂邸に乗り込んでなんやかんやで手に入れた魔法礼装『カレイドステッキ』を利用して取り戻した大人の体にふさわしい戸籍をメディア様は私に作らせた。
彼女の名前はメディア・ガリアスタ。我がガリアスタ家の長女である。ちなみに私は四男。今まで生き残っているガリアスタ兄弟の中では私が最年長だったのだけれど、アヴァロンの欠片を移植してからのここ7年でいつの間にか弟妹たちに年齢を抜かれてしまった。アヴァロンすげえ。
それはともかく。
わざわざ戸籍なんて作らせて何をするつもりなのかと尋ねれば、メディア様は穂群原学園に教職として就職するつもりなのだと教えてくれた。
平行世界を観測することができる例のくそ迷惑な愉快型魔術礼装を活用して、メディア様はご執心の男性が2年後にその学園に教師として赴任してくる未来を観測したのだ。
狙った未来や条件の整った世界を観測できるわけではないから、それは僥倖といえる観測結果だった。
そうと決まれば先にその学校に赴任して、しっかりと準備を進めて場を整え、いずれ来るだろう標的を『有能で美人の先輩教師』として万全の体制で待ち受けようと、まあそういう魂胆である。
そんな魂胆でもって穂群原学園の生徒を掌握し、教師としての才覚で学生の成績を引き上げることでもって職場での存在感を増していく。理事会や理事長などは金の力で支配下に置いた。
ものの1年で、メディア様は魔術に一切頼らず、純粋な実力でもって学園の裏から支配する女王となったのだった。
もしかしたら『陣地作成』スキルは使っていたかもしれないけども。
そして2001年の春。
葛木宗一郎が穂群原学園に赴任してきた。
中等部に遠坂凛が入学することに合わせての赴任であった。あんな無表情で感情の起伏を全く見せないカチコチの顔面をしているくせにびっくりするほど親バカである。
というか。
疑似親子としてこんな強固な関係を築いている六番個体含めた3人のなかに割り込むなんてかなり無謀ではなかろうか。
そうは思うがしかしメディア様は頑張った。
他の男性には見せないような笑顔で接し、手を回して教導側に回って先輩風を吹かせまくり。仕事を周囲に調整させて自然に二人切りで残業したり。ハサンの中でも新たに生まれた人格である『鍋』のハサンや『冷蔵庫のあまりものでいい感じのレシピを考案する』ハサンなどの手ほどきを受けて磨き上げた料理の腕を活かしたお弁当を二人分用意したり。
涙ぐましい努力をこつこつと重ねて、メディア様は葛木教諭からの好感度を稼ぎ続けたのだ。
そのいじらしい姿に学校の生徒たちも心からメディア様を応援し、もう二人で付き合っちゃえよ的な空気を醸し出す始末であったが。
そんなものを全く意に介さないあたりはさすが葛木。朽ち果てた殺人鬼の二つ名は伊達ではなく、生まれてこの方空気を読む能力を身に着ける機会になんて恵まれなかったその生い立ちであるからして、周囲からの『付き合っちゃえよユー』な圧をそれはもう無視し続けた。
そのあまりのスルーっぷりに、メディア様の心がついに折れた。
Medeia:もう無理よ……ここまで相手にされないなんて……これでもゼウスからすら求婚されたこともあるのよ? それがこのざまって……
わたし:諦めないでくださいよ! メディア様の恋が成就する方に3億ドル賭けてるんですから! ここで諦めたら私の小遣いが1か月分パーなんですよどうしてくれるんですか!
ルビー:そうですよまだあきらめるのは早いです! 私がフォローすると言っているのになぜ拒絶するんですか! 私の作ったこのルビーちゃん特製のインプリンティング式惚れ薬を使えばどんな朴念仁も生まれたてのカッコウ同然ですのに!
