ラブコメ世界に戦闘系の能力は必要ですか?   作:ふくきたる

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過去

この世界に転生してから、驚いた事が沢山ある。

 

まず初めに、顔や髪型。

最初こそ気づきはしなかったが、成長するにつれてどんどんツナに似ていく過程は、嬉しいより恐れ多い気持ちの方が強かった。

 

次に、出生地。

地球人ではなく、まさかのフレイム星人として生まれていた。

彩南じゃないし、もはや地球ですらない。

この事実を知った時、原作に関わることは不可能だと思っていた。

 

そして、転生特典。

死ぬ気の炎が使えない。まず、炎の出し方がわからない。

二足歩行でしっかりと歩けるようになってから、多種多様なモノで炎を纏わせようとしてみたが、うんともすんともいわない。

大空専用のリングが必要なのかもしれないが、そんなものどこにあるのか、まずこの世界にそれが存在するのかわからない。

その日の夜は、ベッドの枕がビショビショになるほど泣いた。

 

それからも、色々とあった。

その中でも、

特に強く印象に残っている出来事は、今でも昨日のことのように覚えている。

 

 

◼️

 

 

幼少期。

フレイム星にある小さな田舎町に生まれた俺は、よく同年代の子供たちにイジメられていた。

その理由は、

フレイム星人なのに炎(・)が(・)使(・)え(・)な(・)い(・)から。

 

一般的にフレイム星人の赤ん坊は、炎をコントロールする事がまだ出来ない。

そのため、泣いたり、ゲップをしたりなど、何かしらの行動と一緒に、能力を発動させてしまうのが普通の事らしい。

しかし、生まれてから一度もその兆候が見られない俺を、病院側は不思議に思い、検査を受けることを推奨する。

 

結果は、炎が出せない体質だと判明。

 

※フレイムと異星人とのハーフの場合、炎が出せない子供が生まれる事例が、過去に何件もあったそう。

 でも俺の両親は2人とも、純正のフレイム星人。

 この事例はフレイムでも初めての出来事で、名前こそ公表されなかったが、ちょっとしたニュースにもなってしまった。

 

田舎町での噂が回るスピードは、とてつもなく速い。

病院の関係者の誰かが情報を漏らしたのだろう。

俺は一躍、悪い意味での有名人となった。

フレイム星人なのに炎が出せないダメダメなヨシツナ。

 

通称「ダメヨシ」

 

子供からはそう呼ばれ、大人たちは関わろうとしない。

まるで、幼少期のうずまきナルトのような腫れ物扱い。

でも、このあだ名に関してはつけてくれた人に感謝したい。

最高のあだ名をどうもありがとう‼︎

 

そんな子供でも両親は変わらず、愛情を持って育ててくれた。

前世がほぼ寝たきりだった反動で、運動が楽しくてしょうがない。

仕事で疲れているのにも関わらず、遊びに付き合ってくれる父さん。

母さんがお昼時に、お弁当を持ってきてくれる。

公園にあるベンチに座り、家族でご飯を食べるなど、幸せな時間が流れていた。

しかし、その時間も長くは続かない。

 

転生してから5年が経過した、とある日。

既に超直感も発動するようになっており、行動範囲は広がり、1人で遊ぶようにもなっていた。

 

その日は、自宅から少し離れた公園にいた。

周りには誰もおらず、珍しく貸切状態。

いつもは他の子供たちがいて、あまり使えない遊具で遊んでいると、超直感が発動する。

 

背後から忍び寄っている手を前転で避けて、素早く振り返る。

そこには、研究者のような格好をした複数人の大人が立っていた。

子供が複数の大人相手に勝てるはずもなく、俺はあっさり拘束されてしまう。

敵の腕のなかで暴れ回り、なんとか逃走を試みるも、鳩尾を殴られ痛みで疼くまる。

髪の毛を引っ張られ顔が上がった瞬間、口元に布のようなモノを当てられ、次第に意識が遠くなっていく。

最後に聞こえたのは、

 

「炎が使えないという実験体を確保しました。直ちに、【ソルゲム】フレイム支部に帰還いたします」

 

