石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる 作:Una
「二度とやらないわ」
メディア様は玉座にて腕を組み、巌とした口調でそう宣言した。
「やらないって、見事な手際でしたよ?」
神殿の床で跪く私の言葉に、周りに同じように侍るホムンクルスたちもうんうんと頷く。相変わらず国際色豊かな萌え衣装をそれぞれ好みに合わせて着込んでいる。
「冗談じゃないわ。あの神父のマスター、片手を切断されても反撃してきたのよ」
「え、そうなのですか?」
あの時同行していた統括個体の視界を共有していたが、言峰親子にそんな素振りは見えなかった。
ホムンクルスたちと一緒に首をかしげていると、
「その通りでございます」
と女性の声が神殿に響いた。
それは言峰綺礼から奪取したアサシンの一人格、『妖美』の二つ名を担う唯一の女性人格だ。
メディア様によるアサシンと令呪奪取の場面を直接見た、言峰綺礼を護衛していた個体である。
「あの時元マスターは、そこな統括個体殿が攻撃に転じるや否や回避を試みました。元マスターは首を狙った一撃を右手で庇った。対し統括個体殿が瞬時に狙いを首から右手の令呪に変えた判断も見事でしたが、あの男は傷には目もくれず、自身の手首の位置とその切断面から不可視の敵がいるだろう位置に正確に左の拳を振り下ろそうとしておりました」
アサシンは続ける。
「あの男の拳に統括個体殿の頭部が砕かれずに済んだのはまさに紙一重。そうなれば私が無防備なキャスター殿に攻撃をしかけ、その間に我らが集結し集団攻撃を仕掛けていたことでしょう。死にかけた、と仰るのも大げさではございません」
「そういうことよ」
むふー、とメディア様は大きく鼻から息を吐いた。
「ちょっと敵地に行くだけで死にかけるだなんて、聖杯戦争は恐ろしいものねまったく。本来はあのマスターの死体から令呪を剥ぎ取る予定だったのにあんなぎりぎりな真似をさせられるだなんて。二度と敵陣営の前に出るようなことはしないわ。戦争が終わるまで絶対、この聖域から出ませんからそのつもりで」
それだけ言ってメディア様はプイと顔を背けてしまった。
しかたない、やれ、ホムンクルスたち。
「いやいや一瞬の判断で切り飛ばされた手首をキャッチしてマスター権を奪うなんてさすがメディア様っすよ」
「ナイス敏捷B!」
「さすが神代一の魔術師!」
「よ! 魔術師版ヘラクレス!」
「女神も参加したミスギリシャコンテスト堂々2位!」
「ゼウスの求婚も袖にした女!」
「素敵ー! こっち向いて手ぇ振ってー!」
ちらりと目くばせすれば、ホムンクルスたちは心得たと言ったように誉め言葉を躍らせる。
その周りではアサシンたちが紙吹雪を振らせたりパフーとラッパのような楽器で囃し立てたりと忙しい。ちなみにあの大量の紙吹雪は『裁断』の二つ名を持つハサンが10分で作ってくれました。
それだけおだてられてもメディア様はプイとしたまま頑固な態度を変えない……と見せかけて、そのエルフ耳がぴくぴくしている。口元もちょっとぴくぴくしている。にやけそうになるのを必死に抑えているのだろう。めっちゃ効いてる。
さらに畳みかけようとしたところで、『妖美』のハサンがわざとらしく咳払いをした。
皆が静まり、視線が彼女に集まったことを確認して彼女は言う。
「キャスター殿が表に出ないのはむしろ賛成です。元来キャスターのクラスは裏方に徹するもの。なんであれば、我々と同様にキャスターも撃破されたという情報を流したいところです」
「そういえば、メディア様と統括個体が教会に乗り込んだところは他の陣営には知られていないの?」
私の問いに『妖美』のは長いポニテを揺らしながら首を振った。その背後では『衛生』と『研磨』のお掃除系ハサン二人がまき散らした紙吹雪を片付けていた。後片付けできて偉い。
「おりません。教会周囲を張っておりましたが、人どころか使い魔の気配すらございませんでした」
「メディア様の姿は誰にも見られてないってことか。それじゃあ言峰綺礼と同じように、キャスターのマスターが敗退して教会に匿われたって告知させようか」
