石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる   作:Una

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第42話 事件簿⑧ 口論

 真相はなんということはない。グレイ嬢は魔力の波長が当然のようにホムンクルスと一致しているから、無意識下で電気魔術を用いたネットワークに参加できてしまっていたのだ。

 

 しかしネットワーク上では情報が常人の脳では届きえない速度で行き来しているため、グレイ嬢は強い思念しか受信できないのだろう。その結果、ひと際強い思念である騎士王の殺意を受け取ってしまっていたのだ。

 

 それが前提。ここからは私の推理になる。

 

 騎士王の私に向ける殺意は確かに強いものだ。しかしネットワークに騎士王が入り込んでから10年弱、それしか受信しないなんてことが本当にあるのだろうか。

 

 騎士王がネットワークを介してグレイ嬢との繋がりを深めていたということは考えられないだろうか。

 

 動機はもちろん自分の肉体を求めてのこと。騎士王の魂がどれだけ人間のそれを超えていても、電磁ネットワークの一部となっているホムンクルスの肉体を完全に支配することはできない。その気になればメディア様がアンリマユにそうしたように騎士王の魂を引きはがすこともできるし、最終手段としては私がホムンクルスの肉体の自爆装置を作動させてもいいわけだから。

 

 そもそも、十年もの長い間ずっと私に対して憎しみと殺意を抱き続けるなんて不自然ではないだろうか。

 

 つまり彼女は私にエクスカリバーをぶち込むという建前で、その肉体を完全に支配するためにグレイ嬢への精神的侵略を進めていたのではないか。

 

 原作ゲームでも、好感度が足りなければ聖杯のためにマスターを始末しちゃう女だもの。ブリテン復興のためならウェールズ出身の見知らぬ村娘の一人や二人うへへへ……ということだろう。

 

 と、ウェイバー君お得意のワイダニットを真似して自分なりに推理を積み重ねた結論としてこの騎士王さんが犯人に違いないわけだけど、ネットワークでは激論が続いていた。

 

 

 騎士王:私が民の身体を乗っ取ろうとしているだなんて、一体どこが私を犯人って証拠だ! 

 わたし:文法崩壊してますが大丈夫? 

 騎士王:そもそもその声が私のものだという確証もないではないか! 

 わたし:エクスカリバーなんて厨二用語を恥ずかしげもなく叫ぶ輩は地上にあなたしかおらんのよ。

 騎士王:殺すぞ。

 

 

「ああ! また、また恐ろしい言葉が! 殺すって聞こえる!」

 

 0番個体に寄生している騎士王様が私に煽られて殺意を向けるたびに、隣にいるグレイちゃんが頭を抱えてゴロンゴロンと絨毯敷きのフロアを転がりながら悲痛な絶叫を上げる。

 

 

 わたし:ほら見てみろよ視覚共有してやるから! こんなわかりやすい証拠ある? ねえねえ、こんないたいけな少女を苦しめて騎士の王様は恥ずかしくないんですか? 辞めたら? 騎士名乗るの。

 騎士笑:そもそもの原因は貴殿がその娘を元にホムンクルスを作ったからだろうが! あ、私の名前から勝手に王を取るな! なんだ『騎士笑』とは! 

 わたし:語るに落ちたね。私が作ったからネットワーク越しに繋がりができたけど、それを利用して自分の肉体を手に入れようとしたのは騎士王様でしょ? ほらほら騎士様が怒るからグレイちゃんが苦しんでるよ。

 

 

「『騎士笑』って叫んでる! 『騎士笑』って声が聞こえる! 『騎士笑』てなに……?」

 

 

 わたし:力じゃ敵わなくてもディベートじゃ負けないぞー? ほら剣なんて捨ててかかってこい! あ、見て見てグレイちゃんがまた倒れた! 

 第0番:主。

 わたし:なに0番、今騎士笑さんと大事な話をしてる途中なんだけど。代わってよ。

 第0番:王は戻りません。精神の奥で『全て遠き理想郷』を展開して引きこもりました。

 

 

 逃げやがったよあのブリカスの王。

 

 

 第0番:王から伝言を承っております。『ばーか死ね』。以上です。

 わたし:マジであんガキャほんま……! いいよ、グレイ嬢に電気魔術に対抗する抗魔力効果のアミュレットを渡すから。それでネットワークから遮断されるしグレイ嬢の悩みも消えるし一石二鳥だわ。

 第0番:王からの伝言です。『理由は言えませんがそれはやめてくださいお願いします』。以上です。

 

 

 絶対やる。

 

「ところでガリアスタ、グレイ嬢のことだが」

 

 論破する前に逃げられた悔しさに地団太を踏んでいると、ウェイバー君が話しかけてきた。その後ろではライネス嬢やホムンクルスたちがグレイ嬢を介抱している。騎士王が奥に引っ込んだことで正気を取り戻したようだ。

 

「グレイちゃんがどうかした?」

「お前のところにいるホムンクルスたちの元型が彼女、グレイ嬢であると言うことで合っているんだな?」

 

 ウェイバー君は眉間に深い皺をよせてそんなことを聞いてきた。

 

「え、うん」

 

 なんだ突然。

 脈絡のない質問に戸惑っていると、今度はグレイ嬢がソファに横たわりながら口を開いた。

 

「すみませんガリアスタさん、ホムンクルスの元型てどういう意味ですか?」

 

