石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる 作:Una
無事に(無事に?)メディア様とサーヴァント契約を結ぶことに成功し、私たちが初めに着手したことは拠点とした円蔵山柳洞寺の陣地作成だった。
聖杯戦争におけるキャスターが持つクラススキル『陣地作成』。自分に有利な陣地を作り上げるこのスキルは、Aランクともなれば魔術師の工房のレベルを超えて神殿を構築することも可能になる。
このスキルを見据えて、私は神聖な領域にして霊的存在に対する結界を有する円蔵山を陣地にしようと4年前から考えていた。
結界に必要な素材を揃えて、霊脈を感知する魔術を習得させた魔術師を派遣して日本各地の土地を購入・開発して霊脈を弄り。
海底資源採掘のノウハウを日本企業に一部売却する代わりに、大陸と日本列島を繋ぐ海底の霊脈を細工させて、九州に流れ込む霊脈を冬木市に集中するように工作した。
とんでもない金がかかったのではないかと思われるかもしれないが、バブル崩壊後であった日本の土地は軒並み地価が暴落していたため想像していた額の1割以下で済んだのだ。
交渉相手の多くは土地を二束三文であっても売れなければ首を吊るしかないというところまで切羽詰まった社長やその土地を担保に金を貸していた銀行ばかりだった。実に足元を見やすかったとは日本に派遣していた3番個体の言葉である。
そんな派手な買収をやっていれば遠坂や間桐に気づかれるのではと最初思われた。が、土地を購入させるフロント企業は毎回変えて、かつ土地の開発も最小限に抑えてたので気づかれずに済んだ。霊脈の流れが変わるように呪物を埋めておくとか風水的に地形を一部だけ崩したり。日本全土を常に監視するなんてできるわけもない彼らには気づきようがない、はずである。
ともかく3番個体の尽力で、元より冬木において最高の霊地であった円蔵山はたった4年で時計塔のロードが抱える領地と何ら遜色のない質の霊地に育ったのだ。
そんな潤沢な霊脈を抱える円蔵山の贅沢な神殿化がひと段落したところで、私はメディア様に呼び出された。
用があるならネットワークで話しかければいいのに。そんなことを考えながら──もちろんそんな考えまでいちいちネットワーク上に流したりしない──私は寺の居間からメディア様のいる玉座に向かった。
「失礼します」
柳洞寺の庭に建設(建設!)された小規模な神殿。ガリアスタ家の財力をもってかき集めた古代ギリシャ由来の石材と、メディア様の陣地作成スキルと道具作成スキルを用いて建てられたそれはイメージとしてはパルテノン神殿に近い。ただ込められた神秘が桁違いにヤバい。柱の一つ一つに道具作成スキルを用いて彫刻や金細工が施されたそれらによって魔術的意味が緻密な計算の上に盛りに盛られ、現代ではありえない神秘が神殿全体を渦巻いている。
寺の境内を神殿に、円蔵山をペリポロスに見立てて建てられたそれは、円蔵山全体を聖域とすることに成功している。ペリポロスとは神殿を中心とした聖域を囲う石壁や崖のことだ。
その見立てによって柳洞寺の結界は、元来備えていた霊的存在を拒絶する作用が強化されたのみならず、対城宝具の一撃すら防ぐ城壁級の堅牢さを持つに至っている。
これだけの規模の神殿を、メディア様は石材が運び込まれてからほんの半日で完成させてしまったのだから本当にとんでもない。
その神殿の中心に、メディア様を召喚した祭壇がある。
召喚陣はそのまま残されていて、その上にはメディア様のために用意した玉座が置かれてあり、入ってきた私を見下ろすようにメディア様は座っていた。
「よく来たわね」
「そりゃ来ますよ、すぐそこですし」
サーヴァントは自分が召喚された場所の霊地との相性が最もよくなる。メディア様の場合は当然この増設された円蔵山の霊脈であり、その魔法陣も維持されたままだ。この玉座に座するだけでメディア様は霊脈から無尽蔵にマナを吸い上げ、そこから接続された神殿の結界を強化していく。今の時点ですら城壁級であるのに、このままいけば対界宝具すら耐える可能性も出てくる。
「それでなにか御用ですか? ネットワークで命じていただければすぐ対応いたしますが」
「いえ、これはマスターの口から聞いておかないといけないと思って。この子たちも知らないと言っているし」
この子たち、というのはメディア様の周りに侍るホムンクルスたちのことだ。
