BA-SoC- 外伝『Hounds Den』   作:Soburero

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今日のメリッサは、ハウンズの狂犬、エルマーと一緒に人を拉致ります。
拉致られる方は悪人なんで、細かいこと気にしなくていいですね!


EX.4.組織要人誘拐

 ルーシー先輩と一緒に仕事をこなし、白髪ネギたっぷりの醤油ラーメンを平らげてから、数日後。

 私はアジトで、新しく買ったアクセサリーをMCXに取り付けている。

 アクセサリーとは言っても、ピアスやネックレスのような、飾り立てるものじゃない。

 伸縮出来るストックに、それを使えるようにするストック用のチューブ。

 それと、三平方の定理を教わる時に見る三角形みたいな形をしたグリップ。アングルグリップって言うらしい。

 どれもマグプルっていうメーカーの商品。ルーシー先輩も、迷ったらマグプルって言ってたっけ。

 実際にストックを伸ばして構えてみる。左手の親指をハンドガードに沿わせて、残りの指をアングルグリップに。

 グッと右肩に引き付けて、ストックに頬を付けてみると、感覚が結構変わっているのが分かる。

 今までより良い。相棒がさらに頼もしくなった。

 そんな進化した相棒をソファの脇に立てかけて、私物のスマホでアクセサリーカタログを覗く。

 次のお給料で、どんなパーツを試してみようか。

 後ろのキッチンからコトコトと響く音をBGMに、さらに進化した相棒の姿を想像してみる。

 マズルブレーキが良いかな。それともサプレッサーかな。レーザーサイトも試してみようかな。

 膨らむ夢を勢いのまま膨らませていると、鼻をくすぐるカレー粉の匂い。

 

 「おっしゃ!出来た出来た!」

 「メリッサ!カリーブルスト食うか?」

 

 ソファに座ったまま振り返ると、エプロン姿のエルマー先輩が、お皿にソースをかけていた。

 カレーの匂いの正体は、先輩お手製のカリーブルスト。

 エルマー先輩のご飯による餌付けが済んでいる私に、断るという選択肢は無かった。

 食べるという返事と共に何度も頷く私を見ていた先輩は、満面の笑みで2つのお皿を、ソファの前のテーブルに置いた。

 

 「はいっ、おあがりよ!」

 

 早速1口大に切られたソーセージにフォークを突き立て、カレーソースをたっぷり絡めて、口の中へ。

 その瞬間にカレーの香りが鼻に抜け、ケチャップの酸味と一緒に、良く炒められたタマネギの甘みが口いっぱいに広がる。

 ソーセージをプツリと嚙み切れば、燻製の煙っぽい香りと肉の旨味がジュワッと。

 エルマー先輩が作るご飯は、いつだって美味しい。

 サムズアップと一緒に美味しいと伝えている間も、ソーセージをつつく手が止まらない。

 

 「旨いか!そりゃ良かった!お代わりもあるから、たんと食いな!」

 「ん~~!!やっぱアタシ天才!」

 

 先輩もソーセージを1口食べれば、何度も小さくガッツポーズ。

 私はソーセージと一緒に、付け合わせの粉ふき芋も突き刺して、また口の中へ。

 ジャガイモが口の中の水分を吸い取ると同時に、ソーセージの油がそれを和らげてくれる。

 食べれば食べるほど、何だか元気が湧いてくる。

 2人でごちそうに舌鼓を打っていると、アジトのドアがノックも無しに空いた。

 私達のリーダー、クロハさんが用事から帰ってきたんだ。

 本人は野暮用って言ってたけど、その割に表情は硬い。

 

 「ん、おふぁえひ、ほふ(お帰り、ボス)。ブルスト作ったけど、食う?」

 

 「ああ、後で貰おう。」

 「それと、お前達に仕事を持ってきた。食い終わったらブリーフィングだ。」

 

 「食いながら聞くよ。良いよな、メリッサ?」

 