 ああ、そういえば彼女は魔術に疎いんだった。その立ち位置から事件簿原作では作中の設定説明のために重宝されていたんだった。ロードやら魔術界の重鎮たちが赤の他人であるグレイちゃんのような素人に質問されて基礎的なことをいちいち答えるだろうかと思っていたけど、そりゃ答えるよなこんなに愛らしいんだものなあ。

 

 ふむ。せっかくのファンなんだし一つ講義しておこうか。

 

「グレイちゃん、ホムンクルスはわかる?」

「フラスコの中の小人、ですか?」

「一般ではそういう理解で十分だね。錬金術で作られる全知無能の人造生命。ただし魔術の世界におけるホムンクルスはそれとは意味が異なるんだ」

 

 はあ、と自信なさげに頷くグレイちゃん。まだ脳がパンクしている様子はない。それを確認して私は言葉を続ける。

 

「魔術世界でのホムンクルスの中心は魔術回路だ。魔術回路を素体として、肉体をデザインし、その設計図に沿って製造する。血と肉で作ったロボットと考えるとわかりやすいかな。わかる?」

「は、はい。まだ大丈夫です」

「でもうちで作成したホムンクルスは違う。ところでクローンってわかる? 遺伝情報を複製することをクローニングと呼ぶんだ。そのクローン技術で生体や臓器、果ては生命そのものを科学的に複製することも既に実現している。その技術を使って移植用の臓器を複製することが研究されているんだけど、魔術の世界ではさらに進んでいる。対象の精子を調合した溶液で満たした専用の培養器で一定期間培養することでクローンを作る技術はもう千年以上前に実現しているんだ」

 

 つまりグレイちゃんとうちのホムンクルスどもの関係はそのまま騎士王とモードレッドの関係なのだ。作り方も含めて。

 

「あ、こういう説明より漫画や映画で例えた方がクローンの意味はわかりやすいかな?」

「あ、いえ。ドリーのお話は買った科学の本にも載ってましたので、クローンはわかります。でもえっと、それと拙になんの関係が? 魔術の話なのにどうして途中から科学の話に?」

「つまり女の子の君を魔術で男に」

「待てガリアスタ、止まれ。その口を閉じろバカが!」

 

 真っ青な顔で飛びかかってきたウェイバー君と獅子刧君、ライネス嬢に私は絨毯の床に押し倒された。口にはライネス嬢が操る水銀の塊が押し込まれている、これでは声が全く出せない。そしてこんな状態の私を見ても動かないホムンクルス二名。なんて奴らだ。

 

「貴様には人の心だとか配慮だとかが欠けていると常々思っていたが実はただのアホだな貴様は!」

「ももも!? ももーむも!」

「知らない方が幸せな情報というものがあるだろうが! 本当に貴様は私如きの想像する最悪の一歩斜め上を行くな! まさかそんな方法でホムンクルスを作っていたとは……!」

 

 ちょ、何⁉ なんなの急に! そんな罵倒されるようなことあった⁉

 

 

 わたし:助けて! ウェイバー君と獅子劫君に挟まれて不健全なことになっちゃう! 

 第6番:REC

 わたし:消えろ! 2番と5番早く! 

 第0番:いや正直自業自得かと。

 わたし:なぜ⁉

 

 

 ネットワーク越しに助けを求めるも、二人は私の惨状なんて軽く無視して、

 

「つまり彼女が我々の元型……今後彼女のことはママと呼ぶべきでは?」

「いや、あるいはパパでは?」

 

 そんなことをひそひそと話していた。二人は相談を終えて、きょとん顔したグレイ嬢に向き直る。

 

「あの、グレイ様」

「は、はい⁉ 拙ですか?」

「これから貴方のことをパパ上とお呼びしてもよろしいでしょうか」

「なぜ⁉」

「あとそのサイン本はばっちいので廃棄しちゃいましょうね」

 

 その一方で私は、ウェイバー君と獅子劫君、ライネス嬢の三人に囲まれて正座させられていた。

 

「いいかガリアスタ、私とてお前が嫌いだから言っているわけじゃない。むしろ友人として好感を抱いているからこうして指摘しているんだ。切嗣の時に懲りていたのかと思っていたが……いいか? 人間は普通の感覚として自分を複製されることに強い忌避感を抱くんだ。なぜ? じゃない。わからないならそういうものだと覚えろ」

「ガリアスタの旦那。あんたには呪いの件でも世話になったからあんまりこういうこと言いたくはねえがな。他人を勝手に性転換させて子種を採取しちゃだめだろ。バレる前に戻した? そういうことじゃねーんだわ。他人にばれようがばれなかろうが、人として越えちゃいけない一線ってのはあるだろうよ。そうなの? じゃない。あるんだよ。なんで25年も生きてて初耳だみたいな顔できるんだよ」

「大体貴様は兄上とどういう関係を目指しているんだ。学生時代に怪しい関係を応援されていたのは知っているぞ? それなのにカミュとの仲を仲介したり、かと思えばあんな美少年が兄上のそばに侍るのを許容していたり。それなのにどうして私の邪魔をするようなことばかりするんだ。兄上にはもっとふさわしい相手がいるだろう? 家柄もよく、血筋も確かで、若くて美貌を湛える……違う、アレキサンダーのことじゃない。そりゃアレキサンダーは家柄も血筋も美貌も私以上だがな、あれは男じゃないか。なんなんだ貴様は、男同士の関係なんてそんな非生産的な……いや、確かに非生産的だからこそ純粋で打算のない愛であると言えなくはないが。まあそれもありだとは思うが、うん」

 

 三人がかりで説教されたけど一勝二敗だった。実質私の勝ちだと思う。

 

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