教会に避難し敗北を宣言したマスターは教会の保護下に置かれ、残った令呪を監督役に譲渡するのと引き換えに敗者として安全を保障される。このマスターは教会の保護下にあるから攻撃無用であると、教会から各陣営に告知されることになっているのだ。
「よし、私に変装させた『変梃』のハサンを教会に向かわせて敗北宣言させよう。そのあとすぐに霊体化して戻ってこさせて。教会からいなくなっても今回の監督役は魔術で違和感を覚えないように暗示をかけているわけだし」
「かしこまりました、すぐ向かいましょう」
群体の中から中肉中背のアサシンが歩み出てきた。彼は両手で顔を押さえ、ベキバキと甲高い骨の音を立てる。顎、頬骨、目元、鼻の形。顔の各部位の骨を脱臼・偏移させて顔立ちを無理やり私に寄せていく。
その隣に歩み寄った、オカマみたいなくねくねした歩き方をする『粧粉』のハサンが『変梃』のの顔に化粧を施していく。それらの作業が終わってみれば、かなり私に近い顔立ちになっていた。最後に『鉄縄』のハサンが何を材料にしたのか、いつの間にか編み込んで作り出した金色の細い縄でできたカツラを『変梃』の頭に被せれば、瓜二つとまではいかないが、よく知らない相手には間違われることは全然ありそうな程度には似ている。
「私が持ってきてる服を好きに着ていいよ。で、なるべく人の目に見つかる道を選びながら、情けなく、何かから逃げるように教会に駆け込んで。ただし、ギルガメッシュと鉢合わせになりそうならすぐ戻ってくること」
「もちろんでございます。あんなものにはどうあがいても敵いません故」
自信満々に勝てない宣言をして、『変梃』のハサンは神殿から姿を消した。
これはこれでよし。
あとは、もうじき始まる第四次聖杯戦争の『初戦』だ。
まあ、とりあえず港周りの地下をアサシンたちに張らせておくか。
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「その小癪な手癖の悪さでもってどこまで凌ぎきれるか──さぁ見せてみよ!」
黄金の波紋から放たれる無数の宝剣、宝槍。それを空中で掴み、自在に操る暗黒の騎士。
全く対照的な外見の二騎のサーヴァントは、天と地、立ち位置まで対照的でありながら、無限の武装を所持しうるという点で酷似していた。
この世総ての財を内包する『王の財宝』と、この世にある総てを己が武装として操る『騎士は徒手にて死せず』。二人の英雄、二つの宝具のぶつかり合いは完全に拮抗し、戦場となっている港を野放図に蹂躙していた。
「そこな雑種よ、もはや肉片一つも残さぬぞ!」
英雄王の猛攻を耐え抜き、さらにあろうことかその王に向けて武具を投げつけ同じ大地に立たせたその不敬。それは人類史で最も傲慢な王の逆鱗に触れ、下手人に向けて先に倍する宝具を展開しようとした。
おそらくギルガメッシュのマスターである顎鬚の人は、その様を使い魔で盗み見しながらさぞや焦っていることだろう。自身の持つ切り札を初戦からさらけ出すなど戦略的にあり得ない。しかしそんな定石なんて英雄王には関係のない話であって、自身の悦や感情を最優先にするその傲岸さの前には顎鬚の弁える常識や定石など路傍の石より価値がないのである。
そんな価値観を有するサーヴァントを律するには令呪を切るしかない。
その予想通り、顎鬚は令呪にて己がサーヴァントに遜りながらその怒りを治め撤退するよう諫言を呈した。
だが。
『なに……? 令呪が、機能しない⁉』
そんな声が、遠坂邸の近くで聞き耳を立てている『残響』のハサンの耳に届いた。
その情報はパスがつながっているメディア様に届けられ、それがさらに電磁ネットワークに流される。聴覚が異常に発達した『残響』のハサンは盗聴および聞き耳の達人であり、現代建築の窓ガラスから響く空気の振動から声を逆算することなどわけもないのであった。
わたし:うまくいっているようですね。
Medeia:当然よ、私が張った結界だもの。
私は神殿にいながら、遠坂邸にいるメディア様とネットワーク越しに会話している。
敵陣営に姿をさらすことを嫌がったメディア様を、あの後さらに誉めて伸ばして称えて崇めて。なんとか機嫌を直してくれたメディア様と交渉し、どうにかこうにか妥協案を結ぶことができたのだ。