 先輩のそんな提案に軽く頷くと、エルマー先輩はリーダーに手招き。

 そんな顎で使うような扱いで良いのかと少しヒヤッとしたけど、当の本人は気にしていないご様子。

 タブレット端末を片手に、机を挟んで反対側のソファに座った。

 私達がブルストをつまんでいる間に、リーダーはタブレットを何度か叩いた後、後ろの足を広げ私達に向けて斜めに立てる。

 

 「今回は匿名の依頼主からの仕事だ。普段であれば決して受けんが、情報の出どころも精度も確か。今回は例外だ。」

 「内容は、ある組織の重要人物の拉致。手段は問わんが、派手にやってくれればなお良い、との事だ。」

 

 「拉致ねぇ。アタシらに依頼が回るなんて、こいつ何やらかしたんだか。」

 

 拉致とは、穏やかじゃない依頼だ。

 依頼人が提供したであろう写真には、ちょっと目つきが悪いだけで、ぱっと見普通のオジサンが写ってる。

 ただ、背景に身長を分かりやすくするための目盛りが書いてあったり、オジサンが名前や年齢を書いておくボードを持っているので、前科者である事は想像に難くない。

 

 「俺達が知る必要は無い。奴がどうなるかもな。」

 「依頼主からの話だと、明日ゲヘナの高速道路を、こいつを乗せた車列が通るらしい。そこを襲撃するのが確実だ。」

 「車列はセダンを中心に、その周りを4台のSUVが警護する構成になっている。」

 

 SUVもセダンも、乗り心地の良い高級車ともてはやされてるメーカー製。

 私の中では、ギャングの親玉が後ろに乗ってる車ってイメージ。どうやら間違って無いらしい。

 タブレットの中の資料では、普通のライフル弾じゃまず貫通できない防弾仕様だ、なんて書かれてる。

 必要なのは、対物ライフルか爆発物。つまり、デカい銃だ。

 

 「って事ぁ、セダンの前後を潰せば、逃げ道も無くなるな。こりゃ地雷かミサイルが要るな。」

 

 「時間はある。仕事までに用意しておけ。」

 

 「りょーかい!んじゃメリッサ!食い終わったら、買い物行くか!」

 

 先輩はそう提案すると同時に、私の肩を結構強めに叩いてくる。

 その衝撃で口の中に残ったジャガイモを、リーダーに向けて発射しそうになった。

 抗議の意を込めて先輩を軽く睨むと、先輩は両手を挙げて降参ポーズ。

 この人、とても人懐っこいので、私も物怖じせずに話しかけられるのだが、これが玉に傷。

 人に向ける力加減を、たまに間違える事があるのだ。

 不良上がりなのでしょうがないのかもしれないけど。

 取り合えず、必要なのはデカい銃。細かい作戦は買い物中に決める。

 先輩とリーダーにそう伝えると、リーダーは話があるなら今日中にと言い残して、ソファから立ち上がった。

 先輩はニコニコ笑顔で、傭兵らしくなってきたなと、また肩を叩く。今度は丁度いい力加減。

 買い物と仕事に使う体力のために、ソーセージとジャガイモをいっぺんに突き刺して、口の中に放り込んだ。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 日付が変わって早朝。今私達は、高速道路に近いビルの屋上にいる。

 まだ日が昇って間もない時間帯。道路には、トラックと社用車ぐらいしか走ってない。

 車列がここを通る予定は、何時間も先だけど、その予定を変えられたらこっちは何も出来ない。

 だから、こんな早い時間からこうして張り付いている。

 双眼鏡を目にくっつけたまま、あくびを1つ。昨日は早く寝ているけど、それでも眠いものは眠い。

 そんな道路を見張る私の横で、先輩は頭を柵に預けて寝そべっている。

 

 「なあボス。わざわざアンタがオペレーターやる必要は無いんじゃねぇの?」

 

 『何が言いたい。』

 

