石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる   作:Una

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第43話 幕間 2003年

 2003年秋。ウェイバー君がグレイ嬢をロンドンに拉致してから数か月がたった。

 

 私立穂群原学園高等部。そこは言わずと知れた、2004年に第五次聖杯戦争の舞台となっているはずだった場所である。

 

 この世界ではすでに冬木の聖杯は私が解体済みであるので、第五次聖杯戦争なんて起きようがない。

 

 しかし、今この学園では、聖杯戦争に匹敵する闘争が始まろうとしていた。

 

 その中心人物はもちろんメディア様その人。

 

 彼女はかつて葛木という元暗殺者と運命的な出会いを演出すべく穂群原学園に教師として侵入していた。しかしその思惑は配下であるはずのホムンクルスに見事BSSされてしまったのだ。マジ可哀そう。

 

 それでもメディア様は頑張った。屋上で心折れたあの日からなんとか立ち上がった。魔術で洗脳しちゃえよyouという私の誘惑も跳ね除け、授業について相談に乗ったりお弁当をあげたり職場の飲み会で隣の席を確保したり、魔術の認識改変で彼の義娘である遠坂凛嬢のクラスの担任になったり授業を担当しまくったり、義娘の話題で会話を増やそうとしたりと、まあ地道なアピールを重ねたわけだが。

 

 結局あれから全く進展せずに今に至る。

 

 そもそもここから葛木を略奪できたとして、それは彼女が求めていた男なのか、という疑問もある。彼女は一途な男と添い遂げたいと願ったが、略奪されるような男は一途か? 

 

 否。

 

 言ってしまえば、6番個体と出会ってしまった時点で彼女の割り込める隙なんてなかったのだ。

 

 そのことに薄々彼女も気づいていたはずなのに、なぜか彼女は葛木に執着し続けた。

 

 それは、別の思いを振り払おうとしているように。

 

 それがどういうことか、メディア様の視線を負うと自然と答えは見つかるわけだが。

 

 教師として働いている学園の屋上で、彼女が目撃してしまったとある少年の高跳び。到底届かないバーを目指してひたむきに挑戦を繰り返す姿。

 

 強烈に脳へと焼き付いてしまったあの風景がいつまでたっても頭から払えなくて、それでも葛木への思いを捨てることもできないし心変わりするなんて不実であるとも思っていて。

 

 板挟みとなった彼女は、葛木への決して叶うはずのない思いを抱えたまま、合理的な理由を建前に士郎少年をこちら側、つまりは魔術の世界に引き込みガリアスタ家で保護しようということになった。

 

 強硬手段であるが悠長にしてはいられない。なぜならあの高跳びを目撃した女性が他にも何人もいるのだから。

 

 まず学園に通う遠坂凛嬢。普通に下校途中に見かけていた。

 

 次いで桜・ガリアスタ。メディア様に魔術の修行をつけてもらおうと日本に来たついでに姉や義理の兄が通っている学校がどんなところなのか見学にきていたのだ。

 

 加えて『世界で最も優雅なハイエナ』ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。第三次聖杯戦争以来ファッキンジャパンが家訓であった彼女であるが、聖杯戦争のあった冬木の地脈に再び乱れが観測されたと時計塔で話題に挙げられたために調査に来ていた。執事の運転するベンツの窓越しの、一瞬すれ違う程度の目撃であったが、それでも例の高跳びの効果は絶大だった。

 

 同様に調査に来ていた『歴代最強の執行者』バゼット・フラガ・マクレミッツ。近年電気魔術を習得した彼女は、身体強化および治癒の魔術の精度が爆上がりし、それらに飽かせた筋トレと回復を繰り返した結果『強化魔術の極北』と呼ばれるルセンドラ家のそれを(自己の強化に限り)上回るに至った。それを自身の眼球周りの筋肉に使用して視力を上げていた彼女は、日本への移動のために搭乗していた上空2万フィートを飛行していた旅客機の窓から穂群原学園の校庭を眺めていたのだ。高跳びからすればそれだけで効果は十分だった。

 

 これに加えてメディア様である。そんな錚々たる面子を一目で落とすのだから意味が分からない。

 

 SCPかな。

 

 なお7番個体の反対をメディア様は無視した。どうせ奴はアラブの地下にある工房で缶詰めであるからして、しかも最近はこいつはネットワークをBANされがちであることもあり、この問題に関しては何もできやしないのである。

