石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる   作:Una

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第2話を一部修正しました。それに伴い主人公の設定を一部変更しました。この主人公はワナビです。


第4話 妨害

 おかしい。

 

 私の渾身の力作である『「お前のせいで追放された」と言って別の女と結婚しようとした夫にメディア様はざまぁする ~夫のために国も家族も捨てて尽くしたのに逆恨みで捨てられたのできっちり復讐、その後はエリュシオンで真の英雄に溺愛されました~』略して『メディざま』がびっくりするほど売れていない。

 

 書斎の壁に掛けられたカレンダーを見つめる。

 

 1992年。一巻が世に出てから既に1年以上経っている。

 

 この1年の間、私たちはいろんな工作を行った。番組制作会社を買収したり、テレビ局のプロデューサーに暗示をかけたり、暗示に抵抗性を持っていた人には事故が起こるようにしたり。他には私が経営している企業『ガリアスタオイルカンパニー』が番組スポンサーとなって制作費やら予算やらを湯水のごとく注ぎ込んでやったとか、広告代理店の株主総会に乗り込んで暴れるぞと総会屋じみた脅迫をしたりとか。

 

 そんな努力の甲斐もあり、日本のテレビ・マスコミ業界の30%はガリアスタ家のものと言える状態になった。

 

 そうなればこちらのものとメディア様関連の番組や映画を放送させまくった。来年あたりには高校の世界史の資料集にもメディア様の像の写真が掲載されることになる。

 

 本当に頑張った。寝る間も惜しんでみんな頑張った。私も、ホムンクルスたちも、囲っている魔術使いたちも。

 

 それと並行して私は執筆を続けていた。石に噛り付く勢いで、3か月に1冊ずつの刊行ペースを維持してきた。先月発売された第5巻でついにメディア様はその権謀術数でもって、自身の名誉を貶めた夫が自身の血筋を残す可能性を完全に潰すことに成功し、自身の英雄としての誇りを守り抜いたのだ。めちゃくちゃ筆が乗ったクライマックスだ。

 

 そのシーンではメディア様の魔術師版ヘラクレスとまで呼ばれた実力と魅力を完膚なきまでに表現し尽くしていると自負している。もちろん単純なハッピーエンドではない。復讐のため、そして英雄としての誇りを取り戻すために、愛する子供を殺さなければならないという葛藤と悲しみをアクセントに加えられたビターエンドだ。

 

 その対比として描かれた夫の末路は、過去の栄光の象徴たるアルゴー船の残骸に残されたマストで首を吊ろうとして失敗し、崩れた竜骨に押しつぶされ最後は独り惨めに死んでいく、これでもかというざまぁ展開だ。自身の栄達と子孫の繁栄をこそ望み続けていた夫に対してこれ以上の復讐はない。

 

 それなのに、売れない。

 

 メディア様の知名度が爆上がりしているのにも拘らず、売れない。

 

 どういうことなんだ。わけがわからない。こんなの世の中が間違っている。世の中を構成している一般人どもが読者なのだ、そいつらのレベルが低いんだ。

 

 きっとそうだ。

 

 私の描いた『メディざま』が評価されないという理不尽、不条理。私は歪んだ世界の価値観を正さなくてはならない。

 

 これは聖戦である。私が惰眠をむさぼる民衆の蒙を啓いてやらなければならない。そう、私は選ばれし存在なのだ。立てよ国民。

 

「……一人で盛り上がっているところ申し訳ありませんが、正直な話タイトルで読者を逃がしているかと思います。編集さんも週一でタイトルを変更しようと打診してきているではないですか」

 

 いつの間にか書斎の扉を開けていた統括個体が、そんな的外れなことを言ってきた。

 

 もう2年の付き合いなのに統括個体はいまだに敬語がとれない。その緑がかった灰色の髪も、相変わらず襟足が不揃いなボブカットである。ホムンクルスは基本的に成長や老いがないからだ。敬語が外れないのもそのせいかもしれない。