玉座の隣からメディア様が持つ杯にワインを注いでいるやつ。逆側から大きな扇でメディア様を扇いでいるやつ。足元に跪いてメディア様の足を按摩しているやつ。ハァハァしているからあれが7番個体だろう。
なんだろう、この時代にはまだない概念だと思うけど、寝取られってことになるんだろうかこれ。
私のホムンクルスが一晩で寝取られたんですけど。いやいいんだけどさ。アルトリア顔のホムンクルスを量産した理由、半分くらいはメディア様に媚を売るためだし。
玉座の斜め前にはテレビが設置されており、今は婚活魔法少女メディアちゃん! のオープニングテーマが流れている。メディアちゃんの声優さんがロリロリした声で素敵な恋のためならあらゆる敵を薙ぎ払えと叫んでいる。
ホムンクルスたちの服装も先日とは一変している。以前はガリアスタから支給している白を基調としたパンツスーツだったが、今はメイド服であったりシスター服であったり和風ウェイトレス衣装だったり。
全てメディア様お手製である。神殿を構築しながら彼女たちを採寸し布を調達して裁縫し作成したのだ。
この女めっちゃ現世満喫してんな。
「何をお聞きになりたいのですか?」
「聖杯に求める願いよ」
メディア様はワインを一口仰ぎ、喉を湿らせてから言葉を並べた。
「遠坂邸を監視させていた使い魔で見ていたのだけれど、先ほどアサシンがやられたわ。相手はもちろん遠坂のサーヴァント。金色の鎧に金色の髪、自分を王と自称し、いくつもの宝具や宝剣を亜空間から惜しげもなく射出してアサシンを圧殺したわ。とても贅沢な散り際だったわよ」
ふう、とメディア様がその形のよい小鼻から息を吐いた。
「陣地の準備をしている間に、ついに聖杯戦争が始まったわけだけれど、残念ながら私たちの間にはこの殺し合いを勝ち抜けるだけの信頼関係がない」
「おっしゃる通りです」
「だから、せめて私たちが戦う理由をお互い開示するべきではないかと思ったの。信頼はできなくても、相手が自分を裏切らないだろう程度の信用は必要だと思って。そのためには戦う動機を知らなければならないでしょう? 先日あなたから渡されたあの圧縮言語で刻まれた情報の中にはあなたの目的については書かれていなかったから」
メディア様は胸に手を当てて、まるで誇るように宣言した。
「私の願いは当然『受肉』よ。素敵な男性と出会い、恋をして、一生を添い遂げるの。このアニメというもの、はじめは馬鹿にしていたけど捨てたものじゃないわね。主人公たち魔法少女の婚活に賭ける思いに思わず涙してしまったわ」
朗々と、アニメのメディアちゃんより一段低い声で語るその願いには切実な、ある種焦りのような感情すら滲んでいた。
つかすげえ感情移入するじゃんアニメキャラに。神代の英雄がそれでいいの? とはもちろん聞けない。
「今から十年以内……受肉すれば十年後に私の肉体は22歳頃になるでしょう、この体が原作通りの年齢ならだけど」
原典であるご本人がアニメを原作とか言うのやめてくれませんか。
「ただそれも聖杯戦争を勝ち抜いたらの話。そのためにはマスターとの信頼関係が不可欠。出会いこそ最悪だったけれど、今からでも私たちは互いを理解しあう努力が必要だと思うの」
「同意します。しかし私には聖杯に縋るような願いはありません」
私の言葉に、メディア様が眉をひそめた。
「ないですって? そんなはずないでしょう。この山を霊地としての格を上げるためにあなたがどれだけの財産を費やしてきたのか、どれだけの時間をこの聖杯戦争にかけているのか、あの圧縮言語でも伝えられたし彼女たちからも聞いてるわ。それだけ本気なのだと理解していたのだけれど、望みはないですって?」
その桃色の唇から発せられる声がさらに低くなる。その中には険すら混ざる。
いえいえ、と私は右手の平を突き出した。
「聖杯に願う望みはないというだけです。望み自体はもちろんあります。私は生き残る。絶対に生き延びてみせる。そのために私は戦うのです。あんなものに叶えてもらおうとは思いません。あえて言うなら、聖杯戦争でアインツベルンが毎回作製し持ち込む小聖杯そのものが欲しいですかね」
小聖杯はあんな大きさでありながら、英霊という人間数万人から数十万人分のエネルギーを持つ魂を七騎分も蓄えることができる最高の魔力タンクなのだ。
魔力は流動するものであり、通常は一か所にとどめておくことはできない。自身のオドを魔術回路を介して魔力に変換しエネルギー源として用いるのが魔術であり、消費しきれなかった魔力はそのままマナとして霧散する。
