匪砕という鬼   作:炎雷神

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第2話 狂ってやがる

「あら良かった!」

「……………は?」

 蝶々の女が笑みを浮かべながら手を軽く合わせた。…なんかその笑みを見てると気持ち悪ぃ。

「私たち鬼殺隊を倒すことでしたらあなたの首を斬るところでした…でも、理由は違えど鬼を倒すことの目的は変わりませんからね」

「…言っとくが、お前らとは組まねぇぞ」

「分かってますよ。その代わり…あなたの力を少しだけ貸していただけませんか?」

「ハッ、嫌だね、鬼の力を貸すなんてこの鬼殺隊狂ってるだろ」

「あなたにどう言われようが結構です。何故ならこの場にいる、鬼の血が入っている女性の方がいらっしゃいますから」

 すると、首の周りに大きめな数珠を付けた大男からひょこっと素色の髪をした少女が無邪気な笑みを浮かべ、手を振りながら名乗った。

「僕、霜原凛音だよ〜!」

「……なんだ、アホチビか」

「…………はぁっ!?!?」

 鬼がいると聞いて、どんなヤツかと思いきや、このアホらしいチビが鬼だなんて馬鹿馬鹿しくて笑える。

「俺の女に悪く言うだなんて度胸あるなァ?」

 アホチビの隣にいた白髪の男がゆらぁりと立ち上がり、こちらに見下ろすように近寄ってくる。

「なんだこのジジイ」

「あ゛ぁ゛!?」

「とにかく俺はお前らに協力しねぇ、残念だったな」

 これ以上ここにいると胸糞が悪い程吐き気がする。そんな気がした俺は立ち上がり、この部屋を出た。

「…………」

「…………」

「…………♪」

 歩いているといつの間にか俺の後ろに蝶の女とアホチビが付いてきていることに気付き、思わず身体が驚くように反応してしまった。

「な、なんだよお前ら、付いて来んなよ」

 特に蝶の女は嫌いだ。何を思っているのか分からねぇ笑顔を浮かべているのが苛立つ。しかも、化粧も藤の花のような匂いも臭ぇ。

「だってここはお館様の屋敷ですから。あなたがお館様に何かしないように見張っているだけですよ」

「…どうでもいいから陽の当たらねぇ場所に連れて行けよ」

「じゃあ私の屋敷に来ますか?鬼にとって快適の場所ですよ」

「そうだよ〜、君もおいでよ!」

「勝手にしろ」

「では、この箱に入ってくださいね、お下がりですが」

 いつの間にか取り出したのか、木で作られた箱が床に置かれる。「お下がり」というのも気になるが…。

 ため息を吐いた俺は身体を小さくし、この箱に入った。

「鬼殺隊の言うことを聞くんだね〜?へぇ〜?」

 その言葉に俺はムカつき、アホチビに睨んだ。

「あぁ!?」

「入りましょうね〜」

 

 

 それからというもの、アホ面を浮かべている鬼の娘は俺に張り付いてくるようになった。俺に「アホチビ」と言われたのが根に持ったらしいようだ。

「君の方がチビじゃん」

「うっせぇ、お前の方がチビだろ!アホチビ!!」

「はぁ!?僕チビじゃないし!チビはどっちかな〜!?バカガキ!!」

 そして、最終的には「フンッ」とお互い顔をそっぽ向くという流れに。しつこく付いてくることに加えて気に食わない。

「はぁ……」

 クソデカため息を吐いた後、チラッとアホチビの方へ見やる。その女は俺を見ずにそっぽ向いたまま。

「……お前、"上弦の陸"だったんだろ」

 上弦の陸といえば、あの耳飾り少年たちが戦っていたのはアイツらだと思い浮かぶだろう。思い出すだけで腹が立つ兄妹だった。アイツらが倒された後に俺は上弦の陸となった。こうやって入れ替わっていくんだ。ということは、上弦の陸はアイツらがなる前は、このアホチビだった。

 無限城にいたアホチビとここにいるアホチビの様子が違いすぎて別人かと思ったが、よく見ればやはり同一人物だった。人間と鬼が混ざったような気に入らねぇ気配がする。

 今は夜で、月光に当たらない陰にいるからか、その女は無限城といた時のような不気味な程の無表情でこちらの方へゆっくりと振り向くと右目に「上弦」、左目に「陸」とぼんやりと浮かび上がる。