 左耳に挿したイヤホンから、通信越しに届くリーダーの声。

 先輩は寝そべった姿勢のまま、左肩に付けた通信機を触っている。

 先輩の言う通り、ちょっと不思議だ。いきなり実戦に放り込まれてもおかしくないと覚悟していたのに。

 実際に待ち受けていたのは、リーダーからのとても手厚いサポート。その分、仕事量も想像以上だったけど。

 一先ず、口を閉じたまま道路を見張り続ける。

 

 「いくら新人っつったって、メリッサに対して過保護じゃねぇか。前の仕事も、エアがオペレーターやってたんだろ?」

 「ちゃんと猟犬になったんだし、アタシら先輩だっているんだから、任せてもいいじゃん。」

 

 『万全を期しているだけだ。』

 

 「へーへー。そーですか。メリッサ褒めてたのは噓だったのか?」

 

 『嘘ではない。だが、1人で仕事を任せるには早すぎる。それだけだ。』

 

 リーダー、私を褒めたことは否定しなかった。ちょっとうれしい。

 ただエルマー先輩は、あんまり納得いってないみたい。

 無線の向こう側にいるリーダーに対して、先輩は呆れ顔。

 ただ私には、先輩の気持ちと、リーダーの気持ち。少しだけど、どっちも分かる。

 

 「はぁ~あぁ~……。アタシの時もそうだったよな。ずっとボスかルーシーが、アタシのお守りしてたもんなぁ。」

 

 そうため息交じりに呟く先輩の頭には、炎みたいなオレンジ色の髪から、羊みたいな渦巻角がにょきっと生えている。

 その左側の角は、渦の途中でボッキリと折れてしまっている。

 残った右側の角も、欠けてたり傷が付いていたりと、痛々しい有様。

 本人は、何年かすれば生え変わるから心配ない、って話してたけど、心配なものは心配。

 きっとリーダーだってそう。仲間に傷ついて欲しくないだけなんだろう。

 

 『だから今のお前が居るんだ。分かったら集中しろ。』

 

 「うぃ~っす。」

 

 先輩が新人の時もそうだったんですね、とポツリ。

 すると先輩は、全身防弾プロテクターに覆われた体を持ち上げて、私の横に立ち、体を柵に預けた。

 

 「そっ。最初の半年くらい、ボスは1人で仕事させてくんないんだよ。出来るっつっても、ダメだの一点張りでさ。」

 「メリッサもそうなるんだろうな。じれったいかもしんないけど、我慢しとけ。」

 

 今までのリーダーの采配から考えて、そうなる事は確実だろう。

 でも、私はそれを不満に思ったことは無い。

 こうして、先輩達と一緒に仕事をするのは、楽しい。

 何の混じり気の無い本心をありのままこぼすと、先輩はみるみるうちに満面の笑みに。

 

 「何だぁ?嬉しい事言ってくれるじゃんか!そんな事言うのはこの口か?んん~~?」

 

 ほっぺを手の平で挟まれると、顔を先輩の方に向けさせられて、そのままほっぺをグリグリモチモチともてあそばれる。

 車列を見逃してしまう。歯抜け声で何とかそう訴えると、イマイチ本気か分からない謝罪と一緒に、手を放してくれた。

 顔を道路に戻しつつ、本当に来るのかと、再びポツリ。

 わざわざ匿名で依頼を出してたし、リーダーも不信感満々だった。

 目線だけをちらりと先輩に向けると、自身に満ちて微笑みを浮かべていた。

 

 「来るさ。そう信じて、待つだけだよ。情報が間違ってたら、そりゃ依頼主が悪いしな。」

 「コーヒー買ってくるわ。ミルクと砂糖は?」

 

 1個ずつで。そう注文して、柵から離れた先輩を送り出す。

 必ず上手く行く。先輩からはそんな自信と、仲間への強い信頼を感じた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 太陽が頭のてっぺんに上り、先輩がくれたコーヒーも飲み干した頃。

