ラブコメ世界に戦闘系の能力は必要ですか?   作:ふくきたる

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第3話

風紀委員室で古手川にリングを預け、教室に入る。

鞄を机の横に引っ掛けると、超直感が発動した。

場所は校内にある校長室付近。

さっそく現場に向かってみると、そこにはーー

 

「うひょーっ、ヤミちゃんまで我が校に転入⁉︎これで、いつでもペロペロし放題♡」

 

「調子に乗らないでください」

 

制服姿のヤミと涎を垂らしながら喜んでいる校長の姿があった。

校長はいつも通りヤミに近づこうとすると、変身させた拳で殴られ、壊れた机の上でガクリと気絶する。

 

(なんだ、校長なら別にいいか。)

 

さらに、ヤミが転入するという事は原作回だ!と思うと、ヤミが動き出した。

見つからないように、一度距離を離れて姿を隠す。

校長室からヤミが出てくると、一定の距離を保ったまま尾行を開始する。

その理由は、この後すぐにわかる。

管理棟と校舎棟が繋がる外廊下。

そこで2人は、初めて顔を合わせていた。

 

「こんにちは、ヤミ()()()()()

 

「⁉︎お姉ちゃん?」

 

(っ、!きた)

 

ヤミの目の前に現れたのは、黒咲芽亜。

ここでも原作と似たような会話を彼女たちは繰り広げ、

メアが変身を披露し、ヤミを動揺させる。

その後、メアは楽しそうに笑みを浮かべ、その場から去って行った。

ヤミは一歩も動かずに立ち止まっている。

顔が少し俯いており、微動だにしない。

こちら側は彼女の背中しか見えないので、表情はわからない。

それでも数分後、ヤミの顔が上がる。

そのまま歩きだし、校舎棟へと入って行く。

 

(あれがメアの変身。初めて見たが、やっぱりヤミの変身とそっくりだ…)

 

黒咲芽亜。個人的にトップクラスの要注意人物。

一番怖い能力は、精神との接続。

もし仮にその能力を使われてしまったら、俺がVである事もあっさりメアにバレるし、前世の知識も見られてしまうかもしれない。

彼女には、あまり近づかないようにしようと心掛ける。

 

目的の一つであったメアの変身が見れて、とりあえずホッとする。

もうすぐ朝のHR。

教室に戻ろうと思うが、視界の端で中庭にあるベンチを捉えていた。

謎の力で吸い寄せられるように座ると、突如として睡魔に襲われる。

 

あー、なんか急に授業が面倒くさくなってきた。

ここから動きたくない…。

…べつにいっか。一時間目ぐらいサボっても。

昨日も夜遅くまで、自警活動頑張ったし。

睡眠時間はちゃんと確保しないと、健康に悪いからな。

 

適当な理由をつけてサボる事を決めると、さらに睡魔が増す。

朝日に照らされ、程良い陽気の中。

徐々に重たくなる瞼に逆らわず、ゆっくりと瞳を閉じた。

 

 

◼️

 

 

「ーさい」

 

…?なんだろ?何か聞こえる。

 

「ーきなさい」

 

まただ。

誰かの声が聞こえてきたと同時に、身体が揺れている感覚がする。

 

「いい加減、起きなさいっ!」

 

「……へっ⁉︎…え、なに?なにごとっ⁉︎……あれ?古手川?」

 

大きな声が聞こえ、思わず飛び起きる。

寝ぼけ眼で周囲を確認すると、

目の前に腕を組みながら仁王立ちをしている古手川が俺を見下ろしており、隣にはいつの間にかヤミがベンチに座っていた。

すると視線に気付いたのか、彼女と目が合う。

 

「おはようございます、朝利吉綱。隣にお邪魔しています」

 

「えっ…あ、はい。お邪魔されています?」

 

なんだ、この状況?

寝起きだから頭がまだ働いていない。

そんな中でも、一つだけ。たった一つだけわかる事がある。

それは…、

目の前の古手川がとても怒っているという事だ……。

 

「朝利くん!あなたね、無断で授業をサボっちゃっダメだって、いつも言っているでしょ⁉︎」

 

お説教が始まった。

古手川の様子からして、今回は長くなりそう。

そう思っていたのだが、思わぬ形でお説教は中断される。

 

「最近は遅刻もしないで、ちゃんと学校に来てるから見直してあげたのに。登校しても授業に参加しなくちゃいm「古手川唯…、少しいいですか?」え?」

 

ヤミが古手川の話を遮ったのだ。

古手川も驚いた様子で、ヤミに視線をぶつける。

 

