迷子の星、遠い過去 作:実力派ぽんこつ
短い浮遊感の後に、地に足を付ける感覚がした。
.....光だ。
風だ。
匂いがする。
音が聞こえる。
黒と灰色しかない世界に慣れたこの体に、溢れんばかりの刺激が襲い掛かる。
久々に受ける刺激は痛みに近しい物であったが、その痛みは決して苦痛ではなかった。
「......綺麗」
私は、数百年ぶりに見る光に目を奪われていた。
足元、数百メートルは下にある、キラキラと輝く瓦礫の山。
少し目を動かせば、目を焼かんとするほど明るい居住区。
道と思われる構造物には等間隔でトリオンを使用しない光源が使用されており、
人を乗せ動く箱のような機構も散見される―これもまた、動力はトリオンではないらしい。
私の持つ常識、トリオンに依存しきった世界とは何もかもが違う。
これが、
「いい景色だろう。」
驚愕。
トリオンレーダーは間違いなく最大強度で動かしていたはず。
「ッ!誰!」
「私は....そうだな、私が何者であるかは今はそこまで大切ではない。」
「ただのしがない管理職だと名乗らせて頂こう。」
「それより君だ。」
「君は何者だ?」
「.....私は、機構。 あなたたちの言葉で言えば、自立型トリオン兵。」
「そして、私は冠トリガー。」
「これでいい?」
「君の名前は?」
「あなたがまだ...いや、いいや。」
「私はツヴェトーク。」
「あなたは?」
「ふむ...」
「君に攻撃の意思がないなら答えよう。」
「....私にはもう、トリオンがほとんど残されていない。」
「戦闘後に十全な活動を行えるほどのトリオンはない。」
「だから、意思云々じゃない。 できない。」
「そうか。」
「それはトリオンを何らかの手段で補充出来ても、か?」
「....私が戦闘行動を取る事は、星のみんなが最後まで嫌がった。」
「だから、私は戦いたくない。」
「そうか、嘘でないのならいいんだが。」
「不安なら、拘束でも何でもしてくれて構わない。」
「解析するならぜひしてほしい。 私の星を知る人を増やしたいから。」
「知る人、とは?」
「....私の星は滅んだ。」
「どの星かは分からない。」
「600とちょっとかな、大昔に他国に攻め込まれた。」
「まだ当時はモールモッドが最新鋭だった。」
「多分実験台だったんだろうね。」
「星の全域を埋め尽くさんとする
「
「ただただ、殺し壊し、一つも奪わずに帰って行った。」
「....そうか。」
「そう。」
「そして、国民は死滅した。」
「....もともとは美しい星だった。」
「その美しい星を、取り戻したい......は出来ないから、せめて知る人を増やしたい。」
「もう、あの星を知るのは私しかいないから。」
「...なるほど。」
「攻撃の意思がない事を信用しよう。」
「私は、忍田真史と言う。」
「シノダ、覚えた。」
「先ほど管理職と言っていたけど、それは?」
「君の足元にある建物。」
「界境防衛期間、ボーダーと言う組織の本部でね。」
「まあ雑に言ってしまえば、君みたいに
「私はそこの本部長をしている。」
「ボーダー....防衛組織。」
「つまり、あそこら辺の人たちから攻撃される、と言う事?」
「ボーダーも一枚岩ではない。」
「私を始めとする、必要最低限の戦闘に重きを置いた中立派」
「ここの最高司令官を始めとする、
「門から出てきた者たちに率先して手を差し出す少数精鋭の穏和派」
「君は、今まさにその強硬排斥派と中立派に狙われている。」
「私の権限で抑えてはいるがね。」
「...さて。本題に入るが。」
「君に攻撃の意思が無いのであれば、私は条件を付ける事になるが君を守る事が出来る。」
「もちろん衣食住も、トリオンの供給もだ。」
「そっか。 ありがと。」
「条件、聞いてもいい?」
「ああ。」
「まず、現時点で二つ、君を匿う上で問題がある。」
「まず一つ。君は一目見て人間ではないと見分けがついてしまう。」
「であるがゆえに、留学生であると言ったごまかしが通用しない。」
「つまり、組織規模での改革が必要であり、それには数年と膨大な資金が必要だ。」
「それに見合う対価が必要だ。」
「二つ目は個人的なものだが、先ほど言った内容にはとんでもない量の事務作業が必要でな。」
「これもまた、それに見合う対価が欲しい。」
「.....率直に言えば、個人としても組織としてもなるべく帰って欲しいと言うのが本音だ。」
