ギャルゲースキルを手に入れた俺は殺される前に逃げ出した。 作:間違い計り
重たい瞼をゆっくり開けると、視界に入ったのは見慣れぬ天井だった。
高い天井。繊細な彫刻が施された石の梁。
厚手のカーテンから差し込む朝日が、淡く部屋を照らしている。
(ああ……くそ、夢じゃないのかよ)
俺は、目を覚ますなり現実を思い出した。
あれは夢ではない。――クラスごと転移し、謎のスキルを与えられ、勇者候補として王城に迎えられた。
昨日の出来事が、次々と頭を過ぎっていく。
煌びやかな玉座の間。クラスメイトの名を一人ずつ呼び上げる儀式のようなスキル発表。
笑い声と、冷たい目線。
そして、自分に与えられたのは――【ギャルゲー主人公】という、異物のようなスキル。
(……やっぱり、おかしいよな。どう考えても、戦うための能力じゃない)
ベッドに寝転がったまま、枕に顔を埋めながら薄、遊人は深いため息をついた。
枕の感触も、空気の匂いも、全てが異世界のもの。
この世界の現実が、じわじわと体に染みついていくような不安があった。
「――お目覚めでしょうか?」
ドアの外から、控えめなノックと共に声がかかる。
昨日から世話をしてくれている、王城付きの使用人だ。名前はまだ聞いていない。
「……はい、今起きました」
返事をすると、ドアが音もなく開き、食事の支度が整ったことを伝えられる。
整えられた寝間着のまま、俺ははベッドを離れ、ぎこちない足取りで立ち上がった。
まだ、この体に“異世界の空気”が馴染んでいない。
(……こんなんで、やっていけるのか。俺なんかが)
口には出さなかったが、不安は胸の中にしっかりと残っていた。
昨日のことを思い出す。
突如現れた光の柱。女神のような存在の
与えられたスキルは【ギャルゲー主人公】。
使えるのがどうか分からない、意味の分からない能力。
スキルをもらった誰もが笑っていた。
でも俺は、笑えなかった。
それはなぜか、他人のスキルが戦闘スキルであるのは名前からも理解できた。
つまり、この世界は危険な世界であることの証明であったからだ。
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行動選択肢:
①起き上がる
②もう少し寝る
③部屋を調べる⚠️
今まさにゲームみたいに、頭の中に浮かぶ選択肢。
選択肢可視化という副次スキル。
頭の中に浮かぶそれは昨日の時点では、意味が分からず、頭がおかしくなったかと思った。
でもその選択肢は選ぶと、本当にそのとおりに行動してしまう。
身体が勝手に動くわけじゃない。
選んだ瞬間、「そうしたくなる」感じ。
つまり――
選択肢は“意志の補助”ということ。
つまり俺自身の選択を、出来ることを明確にわかる様にしてくれるのだ。
………だからなんだという話ではあるが。
あまりの使えなさに絶望しかない。
もう一つのフラグ警告も今のところよく分かっていない。
選択肢の後ろにある⚠️が恐らくその警告の一種であるのは分かるが、何もわからない。
選択肢にマークがついてるだけで結果までは教えてくれない。
まぁ、その行動は選ばない方がいいとかそんな感じだとは思うが、実際やってみないことには何も分からない。
という事なんでまずは部屋を調べるとしよう。
こういうのは早くやっておくほうがいい。後々になればなるほど選びにくくなるのだから。
そうして、使用人の方に先に行ってもらい色々確認した。そして何の意味もないことが分かった。
いや、魔法陣とか引き出しの服とか見慣れないものは山程あったが、それに対する知識が無いのでただそこにそういう物がある事しか分からなかった。
結果として時間を無駄にしただけのようだ。
その事を理解してから、かなりの時間が過ぎていることに気付いた。
「やば……!」
慌てて引き出しに仕舞われていた服に着替え、ドタドタと廊下を駆けて食堂へ向かった。
「…………」
食堂に入った瞬間、俺の足が止まった。
長いテーブルにはすでに全員が着席し、朝食を食べている。
ガチャ、と扉を開けて入った遊人に、全員の視線が突き刺さった。
ざわ……という小さな空気の揺れと、
わざと聞こえるように漏らされた声が、耳に届いた。
「おい、あいつ来てなかったのか?」
「二日目で遅刻? さすがギャルゲー主人公」
「寝坊? いや、寝坊した人は使用人に起こされてた筈…」
「距離、置いとこうよ……」
ヒソヒソ。
笑いと嘲り、そして冷たい視線が、食堂中から一斉に浴びせられる。
(あ……やっちまった)
体中の血が一気に下がる感覚。
足を一歩踏み出すのも重い。けれど、逃げるわけにもいかず、おれは無言で空いている席に向かった。
誰も話しかけてこない。
誰も目を合わせようとしない。
(……遅れただけでこの扱いかよ。まあ、スキルも笑い者だったし……)
パンとスープが置かれた皿の前に座りながら、食欲はまるで湧かなかった。
孤独と視線の中、冷めてしまったスープを口に運ぶ手が、ひどく重く感じられた。
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豪華な廊下を歩くと、騎士の案内役がついてきた。
「こちらが食堂になります。こちらは図書室。鍛錬場は中庭を抜けてすぐ」
王城は絵に描いたようなファンタジー空間だった。
大理石の床、魔法の灯り、壁を飾る大きな絵画や紋章。
でも、そんな幻想的な空間の中でも、ひとりだけ疎外感があった。
斉藤や相澤たちはすでに「王国のエリート枠」として周囲の騎士や貴族たちと打ち解けつつある。
強力な戦闘スキル持ちたちは、それだけで人を惹きつける。
俺は……なんだ?
選択肢が見えるだけの、ただの人。
周りの人たちもどう接すれば良いか分からず距離を置かれていた。
そんなふうに1人で過ごしていると、何人かのクラスメイトが話しかけてきた。
「倉田、スキルってマジで“ギャルゲー主人公”なの?」
「何それ? 恋愛ゲームでもする気?」
「使い方によってはハーレムできそうじゃん。ずるいなー」
全部、冗談のつもりなんだろう。
でも俺の中に、ざらりとした感覚が残った。
《⚠️フラグ警告:発生中》
……は?
今の会話の、どこが?
誰の? 何の?
俺に選択肢は出てない。選んでもいない。
なのに警告だけが出る。
選択肢を選んでいないのに警告が出た。
つまり俺の選択だけで無く他人の行動によっても警告が出るという事だ。
ただ、内容が分からないせいで、何を避ければいいかも、何が危険なのかも分からない。
笑いながら話しかけてくるクラスメイトの顔が、なぜか、酷く怖いと思えた。
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その夜、寝る前にも選択肢が現れた。
選択肢:
①眠る
②日記をつける
③明日の訓練に備えて部屋を整理する
どの選択肢を選んでもあまり関係ないのだろう。
その点にはホッとするがそれ故に昼間の件が印象に残っていた。
発生中という表示。
何が発生したかも分からないのが嫌に不気味だった。
何かが始まっていて、俺にはそれが何かも分からない。
何に対しての警告なのだろうか。
クラス内での人間関係か。
王国関係者の誰かか。
あるいは、俺自身の“存在”か。
「このスキル……いっそ見えないほうが、マシだったかもしれないな」
そう呟いた声が、思ったより弱々しく響いた。
俺はこの異世界の中で、スキルの名前通りの主人公では無く、いまのところ脇役として、孤独に立っていた。
そして、この後、剣術と魔術の訓練、そして他の勇者候補たちとの残酷な実力差が、容赦なく突きつけられていくことになる。