「あっ…。ごめんなさい、ヤミちゃん。少しうるさかったわよね?」

 

「いえ、そういうわけではありません。ただ…」

 

歯切れが悪そうに答えるヤミ。

古手川もそれにすぐ気付き、優しく問いかけていた。

 

「どうしたの?…何だか元気ないみたい」

 

「おかしな事に…自分で自分の心がわかりません。ヘンですよね…自分の心なのに」

 

ポツリポツリとヤミが話し出す。

古手川は一度だけポカンとした顔になるが、少し恥ずかしそうに頬を掻きながら口を開いた。

 

「…何か悩んでるみたいだけど…、自分の心がわからないなんて、普通のことなんじゃないかな。私もそうだもん。自分でもよくわからない気持ちに、いつもふりまわされている…」

 

「そういうものですか…?」

 

「ん…たぶんね。だから…、1人であまり思いつめない方が、いいと思うな」

 

古手川の言葉でヤミの表情は少しだけ明るくなる。

 

百合…の空気感ではないが、何となくいい雰囲気だな、この2人。

意外と相性がいいのかもしれない。

つーかモモの時もそうだったけど、ここのベンチに座っていると、除け者にされる確率が高い。

いや…、よくよく考えると、今までの学校生活も除け者扱いされる事が多かった。

全員リレーなのに俺の名前なかったり、文化祭のクラスTシャツとか、皆んなあだ名とかなのに俺だけ苗字とか、そんな感じの出来事がめっちゃあったわ。

普段通りだったわ、うん。……泣きそう。

 

「朝利吉綱…、あなたはどうなんですか?」

 

突然、ヤミが振り向いて尋ねてくる。

 

「…え!俺っ⁉︎俺にも聞くの?」

 

「はい。あなたにも聞きたかったので、起きるまで待っていました」

 

「あっ、そうだったの?べつに起こしてくれてもよかったのに…」

 

ヤミが隣にいた理由が判明したが、これは予想外。

小・中学校での出来事を思い出して凹んでいたから、特になにも考えていなかった。

何か捻り出さなくては…。

 

「えーっと、…そうだね。ほとんど古手川と同意見って感じなんだけど……」

古手川がジト目で見つめてくる。

「それじゃあ、意味ないですよね。はい、わかってます」

 

わかってるから睨むのやめてもらえますか?古手川さん。

考えるためのちょっとした時間稼ぎだったんです。

ちゃんと思いついたんで。今からしっかり話しますんで。

 

咳払いを一つ入れる。

姿勢を正し、ヤミの目をしっかりと見て、喋る。

 

「その…、さっきの古手川の話に少し付け足すとなると、それが人間だからって感じかな」

 

「…人間?」

 

「そう、人間。色々な経験をする度に、そこで様々な喜怒哀楽が生まれる。その経験を乗り越えて、少しずつ強くなっていく。それが人間の本質なんだと、俺は思ってるんだ。あまり要領を得ない話だけど、俺の意見はこんなところだね」

 

話し終えた後、ヤミの表情は何とも言えないモノになっていた。

うーん、それどういう感情?

真面目に本音で語っちゃったから、凄い恥ずかしいんだけど。

 

「そう…ですか」

 

「まぁ、それはあくまで俺の意見だから。古手川も言ってたけど、1人で考えないでもっと他の人にも聞いてみたら?ほら、友達の美柑とかにもさ」

 

「美柑…。そうですね、彼女にも聞いてみる事にします」

 

美柑という言葉を聞くと、ヤミの表情は再び少しの明るさを取り戻した。

 

危ない、危ない。

俺の意見のせいで、また悩ませてしまうところだった。

ヤミの親友である美柑に感謝しなくては。

 

心の中で反省していると、外廊下の方から少女の声が聞こえた。

そこにいたのはナナだった。

 

「あ…ヤミとコテ川と、…アサヒ?だ」

 

(惜しい、朝利だ。そんなスーパードライな名前ではないよ)

 

脳内でナナへと的確にツッコミを入れる。

 

「ナナちゃん、どうかしたの?」

 

「ちょっと友達を捜してるんだ。なぁヤミ、メアの奴見なかった?さっきから姿が見えなくてさ」

 

その言葉を聞いた瞬間、ヤミの目が一瞬で黒く濁った。

そこからヤミの行動は早かった。

「失礼します」と律儀に挨拶をしてから、全速力で校舎の中に入って行く。

 