という言葉だった。

 

けれど、次に目を覚ました場所は、地元の病院。

目の前には泣きながら抱きついてくる両親。

状況が全く理解出来ず、誘拐されたのは、もはや夢だったのではないかとすら思えてくる。

数分の時が流れると、気持ちが落ち着いてきた父さんが順を追ってゆっくりと説明をしてくれた。

それをわかりやすくまとめると、

 

誘拐される。

↓

ここからそれなりに離れた森の中にあるアジトに到着する。

↓

実験体No.の刻印をする。

↓

何者かに襲撃を受け、アジトが崩壊する。

↓

近隣住民が轟音に気付き、森へと入る。

すると、倒壊した建物付近で眠っている俺を見つける。

そこいら中にあるコンクリートの表面は粉砕されてあり、クレーター状の弾痕がいくつもあったそう。

↓

近くの病院に搬送される。身元がわかったので、この病院に搬送される。

↓

そして目が覚めて、今に至る。

という流れらしい。

 

実験体No.ってなんだ?と思いつつ、病院服を捲り、身体を確認する。

左胸に【X-27】という文字が刻まれており、誘拐は現実に起きた事だとようやく理解する。

この刻印には特殊な技術が使われているらしく、病院で消す事は不可能とのこと。

 

こうしてたった1日だけの誘拐事件が終わり、一件落着かと思われるが…そうはいかない。

両親はこの事件を重く受け止め、移住を決意していた。

比較的安全な惑星を探しだし、最終的に地球を選んだという報告を入院している病室で聞く。

「それなら!」と一声あげさせてもらい、彩南町に住む事になったのだった。

 

 

◼️

 

 

それから数年後、小学校の高学年になったとある日。

神社の境内にある木から落ちた小学生の女の子を、助ける事が出来なかった経験が、超直感をさらに覚醒させ、周囲の人間にも発動する様になった。

 

※最初は効果範囲が狭く、自分の近くにいる人にだけ反応し、予知の精度もいまひとつだった。

 けれども、そこから超直感が発動する度に、範囲がどんどん広がっていく。

 現在では彩南町全体を覆うぐらいになり、精度も格段に上がっている。

 

この能力は役に立てねばと考え、そこから様々な格闘技を習う。

中学校への進学と同時に、自警団の活動を開始した。

正直、この世界の警察や法律は緩い。

原作では校長が何回も町でセクハラ行為を繰り返しているのに、次の日にはしれっと校長の職に戻っている。

彩南町だけなのかもしれないが、前の世界だったら一発OUTで無職コース確定だろう。

 

中学2年生にもなり、自警活動にも少しずつ慣れてきた頃。

未だに転生特典が使えない状態ではあったが、充実した日々を送っていた。

そんな中で、

初めて死ぬ気の炎を使えた日は、雪が降る年末のことだった。

 

 

◼️

 

 

12月も、残すはあと数日。

彩南町は、新年に向けた街並みで夕方まで賑わいを見せていた。

現在の時刻は23時過ぎ。

雪が降り始めた天候の中、商店街にある路地裏で息を潜める。

超直感が発動したのだ。この辺りで何かが起こると、警笛を鳴らしてくれている。

 

目の前に広がる商店街の大通りには、お年寄りの女性が1人で歩いている。

周りには誰もいない状況、コツコツとその人の足音だけが響いていた。

すると、女性の後ろに体格のいい男性が歩いてくる姿を、視界の奥で捉える。

2人の歩幅は、勿論違う。

男が年配の女性に追い付きそうな瞬間、急に走り出し、女性の鞄を強引に奪う。

 

「きゃあっ!…ひっ、引ったくり!だっ…、誰かぁ、誰か助けておくれぇ!」

 

「私が追う!あなたはここで待っていてくれ」

 

唐突に路地裏から出てきた自分に対して驚きが隠せていないが、なんとか相槌を打つ年長者の女性。

引ったくり犯は、全速力で真っ直ぐに大通りを走っていた。

 

(冬の夜に、ご高齢の方を外で長く待たせるのはまずいよな)

