ギャルゲースキルを手に入れた俺は殺される前に逃げ出した。 作:間違い計り
あの時の朝はいつもとそう変わらない朝だった。
目覚ましはうるさいし、弁当作るのは面倒だし、母さんの「行ってらっしゃい」はスマホいじりながらの片手間だ。
だけどまあ、そんなもんだ。
俺の人生は、そういう地味さの連続だった。
駅前のパン屋で100円のチョコパンを買って、歩きながらかじる。
気づけば誰かとぶつかり、軽く謝って、また歩く。
登校中の制服姿の集団に紛れて、なんとなく校門をくぐる。
高坂遊人(こうさか ゆうと)。
二年B組。17歳。
目立ちたいという気持ちはあれど、一歩踏み出せない目立たない人間。
クラスの中で特に浮いてるわけでもなく、かといって話題の中心になるわけでもない。
平凡以下で目立たない空気のような存在。
自分で言うのはあれだが小説の中だと名前も出ないモブAなんだろう。
自称する事はないが何となく自分が主人公でないんだろうなと認めてしまっている。
そんな陰鬱な日々。
ただ――少しだけ、変わったことがあった。それは今朝のこと。
通学路の途中、視界の端に“何か”が浮かんだ気がした。
選択肢:
①立ち止まる
②学校に行く⚠️
③家に帰る
「……は?」
俺は思わず立ち止まった。
もちろん、周りには何もない。急に立ち止まった俺を変な目で見る人はいるが。
浮かんだと思ったそれも、すぐに消えた。
ただの寝不足か、ゲームのやり過ぎによる頭のバグか。
(……まあ、いいか)
俺は頭を少し振ってからまた学校に向かい始めた。
※※※
「おはようございまーす」
2年B組。
教室のドアを開けても、相変わらず平和な雑音が耳に飛び込んでくる。
ゲームの話。SNSの話。アイドルの話。
誰かが笑い、誰かがうるさがり、誰かがイヤホンで自分の世界にこもってる。
俺は、いつも通り席に座る。
前の席では佐藤が寝ていて、隣の渡辺はスマホゲームをしていた。
隣の渡辺とはそれなりに仲がいいのでそのままゲームについて会話を始める。
何もない、いつもの日常。
俺の役割はない。いやもしかしたら背景というのが俺の役割なのかもしれない。
このクラスの主役は、あくまで、相澤光みたいなやつだ。
顔も良くて、頭もよく、運動もできて、会話のテンポも軽快。
教師にも気に入られて、女子にも名前を呼ばれて、そして名前すら主人公ぽい
全てを兼ね備えたパーフェクト主人公。
俺はそんな彼の“前の席”という、ただの背景だった。
でも、そんな日常も――あまりにも唐突に終わった。
天井から光が、差し込んだ。
いや、「差し込む」なんて柔らかい表現じゃない。
教室の中央、空間そのものが“割れた”ように、白い柱が天井を貫いたのだ。
ざわっという音とともに、誰かが叫ぶ。
椅子が倒れる。机がきしむ。悲鳴。怒鳴り声。
そして、その“光”の中から、浮かび上がる存在がひとつ。
女神のような、彫刻のような、不気味に美しい“何か”。
「あなた方、二年B組の生徒たちは、“勇者候補”として選ばれました」
凍りつく教室。
それでも、“それ”は淡々と続ける。
「転移に際し、ランダムで特別な“才能(スキル)”が授けられます。
どんな能力になるかは、運次第です。
選択不可。変更不可。返品不可。キャンセルもできません」
その言葉と同時に、俺たち全員の脳に、まるでメッセージウィンドウのような通知が浮かんだ。
《スキル付与中──》
《高坂遊人にスキル【ギャルゲー主人公】を付与します》
《副次スキル:選択肢視覚化/フラグ警告》
「……は?」
いや、意味が分からない。
勇者なのに、ギャルゲー?
