ラブコメ世界に戦闘系の能力は必要ですか?   作:ふくきたる

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第2話

とあるビルの屋上。

そこに、赤毛の美少女と1匹の鴉がいた。

あたりは暗闇に包まれており、屋上から見下ろす風景は、車や電灯、家の灯りなどが無数の光を生み出していた。

赤毛少女は、フェンスのないビルから足をなげるように座っており、楽しそうに喋り出す。

 

「聞いてくださいマスター。わたし今日、初めて〝トモダチ〟ができたんですよ。素敵でしょ?」

 

「…まさかお前まで温い生活で、本来の目的を忘れてはいないだろうな。メア」

 

「ふふっ、まさか♫ちゃーんと覚えてますよぉ。ヤミお姉ちゃんを元に戻す、…そうでしょ?」

 

メアと呼ばれる少女の瞳が、黒く塗り潰される。

 

「そうだ…。現在の金色の闇では、私の目的を果たす役には立たない。本来の彼女に戻ってもらう必要がある…。そのための方法は一つ…、」

 

「「 金色の闇による結城リトの抹殺……」」

 

鴉とメアの声が重なった。

 

「ですよね?マスター」

 

「わかっているならいい。お前はそのまま彩南高校に潜入し、金色の闇に接触しろ。何かあれば、またこちらから連絡する」

 

「了解♫ふふっ、楽しみだなぁ。やっと、ヤミお姉ちゃんにわたしたちの存在を認識してもらえる」

 

「…そうだな」

 

そこで会話が一度途切れ、屋上に一陣の風が吹き抜ける。

すると今度は、カラスが会話を切り出した。

 

「それとメアよ。この彩南には金色の闇以外にも、なかなか面白そうな人物がいるぞ?」

 

「ヤミお姉ちゃん以外に…ですか?」

 

「あぁ、そうだ。私もまだ姿を見たことはない。だが、今の段階でもヤツを下僕にしてやってもいいと考えている」

 

「へー。めずらしいですね、マスターがそこまで言うなんて…」

 

「たしかに、私自身もそう思う。ただ、ヤツの実績には目を見張るモノがあってな。なんせあの【殺し屋クロ】を撃退した程の実力の持ち主だ。こちらの仲間になれば、私の目的もさらに達成しやすくなるだろう」

 

「っ、!殺し屋クロをっ⁉︎…いやいや、いくらなんでもそれはありえないですよ、マスター。殺し屋クロといえば、わたしやヤミお姉ちゃん、もしかしたら、マスターと同等の戦闘力を持つ殺し屋ですよ?地球人が敵う相手じゃありませんよ〜」

 

「メアよ、私がいつ地球人が倒したと言った?ヤツは十中八九、宇宙人だ。情報によれば、戦闘の際に炎を扱うようだ。おそらく、フレイムの血が流れている。そして確証はないが、()()()である可能性が高い」

 

「っ、……色付き。たしか…、フレイムで王になれる証を持つ者……、でしたっけ?通常色ではなく、青や紫色といった特別な炎を使って戦う、選ばれし存在…。なんでそんな人物がこんな辺境に?」

 

「それは私にもわからない。だがヤツは彩南の守護者と呼ばれ、この町で自警活動を行なっている。ヤツの名前はV。顔を隠す仮面と黒色のスーツ。全身を覆い隠すフード付きのマントを常に身に纏っているため、誰もその正体を知る者はいないらしい」

 

「…彩南の守護者」

 

「遠くない未来、必ず我々と接触するだろう。私もまだVの情報は完璧ではない。お前もヤツについて何かわかったら、私に逐一報告しろ」

 

「了解しました、マスター」

 

マスターと呼ばれるカラスは飛んでいき、暗闇の中に紛れる。

屋上に1人残る赤毛の少女は、ゆっくりとその場から立ち上がった。

 

「ヤミお姉ちゃんに、あさり組のV…。うん、これから楽しくなりそっ♫」

 

彼女の言葉は誰にも届く事なく、風に乗ってどこかへ消えていった。

 

 