 

そう考えると、スピードのギアをあげて男性を追いかける。

しかし、相手も異常に早い。さらに、雪の影響で道路が濡れて滑りやすい。

多少の時間がかかり、ようやく引ったくり犯を追いつめた場所は、商店街からそこそこ離れた川沿いの土手だった。

 

「追いかけっこはもうやめないか?鞄を返してくれたら、悪い様にはしない」

 

肩で息をしている引ったくりに、そう問いかける。

 

「…下等な地球人が、偉そうにオレ様に指図すんじゃねぇ!ボコボコにしてやるよっ‼︎」

 

いきなり脱皮のように男の皮膚が破れ、中から大柄な宇宙人が登場する。

奪った鞄を投げ捨て、一直線に走り寄ってくる。

 

(やはり宇宙人だったか。最近になって町に宇宙人が増えてきたな。…これも、原作が近づいてきている予兆なのか?)

 

相手の宇宙人は、ボディビルダーのような腕をぶんぶん振り回してくる。

だが大柄な分、攻撃が単調。

超直感も発動しているが、これなら能力がなくても簡単に避ける事が出来る。

そして、自分より大柄な相手には、筋力勝負じゃ太刀打ち出来ない。

そんな場合は、MMAの技術を応用して、

 

(寝技で相手の意識を刈り取る)

 

勝ち筋を見つけ、いざ攻勢に出ようとした瞬間、真横から一筋の光が流れた。

突然の事に、意識を持っていかれる。

目の前を見ると、大柄な宇宙人の上半身がなく、辺り一面に血が飛び散っていた。

……理解が追いつかない。

呆然と立ち尽くしていると、横から聞こえる足音がどんどん近づいてくる。

音の方向に、目線を這わせる。

そこにはーー

インナーを着ていない黒いスーツ姿で、手には銃を構えている死神の様な男が立っていた。

 

「横取りして悪いが、その宇宙人はオレの標的(ターゲット)だ」

 

黒い男が喋りかけてくる。

 

(寒い…。息苦しい。なんだこれは……。人間はこんなにも冷たい声が出せるのか)

 

思考が定まらない中、男は続けざまに口を開いた。

 

「お前はオレの標的ではない。そして、お前がどこの誰で、そこの宇宙人と何があったのかは知らない。だが、これも殺し屋を続けていく上で、重要な仕事の一つ。悪いが、オレの姿を見られたからには生かしてはおけない。……死んでくれ」

 

その瞬間、男の姿が暗闇の中に消えた。

 

「がはっ!!ぐっ、ごふぁっ!!」

 

(…………おかしい、世界が回って見える。なぜ俺は寝転んでいる。平衡感覚が……。一体、何が…。土が冷たい、寒い、怖い)

 

何が起きたかわからない。

視界が定まらないし、身体に力が入らない。

突如として、腹と顔、そして上半身が凄まじい痛みに襲われる。

その痛みと共に理解できた、自分の現状を。

超直感でも反応出来ない速さで腹と顔を殴られ、最後に上半身を蹴られた。

数メートルほど飛ばされたのだろう。

スーツは土手の土で汚れ、仮面は砕け散り、素顔を晒してしまっている。

 

(見え…なかった。動けな……かった。超直感が…発動しないほどのスピード……。痛い、寒い、冷たい、怖い。…ダメだ、力が……入らない。寒い、怖い、冷たい。痛い…)

 

(おかしい、寒い、怖い、冷たい、痛い。ここは…ラブコメの……世界じゃ…………。寒い、怖い、冷たい、怖い、痛い、怖い、寒い、怖い、冷たい、怖い、痛い、怖い…)

 

今まで経験した事がない恐怖、凄まじい痛み、身体を芯から冷やすような寒さで思考力が下がる。

降り頻る雪の中、起きあがろうにも身体に力が入らず、体温も急速に低下していく。

 

(くそっ、いやだ…。いやだいやだいやだいやだ!死にたくないっ。こんなところで……また…………何も……のか……)

 

両目から涙が溢れる。

意識が薄れていき、最期の時が訪れる。

 