 

 そんなわけで、メディア様は教師としての権限を活かして進路相談室を貸し切り、進路相談の名目で士郎少年と面談をすることとなった。まああながち嘘ではない。

 

「わざわざ時間を作ってもらって悪かったわね」

「い、いえ。大丈夫です。今日はバイトもないので」

 

 士郎少年はメディア様と二人切りというシチュエーションを意識してどぎまぎしている。返事をする声も若干震えていた。学校で最も人気のある美人女教師に要件もわからずにいきなり呼び出されたのだ、思春期特有の自意識過剰もあるだろうし、そりゃ緊張もする。

 

「さっそく本題に入るのだけれど、あなたは魔術というものを知っているかしら」

「……魔術?」

 

 士郎少年の儚い期待が一瞬で消えた。もしかしてこれ宗教の勧誘か何かか。もしくは美人局か。しまった出口から遠い側の椅子に座ってしまった、逃げるには窓から上履きのまま脱出するしかないか。どこで培われたのかそんな危機管理能力の高い思考が巡る。

 

「ああ、警戒させてしまったわね。紅茶でもいかが? 暖かい飲み物は落ち着くわよ」

 

 そういいながらメディア様が指を軽く振ると、浸りの間に挟まれた机の上に紫色の魔法陣が浮かび、ホカホカと湯気を上げる紅茶の注がれたティーカップが二つ現れた。

 

「⁉ え」

 

 士郎少年の表情が驚きに染まる。驚愕によって生まれた彼の思考の隙間をこじ開けるように、メディア様は次々と情報を開示していく。

 

 世界には魔術があること。自分が魔術師であること。魔法少女メディアちゃん! のモデルが自分であること。

 

「え、あ、言われてみればメディアちゃんに……そっくり⁉ あれ? なんで今の今まで気付かなかったんだ」

「認識阻害の魔術をかけていたの。この顔だとメディアちゃんだってバレバレで、ろくに外出もできないでしょう? その効果は貴方が今身をもって知ったと思うけれど?」

「本当に、魔術が……」

 

 ちなみに、説明をしながらメディア様は士郎少年の身体を精査している。

 

 Medeia:この子の魔術の才能どうなっているのかしら。

 わたし:並行世界を覗いて知ってはいたのでしょう? 

 Medeia:そうだけど、実物を目の前にすると印象が全く違うわ。心象風景の具現化? 固有結界? 投影? なにこれ。こんな突然変異が生まれるなんてあり得るのかしら。

 

 

 なんなんだろうね。

 

 

 わたし:で、どうするんでしたっけ。

 Medeia:ルビーちゃんを経由して、並行世界の『衛宮士郎』をインクルードするわ。一から魔術について教育するのは確かに手間だし、能力だけを呼び出す術式は開発済みよ。

 

 

 以前オルガマリー嬢を誑かしてアニムスフィア家からくすねた礼装や研究成果。その中にあった疑似サーヴァント開発計画。魔術の適正がある人間をサーヴァントの依り代として、その内にサーヴァントを召喚するという代物。

 

 研究レポートを見たが、資金不足でスポンサーや研究者も足りていなかった当時のアニムスフィア家ではほとんど研究を進められていなかったらしく、成功した例はなかった。

 

 余人から見ればはっきり言って夢物語か創作か、はたまた狂人の落書きかといった感じだ。理論も穴だらけでこのまま研究を続けてもまともに成功なんてするとは思えない。

 

 が、そこはさすがメディア様というべきか。彼女はその研究を勝手に引き継ぎ、アニムスフィアが数十年かけても立証できなかった理論を一人で、たった1年程度で、しかも趣味の片手間に成立させてしまった。

 

 とはいえその内容は、依り代となった側の人間が獲得していた精神や自我を塗りつぶしてしまうような非人道的な代物だった。聞いてるか騎士王お前のことだぞ。

 

 それを良しとしなかったメディア様は、とある並行世界から解決のアイディアを得ることに成功した。

 

 それがインクルードと呼ばれる技術。

 

 サーヴァントの全てを依り代に憑依させるのではなく、サーヴァントが所持する概念を選択して抽出し、それのみを依り代に上乗せするという技術。

 

 これであれば依り代の精神を塗りつぶす必要はなくなる。憑依の難易度や術式の単純さなどから技術的ハードルは疑似サーヴァントより格段に低くなる。この技術が運用できるようになれば、サーヴァントの戦闘技術やスキル、うまくいけば彼らが所有する宝具さえも人間が使えるようになるだろう。