 

 彼女は木製の扉を閉め、赤褐色のカーペットに散らばっている原稿用紙をまたぐように避けながら書斎に入ってきた。

 

「タイトルのせい? それはないよ。君たちにはわからないかもしれないけどね、こういう長文タイトルで内容をわかりやすく表すことで、読みたい展開の作品が探しやすくなるっていうメリットが読者にはあるの。それにライトノベルは将来どの作品もこういう長文タイトルになるんだよ。未来のトレンドを先取りしてるんだ。これも知識チートというのかもしれないね」

「未来のトレンドということは現在では通用しないということではないですか」

「なるほど一理ある」

 

 しまったな、一言で論破されちゃった。

 

「そもそもライトノベルと表現しておきながら内容がヘビー過ぎます。中高生をターゲットにしたレーベルだと編集さんに聞いていますよ? それなのになんだってそんな弟のバラバラ死体を自分の体に巻き付けたり自分の子供を焼き殺したりするグロ展開ばかり力いれて描写しているんですか」

「弟のシーンはマスカリモスっていう古代ギリシャの由緒正しい呪いなんだよ! 死体から切り離した足を脇の下に挟むことで相手を冥界に縛り付けることができて、そいつがどんな強い怨念を持っていても復活できなくさせるっていう」

「他の作品を読んで売れ筋や傾向を検討するというのはいかがですか?」

 

 私がメディア様の魔術の残虐さについて説明していると、統括個体はさえぎるように言葉を被せてきた。気のせいだよね? ホムンクルスが主と設定された相手の話を邪魔するとかないよね? 

 

「んー……大衆に迎合しなければならないってことだよねそれ。それはなんか違うかなって。もっと自分の持ち味を活かした、自分にしか書けない作風を大事にしていきたいんだよ」

「……はぁ?」

「それにあまり他の人の作品て読まないようにしているんだよね。真似とか模倣とかしたくないんだよ。そりゃあ技術の習得は模倣から始まるなんて流説は知ってるけどさ、そういうのって自分のオリジナリティが損なわれちゃう気がするんだよね」

「あ、わかったこいつ馬鹿だ」

 

 おかしい、なぜこのタイミングで敬語が外れたんだ。

 

「そんなことより」

「そんなこと⁉ 私の夢がそんなこと扱い⁉」

「天体科に潜入させていた弊たちから報告があります。アニムスフィア家が資金調達に動き出したとのことです」

 

 あ、そういう態度とるんだ。ふーん、あっそう。もう怒った。アニメ会社買い取って、お望み通り大衆に迎合した作風でメディア様のアニメ作ってやるよ。ちょうど先月からセーラームーンのアニメ始まって人気出てるみたいだしなんかそういう魔法少女的な設定で。

 

 そんなの絶対上手くいくわけねーんだよ。それを結果でわからせてやる。売り上げデータを表にして突きつけてやるんだからな見てろよ。

 

「ほぼ間違いなくイタリアの原発購入のためでしょう」

「うん、アニムスフィアの動きは予定通りだね」

 

 ホムンクルスを潜入させていた天体科とは、魔術協会が三大部門の一角を占める『時計塔』を治める、十二存在する学部の一つだ。各学部を統括する学部長をロードと呼び、12人いるロードは全て魔術師の世界を支配する大貴族の家系から選ばれている。

 

 天体科の現ロードがアニムスフィア家の当主であるマリスビリー・アニムスフィア、現状で私が最も警戒している『世界を滅ぼしうる存在』の一つである。

 

「どこの原発を狙っているかはわかった?」

「アニムスフィアの使者が接触した相手も把握できています」

「じゃあ契約が本決まりになる前にアニムスフィアが提示した額の10倍で交渉して。20倍までは向こうのホムンクルスの権限で交渉に使っていいよ」

「承知しました」

 

