石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる   作:Una

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第5話 証明

『悪の機械軍団オリュンポスの総統・機械魔神ゼウスからの求婚をなんとか切り抜けたメディアちゃん! でも安心はできないの。魔神ゼウスの奥さんの究極機械空母ヘラが嫉妬して、メディアちゃんを貶めようとイケメン王子様イアソン君を差し向けてきたの! 

 初めはお洒落なカフェに甘い言葉で誘ってくるイアソン君に警戒していたけど、実はイアソン君はご両親がいなくて、悪い叔父さんに取られたお家を取り返すために魔法の力が必要で……だめよメディアちゃん! そんな軽薄な男のギャップ演出に騙されないで! 

 メディアちゃんの好きなタイプは山育ちの朴訥として嘘のない、職業は堅実で社会的意義のある、例えば葛霧先生みたいな人♡なんだから!』

 

 

 私はテレビの電波をぼんやりと受信しながら内容を脳内で再構成している。

 

 時は1993年。

 

 メディア様を大衆に迎合した魔法少女アニメにしてみよう、そんなやり方で人気なんか出るわけないことを証明しようと、そんな風に私は思っていたわけだけど。

 

 

『学園では静かに過ごしたいのに、ある日葛霧先生にミスコンに参加するよう勧められちゃって。イアソン君にも迫られて女の子たちに嫉妬されちゃうし、私の学園生活一体どうなっちゃうの~⁉ 婚活魔法少女メディアちゃん! 次回73話、イアソン死す。愛してるって言わなきゃ殺す♡(決め台詞)』

 

 

 私はテレビの電波チャンネルをカットして、深いため息を漏らした。

 

 セーラームーンをはじめとした、この時代までに作られていた魔法少女もののアニメや漫画をホムンクルスたちが分析し。人気となる要素を抽出して、ストーリーやキャラクター、演出やBGMなんかも人気作を踏襲するように組み立てて。時代背景からこの時代の女の子が求めるヒロイン像やヒーロー像を研究して。

 

 そんな下地作りをここ数年で習得した分割思考と高速思考でもって1か月ほどで終わらせ、あっと言う間に企画書が完成してアニメ制作会社にアポ取りしたのちに企画プレゼンをしたわけだ。

 

 ちなみにここまでの工程で私は全く関与していない。してないというか、ホムンクルスたちに参加しなくていいと言われたのだ。「邪魔です」などと言われて。

 

 仮にもプロ作家に対してなんたる言い草だよ。

 

 そんなわけで私は金だけ出す財布係に徹することになった。

 

 アニメ会社にも予算は全額こちら持ちだという旨の契約をした。アニメーターの給料はじゃんじゃん出すから好きなだけ雇っていいと話してからはとんとん拍子で、金を与えられたアニメーターとはこんなに生き生きと仕事をこなすものなのかという新鮮な驚きに浸っているうちに、企画持ち込みからほんの2か月ほどで放映開始となったのだ。

 

 もちろんガリアスタ家が日本のテレビ業界を牛耳っているからこそのスピード感ではある。そうでもなければこんな急な企画が夕方6時枠で放送なんてできるわけがない。

 

 で、ホムンクルスたちがこれだけ力を入れて、金も散々出してやって、そのうえで人気が出なければ私の考えは間違っていないと胸を張って言えたはずだったのだけれど。

 

 出たわ。人気。

 

 どのくらいの人気かと言うと、平均視聴率が10%以上をキープしていたり、変身アイテム等のキャラクター商品の売り上げが1993年だけで150億円。英語とフランス語の字幕付きで各国放映されていたりと、その影響は社会現象レベルと言っても過言ではなかった。

 

 なにより衝撃なのは、魔術の総本山たる時計塔にて、女子生徒たちが婚活魔法少女メディアちゃん! に出てくる魔法を魔術で再現しようとしていることだ。

 

 どんだけ影響力あるんだよ。

 

 その報告を聞いて愕然とする私に対する統括個体の「ほれ見たことか」みたいなどや顔がいまだに忘れられない。

 

