石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる 作:Una
聖杯の成就。
それが彼らディオランド家の悲願であり、アメリカ政府からのオーダーである。
第三次聖杯戦争に参加した彼の祖先は、当時の記録を人形に保存し、回収することに成功した。
今回の聖杯戦争で、ディオランド家はアメリカ政府のみならず各著名人からも多くの支援を受けている。アメリカ軍の一部指揮権をも与えられており、スノーフィールド全域の監視網も合法的に手中に収めている。
しかも、ファルデウス・ディオランドの祖先と同じく第三次聖杯戦争に立ち会うことになったある魔術師の協力も得られたのだ。彼が記録していた大聖杯についての情報も提供され、スノーフィールドにおける聖杯戦争の術式は以前組んでいたものよりさらに真に迫ったものとなっている。
とはいえもちろんあの男、ダーニック・プレストーンを信用することなどできない。
『八枚舌のダーニック』。
その弁舌と政治力で魔術協会にて『色位』の階位に至った、90年を超えて生きる魔術師。
しかし数十年前、その政治的手腕を忌み嫌っていた家系から『プレストーンの血筋は今後劣化していく』と噂を立てられ、以来彼の家は社会的地位を失っていく。
今回魔術協会を裏切って聖杯戦争に協力を申し出てきたのも、彼の協会での地位向上が見込めなくなったからだろうが、常に柔和で人の心に入り込むことを得意とするあの男の、その心のうちでなにを考えているのかわかったものではない。もう一人の老害、フランチェスカ・プレラーティと並んでうさん臭い。まず間違いなく、聖杯成就目前となって出し抜こうとするだろう。
ため息がおのずと漏れた。
そんな老害たちの助力を得ても、結局アメリカ大陸の霊脈の乏しさは如何ともしがたく、結局偽りのサーヴァントを召喚することで、それらを呼び水とし新たな7騎のサーヴァントを召喚するという形式をとることになった。
規模が拡大し、参加する人間が増えればそれだけイレギュラーの生じるリスクは上がる。それがあの老害どもや、英霊と呼ばれる歴史に名を残すトラブルメーカーであるならなおさらだ。
ともかく、この度の聖杯戦争では彼らの力を利用してでも成就させる。
真偽合わせて『14騎』のサーヴァントで聖杯戦争を完遂し、聖杯を確かなものとして降臨させる。
マスターとなる魔術師の人員も集め、触媒も用意している。限りなく不確定要素は排除して、粛々と聖杯戦争を進めていく。
すべては順調にいく……はずだった。
事態は初っ端から思わぬ方向へと転がっていく。
召喚されたサーヴァントはこの土地の魔術師ティーネ・チェルク嬢がマスターとなったギルガメッシュ以外不明。
獣のホムンクルスを魔力供給源としようとした魔術師はわけのわからないものを召喚し。しかもそのサーヴァントはギルガメッシュと対等に戦い荒野にクレーターを生み出すほどの超戦力。
アーサー王を召喚させようと触媒を渡した魔術師は死体で発見された。召喚場所として選ばれたオペラ座は明らかに宝具によるものと思しき破壊の跡でめちゃくちゃにされていた。
監視カメラには、街中でサーヴァント召喚を行った学生が二人。渡航歴を調べ、どちらもロンドンからの飛行機でアメリカに渡ってきたことが分かっている。おそらくは魔術協会から派遣された魔術師だろう。
こちらの陣営で偽りのサーヴァントを予定通りに召喚できたのは、警察署長のオーランド・リーヴただ一人という体たらく。
警察署では聖杯戦争そっちのけで死徒と代行者がハリウッドさながらなガチンコバトルをやらかすし。
「これも私が隠蔽しないといけないんでしょうかね?」
これ聖杯戦争関係ないじゃん、という意味を込めて、ファルデウスは後ろに侍る秘書に声をかけた。彼女はその怜悧な美貌を全く変えずに口を開く。
「お疲れのようですが、お休みになられますか?」
「いえ。やらなければならないことはまだまだありますし」
雑談にも乗ってもらえなくて少しへこむがすぐに気を取り直す。
