BA-SoC- 外伝『Hounds Den』 作:Soburero
今回はゲヘナでのお仕事、つまりクソ忙しいです。
無事に乗り切れればいいですね。
ナグサとニヤが実装かぁ。
所で、唐笠被った方はどなたです???
ヘリに乗ってから数時間。レーションのサンドイッチをかじっている間にたどり着いたのは、ゲヘナ学園の自治区。
風紀委員会の本部に向かっているヘリの中で、道中リーダーから聞いていたブリーフィングを思い出す。
仕事の内容は単純。ゲヘナの不良を片っ端から叩けばいい。
ただ、今日の仕事は出来高制。その上、倒した不良は風紀委員会に引き渡すまでがワンセット。
最悪、弾代だけ減って素寒貧、なんてこともあり得るって事。
内臓が少し浮き上がる感覚の中、塗装が剥げたマガジンを真新しいMCXに突っ込み、初弾をチャンバーに送る。
そしてグローブを付けた手で頬をパンパンと叩き、自分にも気合を突っ込む。
開いたハッチを顎で指すリーダーに、仕事道具を全身に抱えてついていく。
入隊初日から初仕事という、連邦生徒会もびっくりのハードスケジュール。
でも逆に言えば、それだけリーダーから期待されてるって事。
何事も、最初が肝心。ここで結果を残せば、きっといい未来がやってくる。そう信じてる。
私は太陽の光が差すハッチから、猟犬としての最初の一歩を踏み出した。
「ヒナ教官!どうして猟犬がここに!?」
「私が呼んだ。腕章を持ってきて。」
「……久しぶりね、レイヴン。」
「久しいな、ヒナ。激務は相変わらずのようだが。」
互いに見知った様子で握手を交わすリーダーと、白い癖っ毛から紫の角が生えた、子供と見間違う位小さい人。
顔つきはキリッとしてるけど、身長のせいか可愛く見える。でも抱えてる銃は全然可愛くない。
確か、この人が空﨑ヒナ。風紀委員会の戦術教官。
「まだマシよ。今年の議長は、治安維持に積極的だから。私の時とは大違い。」
「それで、隣の子は新入りね。」
今日入隊したメリッサです。お噂はかねがね。
敬礼を添えつつ、大きな声でご挨拶。すぐリーダーに右手を下ろされたけど。
それを見ていたヒナさんがちょっと優しい笑顔になったのが、私の気恥ずかしさを煽る。
1歩踏み出してきたヒナさんから右手が差し出されたので、同じように右手で握り返した。
「よろしく、メリッサ。レイヴンに認められるなんて、相当のやり手なのね。」
「それで、今日の仕事は、いつも通りの契約で良い?」
「完全歩合制。重要ターゲットを仕留めればボーナス。いつも通りだ。」
「分かるな、メリッサ。不良どもを倒せば倒すだけ、お前の懐に金が入る。気を引き締めて掛かれよ。」
風紀委員から差し出された腕章を左手に巻き付け、咽喉マイクに繋がったトランシーバーの周波数を変更。
歩き出したリーダーについていこうとした時、1つの疑問が浮かんできた。
広大なゲヘナ領を、徒歩で移動するのか?