 まさか婚活魔法少女なんてジャンルで人気を博すなんて思うわけないじゃん。意味わからんし。なんで小学生のメディア様つうかメディア・リリィが小学校で婚活してんだよ。本命の相手が教師だし。

 

 本命の教師は元暗殺者で、メディア・リリィが魔法少女になって戦っていることを知る数少ない一人で。メディア様がピンチに陥ると変装してどこからともなく現れて、昔捨てた暗殺拳をメディアちゃんのために再び振るって、敵の機械軍団やその幹部を華麗に粉砕するのだ。

 

 どこかのタキシード着て女子中学生と付き合う男子大学生みたいな設定だ。これもマーケティングの一環から生まれた設計なのだろうか。女の子は年上のお兄さんに憧れる的な。

 

 いや、まあ? メディア様の知名度上昇に貢献したわけだけど? それって求めていた知名度じゃないというか? 本来のメディア様の魅力が伝わるものじゃないというか? は? ちげーし負け惜しみじゃねーし。

 

 それに、私が完全に負けたというわけではない。

 

 あの世界的アニメ監督である宮澤速雄がメディア様の映画を製作すると発表したのだ。

 

 このタイミングに、発表されていた『メデイアの真の顔に迫る』という製作コンセプト。これは間違いなく私が書いている『メディざま』を意識してのものに違いない。

 

 私はきょろきょろと周囲を確認する。授業が終わった教室には誰もいない。足音も聞こえないことを確認してから、私はカバンからある雑誌を取り出し机の上で広げた。目次で目当ての記事のページを確認してから、ぱらぱらとそこまで読み飛ばす。

 

 今朝ここロンドンでも発売された日本のアニメ雑誌だ。

 

 実はこの号には、宮澤速雄の新作映画についてのインタビュー記事が載せられているのだ。

 

 

 

 ──速雄:メディアという存在は弟殺しや息子殺しといった恐ろしい面だけが取りざたされがちな女性ですが、それらは後世の脚色である可能性があるわけです。ギリシャの悲劇詩人として有名なエウリピデスがメディアを題材として扱っていますが、彼の戯曲の中ですら実は息子を自らの手で殺害したとは明言されていないんですね。解釈の余地があるといいますか。

 

 ──記者:そうなのですか? 確かに、夫に死亡確認させずに死体を持ち去ったわけですから言われてみると……

 

 ──速雄:まあ時代背景を考えれば、名誉を回復させるための復讐は正当なものと扱われるどころか復讐しなければ笑いものにされるような価値観の時代ですから、実際に殺していても批判には当たらないと言いますか。あくまで現代の価値観では子殺しが恐ろしいと捉えられるだけで。あの時代では英雄として当然果たすべき復讐と、母として抱く子供への愛の間の葛藤こそがテーマなわけです。そういったところを読み飛ばして『愛や復讐のためなら何でもする恐ろしい女』と扱われがちな現代の風評に違和感があったんです。

 

 

 

 そうそう。さすが速雄はわかってるね。そこは私の『メディざま』でも触れられていたところだ。

 

『メディざま』では最後のどんでん返しに、不誠実な夫の目の前で焼き殺すフリをして、持ち去った息子が復活するという展開を選んだのだ。英雄としての復讐と息子への愛の両方をとった、ビターエンドからのハッピーエンドというどんでん返しに読者もさぞ驚いたことだろう。

 

 

 

 ──記者:そもそもイアソンは離婚すらせずに社会的地位のために別の女と結婚式を挙げようとしたわけですから、そんな扱い受けてキレない女なんて現代でもいないと思います(笑)

 

 ──速雄:結婚を決意させたメディアの恋心もエロース、英語だとキューピッドですね、彼の矢の力によるものなわけですから。メディアからすると本当にやるせない状況だったでしょう。

 

 

 

 そうなんだよ。メディア様の弟殺しもそういう経緯で植え付けられた恋心が原因なんだから同情の余地が十分にあるんだよ。

 

 やはり速雄は私の『メディざま』を読んだのだろう。本来ならパクリと怒るべきところかもしれないけど、まあ速雄に触れてもらえるなら構わないかな。クレジットに原案として名前を載せてくれればそれでいいよ。