 依頼主の予想した時刻から、既に2時間は経っているが、車列の姿どころか、影すら見えない始末。

 見張りを交代したエルマー先輩も、腕時計を見つめてため息をついている。

 今日はもう現れないかもしれない。そんな諦めが私の中で積もっていく。

 

 「2時間遅れかよ……。こりゃ外れか?」

 

 『いや、当たりだ。車列が高速道路に入った。想定通りのルートを進行中。』

 

 「マジか!メリッサ、見えるか!?」

 

 リーダーの思いもよらぬ報告に飛び上がり、双眼鏡を握りしめ柵に寄りかかる。

 視線をゆっくり左に動かしながら、黒のSUVとセダンを探す。

 色とりどりの乗用車や、沢山の荷物が積まれたトラックの中に、黒のSUVが混じっていた。

 それも4台。中央にセダンを挟んで、1列に並んでいる。間違いない。

 両サイドにいる黄色と赤の乗用車を目印に、先輩に車列の位置を伝えた。

 車列の行先はD.U.方面。これも情報通り。

 

 「よっしゃ!こいつを腐らせずに済みそうだ!」

 

 先輩は私達の後ろに置いてあった対戦車ミサイル、ジャベリンを掴みに走り出した。

 私もすかさず付いていき、チューブの取っ手を掴んで肩に乗せる。

 モニターの取っ手をしっかり握って、柵に体を預けて安定させたら、ミサイルの電源を入れる。

 

 「アタシが前を狙う!メリッサは後ろな!」

 

 指示に従い、車列の1番後ろにいるSUVに狙いを定める。

 カメラをSUVに向けたら、レティクルを基準に微調整。

 ピッピッとブザーが鳴り始めたら、ロックオンが始まった合図。

 ジャベリンを揺らさず、SUVを捉えたまま、じっとこらえる。

 

 『射程内まで、後1km。』

 

 「そうだ……!そのまま来い……!」

 

 ブザーの音が、ビーッと長いものに変わった。

 つまり撃っていいって事だけど、もう少しだけ待つ。

 出来るだけ私達の方に引きつけなきゃ。

 車列は速度違反を取り締まる写真機を通り過ぎ、私達の前を横切ろうとしていた。

 

 「撃てェ!!!」

 

 合図に合わせて、先輩と一緒にミサイルを発射。

 ミサイルは炎を吹き出し、青空に向かって急上昇。これはこういうミサイルだから、故障じゃない。

 ミサイルがSUVに向かっている間に、チューブを地面に下ろして銃を用意。先輩はワイヤーランチャーを準備する。

 ミサイルを撃ってから10秒くらい。丁度私達の真正面に差し掛かったあたりで、前後のSUVにミサイルが落ちる。

 燃え上がったSUVに後ろのSUVが衝突。勢いが乗っていたセダンがそれを押しつぶし、1台後ろのSUVがセダンをさらに押し込む。

 これで車列の動きは止まった。ここまでは作戦通り。

 ただ、後ろで吹き飛ばされたSUVをかわそうと、1台の乗用車が急ハンドルを切った。

 それをかわそうと後ろの車が急ブレーキを踏み、さらに後ろの車は反応が間に合わず激突。

 壁に押し付けられた車が進路を塞ぎ、後続車の急ブレーキと事故を誘発させる。

 私達が車列を吹き飛ばしたことをきっかけに、連鎖的な大事故が発生してしまった。

 結果、セダンはへこんで煙を上げる車たちに囲まれ、身じろぎ1つ取れない状況になった。

 やってしまった。

 私達が引き起こしたとんでもない大事故に、そんな感想しか出てこなかった。

 

 「アッハハハ!!こりゃヒデェな!!」

 「よし、行くぞ!!悪党狩りの時間だァ!!!」

 

