憎珀天が操る5匹の石竜子が暴れながら塵となって消えていく。同時に憎珀天も憎んだ表情を浮かべながら消えていく。つまり、炭治郎たちが本体の頸を斬ったということだ。
そのことに気付いたのか、俺と共に闘っていた柱の女は目に涙を浮かばせながら喜んでいる様子が見える。
「はぁ…」
ため息をついた途端、身体中に縛り付けられるような強烈な苦しさが襲ってくる。そして脳内に鳴り響く、無惨様の声。
【裏切ったな?】
「う……っ、がぁ…」
どこか分かっていた。逆らったり自分の意思通りままに動いたりしたらこうなることを。
【上弦の参に推薦された鬼…だからこそ期待していたのだが…お前には失望した】
なんでだろうな…無惨様から信用が失ったはずなのに、信用を取り戻そうとする気が湧かない。
ずっと、何かが"違う"と感じてた。納得できそうで納得できないまま、動いていた。
【匪砕、戻ってこい、匪砕……匪砕!!】
「はぁっ…はぁっ…はぁっ……ぐ…っ!」
手を自分の脳に突っ込んだ。グチュグチュと音を立てながら脳ミソの中でイジる。
「ゔ……あ゛ァ゛…ッ!!」
より強烈に苦しさと痛みが襲ってくる。それでもイジる手は止めない。
【匪砕!!匪砕!!匪砕っ!!!】
獣の咆哮のような声が響く。頭がいてぇ…。
うっせぇ…
うっせぇ…っ!
汚ぇ声で俺に話しかけんな内弁慶がッ!!!
ブチィッ!!と"ナニカ"が取れた気がした。同時にあの汚ぇ声が聞こえなくなった。
ああ…こんな静かな脳内はいつぶりだろうか。今まで随分長らく雑音を聞いていた気がする。
その"ナニカ"を取れたからだろうか。プツンと糸が切れたように何も考えられなくなり、視界が回転していく同時に暗くなっていった。
ガタン…ゴトン…と音を立てながら自分の身体を微かに揺らす。自分の身体を揺らしているのはなんだろうか。身体を起こしてみたらトンッと天井らしきものが俺の頭にはぶつかる。天井にしても低い。しかも周りに何かが囲まれており、狭かった。出口は何処だと手当り次第で押してみれば微かに動いたものがあった。そこが出口なのかと押してみれば、一筋の縦の光が現れた瞬間、顔に灼けるような感覚がして思わず後退りした。
「うっ!」
この狭い空間だ。すぐに閉じたのはいいものの、逃げ場が狭すぎる。
「大丈夫か!?」
外側から少年の声がする。この声は確か…
「耳飾りの少年か…」
「ああそうだ。驚かせてすまない。今、君がいるのは箱の中なんだ」
箱の中?なんで俺が箱の中に入れられているんだ?
「俺を箱の中に入れてどうするつもりだ?生け捕りか?そんなことしたって無駄だ」
「違うんだ!君に太陽に灼かれてしまわないようにするためなんだ」
「……何故こんなことする?俺はお前らを襲う鬼なんだぞ?」
「……でも…」
この時、その少年の声がいつもより低く、悲しさを含んだような声だった。
「君から悲しさと怒りの匂いがしたから」
…………は?
「悲しさ?怒り?匂い?何言ってんだ気持ちわりぃよお前!」
「俺な、匂いに敏感で人の気持ちが分かるんだ」
「…俺は悲しくなんかねぇ!怒ってんのはテメェのせいだ!夜になったら覚えとけ!!必ずテメェをぶっ殺してやる!!」
そうだ、騙されるな。コイツは偽善者だ。優しさで騙し、後は酷いことする。そうに違ぇねぇ!
「……そうか、君は騙されたんだな…」
「…………あ?」
「君は誰かに騙されたから怒っているんだろう?」
……なんだそれ。お前が俺に何が分かる?俺のこと何も知らねぇだろ?