第7番:いやもうこんなの無理ですよ、初めからあの人6番個体しか眼中にないじゃないですか。空回りし続けるメディア様痛々しすぎて見てられませんよ。
Medeia:うるさ。
諦めては欲しくないけど、7番個体の言うことも一理ある。メディア様が作ってきた弁当を渡したら葛木先生はそのまま鞄にしまっちゃって、代わりに取り出した6番個体が作った弁当を食べだしてさ。メディア様が弁当はどうするのかと聞いたら「家で家族と食べようと思う、心配しなくとも箱は洗って返します」ってね。その時のメディア様の顔はお笑いだったよ。
第7番:ね? メディア様、もう男なんていいじゃないですか。アラブの工房に戻ってきてくださいよ。私と二人でずっと魔術の研究に打ち込みましょ? そういえばちょうど協会の執行者が回収してきたホムンクルスがいるんですよ。なんでも以前アインツベルンから脱走して、山奥の村に潜んでいたとかいう個体で、素体としてはすごい完成度ですよ。一緒にこいつを解剖しましょうよ。
ルビー:ホムンクルスですから薬の実験体としてもデータ収集しやすくて便利なんですよね。
なんかエグいこと言ってんなこいつら。
第4番:というか6番個体はどういうつもりなんですか? 普段から男は男と恋愛すればいいと言いながら創作活動に励んでるくせに。
第6番:え!? いや、えーと、なんというか、二次元と現実は別腹と言いますか。
第4番:は? ホムンクルスの分際で本気ですかアンタ。
4番個体は自虐傾向の強い個体だ。ホムンクルスたちが独自の興味や価値観を構築していくなかで、彼女だけが唯一初期状態から変化していない。
やさぐれているとでも言おうか。どうせいつか死ぬのに、どうせホムンクルスなのに、どうせ偽物の心なのに。そういう『どうせ』が口癖であることが特徴といえば特徴である。
今の発言も普段であればまーた4番個体がひねくれたこと言ってる、とスルーするところであるが、今回は割と同意見だ。まさか6番個体、葛木先生に本気なの? 葛木先生は別にホモじゃないよ?
第0番:ところでメディア様が観測した平行世界では、メディア様と葛木という男性はどんな関係だったのですか?
Medeia:第五次の聖杯戦争が起こって、私の醜態を笑っているそこのマスターに召喚された私がマスターを始末して、ランサーに手傷を負わされて逃げ延びた先で消滅しかけていたところに葛木先生と出会ったわ。魔術や聖杯戦争について何も知らないにも拘らず、初対面の私の言葉を信じて手を差し伸べてくれた。聖杯に懸ける願いが『二人で添い遂げる』というものに変わるほど入れ込んでいたのよ。最後は結局敗北して葛木先生とは死別という形になってしまったけれど、ああまで一途に相手のことを思ったまま逝けるのならそれはそれで幸せでしょうね。
騎士王:私は? 私は? その聖杯戦争に私はいましたか?
Medeia:いたけど序盤のうちにマスターに裏切られて平行世界の私の手駒になってたわよ。
騎士王:!!!??
そういえば、あの第五次聖杯戦争でセイバーが倒したサーヴァントってさ。メディア様に捨てられて魔力もなく現界ギリギリな消えかけのアサシンだけだったような。関係ないけど。最優ってなに? とか思っちゃうけど。
Medeia:? 何やってるのかしらあれ。
第7番:どうされましたメディア様。
Medeia:いえ、大したことではないのだけど。ちょっと視覚共有するわね。
そう言ってメディア様がネットワークに流してきたのは、穂群原学園のグラウンドと思しき場面だ。時刻は夕方、グラウンドには多くの学生がジャージ姿でそれぞれのスポーツに励んでいる様が映し出されている。子供たちの元気な掛け声が響いている。トラックの中心あたりでは、褐色肌の女生徒が白髪巨乳眼鏡を相手にがなり立て、『今時東京⁉ ぶっちゃけありえなーい‼』と叫んでいる。
高所から見下ろすその画角から見るに、メディア様は我々とのやり取りを校舎の屋上から柵に寄りかかるようにしてグラウンドを見下ろしながら行っていたと思われる。
黄昏てんな。
Medeia:この右奥の隅なんだけれど。
メディア様に言われた場所を注視すると、そこには高跳びに挑戦している少年がいた。
髪は夕焼けの中で映える赤色。陸上部の集団から離れたところで、一人黙々とバーに向かって背面飛びを試みている。しかしそのバーの高さは明らかに少年の背丈より高く、練習としては適切な高さ設定とは言えない。
あんなもの、まず無理だ。
やるだけ無駄。
見るからに無謀なその挑戦を、一度も成功しないまま、少年はそれでも愚直に飛び続ける。
わたし:で、これがどうかしましたか?