 

 それにしても速雄はいつ私のところに連絡をくれるのだろうか。待ってるのに。

 

 

 

 ──速雄:あと、あの有名な、連れてきていた幼い弟を殺して海にばらまいたという有名なシーンもですね。調べますと諸説ありまして、弟はすでに成人していたとか、連れてきていたのではなくアルゴー船を追跡していたアイエテス側の使者だとか。極めつけは彼の死がイアソンの卑怯な不意打ちによるものだという文献もありまして。

 

 ──記者:なるほど、そういった情報を念頭にメディアの神話を読むとまた別の読み方ができますね。まるでメディアがイアソンの罪を被ったかのような。

 

 

 

 え、なにそれ。そんな説あるの? 

 

 

 

 ──記者:そのような経緯で王女メディアを題材にした映画を製作されるとのことですが、一部で名前が知られているこの『メディざま』という小説は関係ありますか(笑)。

 ──速雄:なんですか、それ? 

 ──一同:(笑)

 

 

 

(笑)、じゃねんだよ張り倒すぞ。

 

 

 

 ──記者:アラブの石油王がプッシュしている小説ということで有名なんですよ。昨今のギリシャ神話ブームより数年早く出版されたということで一部では預言書扱いされているんですが。

 ──速雄:へー。

 ──記者:へーて(笑)

 

 

 

「『猛れ』」

 

 私は電撃でアニメ雑誌を焼き尽くした。

 

 やばい、自慢しようと思って今読んでいた記事の視覚情報を電磁ネットワークに流しちゃってたんだけど。ホムンクルスたちの笑い声がめっちゃ響いてくるんだけど。

 

『頭わる(笑)』

『これは恥ずかしい(笑)』

『弊たちが仕える主の姿か、これが? (笑)』

『天下の速雄に認知されてるわけないだろ常識で考えて(笑)』

 

 1番から7番までの接続をカット。カットカットカット。

 

 ネットワークから離脱しても顔の熱が引かない。やばい恥ずかしすぎて顔から火が出そうだ。

 

 メディア様を題材にした作品を速雄が作ると聞いて、絶対私の作品がアニメ化される話だと思ってたのに。

 

『まるで応募作品の入賞を期待しながら結果発表の告知を開く一般人のようですね』

 

 ネットワーク越しにそう話しかけてきたのは、0番のチャンネルが割り振られている統括個体だ。

 

 さすがにホムンクルスたちから完全にスタンドアロンになるのはリスクが高いので、常に統括個体とは接続を維持することにしている。どれだけ辛辣でも。

 

『そういう話を原作者の承諾なしに進めるはずないでしょう常識で判断してください』

 

 ぐぅの音も出なかった。

 

「ちくしょう……ちくしょう……!」

 

 私が教室で打ちひしがれていると、今度は別の人物が近づいてきた。

 

「どうしたんだよお前、なんか落ち込んでるな」

 

 それは黒い髪をおかっぱのような形に揃えた、童顔の少年だ。

 

 名前はウェイバー・ベルベット。最近仲良くなった時計塔の劣等生である。

 

 実は今年1993年になってから、私は時計塔に入学したのだ。

 

 ガリアスタ家が伝える魔術は、元々中東の呪術を根幹とした魔術であるため、時計塔が教える西洋魔術とは本来相性が悪い。それに私の場合電磁ネットワークで繋がったホムンクルスたちが見聞きした情報を常に取得できるため、わざわざアラブにある自分の工房から出て学び舎に通う意味なんてなかったりする。

 

 それでもあえて私がここ時計塔に通うことにしたのは、一つは魔術界隈との顔つなぎや人脈作りが必要だったため。これはガリアスタ家当主である私が自分で行わないと意味がない。

 

 もう一つは第四次聖杯戦争の参加者について情報を集めるためだ。

 