「…………やっぱり知ってたか〜」

 先程までの無表情はどこかへ行ったかのようにあのアホ面に戻り、ヘラヘラと笑いながら頭を軽くかく。

「…なんでお前が鬼殺隊にいる?なんで隊士になってやがる?」

「ん〜…」

「おい、答えろよ」

 すぐに答えずに呑気に考えているような素振りを見せられて苛立つ。

「おいアホ…」

 「チビ」と言おうとした途端、後ろから抱き締められるような感覚に襲われる。突然のその感覚に驚いた俺は思わず「おわっ!?」と声を上げてしまった。後ろの方へ振り向いてみると、刀鍛冶の里にいたあの鬼の娘だった。鬼の娘は裏表も無さそうな笑みでぎこちない言い方でこう言った。

「こ、こんばんは」

「…………」

 すると、廊下の奥から「イ゛ッヤ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!」と汚い高音が聞こえてきた。アホチビも俺も思わず耳を塞いで、声がした方へ見やる。そこには気弱そうな金髪少年が立っていた。

「ねねねねね禰豆子ちゃんがっ!知らない野郎に抱き締められてるぅううっ!!!」

「いや、どう見てもコイツに抱きしめられてんだろうが!!」

「あ゛ーーーっ!!コイツって言った!女の子相手にコイツって言ったぁ!!」

「知らねぇよ!なんだよコイツ、ぶっ殺していいか?」

 「それはダメだよ〜」と軽やかな口調なのに笑顔で圧かける凛音。アホチビも鬼の娘も鬼でありながら鬼殺隊にいること自体がやっぱり狂ってやがる。

 すると、鬼の娘が俺の手を握った。そのことで金髪少年は何か喚いているが、もう気にしない。

「お、おいで」

 そう言われると鬼の娘は俺の手を引っ張っていく。「おい」「手ぇ離せよ」「どこに連れていくつもりなんだ?」と声かけるが、鬼の娘は答えない。しかも何か楽しげそうにしている。

「…………」

 この鬼もこのアホチビもそうだ。なんで鬼でありながらもここにいる?何故斬らない?鬼殺隊は鬼を斬る人間だろ?いつ喰われてもおかしくねぇのに。しかもアホチビもだ。無限城にいる時にも何故人間を喰わなかった?鬼の娘もあのまま耳飾り少年を喰うことになっていたはずなのに。

 薄暗かった廊下から光のある部屋に入ると、その光が俺たちを柔らかく包む。電気が通った光の下には刀鍛冶の里にいた耳飾り少年と鶏冠。そして、見知らぬ猪人間?と隠がいる。

「あっ、元気にしてたか!?」

 寝台に上半身だけ起き上がっている耳飾り少年がこちらの方を見ると、手を振りながら笑みを浮かべた。

「君がいるということはきっと、柱が受け入れてくれたんだな!良かったな!」

「…………は?」

 受け入れた?良かった?何言ってんだコイツ。俺は柱も鬼殺隊も信用してねぇのに。柱だって何人か俺のことを信用してねぇヤツだっているに違ぇねぇ。

「おいお前!上弦の陸なんだろ!俺と勝負しやがれ!!」

 すると、猪人間がこちらの方へ近付き、興奮するように腕を上げながら何度も跳んでいる。そして、腕を組んで、自慢げそうにこう言った。

「俺様は一度、上弦の陸を倒してるからな!!つまり、お前と勝負したら俺が勝つに違ぇねぇ!!」

「いや、お前一人で倒せねぇよ。だって何人かでアイツらを倒したじゃねぇか」

 鬼は視覚と聴覚で共有されており、誰が誰と戦っていたのか分かる。普通は死にそうな程度だったのによく倒せたもんだ。

「あぁ!?俺はなあれから修行してきたんだ!強くなっているに違ぇねぇ!!」

「どうだかな…ん?」

 先程から薄々と感じていた視線に見やれば、その視線の主は隠だった。隠も俺の目が合ったことに気付けば、「お前…」と呟く。続きがありそうな言葉を待ってみると、隠は驚いたような目でこう言った。

「思ったよりすっげぇちっちぇえな!?」

 

「…………あ゛ぁ゛!?」

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