Medeia:え、それだけ?
他に何を思えと。
他のホムンクルスやルビーちゃんもクエッションマークを浮かべている。
Medeia:だって、絶対に不可能と自分でわかっていて、それでも挑戦をやめないのよ? それってなんだか……? ごめんなさい、私も何を言いたいのかしら。なんだか混乱しているわ、忘れて頂戴。
なぜか狼狽えているメディア様から少し離れたところでは、わかめみたいな髪をした少年が同じものを見ながら「おー頑張れー」とパックのジュースを飲みながら適当に応援していた。いや誰だよ。
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呪いの財宝の処分に成功した話。
過ぎし1994年、聖杯戦争終了後にアインツベルンからかっぱらった財宝の件である。
この大量の財宝についてメディア様が詳細に調べたところ、どうにも良くない呪いがかかっていたらしい。所有者の因果を捻じ曲げるようなそういう類のものだ。
いくらアヴァロンの効果で呪いの類を無効化できるといっても、そんな曰くつきのものをいつまでも所持しているのは気分が悪いので、金に換えると同時にその呪いをアニムスフィアに押し付けちゃおうぜ! という話になった。
呪いはともかく、こもる神秘の質と希少さは霊墓アルビオンから出土される呪体にも劣らないレベルだ。そりゃあアインツベルンがあれだけ羽振りがよかったはずである。
我がガリアスタ家の工作による経済的包囲網によって資金不足にあえぐアニムスフィア家なら喉から手が出るほど欲しがるような財源となる。
そして、アニムスフィア家の中でも特に功績に飢える存在がいる。
現当主の嫡子でありながら唯一の肉親である父からの関心が全く向けられず。本人や周囲は当主に捨てられたと認識しており、父の弟子であるキリシュタリアという飛び切りの天才に次期当主としての立場が脅かされている。
そんな危機感を覚え焦燥を抱えている存在。
それがオルガマリー・アニムスフィア9歳である。
彼女は当主である父が金銭面で苦労していることを把握しており、それを何とかしようと幼いながらに金策に走っていることは天体科の講師やアニムスフィア家に潜ませているスパイたちから裏が取れている。例えばアニムスフィア家が所有している原子力発電所の買い取り先を探していたりだ。
ハサンの人格の一つ『説諭』のハサン。主人格決定じゃんけん大会で準優勝だったショタ人格である彼に今回は頑張ってもらった。
天体科が運営する街に侵入し、カフェのオープンテラスで偶然の出会いを演出する。アサシンが注文したアフタヌーンティーがオルガマリーの席に配膳されてしまったのだ。もちろん仕込みである。
オルガマリーの従者にして教育係であるトリシャ・フェローズが席を外している隙に起こった偶発的な事故だ。
ミスに気付かずうっかり手をつけてしまったため、そこからなんだかんだと『説諭』のスキルを用いて一緒に紅茶を楽しむことになったオルガマリーとアサシン。そこにトリシャが席に戻ってきたところで、すでに出来上がった空気を壊してまでアサシンを追い払うことはトリシャにはできなかった。
長く仕えているオルガマリーのことを主家の娘であること以上に慕っており、だからこそ厳しく接さざるを得ないトリシャにとって、オルガマリーが年頃の少女のように笑うところを見るのは久しぶりであったからだ。
そこから少しずつ出会いと会話を重ねていく。
焦り、苛立ち、とげとげしさを隠せないオルガマリーの心を解きほぐすように。
彼女の背負う重圧を理解し、次期当主を目指す努力を認め、境遇故に出てしまう攻撃性とその後の後悔を抱擁する。
それを繰り返していくことでオルガマリー9歳はあっという間にアサシンに依存していった。まるで薬物中毒者のように、アサシンがそばにいなければそわそわと落ち着かなくなってしまうほどに。
自分を顧みない父、厳しさばかりが際立つ従者、己を軽んじる周囲。そんな環境に置かれた9歳の少女が、自分にだけ優しく接してくれて、自分が無意識に求めていた言葉を囁いてくれるエキゾチックで理知的な美女に依存するのは自明の理というか。