その疑問は、いつの間にかヘリの横に用意されていた、風紀委員会のロゴが描かれた2台のダートバイクによって解消された。
当たり前のようにバイクにまたがったリーダーに続いて、シートに腰を預け、スターターを蹴飛ばしてエンジンをかける。
離れるなよ、と無線で一言。エンジンを一気に吹かし、タイヤを削りながら駆け出したリーダーに、右手を思いっきり捻ってついていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
風紀委員会から、空き地でヘルメット団とスケバンが睨み合っているとの報告が入った。
そこから離れた場所にバイクを止めて、道路を挟んだ物陰に隠れた。
不良たちはお互いに夢中で、こっちに気づいてない。
全員、銃やグレネードを握って、やんのかコラと相手を罵りながら睨み合っている。
ゲヘナどころかキヴォトスの日常風景と呼んでいい状況を眺めながら、隣にいるリーダーと作戦会議を始めた。
「見えたな。技量は俺達が勝るが、数は10倍だ。メリッサ、どう戦えば勝てると思う。」
物陰から不良たちを覗き込みながら、試練の間に教わった事を思い出した。
まずはシンプルに考える。難しく考えるのはそれから。
正面突破。何も考えなくていい。ただ突っ込んで撃ちまくればいいだけ。
これはダメ。ガトリングガンを抱えた奴が2人居る。弾幕を張られると突っ込む事すら出来ない。
上から制圧射撃。突っ込むリーダーを建物の上から援護する。
有効だろうけど、多分撃ち始めた時点で大半に逃げられる。これは保留。
横から奇襲。出来るだけ近づいてから、グレネードを投げ込んで戦闘開始。
これが一番効くかもしれない。混乱してる間に一気に畳めば、時間を掛けずに済む。
奇襲する作戦をリーダーに伝えると、特に否定はしないが肯定もしない、と言った評価。
もちろん、何が抜けているのか私も分かってる。
「悪くない。だが何か忘れていないか?」
抜けているのは、不良たちの逃げ道を塞ぐ事。
と言っても、全て塞いじゃいけない。1か所だけ空けておき、キルゾーンまで誘い込む。
今回は正面をわざと開けて、大通りに出るように仕向ける。
グレネードを投げ込んだ後、すぐリーダーに暴れてもらって、遮蔽の無い場所に逃げてきた相手を、私が各個撃破。
その作戦で行こうと伝えるも、リーダーはさっきより渋い顔。
「いや、ダメだ。お前が行け。俺が逃げ道を塞ぐ。」
これはつまり、自分が不良集団を通りまで押し出さなければならない、という事。
どう考えても適性が逆に思える采配。文字通りビュンビュン飛び回れるリーダーの方が、追い込み役に適任のはず。
色々理由を並べてごねてみるも、その表情は渋い顔から変わらない。
「行け。お前の技量なら問題ない。それとも、俺の見込み違いか?」
これはもう、何を言ってもダメなのだろう。私が集団の中央に突っ込むことは、決定事項なのだ。
ついため息が出て来るけど、嘆いていたって状況は変わらない。
腹をくくって、リーダーに見えるよう新しい相棒を掲げた。
「それでいい。エア、周辺の監視を。」
『了解。頑張ってくださいね、メリッサ。』
今までずっと黙ってたエアに、聞いてたなら止めてよとぼやきながら、1度たまり場から離れるように走り出す。
あいつらから見えない程度に距離を離したら、ガードレールを飛び越えて道路を横断。
その途中、1台こっちに突っ込みかけた車が急停車。飛び出してきた私に盛大にクラクションを鳴らしてきた。
ドライバーに対して適当に謝りつつ、反対側のガードレールに到達。飛び越えて再び路地裏に入る。
たまり場に通る路地の角で1度ストップ。角から覗き込んで、見張りが立っていないか確かめる。
誰も立ってない。全員睨み合いに夢中らしい。こっちにとっては好機。