『ごめんね、痛い思いをさせてしまって』

 

頭の中に声が響き、視界が黒く塗り潰された。

 

 

◼️

 

 

眼を覚ますと、大空の中にいた。

辺り一面が綺麗に澄み切っている空間で、気分が落ち着く。

 

(身体が浮いている…、不思議な空間だ。ここはドコなのだろう?天国なのだろうか、地獄ではない事は確かだ。だって、とても居心地が良い。まるで誰かに優しく包み込まれているような感覚だ)

 

先程の出来事を忘れさせてくれるレベルの心地良さに感動していると、不意に後ろから声がかかる。

 

「やぁ、はじめましてだね!朝利吉綱くん」

 

最後に聞いた冷たい声とは真逆と言ってもいい程の優しい声。

その人物を確認しようと振り返り、言葉を失う。

 

「…………うぇっ?…俺っ⁉︎」

 

無意識に言葉が出た。

目の前に、自分とそっくりな人間が立っていたのだから。

二度目の死を迎えたと思ったら、今度はドッペルゲンガー。

脳の理解が追いついていない。

目の前のそっくりさんはずっと微笑んでいるだけ。

数秒の時が流れて脳が正常に働き始めると、目の前の人と自分の違いが少しずつわかってくる。

 

自分よりも髪の毛が少し長い、そして色素が薄く金色にも見える様な茶髪。

背は少し高く、何よりもオーラが違った。

身体も若干、華奢だが、隙が一つも見当たらない。

気持ち童顔に見えるその顔も、佇まいが美しく大人の色気が凄い。

よくよく見ると、何から何まで違う。

そこでふと、1人の人物を思い出した。

 

「まさか、………ジョット…さん?」

 

「……え?」

 

またもや無意識に出していた言葉に、目の前の人は大きく目を見開いた。

その後、ぷるぷると小刻みに震え出し、最終的には控えめに笑い始める。

 

「ぷっ、あははっ。ジョットかぁ。くくっ。残念だけどハズレだね。でも、プリーモの名前を知ってるなんて。やっぱり君は凄いね」

 

「え、あ、ドウモ……」

 

知らない人にいきなり褒められた。

笑っている顔が綺麗すぎて、思わずたじろんでしまう。相手は男性なのに。

笑いが引いたのか、咳払いをして身なりを整えている。

そんな日常にありふれた行動でさえ、目の前の人がやると何故か目を奪われる。

 

「改めまして、俺の名前は沢田綱吉。ボンゴレファミリー10代目のボスをやっています。よろしくね、朝利吉綱くん♪」

 

「アッハイ、…………えっ、沢田…綱吉…?…は?え?ツナ………さん?………、えええええええええええぇぇぇぇぇぇ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

 

今までの人生の中で、1番声を張り上げた瞬間であった。

 

「あっ、あの、自分いやっ、俺あのっ、あ、あひゃり吉綱っていいます。うぉ、お会い出来て光栄でしゅ!」

 

「うん、知ってるよ!あと、少し落ち着いてね」

 

(うわぁぁぁぁあああああああああ‼︎憧れの人が目の前にいるよぉぉぉぉおおおおおおおおおお‼︎しかも原作ではあまり描写されなかった10年後の姿だよね!これ!ね⁉︎ね⁉︎ね⁉︎ムリムリムリムリ、そんな優しい笑顔むけてこないでぇぇぇええええええ。かっこ可愛いのダブルパンチでもう俺の心はTKOだよ、しかも何故か俺の事知ってくれてるしぃぃぃいいいいいい!あぁぁぁああああああああ、ありがとう、神様ぁぁぁぁぁああああああああああ‼︎人生、最期の時にこんな機会をくださるなんてぇぇぇえええええええええええ、って…………あれ?何で俺の事知ってくれてるんだ?)