それに、下手にさぼってしまえば自分が召喚したアサシンに首を断たれるかもしれないし。
キリキリと痛む胃に治癒魔術をかけながら、ファルデウスは着信を知らせる携帯電話に手を伸ばした。
液晶には『繰丘』と表示されている。
繰丘夫婦。偽りのサーヴァントを召喚させるために雇った魔術師夫婦だ。しかしロンドンからやってきた学生二人が夫婦に先んじて召喚を終えてしまったため、用意していた触媒をそのまま使用して真サーヴァントを召喚するよう指示していた。
召喚についての報告だろう。失敗か、成功か、成功ならばなんのサーヴァントが召喚されたか。始皇帝を召喚するなどと息巻いていたが果たして。
「もしもし、操丘さんですか」
『ノーゥ! ワタシはそんな名前ではありまセーン!』
底抜けに明るい女性の声が、受話器越しにファルデウスの右耳の鼓膜を破壊した。
彼は電話を左耳に当て直し、右鼓膜を治癒魔術で治しながら問う。
「何者ですか? なぜ操丘さんの携帯をもっているんです?」
『モチロンあの親気取りの腐れ魔術師どもから奪ってやったからデース!』
なんだこの片言の英語は。ふざけているんだろうか。
『ご心配なく。あの夫婦は殺してはイマセン。話し合いのためにルチャったら秒で気絶してしまっただけデース』
「るちゃ、なんですって?」
『そして何者か、と聞かれれば。ここは儀式の様式に従い、ライダーと名乗っておきまショウ!』
「──!」
まさか、あのキャスター以外に電話をかけるサーヴァントがいようとは!
「そのライダーが私になにか御用ですか?」
『別に。ただ、召喚に成功したら繰丘はあなたに連絡をする契約だったのでショウ? その契約に従ったまで。ただ従うのはここまで。とっても可愛らしいマスターに出逢っちゃったもの!』
従ったまで。繰丘が令呪を奪われたと思ったが、繰丘との契約を律儀に気にするとは、あの夫婦はサーヴァントの召喚に成功し反逆された、ということか?
しかしそれだと『可愛らしいマスター』とは誰のことだ?
『そのマスターの願いを叶えるために、あなたの首も頂戴しちゃうわ! それまでしっかりその首をキレイに洗っておいてくだサーイ!』
ぶつり、と通話が一方的に切れた。
「あの、大丈夫ですか?」
「……問題ありません。聖杯戦争の目的とやるべきことは何も変わっていませんからね」
そう、真の聖杯戦争を開催できれば目的は達成されるのだ。
なんの労力も費やすことなく、真ライダーが召喚されたことが知れたのだ。今夜の収穫はそれでよしとしておこう。
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ダーニック・プレストーンは考える。
第三魔法による不老不死の一般化。人類を、あるいはアメリカを死から解放することが、政府と契約したファルデウスの目的であるそうだ。
そんなことのために、聖杯戦争の秘匿のための工作を寝る間も惜しんで電話したり走り回ったり頭を下げたり。政府の高官に怒鳴られ、実行部隊の隊長から上がる報告と不満の声を傾聴し、心と胃壁をすり減らしながら今日も治癒魔術で胃を守る日々。
「ばかじゃなかろうか、と私は思うのだよ」
なんだってあのファルデウスという若造はしなくても良い苦労を自ら背負うのか。
それも若さゆえの過ちか、などとダーニック・プレストーン御年97歳はしみじみと思う。自分にもそんな時期あったなって。
なんでも自分でやらないといけないと勘違いして、目の前のトラブルばかりに目を向けて、こうしてもっとも身近な問題から目を逸らしてしまう。
机の上に置かれた羅針盤を眺める。
それは、聖杯戦争の術式を写し取った魔道具であり、その効果は端的に言えば『現在召喚・現界しているサーヴァントのクラスがわかる』というもの。
「見たまえ諸君。ファルデウス君は、無事自分たちのサーヴァントの召喚に成功したようだ」
見れば、既に7つのクラスが2体ずつ召喚されている。今回は第三次であったようなエクストラクラスは召喚されていないようだ。