他のやつらは? と見回す間もなく、俺たちの身体は再び光に包まれた。
光が止み目を開けるとそこには荘厳な大広間。王族らしき人間たちと、神官と、騎士たち。
まさしく異世界というに相応しい面々がそこにいた。
※※※
床に描かれた巨大な魔法陣が、青白く輝く。
石造りの大広間に、風のような魔力のうねりが巻き起こり、空気が震えた。
「……時が来たか」
国王・バルド=セリオス三世は、玉座から立ち上がった。
威厳ある金髪の大男。肩には金と紅の王家のマントが揺れている。
「神託により選ばれし勇者たちが……我が国へと召喚される」
静寂の中、眩い光が魔法陣を包む。
やがて――
バンッ!
空間が裂けるような音と共に、制服姿の少年少女たちが、次々と転がり落ちてきた。
「うわっ!?」「え、なに!?」「どこ!?」「マジどこ!?」
突然現れた25人の“召喚対象”――つまり俺たち、二年B組。
誰かが尻もちをつき、誰かがカバンを落とし、誰かが意味もなく叫んでいる。
その“異様すぎる光景”に、王族と高官たちは一斉に凍りついた。
⸻
「……これが、勇者……なのか?」
最初に声を発したのは、宰相ロドネルだった。
白髪混じりの口髭を撫でながら、目を細めて呟く。
「この者たちが……神の言う、“救済の鍵”と?」
「若すぎる……いや、もはや、ただの子供ではないか」
大神官セランが訝しげに眉を寄せる。
「見た目の年齢は……16~18。身分も魔力の気配も特段のものは感じません」
「まさか、失敗……?」
「いや」
国王バルドが右手をかざし、魔法陣を再び確認する。
「召喚は、完璧に成功している。この者たちは間違いなく、“神の言葉により選ばれし異界の民”だ」
そうは言うものの――
その目に宿るのは期待ではなく、明確な戸惑いだった。
⸻
「貴様ら……これが“我らが救世の勇者”だというのか」
第一王女リシェル=セリオスの周りに対する声は冷たかった。
金の巻き髪に、銀のティアラ。氷のように整った横顔。
だがその美貌とは裏腹に、彼女の視線には明確な“落胆”が滲んでいた。
「だらしなく、威厳もなく、魔力の気配すら薄い。こんな者たちが、魔王を討つと?」
「……面目次第もございません、姫様。しかし神託は――」
「知っているわ。神の言葉が常に人の理に適うとは限らない。
だが“勇者候補”とは、まさかここまで雑な選び方だったとは思わなかっただけ」
一方、俺たちはというと――
わけも分からず転がされ、異世界っぽい景色を見て口をポカンと開けているだけ。
「……マジで転移した?」「え、ガチじゃん。これドッキリ?」「うわ、エルフっぽい人いる」「てか姫様、顔良すぎん?え、実写? 2.5次元?」
誰かがふざけ、誰かがテンションを上げ、誰かが写真を撮ろうとして取り上げられた。
その様子を見て、王女はあからさまにため息をつく。
「──まあいいわ。鑑定を。どうせ、“見た目”では分からないのが、神託の常。
一人ずつ、“スキル”を調べて。もし使える人材がいるなら、それなりの待遇は保証する」
「はっ!」
神官たちが一斉に動き出す。
こうして、俺たちのスキル鑑定が始まった――
そして、クラスメイトたちの名前が一人ずつ呼ばれていく。
「斉藤蓮:スキル【魔王殺し】」
「相澤光:スキル【聖剣使い】」
「本田梨花:スキル【大賢者の血脈】」
「佐藤翼:スキル【召喚術・天獣クラス】」
一人また一人と、ド派手なスキルが読み上げられ、周囲の騎士や王族が驚きの声を上げる。
そして俺の番が来た。
「高坂遊人:スキル【ギャルゲー主人公】」
一瞬の沈黙。
誰かが吹き出し、クスクスと笑いが広がり、
俺だけが心の底からこう思った。
(……詰んだ)