その時、神様は俺に微笑んでくれた。

状況を説明すると、先程までベンチに座っていたのは、俺とヤミの2人。

俺の目の前に立っているのが古手川。

ヤミは瞬時に立ち上がり、俺と古手川の間を抜けるように走り、校舎に向かった。

【伝説の殺し屋】と謳われるほどの実力を持つヤミ。

もちろん、身体能力だってとても高い。

そんな彼女の全力疾走だ。突風が舞うのは必然だろう。

もうおわかりだろうか。

そう、古手川のスカートがふわりと浮かんだのだ。

俺はその瞬間を見逃さなかった。

一瞬だったが、ひらりと現れた彼女の白い下着に目を奪われる。

 

(おそろしく速いパンチラ、オレでなきゃ見逃しちゃうね)

 

古手川はそれに気づいていないのか、平然とナナに話しかける。

 

「…ヤミちゃん、行っちゃったわね」

 

「…急にどうしたんだろうな。でも、捜しに行ってくれたみたいだし、あたしも、もうちょっとだけ探してみるよ。またな、コテ川、アサヒ」

 

手を挙げてから、笑顔で去ろうとするナナ。

それに対し、古手川と俺は各々返事をする。

 

「えぇ、またね」

 

「惜しい、俺の名前は朝利。烏野高校のエースと同じ名前じゃないよ」

 

今度は、しっかりツッコミを入れた。

あと古手川さん、一度くらい俺の名前を指摘してくれてもいいんですよ?

 

ナナもいなくなり、古手川と2人だけになった。

ベンチから立ち上がると、古手川が近寄ってくる。

 

「…あなた、ヤミちゃんと仲が良いのね」

 

「ん?そんなに意外?俺とヤミが知り合いなのは」

 

「いやいや、あの距離感は知り合いってレベルじゃないわよ。あなたの意見を聞きたいからって、わざわざ起きるまでずっと待っていたのよ?あのヤミちゃんが」

 

「え?ごめん、なんて?小さくてよく聞こえない」

 

「な、何でもないわよっ。なんでも!」

 

「アッハイ、そうっすか…」

 

ボソボソ喋ったかと思ったら、今度は怒られる。

どこかの原作回でリトも言っていたが、古手川はやっぱり難しい。

 

「でも、…その、…あ、あなたが学校で、特定の人と仲良くしているところは、見かけた事がなかったから…」

 

ははーん、なるほど。

つまり、古手川は俺をぼっちだと思っているのですね。

でも古手川さんも、人の事とやかく言えないんじゃないですかぁ〜?

そういう古手川さんも、お友達は何人くらいいるんですかぁ〜?

…………いや、待て。

そういえば、古手川って案外、他の風紀委員の生徒たちと仲良くしているところ見かけた事あったわ。

ごめんなさい、僕の完全敗北です。

 

「まぁ、そうだね。この学校で俺が友達と呼べる人って、古手川ぐらいしかいないし」

 

「えっ!わ、私⁉︎」

 

とても驚かれてしまった。

心なしか、彼女の頬が赤くなっているように見える。

 

「…え。俺たちって、友達じゃなかったのか……。一年生の時に一緒にいる事多かったから、友達だと思ってた……。連絡先だって知っているのに…。え?…仲良くなれたと思ってたのは俺だけ?…マジか…、友達の定義がわからん………」

 

凄いショック。

高校に入学してから2年連続で同じクラスだし、リング争奪戦もした仲だ。

実際は、古手川にリングを預けるか•預けないかの二択なだけだが。

それから会話する事が増えたし、学校生活が楽しくなっていた。

でもそれは俺だけで、どうやら古手川は違うみたいだ。

 

その場に膝をつき、四つん這いになって落ち込む。

 

「え!そ、そんなに落ち込むのっ⁉︎と、友達!私たちは友達よ。友達だから、早く立ち上がって‼︎」

 

無理矢理言わせた感が強いが、古手川が友達と言ってくれたのでゆっくりと立ち上がる。

古手川の表情はまだ赤かった。

前世を含め、人生初の友達は古手川なんだなと思っていると、校舎に付いている時計が視界に入った。

もうすぐ休み時間が終わりそうな時間だったので、話題を急遽変更する。

 

「そろそろ教室に戻ろう。休み時間が終わりそうだ」

 

そう口にすると、古手川は「あっ!」と何かを思い出す。

表情はどんどん怒りへと変わっていき、

 

「朝利くん、あなたね!」

 

この言葉から始まり教室に到着するまで、彼女のお説教はずっと続いていた。

 

 

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