MCXを構え、軽く膝を落として上半身を揺らさない様に歩く。
出来るだけ素早く、でも静かに。角の警戒も忘れずに。
誰にも見つかることなく、建物1つ挟んだ角にたどり着いた。
念のため、奴らの様子をもう一度観察すると、そろそろ限界、って感じ。マジで撃ち合う5秒前。
MCXを下ろして、ベルトからフラググレネードを取り出し、レバーを外さない様に握ってからピンを抜く。
狙うべきは、ヘルメット団とスケバンが睨み合ってる中心。
レバーを外し、2秒数えてから、そこ目掛けてグレネードを放り投げた。
すぐ角に隠れて、顔を逸らす。こうしないと破片が顔に飛んでくる。
一瞬どよめきの声が聞こえた後、爆発。衝撃波と一緒に、破片と小石がバチバチ飛んでくる。
コンクリを叩く音が収まったら、すぐさま突撃。ガトリングガンを抱えた2人を狙って、5.56mm弾をフルオートで叩き込む。
余裕があるので、適当にもう1人。倒したらすぐに遮蔽に入って状況観察。
「うおっ!?何だコイツ!?」
「見ねぇ顔だ!風紀の新入りか!?」
不良たちがこっちに気づいて、道路の方向に下がり始めた。同時に、私が隠れてる場所に向けて乱射してくる。
ここまでは作戦通り。と考えた瞬間、文字通り空き地の上空から響く銃声。リーダーの援護射撃が始まった。
それに気を取られた2人を、胴撃ちで素早くダウンさせる。
また隠れて、人差し指でマガジンを落とし、新しい奴を装填。古いのは弾も残ってるけど、拾ってる時間がない。
追撃のため覗きこもうとした瞬間、強い違和感を感じた。
出るべきじゃない。むしろ振り返った方が良い。
子供の頃から感じてた、理由の無い危機感。でもこれは、今までのどの感覚よりも強い。
違和感に従って振り返れば、ヘルメット団が抱えたショットガンが、火を噴こうとしていた。
ライフルじゃ間に合わない。右の太ももに差していたグロックを抜き、ヘルメットに向けて乱射する。
放った5発の内、3発がバイザーを貫通。ショットガンはあらぬ方向に火を噴き、持ち主は背中から地面に倒れた。
奴1人で終わりじゃない。もう2人はいるはず。
すぐに反対側の角へ移動し、角からライフルだけ出して乱射する。
直後に聞こえてきた声と倒れこむ音から、本当に2人付いて来てたらしい。
間一髪。うっとおしかった直感に、初めて助けられた。
「クソッ!こいつ強いぞ!」
「オイ!!レイヴンが居るぞ!!そいつ、猟犬だ!!」
「風紀の奴らめ!猟犬を雇いやがったのか!?」
やっと私達がハウンズだって気づいたみたい。でももう遅い。
さっきの奇襲が失敗して及び腰になったのか、こっちに突っ込もうとする奴らはいない。
どころか、道路まで逃げた奴が、リーダーに思いっきり蹴飛ばされた事で、逃げ場すらなくなったことも分かったらしい。
このまま、一気に畳む。
マガジンを交換して、射撃しつつ前進。全員棒立ちでいい的だ。
ホロサイトのレティクルを体の中心に合わせて、1人、2人。リーダーの援護射撃で3人目。
4人目を撃とうとした時、脇腹をライフル弾が掠めた。
痛い。視界が歪む。一瞬だけ頭が真っ白になる。でも、ここで止まったら余計に撃たれる。
根性で姿勢を立て直し、撃ってきた奴に反撃。
残り2人から撃たれる前に、ボンネットの上をスライド。ヘルメット団の車に隠れて無駄撃ちさせる。
いつの間にか、リーダーからの援護も止まってた。仕上げは私がやらなきゃいけないみたい。
カチンという音と一緒に、弾幕が止んだ。2人同時に弾切れしたみたい。
最高の好機。だからこそ、倒す手段を選んじゃいけない。先輩達から徹底的に叩き込まれた事だ。
ボンネットにハンドガードを預けて、2人の体の中心を狙って射撃。
何の防具も付けてないから、ダメージはそのまま通る。