◼️

 

 

午前。太陽の光を全身に浴びながら、身体を動かす。

現在は、日課のトレーニング中。

幼い頃は、様々な種類のトレーニングをしていた。

しかし中学2年生の秋頃から、ワンパンマンの主人公【サイタマ】先生が行なっているトレーニングだけに絞る事にした。

理由は、自警活動が忙しくなり、時間が取れなくなってきたから。

 

朝食を食べ、少しの休憩を挟んだら、まずはランニングから。

平日なら車や人通りが多く、何かとうるさいランニングコース。

けれど本日は祝日。つまり、皆んな大好きな休みの日だ。

休日は車も人も少ない、朝早い時間なら尚更だ。

平日とは違い、とても静かで快適に走れるこの時間がとても好き。

 

天候も晴れ。気温も高すぎず低すぎず、絶好の運動日和。

気分が良くなり、ついつい走るペースが上がってしまう。

ペースが早いまま、突き当たりを左へ。

すると一瞬だけ人影が見えて、そのまま誰かと勢いよくぶつかってしまう。

 

(やべっ、やっちまった。調子にノりすぎた…、結構な勢いだったぞ、今。下はアスファルト。もしぶつかった人がご年配の方だったら、大怪我をさせてしまうかもしれない)

 

まずい!と思い、瞬時に行動に移す。

まず、相手の右手を自身の左手で掴む。

自分の右足を一歩前に出し、倒れかけている人の腰に右手を回し、尻もちをつかせないように支える。

咄嗟の事だったので、相手の人を抱きしめるような形になってしまったが、なんとかコンクリートによる怪我だけは回避する事に成功した。

 

「ごめんなさい!私の不注意です。怪我はありませんかっ⁉︎」

 

反射的に謝る。

そのまま支えている人物を確認すると、

 

「…はい、大丈夫です。次からは気をつけてください、朝利吉綱。……あと、ちょっと近いです」

 

少し顔を赤らめた金色の闇がそこにいた。

彼女は少し困惑した表情でこちらを見いてる。

それもそのはず、

俺とヤミの身体はほぼゼロ距離で、顔も近い。

女の子特有の甘い香りがするし、左手には彼女の小さな手と、右手には細い腰の柔らかい感触が伝わってきた。

 

「ごっ、ごめんっ!わざとではないんだっ!」

 

急いでヤミから離れ、謝る。

ヤバい…、俺もリトさんみたいに殴られるかもしれない。

そう考えていると、

 

「はい、わかっています。あなたは結城リトとは違いますので。それに、倒れそうなところも支えてもらったので…」

 

100%俺が悪かったのにお咎めはなしだった。

 

めっちゃ優しい…。

ってか、ヤミって最初から基本的に優しい女の子だったよね。

もしリトさんにラッキースケベの能力がなかったら、普通にヤミと仲良くなっていたのでは?

 

「ところで、あなたはいつものランニングですか?」

 

ヤミは続け様に、そう聞いてくる。

 

「え?…あっ、うん。そうだけど……って、いつもの?」

 

「はい。あなたが町を走っている姿は、前からよく見かけていました。ランニングの邪魔になると思ったので、声はかけませんでしたが」

 

「あぁ、そういうことね」

 

(うっそ…。全然、気づかなかったんだけど…。マジかよ、見られてたのかよ。なんか…、めっちゃ嬉しいんだがっ!つーか、全然声かけてくれても大丈夫なんだがっ⁉︎)

 

狂喜乱舞している内心を悟られないよう、次はこちらから彼女に質問をぶつける。

 

「ところで、ヤミはこんな朝早くからどうしたの?何か買い物?」

 

「いえ、違います。今日は前々から美柑と約束していた、お泊まり会というのをします」

 

心なしか嬉しそうなヤミ。

原作知識をフル稼働させ、(リトさんにたい焼き味噌汁を食べさせた話だ)と思い出す。

それなら、こんなところでヤミの時間を潰すのは申し訳ない。

話を切り上げて、ランニングに戻る事にする。

 