 

テンションが振り切れていた脳が、ゆっくりと冷静になっていく。

今も十分にありえない状況なのだが、俺がいたのはToLOVEるの世界。

REBORN!は同じ週刊誌で連載されていたけど他作品だ。

 

(どういう事だ?ジャンプ作品は世界が繋がっている?いやいや、それは考えすぎだ。もし仮に世界が繋がっているとしたら、地球の犯罪者は月にデスノートで殺されているはず。ニュースでもキラなんて言葉は聞いた事がないし、他の作品のキャラクターだって見た事ない。この可能性はやっぱり0%だ。ここはもう本人に聞くしかないだろう)

 

「あ、あのっ!何で沢田さんは、僕の事を知ってくれてるんですか?」

 

「あー…うん、そうだね。朝利くんは、白蘭ってわかるかな?」

 

「びゃっ、白蘭ですか︎⁉︎……っ、!も、もしかして、横の時空軸……」

 

 

「素晴らしいっ、大正解だよ!やっぱりキミは、俺たちのことを結構知ってくれてるみたいだね?」

 

「あっ、はい!虹の代理戦争のところまでは……」

 

「そっかそっか。そこまで知っているのなら問題ないね。それじゃあ、話を戻そうか。白蘭ってその能力で、パラレルワールド行けるでしょ?最近はヒマみたいでね。自分たちが存在しない世界を探してたらしいんだ。そこで、たまたま朝利くんがいる世界を見つけたらしくてね。暇つぶしがてら眺めてたみたいなんだけど、偶然にも俺と瓜二つな朝利くんを発見したんだって。大慌てで、すぐに俺に連絡してきてくれたよ」

 

「あの時の焦った顔の白蘭はレアだったなぁ」と楽しそうに話す沢田さん。

 

予想外すぎる展開に、言葉を失う。

まさか、あの白蘭が出てくるとは思わなかった。

でも沢田さんの話の中で、気になる疑問がいくつか浮かんでくる。

 

「あの、また質問で申し訳ないんですけど……、この空間は一体何処なんでしょう?俺はさっき殺されてきたので天国かと思っていたんですけど、沢田さんがいるのであれば、違うのかなと……」

 

俺は確かに殺された、あの死神の様な男に。

そして、そいつに蹴り飛ばされた後で気づいた。

あの黒い男は、原作にも登場していた【殺し屋クロ】だという事に。

 

クロは、ToLOVEる(無印編)から登場するヤミ絡みのキャラクターだ。

けれどもその原作回で、クロが仕事先でリトやヤミたちと遭遇したのだが、姿を見られただけで殺しにくるキャラではなかった。

一体、何がどうなっているんだ……。

 

「…そうだね。まず結論から先に言うと、キミはまだ死んでいない」

 

驚愕の真実よりも、恐怖が勝った。

なぜなら、ずっとニコニコしていた沢田さんの雰囲気が一変したからだ。

先程までは、何をしても笑顔で許してくれる優しいお兄さんのような雰囲気だった。

けど今は、真逆とも言える何かに対して憤怒している様子。

だがそれも一瞬の事で、すぐに優しい雰囲気へと戻っていた。

 

「あっ、ごめんね…。少し感情が抑えられなかった」

 

申し訳なそうに謝る沢田さん。

普段優しい人が怒ると、より怖く見えるのは知っている。

ただし、ボンゴレデーチモがやると迫力が違う。

先程のクロと同等…いや、それ以上の恐怖だったかもしれない。

 

「…実は、今朝から嫌な予感がしていたんだ。超直感も警告してくれた。ただ、仲間達には特に何もなかった。おかしいと思い、そこで気づいた。もしかしたら、キミのことかもしれないとね。だから白蘭の元に飛んで、そちらの世界を見させてもらった。そしたらキミは死にかけていた。ごめんね、俺がもっと早く気づいていれば、キミが痛い思いをする事はなかったのに。本当にごめん」

 

(あの時に聞こえた声は、そういう事だったのか)

 

死に際に聞こえた謎の声の理解と同時に、命の恩人である沢田さんと白蘭さんに感謝の想いがとめどなく溢れてくる。

 

「この空間も、白蘭にお願いして作ってもらったんだ。元々、君にいくつかの用事があったからね」

 

「用事…ですか?」

 

「うん、これをキミに渡したかったんだ」

 