加えて事前の調査とファルデウスや政府の人間たちの動きから、『真』のサーヴァントを召喚することになっている魔術師たちについての情報も得ている。
それが誰か、は重要ではない。結局彼らが召喚しているサーヴァントを屠らないと意味がないからだ。
誰が召喚されるか、も今のところはさしたる問題ではない。多くのサーヴァントは生前の逸話が元となり、人類の観念によって美化されたものが召喚されるからだ。真名を事前に知っていたところで、それがそのサーヴァントの弱点に直結することや振るわれる宝具の能力について明らかになるというのは非常に稀である。
冬木で行われた第四次聖杯戦争ではアニメキャラが召喚されていたし。
閑話休題。
今、この状況においてもっとも重要な情報は、『真』側に属しているサーヴァントが、すべてアメリカ政府の陣営に属する魔術師によって召喚されたということである。
「ついに最後のサーヴァントが召喚された。であるならば、事前に聖杯戦争の術式に仕込んでおいた予備システムを起動できる」
予備システム。
それは、7騎のサーヴァントが一つの陣営に召喚された場合に起動が許される、いわば『聖杯大戦』のトリガーだ。
聖杯は己を所有するに相応しい魔術師を求める。であるがゆえに、自身を求める戦いが八百長に終わるようなことを良しとしない。
その意志を象徴したシステム。新たに7騎のサーヴァントを召喚し、二つに分かれての聖杯戦争を引き起こさせる闘争の引き金。
「それでははじめよう、魔術協会から選りすぐられた魔術師たちよ」
ダーニックは広い講堂の真ん中で、周りに立つ6人の魔術師たちにむかってまるでオペラのように宣言した。
ダーニックは魔術協会を裏切っていたわけではない。聖杯戦争の予兆を魔術協会のだれよりも早く察知し、その首謀者を突き止め、自身が持つ聖杯戦争の術式に関する情報と複数の触媒を手土産に彼はアメリカ政府の高官にコンタクトを取り、今回の聖杯戦争の主催側に潜り込むことができたのだった。
もちろん、魔術協会側の旗色が悪くなればそのままアメリカに腰を据えて新たな魔術秩序を構築していくこともやぶさかではなかったが。
「触媒を祭壇に配置せよ」
ダーニックを含めた7人の魔術師たちは、各々が用意した遺物を目の前に置かれた祭壇へと並べる。それは、魔術協会は降霊科のロードであるユリフィス家や、その下部学科にあたる召喚科の学部長から借り受けたもの、神代から受け継がれてきたものなど、知るものが見れば卒倒するような品々である。
魔術師たちから魔力があふれる。全員が目を閉じて、同時に口を開き、
「──告げる(以下略)守り手よ……!」
こうして、スノーフィールドの地に、新たに7騎のサーヴァントが召喚された。
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一方。
スノーフィールドの空港に、ある少女が降り立った。
まず顔がいい。すれ違う人間は男のみならず女も思わず視線を向けてしまうほどだ。
髪が長い。その金色の髪を三つ編みにまとめているが、それでもその輝く髪は腰まで優に届いている。
次いで胸がデカい。ノースリーブのシャツにネクタイなんぞが暖簾のように垂れ下がっているものだから、その大きさがことさらに強調されている。
彼女はスノーフィールドの地に降り立ち、その街に点在する、20を超えるサーヴァントの気配に気づいて開口一番こう言った。
「や、やることが多い……!」
メタ的な解説
①
ダーニックはFate/apocryphaでは協会を裏切っていましたがそれは聖杯に捧げるサーヴァントを別に召喚してもらうためであり、今回はアメリカ側が先に召喚しているので裏切る必要はなくむしろ触媒を用意させるために協会側として聖杯戦争に参加しています。
もちろん完成させた聖杯には自分の家系の繁栄を願うつもり。
②
この聖杯はダーニックの情報も込みで作られているため、原作Fakeよりアインツベルンの聖杯に迫るデキになっています。そのためFakeで連発した規格外、例外、エクストラクラスなサーヴァントは召喚されません。