2人が倒れ込んだのを見てから、立ち上がって周辺を確認。倒した奴にも、念のため銃口を向ける。
大半が気絶、残りが弾を貰った場所を押さえてうずくまってる。でも、立っている奴は誰も居ない。
空き地に居た生徒を、全員倒すことが出来たようだ。
「畜生ぉ……。痛ぇ……。」
「誰だか知らねぇけど、覚えてやがれ……!」
なら強くなってリベンジしに来い。這いつくばりながらも、私を睨みつける奴に向けてそう挑発。
気分が舞い上がってると、らしくない事をするのが人の性。
でもリーダーの援護ありとはいえ、10倍の数を片づけられたんだから、ちょっとくらい許して欲しい。
すぐ隣の建物から、空いたスペースに直接飛び降りてきたリーダー。
どんなもんだい、やってやったぞのピースサインを向けるけど、リーダーの反応はあんまり良くない。
「よくやった。だが……。」
突然、リーダーは倒れこんでた1人に向かって、ショットガンをぶっ放した。
フギャッと小さく鳴いて気絶したそいつの右手には、持ち物であろうサブマシンガン。
多分、舞い上がってた私を狙おうとしてたんだ。
「詰めが甘い。戦場にいる限り、例え全員倒したとしても、油断はするな。」
厳しい表情で、舞い上がってた私を叱りつけるリーダー。
当然だ。リーダーが助けてくれなければ、私はあのまま撃たれてたんだから。
姿勢を正し、気を付けますと返事をすれば、それでいいと短く答えた。
下手すると延々怒られるかも、と思ってたのだが、あっさり終わった。
次からは倒れた奴にも1発撃っとこ。そう心に決めながら、風紀委員会と通信するリーダーの隣で周りを警戒する。
「風紀委員会、セクターPA-84の制圧完了。回収を要請する。」
『了解、ハウンズ。今向かう。』
「メリッサ、次に向かうぞ。離れるなよ。」
回収を手伝わなくていいのか聞くと、それは風紀委員の仕事だと返された。
不良たちを動けなくしたら、後は風紀委員がやる。それが今回の仕事の契約になってるらしい。
倒した不良たちが逃げ出したりしないか心配になりつつも、空き地を離れようとするリーダーについていく。
そして、バイクのエンジンをかけたところで、風紀委員会の装甲車が空き地に到着した。
不良たちを倒したと報告してから、3分と経たずのご到着。
回収は風紀委員に任せていい。その言葉の意図をなんとなく察しつつ、リーダーと一緒に次の現場へ駆け出した。
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その後も何件か現場を回り、不良たちを叩いて潰して引き渡していった。
昼ご飯を食べる頃には私はバテバテ、対してリーダーはまだピンピンしてる。
この体力の差、一体どこでついたのか。
その後、弾薬やグレネードを補給しつつ、別の現場に向かっていた時の事。
風紀委員会から緊急通信が入った。不良たちが戦車を持ち出しており、手持ちの火力じゃ歯が立たない。
これは私達も助けられないかな、と考えた瞬間、リーダーは私達が対処すると応答してしまった。
正気を疑う対応に抗議するも、倒す手段はあるの一点張り。
結局それ以上の答えを聞けないまま、私はリーダーについていくしかないのだった。
という事で、風紀委員が戦車を抑え込んでる場所まで急行。
ゲヘナ学園の本校舎にほど近い、沢山の店舗が並ぶ大通り。
バイクで疾走している間にも、正面からの銃声に紛れて、ドンッと大きい音が響く。
訓練を受けていたとしても、ロケットランチャーも無しに戦車を相手取るのは無理がある。
通信を受けとってから5分くらい経ってるから、そろそろ限界のはず。
『レイヴン、メリッサ。防衛線が破られました。戦車が真っ直ぐこちらに向かってきます。』