沢田さんはそう言うと、胸ポケットから、一つの指輪と3つの匣を見せてきた。

 

「…リングと、匣……」

 

「そう、これは俺の血を混ぜて作ったAランクオーバーの大空属性のリング。ボンゴレリングのスペアとして作られたんだけど、一度も使った事がなくてね。宝の持ち腐れになってるから、キミにあげようと思ったんだ。この3つの匣も同じで、俺のスペアなんだ。白色の匣が武器や道具で、黒色の方がアニマル匣だよ。俺の相棒はナッツだし、彼女はずっと、キミの元に行きたがっていたんだ。だから仲良くしてあげてね♪」

 

(こんな事があっていいのか……)

 

欲しい、喉から手が出るほど欲しい。ずっと夢見てきた事だ。

リングの形状は、初期の守護者が使うボンゴレリングと瓜二つ。

守護者を現す天候のマークにはあさり貝が刻まれている。

匣に関してもそうだ。

武器なんて一つも持っていないし、まさかアニマル匣まで貰えるなんて。

こんなに嬉しいことはない‼︎

でも…、俺には使いこなせない。

なぜなら俺は、死ぬ気の炎が使えないから…………。

 

「…ありがとう、ございます。本当に、ほんっとうに嬉しいです。でも、俺はそれを受け取る事が出来ません」

 

「それは、どうして?」

 

怒るわけでもなく、ただただ優しく尋ねてくれる沢田さん。

その姿を見て、自分の現状を正直に話始めた。

 

「実は俺、人生で一度も死ぬ気の炎を使えた事がないんです…。今まで何度も挑戦してみたんですけど、全然ダメで……。だから、それを頂いても…役に立てる事が出来ませんっ!」

 

悔しくて俯いてしまった。沢田さんの顔が見れない。

涙を必死に堪えると、優しく肩を叩かれた。

 

「死ぬ気の炎の強さは、覚悟の強さだよ」

 

穏やかな笑顔でそう言われた。

風景の大空と相まって、先程までの悔しい気持ちと悲しい涙の感情が、全て包み込まれ溶けていく。

 

(…凄い、これがボンゴレデーチモ。獄寺さんや山本さん、ファミリーの人たちがこの人についていく理由が少しだけでもわかった気がする)

 

突如、彼の額と拳から炎が灯る。

沢田さんは超死ぬ気モードに変身していた。めっちゃ、カッコいい……。

 

「いくつか用事があると言っただろ?今から俺がキミの家庭教師(かてきょー)になる。死ぬ気でついてこい」

 

圧倒的なオーラを纏い、こちらを見つめてくる。

不思議と今まで諦めていたものに手が届く気がした。

 

(この人なら、いや…違う、この人じゃないとダメなんだっ!)と心が叫んでいる。

無意識のうちに手に力が入る、高鳴る鼓動と共に全力でお辞儀をした。

 

「はい!よろしくお願いします‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 

◼️

 

 

あれからどれくらいの時間が流れただろう。

とうとうボンゴレデーチモとの修行が、終わりの時を迎えていた。

 

「うん、これで一通りは大丈夫かな?朝利くんは他に何か聞きたいことはある?」

 

涼しい顔で沢田さんは喋る。

対して俺は…、

 

「ぜぇ…はぁ…はいっ、特に…、ありません。ぜぇ…、ありがとう…ございました!…はぁ…」

 

息も絶え絶えの状態で、

 

(ヤバい、ここの空間で逆に死にそう…。きっつい!なにこれ?今までの格闘技がお遊戯レベルなんだけど……。ってか何で沢田さん、汗一つかいてないの?本当に同じ人間なの?俺と同じで宇宙人なんじゃないの?その細い手脚からなんでエグい攻撃力持ち合わせてんの?)