少なくともモジャモジャした長髪の上に緑のシルクハットを乗せた紫ネクタイの中年男性に依存するよりは自然なことなんじゃないですかね。知らんけど。
あえて言おう、チョロくて草。
将来悪い大人に騙されないように注意した方がいいぞ。
そうして準備が整い、本題に入る。
アサシンがどれだけ慰めようと、オルガマリーが当主としての座を危うくしているという事実は変わらないわけで。
その点についてアサシンがオルガマリーに茶会の席で話を振ったところ、彼女からこんな答えが返ってきた。
「別にいいわよ。あなたがいてくれれば別に当主じゃなくたって」
おっとアサシンさんやり過ぎた。
同席していたトリシャさんも眼鏡を下にずらして固まっている。
「いいということはないでしょう、オルガマリー。あなたはずっとアニムスフィアの当主となるために努力をしてきたではないですか。まさか諦めるのですか?」
アサシンの問いかけにオルガマリーは首を振った。トリシャは眼鏡をかけなおした。
「諦める、とは違う。ただ私の価値はそんなところにないって気づいたの」
「価値ですか? もちろんあなたはあなたであるというだけで価値がありますよ」
アサシンは囁く声で告げながらオルガマリーの銀髪を一房手に取る。
「しかしだからと言って今まであなたが積み重ねたものまで捨てることはないではないですか」
髪を撫でられるオルガマリーはくすぐったそうに笑う。
「捨てないわ。今までのことは全て私の力になっている。ただ、私の人生にはアニムスフィアはいらないかなって思ったのよ」
ええ……とネットワーク越しに会話を聞いていたメンツが全員困惑の声を上げた。
そんな魔術師おる? おるわ。カウレス君の姉ちゃんのフィオレ・フォルヴェッジ嬢も今実家で当主やってる父ちゃんと家を継ぐ継がないで大喧嘩している真っ最中だった。
なんかムジーク家のホムンクルスたちと仲良くなって一緒にクーデター起こしているとかなんとか。ゴルドのおっさんが嘆いてたわ。
まあ、気持ちがそっち方向に固まっているならむしろやりやすい。
「では、最後にご実家に復讐しませんか?」
「復讐?」
「ええ。実家を魔術の大家とは名ばかりのスカスカな張りぼてにしてやるのです」
アサシンの言葉は『説諭』や『舌鋒』のハサンが持つ会話のスキルを駆使したものである。ただでさえ常人には抗うことが難しいその会話術は、中東呪術の影響下に置かれ精神を徐々に徐々に汚染されたオルガマリーとトリシャの二人には台風の中で舞う木の葉程度も抵抗できなかった。
「いいわね、それ。とっても素敵」
オルガマリーは、そして本来アニムスフィア家に雇われている立場であるはずのトリシャでさえ、アサシンの言葉が魅力的であるとして一も二もなくうなずいた。
こうして、アニムスフィア家は所有していた資産と、人理保障の計画に向けて開発していた礼装の数々を対価にして、呪われた財宝を購入することになった。
さらば人理焼却。時計塔の学科が11になる日も遠くないかもしれない。
Q.穂群原学園に中等部ってあるの?
A.知らんけどプリズマ☆イリヤは穂群原学園の小等部って設定だし中等部もある平行世界てことで。
Q.2001年時点で完成しているアニムスフィア家の礼装てなにがあるの?
A.以下。
①事象記録電脳魔・ラプラス
過去の記録を集計し、人知れず闇に葬られた情報を拾い、観測する使い魔。1950年完成。
②疑似地球環境モデル・カルデアス
地球の縮小コピー、地球のライブラリ、過去への羅針盤。1990年完成とされているが稼働させる電力が賄えておらず実質永遠の未完成。
③近未来観測レンズ・シバ
モジャ毛に緑のシルクハットを乗せた中年が作った、カルデアス専用観測望遠鏡。1999年完成。
④ロゴスリアクト・ジェネリック
マリスビリーの私物。アトラス院の成果物『ロゴスリアクト』のバリエーション。仮想空間構築シミュレータ。別名特異点製造機。賢者の石と呼ばれるフォトニック結晶で作られている疑似霊子演算機としての側面も持つ。存在自体が量子の揺らぎ状態にある。