 私が呆然としている間に、先輩はレバーを引いてワイヤーランチャーを発射。

 ワイヤーを連れて宙を飛んだ杭は、反対側のビルの中央辺りに着弾。

 すぐにランチャーがワイヤーを巻き取り、ピンとしっかり張られる。

 先輩はこんな状況でも満面の笑み、というより、牙を剥き出しにした狂犬の表情。

 先輩は愛用のショットガン、Fostech Origin-12のハンドルを引き、フックをワイヤーに引っ掛けて高速道路に滑り降りる。

 心の中でこの事故に巻き込まれた全ての人に謝りながら、先輩と同じようにベルトからフックを取り出し、ワイヤーに引っ掛けて滑り降りた。

 

 両足を離して宙ぶらりんになった瞬間、重力に引かれて結構な勢いで加速していく。

 真下には何メートルも離れた道路が見えるし、顔に風が当たってビュウビュウとうるさい。

 やらなきゃ良かったと心の底から後悔するけど、ほんの数秒だから我慢だと恐怖心を強引に押さえつける。

 高速道路の上空に入った所で、先輩がフックを外して乗用車の上に着地。

 私もフックに手をかけて、中央分離帯を越えたと同時にフックを切り離す。

 勢いのまま2mぐらい落下して、乗用車の天井をへこませながら着地。

 ビービーとクラクションを鳴らす車たちを足場に、ターゲットが乗っているセダンに向かって歩く。

 SUVには警備も乗っているはずだから、奇襲に備えて慎重に。

 車から出て罵声を浴びせてくる民間人に、車に戻るよう指示しながら、ゆっくりと近づこうとすると、視界の左端で何かが駆けた。

 車の天井に次々足跡を残しながら、エルマー先輩がセダンに一気に近づこうとしていた。

 リーダーから、エルマー先輩には突撃癖があると聞かされていたけど、こういう事か。

 

 このまま置き去りにされても困るので、私もペースを上げる。

 3つ車をまたいだ所で、残った2台のSUVから黒スーツを着た奴が何人か降りてきた。

 当然、全員銃を握ってる。

 近くの1人に狙いを定めた瞬間、手前のSUVから降りた2人が、散弾で吹き飛ばされた。

 エルマー先輩に気づいた1人が銃を向けようとするが、素早く右手を掴まれ、腹に2発、頭に1発。

 残りの1人を私が仕留め、もう1人の頭を先輩の散弾がブチ抜いた。

 流石はエルマー先輩。ハウンズで1番凶暴なんて言わてれるだけある。

 そう考えた瞬間、奥にいた連中から撃たれ出した。感心してる場合じゃない。

 弾が掠った痛みは根性で我慢しつつ、後ろから2台目のSUVまで一気に駆け寄る。

 トランクの後ろに身を隠し、一瞬だけ顔を出して状況確認。

 私が顔を出した一瞬を狙って、サブマシンガンの弾幕が一気に濃くなる。

 セダンを境目に、右に3人、左に2人展開してる。

 このまま突っ込んでもハチの巣だ。

 

 『メリッサ!アタシが右をやる!左は頼むぞ!』

 