言わんこっちゃない。さっさと火力をぶつけないと、本校舎にたどり着かれる。
私達の手荷物に、使い捨てのロケットでもあれば、すぐに対処出来るんだろうけど。
いっそそこら辺の不良を倒して、ランチャーを奪うか。
そんな選択肢が頭に浮かんでいる間、リーダーは冷静に状況確認。
『所属は?』
『……バラバラヘルメット団のリーダー、ボーナス対象です。』
『丁度いい。メリッサ、グレネードはあるな。お前が戦車を倒せ。』
正気かこの人。私に死んで来いとおっしゃる。
確かに、グレネードを上のハッチから戦車に投げ込めば、倒すことは出来る。
今私達にできる最高の作戦だ。不可能って点を除けば。
近づく前に砲弾で吹き飛ばされるか、機銃でハチの巣になるか、どっちの私が見たいのか。
そんな不満をこれでもかと声に乗せる。
『確かに無茶だ。だが、奴は現に俺達に向かってきている。風紀委員会を倒したと、油断したままな。仕留めるなら最高のチャンスだろう?』
『俺が奴らの気を引く。その隙にグレネードを投げ込め。出来るな。』
薄々気づいていたけど、この人、頭にネジが1本も刺さってない。
しかも他人の頭のネジまで外そうとして来るんだから、余計に質が悪い。
ただ、私がこんな無茶な作戦をこなせると期待されているのも事実。買い被られてる気はしないでもない。
それに、ここでNOと言ったって、良いからやれと返されるのが目に見えてる。
メチャクチャ気は進まないけど、やるしかない。
死んだら骨は拾ってくれと、冗談を飛ばしつつGOサイン。
冗談の1つでも言わないと、心臓が口から出てきそう。
『よし。十分引き付けてから仕掛けるぞ。』
そう言いつつ、適当な所でバイクを止めたリーダー。私もそれに続いてバイクを止め、リーダーと道路を挟んで物陰で待機。
銃声はとっくに止んでる。主砲の音もしない。ただ、エンジンの唸り声とキュルキュルという音が響くだけ。
つまり、戦車は順調にこっちに近づいてるって事。
そっと覗きこんで様子を伺うと、カーキ色の戦車のシルエットが見えた。取り巻きが何人か砲塔の横に座ってる。
『まだだ。まだ引き付けろ。』
リーダーの言う通り、ギリギリまで引きつけなきゃいけない。それこそ、通り過ぎる直前まで待つ気持ちで。
音が少しずつ近づいてくる。次第に大きくなった音が振動に変わる。
プロブレム・ソルヴァーを右手に握ったまま、左手でグレネードを握り、それをリーダーに見えるように掲げる。
それを見て軽く頷いたリーダーが、次の瞬間には残像を残して走り出した。
地面から伝わる振動が弱くなったと同時に、どよめきと銃声が一気に広がった。
『行け、メリッサ!』
合図を信じて全力疾走。縁石を踏み越えて戦車に向かって思いっきり足を回す。
砲塔はビルの壁を走ってるリーダーに向けようと、時計回りに回っている。
取り巻きは戦車の両側に煙幕を焚かれて混乱中。チャンスはこの1度だけ。
砲塔から上半身を出している奴が私に気づいた。手持ちのマシンガンを向けようとしてる。
足を緩めずに右腕を向け、1マガジンをガンナーに乱射する。30発中命中は5発。内1発が頭に直撃。
ガンナーは砲塔の中に滑り落ちていった。2人目が出てくる前に、本体を仕留める。
戦車の3歩先で両足に力を込めて、思いっきりジャンプ。まず車体に足をかけ、すかさず砲塔に飛び上がる。
レバーを握ってピンを抜き、ぽっかり空いた穴にグレネードを投げ込もうとした時、体が後ろに引っ張られた。
戦車がバック走を始めたんだ。振り落とされない様に、穴の縁にしがみつく。
穴の中で気絶したガンナーに押しつぶされてたヘルメット団が、拳銃をこっちに向けてくる。
撃たれる前にグロックを抜き、ヘルメットを狙って3発。銃を落としたのを見て、左手を穴の中へ振り下ろす。