流動の魔術を扱える魔術師……例えば遠坂のような家の魔術師であれば、自身の血に含まれる魔力を宝石に貯めておくといった手段を取ることはできるが、それにしたって毎日少量ずつこつこつと貯めていかなければならない大変効率の悪い代物なのである。
「ガリアスタの家でも祖父の代までは人間を魔力の結晶に変換する代償魔術の研究が行われていたようですが、父はそれを大変非効率的だと判断しまして全く研究を進めておらず。私もほとんど見切りをつけてました。私には人間をはるかに超える魔力量を生成できるホムンクルスたちがいますし。ただその魔力を予め貯蓄してホムンクルスたちがいつでも引き出せるようにネットワークに組み込めれば、魔術の発動時間がさらに短縮できるなとは思います」
なにせ魔術回路を励起させる手順を省略できるからだ。
私の言葉を聞いて、メディア様は首を傾げた。
「生き残ることが目的なら、戦争に参加しなければいいのではなくて? そもそも魔術に関わらなければ真っ当に生きることはできると思うのだけれど?」
「……それをご説明するには、この山の地下をご案内しなければなりません。ご足労願えますか?」
「いいでしょう。あなたというマスターを理解するのにそれが必要だというのなら」
言いながらメディア様は腰を上げ、その矮躯を浮遊魔術で浮かせて私の隣に降りてきた。
まるで妖精のようだと私は思った。もちろんネットワークに上げたりしないが。
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円蔵山の地下に置かれている大聖杯の元に案内すれば、メディア様は一目ですべてを理解した。
「なるほど、これは世界を滅ぼせるわね。聞くと見るでは全然違う。それにこんなものに望みを叶えてもらう気にもならないわ。あなたの言うように」
淀み、穢れ、腐り、濁り。
この世に存在するあらゆる嫌悪感を凝縮したかのようなおぞましさ。
岩に覆われた地下大空洞にそびえたつ、黒くも赤く濁った巨大な塔。その頂上に鎮座する大聖杯は、すべての光を飲み込んでいるかのように黒く、今か今かと誕生の時を待ち望んで胎動している。
生まれ堕ち、その産声とともに世界に破壊と災厄をばらまくその瞬間を。
「でもそれは、あなた以外の、凡百の魔術師にとってはの話のはず。人類史においても3本の指に入るであろう魔術師メディア様であれば」
「そうね。私の手にかかれば聖杯の汚染程度どうにでもできるわね。そう、それがあなたが私を選んだ理由ね」
「はい。神が当たり前に存在した神代の時代に、魔術の神ヘカテーから直接魔術の薫陶を受け、アルゴー船の冒険を成功に導いた立役者。この聖杯から世界を守るには、あなたを召喚するより他はないと考えておりました」
「あなたのこれまでの工作の内容を聞いていなければただのおべっかと思って聞き流してたわね」
せっかくだからこの機会にできるだけよいしょしておく。
メディア様もまんざらでもなさそうだし。
「あなたの『生き延びる』という願いがどれだけ切実かはわかったわ。そしてその願いが私のそれと競合しないということも。私たちは自分の願いを叶えるために協力し合える」
「ええ。それは間違いないかと」
それで、とメディア様が切り出す。
「それで、これからどういう方針で動くの? この山の結界に認識阻害の術式と人避けの術式も組み込んでいるから、他のマスターからも私たちがここを拠点にしているとは気づかれていないと思うけど、このまま籠城に徹するのかしら?」
もちろん、戦略としてはそれが正しい。唯一この結界を見抜く千里眼を持ち、結界を破れそうな存在であるギルガメッシュは、わざわざこんなところまで足を運ぶことはないだろう。深山町まで歩いて2時間弱かかるくらい遠いし。
ということはこのまま籠城を続ければ、防御面で盤石となり、最後に残ったマスターを狩ればよいという漁夫の利が成立する可能性が高い。
だが。
「いいえ、打って出ます」
私は首を振って彼女の言葉に異議を唱えた。
「ただ状況の変化を待つようでは何が起こるかわかりません。状況はなるべく自分で支配しなくてはならない。それに私たちには『情報』というアドバンテージがある。それを最大限に利用するには籠城という選択はそぐわない」
「だから、自分たちから倒せそうなサーヴァントやマスターを攻撃していこうと? 知っていると思うけれど、私の魔術は三騎士クラスにはクラススキルのせいで相性が悪いわ。攻撃するといっても」