「そっか。美柑っていうのは、ヤミの友達の名前だよね?リトの妹の結城美柑。なら、友達を待たせたら可哀想だ。俺はランニングに戻るよ」

 

「それじゃあ」と手を振り、ヤミを置いて走り出す。

後ろの方から小さく「あっ…」という声が聞こえた気がしたが、たぶん気のせいだろう。

 

 

◼️

 

 

ランニングに戻り、10分ぐらいが経過した頃。

とある交差点で、赤信号に引っかかっていた。

 

ここの信号地味に長いんだよな…。

長年走っている道だけれど、そろそろ心機一転してランニングコース変えてみようかな。

そう考えていると、

 

「あれ?朝利くん?」

 

不意に名前を呼ばれ、振り返る。

そこには、私服姿の西連寺がいた。

清楚だけど比較的動きやすそうな服に、左手には小さめなカバン。

右手に持つリードに繋がっているのは、西蓮寺家の愛犬であるマロン。

近くにある雑草の匂いを嗅いで、小さな尻尾をピコピコ振っている。

 

「あ、西蓮寺。おはよう」

 

「おはよう、朝利くん。朝利くんはランニング中?」

 

「そう、ランニング。西蓮寺は散歩みたいだね」

 

「うん。今日はいつもより涼しいけど、夏は朝早くに散歩に行かないとダメなんだ。アスファルトが熱いと肉球を火傷するリスクがあるし、熱中症で倒れちゃう可能性も高いの。うちのマロンはあまり運動が好きじゃないから、連れてくるのが特に大変で…」

 

「へー、そうなんだ」

 

言葉では大変と言っているが、西蓮寺の表情は幸せそうだった。

マロンの事を大切にしている気持ちが伝わってくる。

 

よかったな、マロン。

こんな良い飼い主と出会えて。

さっきからずっと、ハッハッしてるけども。

さっきからずっと、同じ雑草のところにマーキングしているけども。

全然、落ち着きがないじゃないか。

それでも誇り高きボストンテリアなのか、お前は。

愛くるしいな、おい。

 

「可愛いな」

 

「……えっ!あ、朝利くん⁉︎い…今、何て……」

 

西蓮寺の肩が突然、ビクッと跳ねた。

彼女の言葉から察するに、俺の心の声が無意識もれてしまったのだろう。

 

「あっ、ごめん。でも、凄く可愛かったからさ。無意識に言ってたみたい」

 

「む、無意識で⁉︎そ…、それにまた、か、可愛いって…」

 

西蓮寺は顔を赤くしながら、慌てふためく。

急にどうしたのだろうか。

気がつけば、信号が青に変わっている。

西蓮寺も散歩の途中だろうし、ここでもランニングに戻る事にしよう。

 

「信号が青になったから、俺はもう行くね。マロンもそうだけど、西蓮寺自身も熱中症とか気をつけてね。それじゃ」

 

「……えっ!あっ、うん。また…学校で」

 

西蓮寺はちゃんと挨拶を返してくれたが、その表情にはまだ混乱が残っていた。

本当にどうしたのだろうか。

 

 

◼️

 

 

陽は沈み、夜空で月と星が主張を続けている中、電灯が照らす道を1人ただ歩いている。

現在は家庭の事情で一人暮らしなので、スーパーに食材を買いに行った帰り道だった。

前世で料理なんか一度もした事がないので、最初はとても苦戦した。

でも今では、それなりに熟せるようになっている……と思う。

自分では満足のいく味付けだが、家族にも手料理を食べさせた事がないので、そこら辺はわからない。

 

「あ、朝利だ。こんばんは。奇遇だね、こんなところで」

 

今日はよく声をかけられる日だなと思いつつ、後ろに振り向く。

そこには、コンビニ袋を持ったリトとモモの2人がいた。

私服というよりは部屋着に近い格好で、異様な距離の近さで並んで立っている。

2人とも笑顔なのだが、モモさんからは黒い何かを感じる。

大方、リトさんとの2人っきりの時間を邪魔するな!ってところだろう。

 