 アニムスフィア家が将来設立する可能性のある組織『カルデア』。これは人理の継続を保障することを目的にしてるとかなんとか、なんだかよくわからないことのために作られる組織だ。

 

 ただその人理保障とやらのために作られた魔術礼装がなんかやべー奴らに利用されて世界がやばいって感じだったはず。

 

 そんなことになれば私だって世界と一緒に死んでしまうかもしれないのだから、当然そんな魔術礼装が作られてしまうのは阻止したいわけだ。

 

 そんなわけで以前からアニムスフィア家の動向を監視するために、その当主が統括している天体科に学生としてホムンクルスを入学させていたのだ。

 

 すると当主のマリスビリー君、どうにも金を稼ごうと四苦八苦しているご様子。それも油田だとか発電所だとか、そういうところをご所望だ。

 

 そこで世界有数の財力を抱える我がガリアスタ家の札束ビンタがアニムスフィアを襲う。

 

 数年前に奴が購入しようとしていた北海の海底油田であるセラフィックスプラットフォームは私が他の油田も併せてまとめ買いしてやったし。

 

 1986年に起こったチェルノブイリ事故以来建設中止の機運が起こり、各国が凍結させて扱いに困っていた原子力発電所も、アニムスフィア家が買う前にこちらで購入してやったのだ。

 

「停止した原子力発電所を買い取ってもコストがかかるだけなのでは?」

「もちろん魔術で隠蔽しながら稼働させるよ。あと発電所建設が中止になって仕事なくした原子力分野の科学者もいるでしょ? その辺りの人材も引き抜こう。原子力発電を魔術で改良してもっと安全かつクリーンなエネルギー源を目指すんだ。いつ石油が枯渇するのかわからないんだし」

「……以前石油枯渇論は陰謀だ的なことを言ってませんでしたか? まあいいですが。とりあえずめぼしい科学者をピックアップしておきます」

 

 言いながら統括個体は別の書類を取り出しているが、そうしている間にも彼女は世界中に散らばった7体のホムンクルスたちと膨大な情報のやり取りをしている。

 

 以前CDに例えた情報圧縮言語術式。彼女たちの電磁ネットワークと魔術回路、そして脳を駆け巡る情報は全てその術式によって構成されている。その情報量と処理速度に2年間さらされ続けていた彼女たちの脳は、その優秀な魔術回路の演算能力による補助も手伝ってとんでもない思考速度を得るに至った。

 

 それはアトラスの錬金術師の必須技術と言われる高速思考そのものでありながら本家である彼らよりもスペックが高い。なぜならこちらはホムンクルスなのだ。錬金術師の脳がいくら特別だと言ってもその脳は人間のそれと同じ。頑丈さにおいてはホムンクルスの脳が圧倒的に上であるわけで、情報負荷への耐性はこちらに軍配があがる。

 

 例えるなら……グレイの細胞を頂戴するときに解析した、彼女が所有していた封印魔術礼装『アッド』の演算能力とぎりぎり勝負になるかもしれないというとんでもないレベルだ。

 

 それに加えてこのホムンクルスたちは8人で情報を多角的かつ並列させて処理することができるため、アトラスの錬金術師が持つ分割思考を疑似的に再現できているのだ。

 

 これは思わぬ成果だった。完全に予想外、うれしい誤算だ。

 

 以前統括個体が頻繁に頭痛を訴えていたけれど、それは幻肢痛なんかじゃなく情報量の多さに頭がパンクしかけていたかららしい。

 

 耐久性を上げる方向で調整されたホムンクルスだから治癒魔術を使うことで耐えることができていたが、これが人間であった場合、相当優秀な魔術回路で演算の補助をしていないと数か月で廃人になっていただろう。

 

 そんなリスクを乗り越えて習得した高速思考と分割思考にただ乗りできるのだから、私は本当に運がいいと思う。

 

 

 

 

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