 時計塔に潜入させているホムンクルスは天体科にかかりっぱなしだ。そもそも天体科を含む多くの学科は、ロードが所有するロンドン近郊の領土に建設された学術都市に存在する。これらの都市には学生が暮らす学生寮、研鑽を積む学術棟、そして商業区が備わっており、一度その学科に所属すれば転科でもしない限り卒業まで外に出る必要がないように作られている。

 

 加えて天体科は排他的な貴族主義派に属する学科だ。民主主義派であれば他の学科とも交流があるが、貴族主義派ともなれば他学科の人間が侵入でもしようものなら紛争になる可能性も出てくる。

 

 つまり潜入させたホムンクルスは天体科およびマリスビリーの動向しか把握できないのだ。そのうえ潜入させた彼女と全く同じ顔の別個体を潜入させるのもリスクが高い。鉢合わせしたり共通の知り合いができたりしたときに言い訳が効かない。他に信頼できる部下もいないため、私が直接出向くことにしたのだった。

 

 私はまず全体基礎科で魔術の常識を学んでから、降霊科を選択した。鉱石科も捨てがたかったが、聖杯戦争への参加を目指している身としてはやはり降霊術についてある程度修めておかねばならないと思い立ったのである。

 

 それにこの科であればロード・エルメロイとウェイバー君について観察でき、その動向が原作どおりかが判断できるというメリットもある。

 

 そんな観察対象であるウェイバー君がわざわざ話しかけてきた。その腕には書類の束が抱かれている。

 

「やあウェイバー君。落ち込んでるって? それはそうさ。私はたった今人生で大きな敗北を味わったところなんだ」

「何があったんだよ。それになんだよその燃えカス。なんだか焦げ臭いぞ」

「気にしないでくれ。これは私が世の中の理不尽に屈した証なんだ」

 

 私の言葉に、ウェイバー君は神妙な顔をした。

 

「なんだよ、あきらめるのか?」

「え?」

「ガリアスタ、お前だって中東呪術の家系からこの時計塔に飛び込んできたんだろ。魔術協会の旧態依然とした体制を打破しない限り、僕たちみたいな新参の家系はいつまでたっても正当な評価は得られない」

 

 そう言って、ウェイバー君は抱いていた書類を僕の目の前にどすんと置いた。

 

「なにこれ」

「これから書く論文に使う資料だよ。この3年間僕はこの論文の構想に費やしてきた。お前が紹介してくれた論文も使えそうなものが多くて助かったよ。感謝してる」

「お、おう」

 

 実はウェイバー君とはよく話す仲なのだ。週に2回は一緒にランチをするし、休日にはたまにバーに行ったりもする。

 

 なぜそんな親密になれたのか。それは時計塔の現状に不満を抱く同志──そんな認識をウェイバー君から持たれているからだ。

 

 私は単に協会の生徒たちが婚活魔法少女メディアちゃんの魔法を再現しようと腐心している様子が自分の敗北感を刺激してきてやだなって話をしただけなのに。

 

 ウェイバー君は時計塔の現状についてもっと深い意味での不満があるらしく、その点で共感を得られたと勘違いした彼がこうして話しかけてくるようになったのだ。

 

 監視するうえで都合がいいから、わざわざ誤解を解こうとは今のところ思っていない。適当に話を合わせていれば満足してくれるし、話自体は面白いし。

 

「見てろよガリアスタ。僕がこの論文を完成させた暁には、この血統主義な時計塔の現状を変えてやる。やつらが自分たちの優秀さとやらの根拠にしている血筋や歴史なんて正面から否定してやるんだ。そうすれば僕たちの才能も正当に評価されるようになる。僕らの才能を証明してやるんだ」

「ああ、そうだねそれは講師が悪いね。なにか困ったことがあったらいつでも相談してくれよ。私には君ほどの才覚はないけど、実家の財布から金だけは出せるから」

「金だけなんて言うなよ。お前の発想には何度も感心させられたんだ」

 

 それに僕はお前を財布だなんて思ったことはない。そう言いながら、ウェイバー君は私の隣に座って何やらガリガリと紙に書き始めた。

 

 え、なんで私の隣でやるのそれ。

 

 

 

 

 

 

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