前に飛ぶとひかれるから、戦車の前側に飛び降りる。意外と高さがあるので、着地と同時に前転して衝撃を逃がす。
戦車は中途半端に砲塔をこっちに向けて、少し後ろに走り続けた後、爆散。
てっぺんの乗り込み口から黒い煙が上がって、少ししてからもう1度爆発した。積んでた砲弾に誘爆したんだろう。
当然、火の手が上がる戦車は完全に止まり、そこから黒焦げの不良たちがわらわらと降りてくる。
取り巻きたちもあっけに取られて、銃を向けようともしない。
「ゲホッゲホッ!降参!降参です!ゲホッ!」
「バカだろあいつ……!?戦車に、正面から突っ込むとか……!」
「その馬鹿げた事をやってのけたのが、今お前達の前にいる猟犬だ!どうする!?続きをやるか!?」
右手のビルから飛び降りて、私の隣に立ったリーダーが、唐突にそう宣言する。
それを聞いたヘルメット団全員が、私とリーダーの顔を交互に見ていた。顔は見えないけど、多分全員青ざめてる。
握りっぱなしのグロックを手に立ち上がり、ホルスターに戻して、ライフルのマガジンを入れ替える。
どっちも動かず睨み合う事、大体10秒。1人が銃を捨てて両手を挙げた。
残りのヘルメット団も、それに続くように降参の姿勢をとる。
「それでいい。大人しくしていろ。」
何人か撃ってくるかもと思ってたのに、何と全員降参。
もっと意外だったのは、リーダーが警告で済ませたところ。
こう言ったらなんだけど、降参しようが構わず蹴り飛ばす人だと思ってた。
意外な対応の理由を聞いてみれば、これまたキャラに合わない理性的な言葉が返ってきた。
「戦わずして勝てると言うのなら、それに越したことは無い。そして、戦わずして勝ちたいのなら、相手の恐怖を上手く利用することだ。」
この人の強さの理由が、なんとなく垣間見えるセリフに、思わずへーっと声を上げた。
多分この人の中では、戦車を壊した後、ヘルメット団が降参するまでがシナリオに入ってたんだろう。
リーダーだけじゃなくて、ハウンズが強いという印象を与えるために、私に戦車を壊させたってとこか。
凄く頭が回る人だけど、作戦の狙いは全部伝えて欲しい。そう言った所で、その時余裕がないと答えてくれないだろうけど。
頭の中でそうぼやきながら、不良たちが逃げ出さない様に監視。
1分くらいで風紀委員が到着したので、後はお任せして、私達は別の現場へ。
移動中、こんな仕事を毎日こなさなきゃいけない風紀委員会に、そっと同情するのだった。
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その後も、ヘルメット団だのチンピラだの、たまたま出くわしたひったくり犯だのをシバいて回った。
結果、今日の仕事で確保した不良たち、その数100人越え。
今日だけで1か月分の弾薬を使い切った気がする。
撃たれた回数なんて数えてない。胸だの脇腹だの太ももだの、あちこち真っ赤に腫れている。
しばらく銃撃戦はお腹いっぱい、と言ったところで銃撃戦を止められないのが、傭兵稼業の辛い所。
契約の時間いっぱい、つまり定時になったので、リーダーと一緒にヒナさんに報告。
エアが報告をまとめていたみたいで、ヒナさんは自分のタブレットを一瞥すると、すぐ小脇に戻した。
「お疲れ様。いつも助かる。でも……。」
「その子、随分疲れてるみたいだけど……。」
大丈夫とヘロヘロの声で答えるけれど、正直に言うと、体力の限界だった。と言うか、限界なんてとっくに超えてる。
みっともない所を見せたくない気持ちはある。でもそれに体が付いてこない。
サッサとベッドに入って寝ろ。シャワーなんて次の日の朝で良い。体と脳ミソ両方がそう叫んでる。
ちらりをリーダーを見てみると、汗の1滴すら垂れてない。本当に同じ人間か?
