迷子の星、遠い過去 作:実力派ぽんこつ
白くて、無垢で、純粋で、華聯で、
そういった「少女」に向けられるであろう言葉たちがよく似合あったこの星は、
何時から存在していたかすら分からない程に永くの時を歩んできた。
特段活気があるわけではないし、裕福であるわけでもなく、兵力があるわけでもない。
ただ、快適な気温と、白い街並みと、ほどよい花畑と、のほほんとした人たちと。
そして、彼ら彼女らの傍には常に様々な形をしたトリオン兵....否。
人々の傍には、あるいは人がいないところにも無数の"機構"が居た。
それは人間の体内、心臓の近くに存在する不可視の器官より生成されるエネルギーを糧に動く、
兵とは程遠い穏やかな物だった。
それらは様々な役割があり、介護を行う機構や、純白の時計塔を掃除する機構
買い物で増えた荷物を持つ機構に、釣りを手伝うわけではないが釣りの時に同席する機構
特に何かができるわけでもないが、ひたすら必死に頭の上にしがみつくだけの可愛い機構。
本来は兵器に使われるであろう技術を、ただただ平和に、無駄に、あるいは有意義に、何であれコンパクトに詰め込んだ"機構"はその星の至る場所に散りばめられていた。
"機構"とのほほんとした人々の力によって、裕福では無いながらも充足した人生を謳歌していた。
その星は、元の美しさを喪い、見るも無残な死の星となってしまった。
とある大国が作った新型兵器のテスト場所として選ばれてしまったから。
ただそれだけの理由で、美しき町は風化し、一切形を崩さぬままに、全ての人々を喪った。
親を、主を、友を喪った機構たちは保有トリオンが尽きた者たちから順次活動を停止していき、
残ったのは
それは、唐突に訪れた。
1-13-2にて"
1-13の皆様は速やかに地下シェルターまたは強固な建物に身を隠してください
関係省庁が安全を表明するまでは身の回りにある最も安全な場所に隠れ、トリオン製の刃物またはそれに準ずる武器になりうるものを携帯していてください!
繰り返します! 1-13――
家に帰る途中の私の目の前に、いきなり異界へと繋がる穴が開いた。
何十年も、ただのトレードマークに成り下がっていたサイレンが、
稼働しない事を求められたサイレンが、今その存在意義を改めて再確認させようとしている。
そんな中、私が恐怖か混乱かどちらかはっきりしない感情でフリーズしていると、何かが穴から這い出してきた。
「はぁッ!はあっ!ぜっ、はっ、なんッ、で、はっ、はッ....」
私は命からがら逃げ隠れた。 あのクモのような機構はとんでもなく狂暴で、目に付いた物も人間も見境なくその前足で切り裂いていった。
私が逃げられたのは、私を庇って壊れていった機構と、私を守ってくれたおじさんのおかげだった。
私は生まれつきトリオンが多いから、だからなのかな。
周りの人より優先的に狙われた気がする。
そんなことよりも早く子供たちの所に行かなきゃ
早く、はや―――
3-51-13にて"
ッ!