「リトとモモか。こんばんは、2人とも」

 

とりあえず、無難に挨拶。

 

「朝利も買い物帰り?」

 

「あぁ。面倒だから、来週分の食材をスーパーでまとめて買った帰りだよ」

 

両手にあるビニール袋を持ち上げ、それなりに詰められた商品たちを彼らに見せる。

 

「おぉ、凄い量!そういえば朝利は、1人暮らしなんだっけ?俺なんか料理が下手すぎて、妹に禁止されているんだ。…あっ、ごめん。妹っていうのはー「結城美柑、だよな?」え?」

 

リトの言葉を遮る。

リトとモモは、予期せぬ言葉に目を大きく見開いていた。

 

「何で知ってるんだ⁉︎」「何で知っているんですかっ⁉︎」

 

2人の声が重なる。

 

そんなに驚くことか?

いや、でも…、まだそこまで仲良くないクラスメイトが、妹の名前を知っていたら気持ち悪いか。

うん、妥当なリアクションだったわ。

ごめんね。今から知っている理由、話すからね。

 

「あー、その、なんだ。俺的には仲がいいと思っているんだが、ヤミとはよく世間話をする仲なんだ。だから知っている。ヤミがよく話すんだ、リトの妹さんの話を。俺は妹さんに一度も会った事はないし、どんな容姿をしているのかも知らないんだけどね」

 

「「な、なるほど」」

 

またしても声が重なる。

仲良いね。

 

「その…いきなり不躾なのですが、朝利さんは、どういう会話をヤミさんとしているんですか?」

 

驚きから警戒する瞳に変化したモモに、本日、初めて話かけられる。

 

「別に大したことは話していないよ。どこのお店のたい焼きが美味しいだとか、うちの学校の校長はどうにかならないのかとか。その中でも、一番多いのはやっぱりリトの妹、美柑の話だね。たった1人の大切な友達だから、自慢したいんじゃないかな?今朝も楽しそうにお泊まり会の事を話してたよ」

 

「今朝っ⁉︎なんでっ⁉︎」

 

モモが困惑しながら叫んだ。

もう殆ど素が出ている。

先程から表情がころころ変わり、ちょっと面白い。

 

「朝にランニングしてたらばったり会ってね。そこで、少し話しただけだよ」

 

「そっ、そうですか…」

 

今度のモモは考え込む顔に変化した。

会話が止まり、何もない時間が数秒流れる。

次に口を開いたのは、何かを閃いた表情をしたリトだった。

 

「それならさ。朝利も今から家に来る?」

 

「リトさんっ⁉︎」

 

予想外の言葉にモモがバッと、隣にいるリトへと振り向く。

 

「えっ、いや…。そこまで仲がいいなら、連れて行けばヤミも喜ぶかなと思って。美柑の事も紹介してあげたいし。何より、女の子ばかりの家に男1人だと、肩身が狭くて…」

 

あははと笑い、頭を掻きながら話すリト。

それに対し、モモはとびっきりな笑顔をこちらに向けている。

その笑顔の裏には、【断れよ】という文字がわかりやすく浮かび上がっている。

 

「誘ってくれたのは嬉しいけど、ごめん。断らせてもらうよ。ほら、早く冷蔵庫に入れたい食品もあるし、もう夜も遅いしね」

 

「さすがに迷惑になってしまうよ」と断りを入れる。

リトは凹み、逆にモモは嬉しそうにしている。

 

「そっか、それもそうだよな。それじゃあ、また今度家に来てよ。その時に美柑の事も紹介するからさ」

 

「その時を楽しみにしてるよ。荷物も重いし、そろそろ帰るね。2人とも、また学校で」

 

会話を打ち切り、2人と別れる。

そして、自宅に着いて冷蔵庫に食品たちを入れている時に、重大な事を思い出し後悔する。

 

(そういえばこの後、リトさん、洗顔クリームを置くために風呂場開けてラッキースケベ起こすじゃん!くっそ‼︎行けばよかったっ‼︎‼︎‼︎‼︎)

 

 

 

 

 

 

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