「猟犬としての初仕事だからな。こうなる事も織り込み済みだ。無論休息は取らせる。」
「それは良かった。」
「メリッサ、レイヴンは厳しい事を言うだろうけど、あなたを見捨てる事は絶対にしない。言う事は聞いておいた方が良い。」
ありがとうございますと、少しずれた回答をするのが精一杯。
何とか根性でヒナさんと目を合わせると、また優しい笑顔を向けられた。
妹か後輩を見るような、凄い優しい笑顔だった。
今の受け答えに、そんな顔をする要素がどこに有るのだろうか。
「素直な良い子ね。私の部下に欲しいくらい。」
「相変わらず、部下に困っているんだな。」
「ええ、元気が有り余ってる子が多くて……。っと、メリッサも早く帰りたいだろうし、立ち話はこの辺で。またお願い。」
「ああ、また頼む。メリッサ、帰るぞ。」
礼儀として、ヒナさんに一礼してから、私達の後ろに着陸したストーカーに乗り込む。
積み込んであった木箱に腰掛けると、機体は空へ浮き上がった。
仕事を終え、ゲヘナ自治区を離れようとする私達を、ヒナさんは静かに見送ってくれた。
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「メリッサ。今日の報酬は、このくらいになる。あとで口座に振り込んでおく。」
余りの疲労に背中を壁に預け、ただ呼吸するだけの何かと化していた私に、リーダーはタブレットと一緒にそんな言葉を渡してくる。
ほぼ無思考にタブレットを受け取った私の意識は、画面に映った内容を見て一気に覚醒した。
それは、今回の仕事の報酬、その内訳だ。不良1人や兵器1台あたりの単価と、倒した数が書かれてる。
問題はその合計額だ。その額、数百万後半円なり。何度見ても、何度目をこすっても、内容は変わらない。
余りの衝撃で、疲労がポンっとどこかに飛んでいった。
これだけあれば、1月遊んで暮らしたっておつりが来る。
私のそんな甘い考えを読んでいたのか、リーダーの話は終わっていない。
「確かに、稼ぎは良いだろう。だが、この稼業は出ていくものも多い。ベストを脱げ。」
不思議に思いつつも、言われるがままに防弾ベストを脱ぐ。
そしてベストを一目見て、その指示の意図が分かった。
10年物と言えば騙せそうなくらい、新品のベストがボロボロになっていたのだ。
銃弾やグレネードの破片が当たって穴が開き、火炎放射器に焼かれ、あちこち擦ってほつれている。
お腹の前辺りに挿していたマガジンも、銃弾を喰らって2つダメになっていた。
中に入れていた防弾プレートなんて、見るまでも無い。確実に弾痕だらけになっているだろう。
ふと気になって、新しい相棒の様子を見れば、こっちも傷だらけ。
真新しい塗装とひっかき傷のコントラストが痛々しい。
「たった1日で新品がこうなる。プレートに至っては使い捨てだ。」
「前も言ったが、これから新しい装備は、自分の稼ぎで買え。金の管理も自分でやれよ。良いな?」
リーダーみたいに、必要な道具を買ってくれるなんてレアケース。
仕事道具は、自分で買いそろえなければならない。本来、傭兵はそうなのだ。
これからは、この稼いだ金を上手く使ってやりくりしなければいけない。
遊んで暮らすなんて夢のまた夢。むしろ仕事で使った金を、別の仕事で稼がなくちゃいけない。
傭兵稼業の夢と現実をいっぺんに味わった私は、ベストを今日中に新調するとリーダーに伝え、タブレットを返した。
安物は使うなと忠告を受けた後、うっすらと笑ったリーダーから一言。
「今日はよくやった、メリッサ。期待以上の働きだ。」
「だが、余り調子に乗るなよ。相手が弱すぎたからな。」
褒めたいのか褒めたくないのか分からない、微妙な誉め言葉だったけど、この時の私にとっては十分嬉しかった。
ハウンズは、キヴォトス最強の部隊。そんなとんでもない部隊に、私が付いていけるのか、不安だった。
でもリーダー流の、お前ならやれる宣言を受けて、ちょっと安心した。
私は、本物の猟犬になる。
その決意が、私の胸の中で燃え上がった。
次の日、全身の筋肉痛で丸1日動けなかったのは、ここだけの話。
ヘロヘロになりつつも、無事初仕事を成功させたメリッサ。
彼女の傭兵街道はここから続いていくのです。
その先に何が待つのかは別として……。
百花繚乱編、どうしようかなぁ……。
シュロがなぁ……。レイヴンがなぁ……。
次回
Search And Destroy
どんな物も叩けば壊れる
次回も気長にお待ちくださいませ……。