 

憧れの存在に悪態をついていた。

 

「さて、修行も終わったし、最後に気になっていた事をキミに話そうかな」

 

「気になっていたこと…ですか?」

 

はて、気になっている事はなんだろう。

前世の漫画知識で色々と知っている事だろうか。

それについてはどう答えるべきか…と身構えていると、

 

「うん。朝利くんは、俺と骸の黒曜での戦いを憶えてる?」

 

「えっ、あっ…はい!覚えてます」

 

全然違う事だった点と、骸という名前に呆気を取られる。

六道骸(ろくどうむくろ)。ボンゴレファミリー10代目の霧の守護者。

最初は黒曜中のボスとして登場。

幼少期の出来事によりマフィアを恨み、ボンゴレファミリー10代目候補である沢田綱吉の身体を奪い、内部からマフィアを殲滅させようとした男。

他にも色々あるが、わかりやすく言うとイケメン術師パイナッポー男だ。

フランくんとの絡みが好きです。

 

「良かった。なら、骸のどす黒い闘気(オーラ)もわかるよね?それが、キミを殺そうとした男にも見えるんだ」

 

「…っ!(全然、わからなかった…)」

 

「たぶん殺し屋の彼も、骸と同じような道を辿ってきたのかもしれない。俺にはどうする事も出来ないけどキミなら出来る。その死ぬ気の炎で、彼の闘気を浄化してもらいたいんだ」

 

沢田さんは悲しそうな表情をしていた。

 

(…どこまでも優しい人だ。未来編でアルコバレーノのユニが言っていた「いつも眉間にシワを寄せ、祈るように拳をふるう」とは、こういう表情だったのだろうか)

 

覚悟が決まる。

 

「わかりました。俺があいつを助けます!」

 

「…ありがとう、よろしくね」

 

パッと花が咲いたような沢田さんの笑顔を、俺は一生忘れる事はないだろう。

 

「それじゃあ、俺は元の世界に戻るね」

 

沢田さんの言葉をしっかりと聞いていたかのように、瞬時に、俺と沢田さんの背後にドアが出現する。

突然の事にびっくりしていると、肩を叩かれてそのまま耳元で呟かれた。

 

「V、殺し屋の小僧に一泡吹かせてこい」

 

沢田さんは振り返らず、ドアを開けていなくなった。

 

(最後の最後までカッコ良すぎるだろ…、 マジで)

 

 

◼️

 

 

もうすぐ日付を跨ぎそうな真夜中。

雪が降り続けている彩南町の土手に、暗闇に擬態している様に1人の男が立っていた。

その人物の視線は、数メートル先に横たわっているスーツ姿の少年を捉えている。

 

(逃亡中の標的は殺した。目撃者の人間を蹴り飛ばしたが、ピクリとも動かない。死んだか?)

 

数秒の時間を相手に与えたが、それでも動かない人間に対しそんな事を考えていた。

 

(いや、死んだふりかもしれない。コイツを見ると妙な胸騒ぎがする。跡形もなく消えてもらおう、その方が確実だ。)

 

片手に持つ装飾銃ハーディスを構え、照準を人間に向け、電磁光弾を撃つ。

目標に着弾を確認。

土手には砂埃が吹き荒れる。

任務完了。

すぐに帰還のための行動に移ると、背後から何者かの圧を感じる。

 

「おい、どこに行こうとしてる?」

 

瞬時に振り向き、ハーディスを構える。

しかし、砂埃で人影が見えない。

警戒は怠らないが、心中は焦りが強かった。

 

(……ありえない、電磁光弾は着弾したはずだ。それとも第三者か?)

 

砂埃が晴れ、少しずつ人影が見えてくる。

しかし、影が小さい。座っているのか?

 

「殺し屋…、おまえを倒さなければ………、死んでも死にきれねぇ」

 

視界が完全に晴れて、自分の目を疑う。

なぜならそこに、数分前に蹴り飛ばし、ハーディスでトドメを刺した人間が立ち上がっているからだ。

何より驚いたのは、その容姿。

先程までは、確実に素手だった。

なのに今は、黒いグローブを装着している。

手の甲には、大きくVのアルファベット。

 

(一体、いつだ。どうやって付けた。それにその額の炎はなんだ…)

 

目の前の男の額には、とても綺麗なオレンジ色の炎が灯っていた。

よく見ると、瞳の色もオレンジに変化している。

男の視線は、真っ直ぐに俺を貫く。

まるで、逃がしはしないと言っているように。

いつぶりかわからない、冷や汗が流れていた。

 