 先輩は私の右側の乗用車に隠れているが、何とその表情は狂犬の笑み。

 この仕事が楽しくてしょうがないんだろう。

 了解の合図を送ると、先輩は低い姿勢のまま、弾幕の中を突っ切っていった。

 拳銃弾が先輩の角やプロテクターでガンガン弾かれ、お返しの散弾が1人、2人と仕留めていく。

 私もグリップを左手に持ち替え、ストックを左肩に引き付けてから、体を傾ける。

 撃たれる前に、まず1人。体の中心を狙って3発バースト。

 3発全部当たったけど、怯んで倒れただけ。でも今は放っておく。

 素早く2人目に狙いを切り替えてバースト。弾が掠めようが、狙いは絶対に逸らさない。

 1発が頭に当たって、こいつは気絶した。

 グリップを元に戻し、SUVから離れて、セダンに近づいていく。道中で倒れた1人の頭に3発叩き込んでトドメ。

 セダンに視線を移すと、先輩に頭を掴まれた黒スーツが、ボンネットに頭を叩きつけられていた。

 あいつは先輩に任せて、私はセダンの中を確認。

 後部座席に1人、運転席に1人乗ってる。後ろに乗ってるのが、今回のターゲット。

 黒スーツにトドメを刺した先輩が、運転席のドアを叩いて運転手に出ろと指示。

 私も銃口を使って、ターゲットに外に出ろと無言で指示する。

 まず運転席のドアが開いた。先輩に引きずり出された運転手は、ショットガンで行けと指示される。

 運転手は何も言わずに従い、途中で倒れた黒スーツに躓きながら、高速道路を逆走するように逃げていった。

 トランクを上って反対側に移動し、先輩と並んでターゲットを待ち構える。

 私達を睨みながら、ゆっくりとドアを開けたターゲット。

 両手を挙げたままなので、威厳も何もあったものじゃないけど。

 

 「お前達……!私が誰か分かって――!」

 

 「へーへー、知ってるよ。猟犬に狙われた、哀れな子羊さ!」

 

 先輩はターゲットが口を開いた瞬間に左フックをお見舞い。

 そのまま顎を引っ掴んでドアフレームへ後頭部を叩きつける。

 当然、ターゲットは気絶。地面に抱き寄せられるみたいに、うつ伏せに倒れた。

 私はターゲットの腕を後ろに回し、持たされていたダクトテープでグルグル巻きにする。

 ついでに口も塞いでおこう。

 一仕事やり切った顔の先輩に、ここからどうやって逃げるのか聞いてみると、得意げな笑顔が一瞬で消えた。

 

 「ヤベッ、それ考えてなかった。」

 

 一番考えなきゃいけない所を、どっちも考えてなかったのだ。

 左手で目を覆いながら、大きくため息を1つ吐く。

 ここで先輩や過去の私に文句を言っても、どうにもならない。

 事実上封鎖されている高速道路から、どうやって脱出するべき?

 顔を持ち上げふと目に入ったのは、さっきまでターゲットが乗っていたセダン。

 防弾仕様な上にエンジンも強化されてるって話だから、他の車を押しのけて脱出できるんじゃないか?

 すぐに先輩にそう伝えれば、たちまち牙を剥いて笑顔に戻った。

 

 「いいじゃん!スリルドライブとしゃれこむか!!」

 

 先輩が運転席に走り、私はターゲットを抱えて後部座席に放り込む。

 トランクの上をスライドして反対側に移動、そのまま助手席に滑り込む。

 先輩が鍵を回してエンジンをかけようとするが、キュルキュルと鳴くだけで中々起きてくれない。

 プランB、つまり走って逃げる事を提案しようとした瞬間に、エンジンが激しい咆哮をあげる。

 すぐに体をシートに押し付け、同時に後輪からギャリギャリと白煙が上がる。

 真後ろにいたSUVがじりじりと押しのけられ、前の視界を埋めていたSUVが離れていく。

 ある程度隙間が空いたら、今度は前に急加速。SUVの残骸と乗用車の間目掛けて突撃する。

 むち打ち症になりそうな衝撃を乗り越えれば、障害物は完全に押しのけられ、目の前には誰も居ないまっさらな道路が広がった。

 後は、この道路を飛ばして逃げるだけだ。

 

 「――――――ッ!!――――ッ!!」

 

 「うるせぇなァ。運転手に文句付けんじゃねぇっての。」

 

 声の方向に目を向ければ、後部座席の床の方に転がったターゲットが呻いていた。

 さっきの衝突で目が覚めるのと一緒に、そこまで落ちたみたい。

 何を言おうとしてるのかは分からないけど、先輩がしれっと中指を立てた事と一緒にスルーする。

 