「しかし、それを実現するトリオンが無い、と言う事なのだろう。」
「さらに戦闘行動も行いたくないと言う。」
「であるが故に、私は」
「一、君に使われている技術全ての解析。」
「二、君の兵装のロック権限」
「これらを求める。」
「異論はない。」
「好きに検査してほしい。」
「ただし、今稼働している機能を重要度で5等分する。」
「重要度ごとに1分、1時間、1日、1週間、1か月以上の機能停止に陥らない形での検査のみにしてほしい。」
「同程度、またはそれ以上の代替機器が存在する場合は1か月以内に元のパーツが戻ってくるのであればいい。」
「兵装ロックに関しては、その権限を持つのがシノダ個人であれば。」
「承知した。」
「では、最後に。」
「君が問題なく活動するためにはどれぐらいのトリオンが必要だ?」
「容量は100、現在2、全てを十全に動かすなら常に25は必要。」
「そうか。」
「城戸指令。」
『許可出来ない。』
「なぜ?」
「私はシノダの条件を飲んだ。」
『結論から言ってしまえば、君はトリオン兵に過ぎない。』
『制御権ではなく、あくまでもロックの権限と言うのであれば、リスクがリターンに見合わない。』
『故に、こちらからはフルアクセスを要求する。』
「.......」
「なら、交渉は失.....「うおおおおおお待て待て待て!!!!!!ダメだ早まるな!!!!!!!!!!」
「....誰?」
「俺は迅、そんなことはいい」
「城戸指令、申し訳ないですがこの取引は我々ボーダーの利益過多で可決です」
『....理由を聞こうか。迅。』
「彼女は、はっきり言って強い。」
「それこそ、彼女がやる気になってしまえば風刃を装備した俺と太刀川隊が
最高のコンディションで攻撃しても、なんとか腕一本持って行けるかどうかです」
「それも恐らくはほとんど有効打にならない。」
「これは保護なんかじゃない」
「我々ボーダーと言うこの星の防衛機関と、小国とは言え一国の軍事力そのものの取引なんです」
「仮に彼女が万全ならこちらが頭を下げる側です」
『....』
「彼女は、あなたの計画に間違いなく役に立ちます。」
「それも、絶大に。」
『...良いだろう。』
『忍田本部長。 先の条件に異論は?』
「異論ありません。」
『ではここに、忍田真史本部長と城戸政宗基地司令の名で、トリオン兵 個体識別名ツヴェトークに対し、以下の2つを保証する。』
『一つ。安全の保障。』
『三つ、安定したトリオン供給の保証。』
『また、十分な知性を有していること、外見が人間に類似していることから、
S級隊員として本部戦力に加え、非常時の予備戦力並びに演習要員とする。』
『対価はトリオン兵 個体識別名ツヴェトークに使用された全ての技術の開示と、
兵装のロック権限。」
『異論がある者は?』
「予備戦力.....まあ、しかたないか。」
『宜しいでしょうか。』
『根付メディア対策室長、どうぞ。』
『まず結論から言うに、いくらなんでもリスキーすぎると私はそう考えます。』
『もし仮に迅が言う事が全て本当だとすれば、仮に彼女が裏切った時に対処できる人員が居ません。』
『さらに、現在本部屋上にいる隊員たち全員に緘口令を敷いたところで情報漏洩を回避できるとは思えない。』
『つまり、門の奥から来たトリオン兵を匿っている事がボーダー内部、果てには民間人にまで流れる可能性があります。』
『そうなった場合、信用問題は避けられません。』
「失礼。」
「この会話を聞いているのは我々だけです。」
「狙撃手たち、並びに他の隊員には音が届いていません。」
「であることから、A級隊員及びこの場に居る隊員には同盟国メソンの自立型トリオン兵、
B級、C級にはボーダーの試作トリオン兵と言うカバーストーリーを流布すればいいかと。」
「また、裏切りに関しては、それをするメリットが彼女にはないように見えます。」
『.....了解しました。』
『納得はできませんが、そのように。』
『では只今を以て、トリオン兵 個体識別名ツヴェトークに対する一切の先制攻撃を禁止する。』
「では改めて挨拶をさせてもらおうか。」
「私は忍田真史。君の所属するボーダーの本部長を務めている。」
「俺は実力派エリート迅悠一。 よろしくな」
「私はツヴェトーク。 乱星国家ツヴェトークの冠トリガー兼自立型トリオン兵。」
「ありがと。」
黒を呼ぶ声はまだ聞こえていませんね。