「うるせぇ、もういい」
耳飾りの少年の声がする方に背を向けて寝転がる。まだ怒りが収まらない。それだけじゃない。ずっと、ずっとずっと、何十年も消えない怒りがいつまでも消えずにいることが腹立っててたまらねぇ。
《……………………》
《…………まさ……》
……誰の声だ?
《…………よしまさ…》
よしまさ?…誰だ?
…………でも…なんか……
あったかい…
誰かに頭撫でられたような感覚したのを気付けば、そっと目を覚ます。視界には木で作られた天井に、桜色の髪をした少女。その少女は自分の方を見て、笑顔を浮かべた。
「あっ、起きた?」
この女は確か…と記憶を探ってみれば、半天狗と闘う時に共に闘った柱の女だったのを思い出す。
……先程から何かが乗せられたような重みを感じる頭に疑問を持つ。頭…この女は俺の頭の方へ伸ばしてる…。
「…………」
撫でられてることに気付けば、反射的に女の手を強く払った。そして、部屋の端っこに避難するように背を壁につけながらその女を睨んだ。
「触んなッ!!」
そうすると、女は涙目を浮かばせながら怯えていた。
「ご、ごめんねっ!勝手に触ってて……でも、私に弟がいたから癖で…」
「あ゛?」
すると、戸が開く音がして、その音がした方へ見やれば、髪に蝶々の飾りを付けた女だった。
「誰だてめぇ?」
その女の方にも睨んでやれば、この女は何も思わなかったように笑みを浮かべる。先程俺を撫でていた女はその女に向かって「しのぶちゃん!」と叫んだ。
「目が覚めたんですね。あなたはここに運ばれたのです」
「何のためだ?何のために俺をここに運んだ?」
「そうですね…それは後になって分かるかもしれませんね」
何言ってんだコイツ。絶対俺を何かするかもしれねぇ。
「あ、あなたに危害を加えるつもりはありませんのでご安心してくださいね!」
「それじゃ安心できねぇよ!」
「あら、それは残念ね…どうしたら信じてもらえるのでしょうか…」
「俺は何もかも信じねぇ、てめぇもだ」
「そうですか…あまり手荒なことはしたくなかったのですが…」
「あ?」
手荒なこと?と気になった瞬間に、いつの間にか蝶々の女がこちらに近付いたかと思いきや、視界が突然暗くなってしまった。
…ざわざわと聞こえてくる。意識が浮上すると共に言葉が次第に聞き取れるようになってくる。
「……この鬼斬るしかねぇだろうがァ」
「私も斬るべきだと思う〜」
「ちょっと莉々愛!?」
「で、でもっ!一緒に闘ってくれたのよ?」
「甘露寺の言うことは信じたいが…」
「南無…様子を見ることにしよう」
「僕も…直接見たわけではありませんが…」
「そ、そうですね、様子を見ることにしましょう!」
「あっ、皆さん、起きたようですよ」
先程の頭に蝶々の飾りを付けた女によって複数人の目が俺の方に注目する。斬るとか言ってたのも自分のことを話していたのだろう。重い身体を起き上がり、向き合うように胡座をかいてやる。
「まず…あなたの名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
「…匪砕だ」
「匪砕さん…途中から私たちの味方になってくれたようですが…本当に私たちの味方になってくれるんですか?」
味方…?何故、そう言えるのだろうかと思いながら玉壺が見つけ出した刀鍛冶の里での出来事を思い返せば、確かに自分の手で半天狗を攻撃した。あの時は鬼殺隊に情が湧いた訳でもなく、自分の怒りの矛先が半天狗に変わっただけだった。
「……ハッ、味方だなんてよくもまあ綺麗なことを言いやがるなあ?馬鹿馬鹿しくて笑っちまうわ」
「あぁ?なんだとォ?」
「風柱サマ待って〜!!」
「この俺に信用しようがしないかはどうでもいい。俺には俺のやりてぇようにやらせていただくぜ」
「…あなたのやりたいこととは何ですか?」
再び蝶々の女に問われれば、「そうだなあ」と肘を自分の膝につき、頬杖をする。そして、怪しげな笑みを浮かべる。
「色々あるが…気に入らねぇ鬼をぶっ潰す。それが今の俺のやりてぇことだ」