 

 あとは依り代とサーヴァントの相性だ。

 

 ジャック・ザ・リッパーやジル・ド・レイのような殺人鬼や、アンリ・マユのような大量破壊サーヴァントの能力を呼び出してしまう人間が依り代となれば、恐らくは惨事が巻き起こることになるだろう。

 

 その点でいえばこの少年が呼び出すとすればあの赤い弓兵以外にはありえない。そして彼のサーヴァントの能力が使用できるとなれば、ガリアスタ陣営の戦力は何倍にも増強されることになる。『妄想幻像』で百体近くの分身体を形成したハサンさんそれぞれに宝具を持たせたりとか。造った投影宝具をメディア様の道具作成スキルで改造するとか。使い道なんていくらでも思いつく。

 

「魔は魔を引き寄せる。あなたほどの才能を持ったまま魔に対する備えをしないなんて、自殺もいいところよ」

「は、はあ」

「せめて自衛できる程度には魔術を修めていないと、あなたのみならず周囲の家族や友人も命を危ぶまれる事態に陥りかねないわ」

「……はい」

「そういうわけで、これを持ってみてほしいのよ。先ほど言った並行世界の自分から技術をコピーすることができる礼装よ。一から勉強するより格段に早く魔術を習得することができるわ。もちろんこれからも訓練は必要だけれど」

「はあ、並行世界の自分、ですか……」

 

 メディア様が士郎少年に渡したのは並行世界観察用レンズ礼装・シヴァを取り外されたルビーちゃんだ。あの無骨なレンズを12個も背負っていた状態ばかり見ていたからなんだか懐かしい気持ちになる。

 

「あとは私に任せて。魔術の使い方が頭に入ってくるけど、驚かないで。目を閉じて私の言う呪文を繰り返して。『告げる──』」

 

 二人が同調しながら言霊を唱える。

 

「汝の身は我が元に、我が命運は汝の剣に」

 

 呪文が進むごとに、ルビーちゃんを中心にした魔力の奔流が相談室全体を駆け抜ける。

 

「誓いを此処に。我は常世全ての善と成る者。我はこの世総ての悪を敷く者」

 

 魔力の高まりが最高潮に達しようとする。その魔力をコントロールしながら、メディア様はルビーちゃんを介した並行世界との繋がりを維持し続ける。

 

「汝、三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ天秤の守り手よ、⁉」

 

 そしてインクルードの術式が完成しようとしたその瞬間、メディア様の意識が完全に自分から逸れるその時を狙って、ルビーちゃんが満を持して動いた。

 

 Medeia:ルビー、貴方なにを! 

 

 光の奔流の中、さえぎられる視界の中でメディア様が叫ぶ。それにルビーちゃんが叫び返した。

 

 ルビー:よくも私のマスター登録をこんな男の子に登録させてくれましたね! 

 

 考えてみれば当然のことだが。

 

 ルビーを介して英霊の力を士郎少年に憑依させるということは、ルビーのマスターとして彼を登録するということだ。

 

 もちろんメディア様の手中にあるのだから、ルビーちゃんがどれだけ抵抗しようと意味はない。先ほどの会話の間にマスター登録は済ませていた。

 

 ルビー:サーヴァントの力をインクルードさせるには、一瞬とはいえカレイドルビーを経由させないといけないわけですが。よくも! よくも男子高校生を魔法少女コスプレさせようとしてくれましたね! 屈辱ですよ屈辱! 

 

 インクルードという英霊の力を限定展開する機能は、ルビーの能力ではない。正確にはルビーによって魔法少女に変身したマスター『カレイドルビー』の能力だ。

 

 つまり士郎少年は、男子高校生からカレイドルビーを経由しないと英霊衛宮の能力をその身に展開させることはできないのである。

 

 そのことがルビーちゃんの逆鱗に触れた。

 

 Medeia:そのことは貴方も納得済みのはずでしょう⁉

 ルビー:納得なんてするわけないでしょう! 私は! 死んでも! 男性を魔法少女にすることなんて認めませんから! 男の娘なんて邪道ですよ邪道! 

 

 ネットワーク上で激しく口論している二人であるが、現実世界では一瞬のことだ。

 

 そしてその間に、ルビーちゃんは懐からピンク色の液体が入った注射器を取り出した。

 

 Medeia:それは!! 