曰く、敵サーヴァントがいない、または令呪による空間転移で敵サーヴァントが呼ばれることの絶対ない状況であるなら外で仕事しても構わない、とのこと。
なかなか厳しい条件だけど、まあそれで魔術を行使してくれるなら現段階ではとりあえず良しとした。
そんなわけで今回は、遠坂邸を中心に結界を張ってもらったのだ。
令呪や念話を遮断し無効化する結界である。
これが張られている限りギルガメッシュはバーサーカーを物量で押しつぶそうと躍起になったまま冷静さを取り戻すことはないだろう。そしてバーサーカーがギルガメッシュと拮抗している限りそのマスターの間桐雁夜も自分のサーヴァントを引かせることはない。
つまり今、遠坂邸と間桐邸はサーヴァントの妨害なく攻めることができるということだ。
とはいえ、マスターが死の危機に瀕すればさすがに英雄王も何かしらアクションを起こすだろう。いまだにちょっとビビってるメディア様を慮って、今夜のところは間桐を攻めるのみということにした。
二兎を追うより一つずつ確実に。
そんなわけでバーサーカーがギルガメッシュに集中している間に、5人のアサシンを間桐邸に派遣した。
まず『千里』のハサンが疑似的な千里眼(C)のスキルで間桐邸内に間桐臓硯がいることを確認し、『解錠』のハサンが結界の主である臓硯にすら気づかれないように結界の一部を無効化した。
侵入し、気配遮断を維持したまま地下の修練場に佇む臓硯を発見し、『虫飼』のハサンが、常人の耳には聞こえない周波数で指笛を吹いた。
途端、間桐の蟲たちが臓硯の制御を離れてうごめき始める。
「ぬっ、何事じゃ⁉」
臓硯、500年も生きてるくせに意外と焦りがち問題。
『虫飼』のハサンが持つ虫を操る技術は、中東の呪術による疑似的な『動物操作(虫)』のスキルだ。
このスキルでもって生前は虫に命令を下し、操り、さまざまな暗殺任務を成功させてきたのだという。
その虫を操る呪術と、臓硯の眷属化の魔術。
どちらが神秘として上かと問われれば、当然前者なのだった。
臓硯の魂の依り代となりうる蟲が全て修練場に集められ、押しつぶされ、キーキーとした耳障りな蟲の悲鳴が少しずつ減っていく。
臓硯の肉体を構成していた蟲すら臓硯の制御下から離れ、石畳の上を四方八方へと散っていき、周囲の蟲と共食いを始める。凄惨な蟲毒から逃れた一匹の蟲がいることに、侵入していたアサシンは全員が気づいていた。
4人目のアサシン、『査定』のハサンが生き残った蟲を摘まみ上げ、しげしげと眺めて言う。
「間違いない、この蟲にゾウケンとやらの魂がこもっておる」
「ならばしばし待て」
言って、前に出たアサシンは『業火』のハサン。呪術による怨嗟の炎を操る彼は、体から自在に火を発することができる。
そんな『業火』のハサンが蟲の塊に火をかける。呪術によって生まれた炎は、術者が命じるか同格以上の神秘で打ち消さない限り消すことはできない。
黒みがかったその炎に炙られ、間桐の蟲は臓硯の魂を宿しているもの以外が全て焼き払われた。
総ての蟲が焼け死んだことを確認した『査定』のハサンは、うむと頷いたあとその手に握っていた臓硯をそのまま握りつぶした。
「よし、あとはこの家にあるという魔術の資料だな」
「全て回収してこいとのマスター殿のお達しだが、実体化したままでないと運べないのが面倒だな」
「『解錠』のと『査定』のがいるから探すのは問題なさそうなのがまだ救いか」
やれやれ、とつぶやいた5人のアサシンは間桐邸の家探しを開始し、拠点である円蔵山と間桐邸を夜明けまでに4往復することで無事任務を完了させた。
ただ最後に、なんとなく早くに目が覚めてトイレに行きたくなった間桐桜に目撃された。
目撃者は始末した方が手っ取り早いことは全員承知しているが、かわいいもの好きなことを隠してるつもりのメディア様が気に入るかもしれない、なんてことを『査定』のが言い出した。
一理ある、とアサシン5人は桜を放置して円陣組んで会議した結果。魔術的資料がマスターへの手土産なのだから、キャスター殿へのお土産も必要だろうということで桜も一緒に運び出すことにした。
おしっこはギリギリ、紙一重で間に合った。