「ええ。いきなりそんなところを攻撃するわけにはいきません。狩りやすいところから確実に狩っていきましょう」
メディア様は首をひねる。
「そんなに狩りやすい相手なんているかしら?」
そう思うのは当然だ。今回参戦したマスターの情報はもちろん共有しているけれど、そのほとんどが自身の工房に身を隠しているかサーヴァントを隣に置いてるかのどちらかだ。
でもいるんだよなあ。
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その後。
冬木教会のそばでメディア様の魔術で気配を消していた彼女と統括個体は、敗退者のふりしてのこのこ現れた言峰綺礼を背後から尾行し、監督役である璃正と茶番染みたやりとりをして気が緩んだ瞬間を狙って強襲した。
自身の魔力とメディア様の強化魔術で強化された統括個体の身体能力はサーヴァントに迫る戦闘力を誇る。
あえて例えるなら魔眼列車の上でフェイカーと交戦したグレイを超える程度には強い。
そんな統括個体がメディア様の魔術で不可視となった状態で放ったアーミーナイフによる斬撃は、言峰綺礼に反応する暇も与えずに未だ令呪の輝きを放つ手首を切断し。
次の瞬間には、空中に舞ったその手首を掴んだメディア様が高速神言にて編んだ魔術によって、言峰綺礼の令呪は彼女の手の甲へと移動していた。
そして、メディア様は令呪を一画発動させる。
「私に侍り、主替えに同意しなさい」
有無を言わさぬ速攻。唯一言峰綺礼の傍に侍ていたアサシンも反応できなかった。これが純粋な、ギリシャ神話を原典とした霊基のメディアではここまでうまくいかなかっただろう。
だがここにいるのは、なんか今世界中で子供にもご両親にもなぜか成人男性にも結婚にあせる30代女性にも大人気の婚活魔法少女メディアちゃんの霊基が合体事故を起こしたメディア様だ。
敏捷Bは伊達ではないのだ。
冬木全体に広がって諜報活動を行っていたアサシンたちが集合し、未だ10代前半の少女に傅いた。それが教会の中であることも相まってまるで神聖なる儀式のようであった。
「あなたたちに与える最初の仕事よ。あなたたちの元マスターを殺しなさい。脱落したフリをして監督役を騙し聖杯戦争を侮辱したその痴れ者を解体し、二度と他人の目に触れないように処理しなさい」
淡々と命令を下しながら、メディア様は茫然と立ち尽くす璃正に人差し指を向ける。途端に彼の両目は焦点を失い立ち尽くす。呆けた彼に向かって、メディア様は告げた。
「今あったことは忘れなさい。あなたの息子は地下で立派に仕事をこなしているわ。それと、これももらっていくから。あなたは二度とこれについて思い出さないように」
そのままメディア様は魔術でもって姿を消した。統括個体とともに瞬来(オキュペテー)の魔術でもって自身の神殿に空間移動したのだ。
その後には、血の一滴も流さずに解体されていく言峰綺礼と、そんな息子に目もくれず自身の執務室へと引き上げていく言峰璃正がいた。
言峰璃正の右腕からは、本来あるべき令呪が全て失われていた。
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現在確認できる百貌のハサンの人格(FGO絆礼装「百人蔵書」テキスト参照)
基底、怪腕、迅速、奸計、集積、縫合、鳶影、音無、収貨、舌鋒、巻風、速尾、詐称、静寂、裁断、祈願、油針、祭煙、剣鬼、夜陰、地学、変梃、追補、遠見、業火、霹靂、蛇香、幾学、妖美、露塗、医食、貫指、馬攻、射影、臨写、戒飭、風弓、説諭、汚泥、混成、筒闇、割譲、衣紋、星辰、美食、輪技、薬師、悪徳、月光、虫飼、解錠、忘却、無彩、計則、毒見、耕材、鉄縄、仮死、考古、摂理、抜骨、拝礼、軽脚、二忍、日輪、査定、衛生、千里、木偶、残響、伝歌、長刃、潜行、造形、継承、粧粉、奇芸、隣人、船舶、滅記、削離、草淋、研磨、診心、狭域、黄反、雨呑、白亜
メタ的な解説
Fate/Zeroの作中の台詞から、教会は中立地帯として不可侵が保障されているため使い魔等を用いた監視が教会に付くことは基本なく、そのことを把握している言峰親子も教会にはアサシンを基本的に一人程度しか配置しません。そのため綺礼が襲われたときに傍にいるアサシンは1体だけで、分割されてステータスの落ちているアサシン1体では敏捷Bの魔法少女を止めることはできなかったという形です。