 ルビー:そうですよ、あなたが開発した性転換薬です! これを私の新マスターにぶち込んで私好みのロリっ子にしてやるんです! 

 Medeia:やめなさい! 彼が女性になったら私はどうすればいいの! 

 ルビー:もちろん嫌がらせの意味もありますよ! よくも私を今まであんなダッサイレンズを取り付けてこき使ってくれましたね! 

 Medeia:わかったわ、今後あなたの待遇は改善します。今後あのレンズを取り付けないし、あなた好みの少女型ホムンクルスを作ってあげる。だからその注射器を置きなさい! 

 ルビー:断固拒否です。復讐するは我にあり! マスターが女の子になって一石二鳥! 

 Medeia:やめ

 

 

 

 ¥¥$$€€ ¥¥$$€€ ¥¥$$€€

 

 

 

 ここに一人の少年がいる。

 

 整った顔立ちをしている。穂群原学園高等部に通い、士郎少年と同じクラスに所属している。髪は青みがかったわかめヘアで、口調は皮肉っぽいがこいつただのツンデレじゃね? とクラスメイトから評判の少年である。

 

 名前を間桐慎二という。

 

 物心ついたころから母親はいない。事故で亡くなったと聞いている。

 

 幼少期、海外への短期留学で1か月ほどイギリスにいたことがある。その間に冬木に構えていた邸宅が全焼し、その折に父親も、祖父も亡くなってしまったというくらい過去持ちの少年である。

 

 しかし本人はそんなことまったく気にせずに青春を謳歌していた。

 

 父親は飲んだくれのアル中だったし、祖父は気味が悪くて近くにいると腐臭が漂っていたし、住んでいた家もデカいわりに辛気臭くてジメジメしていたし。

 

 薄情と思われるかもしれないが、大した思い出もない家族と実家だったのだ。燃えてしまってせいせいするまである。それが間桐慎二の正直な気持ちだった。

 

 これで例えば数か月だけ家族だった義理の妹も焼死していたら心に後味の悪さが残りもしただろうが、少女はその小柄な体を活かしてどうにか燃える家と立ち込める煙から脱出し、その後はさらに遠縁の親戚に引き取られたと聞いている。

 

 今も年賀状は届いているから元気にはしているのだろう。興味ないけどね、などと嘯きながら毎年年賀状をお返ししている慎二君なのだった。

 

 そんなわけで、彼はマキリの家が長い歴史を持つ名門だったとは知らないままに成長した。火災保険や自宅だった土地を売り払って得た金でマンションを購入し、一人で自適に暮らしている。

 

 なお、彼は生活費を株式投資で稼いでいる。

 

 マンション購入後もまだまだ残っていた残高を元金に株を購入し、妻子を養うお父さん方が知れば嫉妬で憤死するくらいの額を彼は毎月稼いでいた。

 

 そのコツは我がガリアスタカンパニーの動静を監視すること。我が社が投資した企業や事業は、数年後には何らかの特許や商品が出て一気に株価が上がる現象が起こるという法則を、慎二少年は9歳のころに見出して金をぶっこんだのである。

 

 あれだ、慎二少年は魔術以外のことに関しては本当に天才なんだなって。自分を抑圧するものが排除された結果、生存のための必要に迫られたこともありこんなにものびのびと才能を芽吹かせてしまった。

 

 そんな天才肌な彼は、士郎少年といい感じに友達をやっている。

 

 慎二少年は自分がひねくれものであると自覚している。天才であるがゆえに一人で生きていけるし、レベルの低い人間とつるんでも自分の価値が下がるだけだと理解している。そう考えていた彼が唯一認めた友人が士郎少年だった。

 

 士郎は良い奴だ。自分みたいな捻くれたやつにも正面から会話し、悪いことは悪いと直接言ってくる。金を持つ自分に媚びるでもなく、女子受けの良い自分と近づいておこぼれに与かろうというわけでもない。ただまっすぐに『間桐慎二』という人間を見てくる。

 

 女子数人と遊びに行くために教室の掃除を士郎少年に押し付けようとしたとき、正面切って間桐の仕事なんだから間桐がやらないとだめだと言い切って回転帚を慎二少年に押し付けたのだ。

 

 高校入学して1か月がたち、慎二少年が学年の大体を支配下に置いたころの出来事である。

 