11-7-7にて"
38-3-19にて"
44-2-4にて"
32-62-1にて"
18-7-2にて"
26-10-10にて"
8-7-2にて門発―6-10-10に―47-2―
とめどない警報の濁流が、クモの濁流が星を包む。
「やだッ、なん」
「なんッ、はっ、はッ....」
「アルッ、アルのとこに行かな――
―――――――影が、差す。
――――ひっ」
「待って、待って」
クモは彼女に向き直る。
「違ッ、うの、違うの!」
「おっきな声出してっ、ごめっ、なさッ!」
クモは自慢の前足を振り上げる。
「だから許して、待って、ごめ――――
鮮血が舞う。
美しき白い都市に、鮮やかな赤色が舞う。
この1区のかわいそうな女性だけではない。
47地区全てに膨大な量のクモが雪崩込み、蹂躙していく。
それは、4区大文庫と呼ばれる店が売り出していた「世界の機構」シリーズの「戦う機構たち」の中の「モールモッド」と呼ばれる
残されたのはたった一人。
否、1機だけとなった。
"彼女"の住まう場所が地下にあったからなのか、
それとも多くの人が命を懸けて守ったからなのか。
どちらかは分からないが、何であれ"彼女"は生き延びた。
何年隠れたか分からない。
何年
"彼女"は、愛した民を一人残らず失ってしまった。
侵攻してきた"機構"の直接的な攻撃によって死んだのはせいぜい7割ってとこだろう。
しかし、残された国民は最早死を待つしかできなかった。
最早生命を支えるライフラインに生き残りなど存在せず、
物言わぬラジオに何もよこさない蛇口、荒れ果て血のしみ込んだ畑。
そして何よりも、散り散りになり集まる事が出来なくなった生き残りたち。
そして数年後、星からは光も闇も失われ、音も風も水流も失われた。
マザートリガーにより制御されていた自然現象は止まり、全てが風化する事すら許されず、
ここに永遠に囚われる事が確定した。
星に、"彼女"に、白に。
死神は、手を振っている。
もう何年経ったのだろうか。
この星は二度と光が差さないと分かっていながらも、非常用備蓄トリオンを自身に、
小規模な星にしては人が多かったからこそなんとか、私一人ぐらいは維持できるだけの備蓄があった。
本来は大飢饉などに対応するための物資で、各家庭にも政府主要機関にも、ここ
だが、それももう終わりだ。
なるべく
私と
残りは7.216%、誤差±0.001。
――――私には、3つしか選択肢がなかった。
この星の後を追い、全ての活動を停止し、永遠に常闇の世界を彷徨い、いつか崩壊し、いつか近界の
あるいは、侵略するか、
あるいは、どこかの星に頼るか。
一つ目は、ありかもしれないなって思った。
愛するみんなと一緒に眠るのは、多分悪くないんだろうなって思う。
私は、みんなを守れなかったけど、それでもこの国の
私は、みんなと運命を一緒にする義務がある...と思う。
二つ目は、やりたくないけどできる。
私は、この星が滅ぶ直前、施設の
本来、1人で作るべきものを、複数人で。
異なる生まれ、異なる見た目、異なる性別、異なる身長で。
お姫様になりたかったあの子も、勇者になりたかった彼も。
この星の歴史に一度も存在しなかった黒。
この星の上澄みたちの命とトリオンと愛を注ぎ込んで作った黒。
この黒は、多分他の星を飲み込めるから。
三つ目は、あり得ないと思ってた。
つい、さっきまでは。
私は、ふと....ただの思い付きで、自身の命を削る事をしたんだ。
私が好きな
私は、迫りくる終わりから目を逸らしたくて、惑星図を展開した。
最高精度で。
当然最高精度設定なのだからトリオンを膨大な量を消費する。
私の命が、一秒立つごとに削れていく感覚がする。
7.211%....7.206%.....
少しだけ幻想的な風景に現実逃避していたのだけど、ふと、ふと気になって私の星の位置を調べてみたんだ。
近い。
近いんだ。 玄界に。
しかも、このコースなら105日後に最接近し、なんとか門を開けると。
私の心に、最早何百年ぶりか分からない火が灯った。
私の使命は決まった。
ああ、今日だ。
私は、残り7%ちょっとしかない残存トリオンの内の半分....と言っても、トリオン4の人換算で20と数人分のトリオンを、門生成装置へとつぎ込んだ。
もう、引けないところまで来た。
例え何が起きたとしても、私は玄界に行くし、行かなければならないし、行くしかない。
神となったお姉ちゃんは死んだし、備蓄トリオンを供給する私もいなくなるから、
でも、私は死なない。
私が次の神を見つけてあげれば、
私が止まらない限り、この星は死なない。
―――私は、
私は機械だ。
私は機能停止するまでこの
また、会おうね。