 

◼️

 

 

沢田さんと別れ、ToLOVEるの世界へと戻ってきた。

目の前にいるのは殺し屋クロ。

さっきまで見えていなかったどす黒い闘気が、今度はしっかりと捉える。

クロは驚いた表情と、わずかながらの動揺が見えた。

ならば、このチャンスをモノにするしかない。

先手必勝で相手をさらに動揺させる狙いでいく。

 

「来ないのか?それなら、こちらから行かせてもらう」

 

Xグローブ改め、Vグローブの推進力を使い、クロの前に高速移動する。

ありがたい事にVグローブの形状は、初期のXグローブではなく、ver .V .R .と同じ。

つまり、柔の炎と剛の炎を使い分ける事が出来る。

クロは目で追えなかったのか、またも表情を驚かせていた。

さっきのお返しだ!と言わんばかりに、腹に一発拳を入れる。

身体が前のめりになった瞬間、頭を掴み、死ぬ気の炎で黒い闘気を浄化させる。

沢田さんが黒曜で骸との最終決戦でやっていた同じ戦方だ。

 

「ぐあっ、…つっ‼︎‼︎‼︎」

 

(やはり、この黒い闘気に死ぬ気の炎は天敵のようだ。とても効いているように見える)

 

苦悶の表情をしたクロ。

俺を引き剥がすために、蹴りを入れてこようとする。

しかし一旦距離を置いて、無事に躱す事が出来た。

距離ができた事により、クロはハーディスを構え、電撃を連射してくる。

超直感と死ぬ気の炎を頼りに、皮膚に掠りながらも、致命傷は避ける。

 

(どう見てもクロは余裕がない。冷静になられたクロに、俺が勝てる確率はかなり低い。今しかない。今、畳み掛けて、この戦いを終わらせるしか勝ち筋はない‼︎)

 

止まない電撃を交わしながら、何とかクロの背後に辿り着く。

クロが振り向いた瞬間、頭を掴み足を払う。

相手の体勢が悪くなった瞬間、掴んでいた頭を地面に思い切り叩きつけ、炎圧を高めて黒い闘気を浄化する。

 

「がぁぁぁぁあああ‼︎‼︎‼︎ ああ… あ…」

 

クロの悲鳴がどんどん弱くなり、最終的に気絶した。

どす黒い闘気は完全に消えてなくなった。

超死ぬ気モードが解除され、雪で土が濡れて泥のようになっているのも気にせず、倒れ込むように座る。

 

(終わった…。こいつが冷静じゃなくて本当によかった。…安心したら、急に脚が震え出してきちゃった)

 

勝てた、相手が万全ではないといえ、作中屈指の強キャラをだし抜くことが出来た。

これはとても自信に繋がる。

俺はこれから、もっともっと強くなれる。

そう思っていると、視界の端に投げ捨てられた鞄を見つけ、本来の目的を思い出す。

 

(そうだった…。俺、引ったくり犯を捕まえようとしてたんだ…)

 

早く鞄をお婆さんの所に届けなくてはと、気合いで立ち上がる。

クロと下半身だけの宇宙人は放置した。

どうすればいいのかわからないし、今日はもうこれ以上、何もしたくなかった。

 

「仮面を付けた人から、あなたに渡してくれと頼まれた」と適当に嘘をつき女性に鞄を返した。

血だらけ泥だらけの格好を見て、女性は目を丸くさせていたがすぐに何かを察した目になり、何度もありがとうとお礼を言ってくれた。

ありゃ、バレたかな。

 

家に帰るために誰もいない道路を1人でよろよろと歩く。

体力ももう限界に近かった。

ふと立ち止まり、雪が降る空を見上げる。

 

「沢田さん、何とかクロに一泡吹かせる事が出来ました。後は、アイツ次第だと思います」

 

(聞こえるわけないか)

 

そう思った瞬間、

『ありがとう』と、頭の中に彼の声が聞こえた気がした。

 

 

 

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