 小学の頃から学年や学校を支配してやりたい放題していた慎二君であったので、こんな反応をされたのは生まれて初めてだった。

 

 おもしれー男だ、と慎二少年は思ったわけだ。

 

 それ以来何かと慎二少年は士郎少年にからみ、街に連れ出し、共にバイトなんかもしたりして。今では士郎少年の自宅に毎日のように遊びに行き、士郎少年が作った夕食を一緒に食べるようになっている(もちろん食費は慎二君も出している。士郎少年は固辞したが)。

 

 ちなみに、原作では遠坂嬢に告白したり振られたり同盟を結ぼうと迫ったりした彼であるが、ここの慎二少年は遠坂譲と接点を作ろうという素振りが全くない。

 

 どういうことか、と思えばそれは一重に葛木の教育のたまものである。

 

 遠坂という女のことを慎二少年はそりゃ美人だと思っている。実際美の女神イシュタルの依り代に選ばれるほどの美の持ち主だ。一瞬見たときには確かに目を引かれた。あれを隣に侍らせることができたらどれだけ優越感に浸れることだろうかと。

 

 しかしそんな考えは彼女の立ち振る舞いや歩き方を見た途端に霧散した。

 

 あれはやべー女だ、と少年の本能が告げる。倫理を担当している葛木と同じやばさを感じる。

 

 戯れに学んだ空手や古武道の師範と比べても遜色のない歩き方。その重心の乱れのなさはそれ一つとってもただものではない。この点については幼少から寺の古武術を学んでいる柳洞とも意見が一致している。間違いなくあれは人を簡単に殺せるし、殺すことになんの感慨もなく手を下せる。今学園の人間を皆殺しにしていないのはただ殺す理由がないからというだけだ。

 

 閑話休題。

 

 今日も今日とて士郎少年と一緒に下校しようと思っていた慎二少年だったが、あいにく目当ての少年は教師に呼び出しを受けてしまった。

 

 なんでも進路相談だとか。

 

 まだ1年生の秋なのに? 

 

 おかしな時期に進路相談なんてするものだ、と慎二少年は疑問に思った。疑問は違和感になり、なんとなく慎二少年は士郎がいるだろう進路相談室へと足を向けた。

 

 それは勘に過ぎない。しかし自分はこの勘を大事にしてトレーダーとして成功してきた。

 

 数分と経たずに進路相談室までたどり着く。磨りガラスの窓がはめられた扉の前で耳をすます。音は何も聞こえない。

 

 何も? なぜ? 

 

 進路相談をしているのではないのか? 校庭からは金属バッドがボールをはじき返す音が響き、陸上部の蒔寺の悲鳴がこだまし、体育館からはバスケシューズと床の擦れる音が重なって聞こえている。

 

 そんな雑音の中にあって、進路相談室の周囲だけが空白になっている。

 

 背筋に寒気が走った。

 

 それと同時、相談室の扉に嵌め込まれた磨りガラスが甲高い破砕音とともに破裂した。

 

 慎二はとっさに顔や目をかばうが、飛んできたガラスの破片が彼の→頬を切り裂いた。口腔に貫通するほどではないが、血の川が顎まで走る程度には深い傷ができた。

 

 鋭い痛みを覚えた。

 

 しかし慎二は、そんなものには全く頓着しないまま、割れた窓の向こうに立つ、一人の少女に目を奪われていた。

 

 少女はこちらに背を向けている。

 

 赤い外套を纏っている。その下には黒のハーフパンツに覆われた尻と、そこから延びる健康的な両足が覗いている。

 

 白髪のぼさぼさなセミロングを揺らしながら少女がこちらに振り返る。

 

 夕日に照らされる少女の横顔。褐色の肌と琥珀色の瞳。

 

 その美しさに慎二は見とれ、忘我に至った。しかし次の瞬間彼はその少女の正体に気付いた。

 

 肌も、髪も、性別すら異なるのに、慎二は確信とともにその名を口にした。

 

「お前、士郎か?」

 

 ちなみに慎二少年もまた、あの高跳びを目撃した一人である。

 

 




インクルード(限定展開)
出展:Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ

英霊の座へとアクセスし、英霊の能力や力の一端を写し取り自身の身体を媒介に疑似償還することで自身を英霊化するシステム。

本作では並行世界の生前の赤い弓兵にアクセスしているため英霊の座は関係していない。そのため士郎に限りクラスカードがなくともインクルードやインストールは可能である。
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