 『エルマー、メリッサ。風紀委員会が動いた。お前達を追跡してる。』

 『もし出くわしたら、交戦しろ。本意ではないが、仕方ない。』

 

 「あんだけデカイ事故起こしたからな!そりゃ風紀も動くわな!!」

 「1回越境してから配達する!そうすりゃすぐには対応出来ねぇだろ!」

 

 渋滞から離れて1分ぐらいで、リーダーからごく当然な報告が入った。

 ミサイルぶっ放して高速止める位の事故を起こして、挙句誰かを誘拐して爆走してるなんて、追いかけない方がおかしい。

 という事で、風紀委員会を振り切るために、1度D.U.まで逃げる事になった。

 治安維持組織が自治区境界を越えてしまうと、色々と面倒な事になる。そこを突くって訳。

 マガジンを交換して窓の外を見れば、少し先にオレンジ色のポールが並んでいるのが見える。

 そして、エンジンの轟音の向こうから、薄っすらとサイレンが聞こえる気がする。

 理性と直感両方が、嫌な予感がすると叫んでいる。そして、それは見事的中。

 1番先のポールを通り過ぎた辺りで、風紀委員会の装甲車がパトランプをピカピカと光らせて、私達を追いかけてきた。

 もちろん1台だけじゃない。4台の装甲車が本線に合流すると、横1列に並んで私達の退路を塞ぐ。

 

 「そこの黒のセダン!今すぐ止まれ!」

 

 「マジか!?アイツら早ぇな!?」

 「メリッサ、やっちまえ!」

 

 リーダーからの許可も出てる。こうなったら実力行使だ。

 窓を開けて上半身を乗り出し、真後ろの装甲車に向けて構える。

 背中にキツイ風を浴びながら狙いを定めるのは難しいけど、ここで出来なきゃどうしようもない。

 数撃ちゃ当たるの精神で、トリガーを引いてとにかくばら撒く。

 一応正面に当たってはいるけど、小銃弾じゃガチガチの装甲でガンガン弾かれる。

 そりゃ当たり前だ。じゃなきゃ装甲車なんて呼ばれない。

 風紀委員もやる気になったのか、ガンナーが1人ずつ装甲車から顔を出した。

 撃たれる前に車内に戻り、フラググレネード3つを取り出したら、ピンを全部抜く。

 3秒待ってから窓の外に放り投げて、後は当たってくださいとお祈り。

 祈りが通じたのか、1発は左端の装甲車の前輪を吹き飛ばし、もう2発が真後ろにいた奴のお尻を派手に持ち上げる。

 これで2台脱落。あと2台落とすか、D.U.まで逃げきれれば私達の勝ち。

 

 他に装甲車に効きそうな奴を車内から探していると、リアガラスに大きなヒビがいくつも入る。

 いくら頑丈とはいえ、重機関銃で撃たれまくったらいずれスクラップになる。

 先輩もジグザグ走行に切り替えてかわそうとするけど、流石に効果は今一つ。

 何か無いのかと先輩に聞けば、何かあるはずだから探せの一言。

 次先輩と仕事するときは、私が計画を立てる。そう心に誓った時、目に映ったのはトランクの中身。

 倒れたリアシートの向こうに、ロケットランチャーのようなモノが見えるのだ。

 一縷の望みをかけて、グラグラと揺れる車の中、後部座席に滑り込む。

 ターゲットを思いっきり踏んづけた気がするけど無視。

 もう片方のシートを倒せば、それは確かにロケットランチャー。

 銃火器のバーゲンセールみたいなトランクから、ロケットランチャーを引っ張り出して、そのまま車内で肩に担ぐ。

 ヒビまみれの防弾ガラスならぶち抜いてくれるはず。

 そんな願いと一緒に引き金を引けば、ロケットは右端の装甲車に向かって飛翔を開始。

 狙い通りガラスを突き破ったロケットは、装甲車の横っ腹に直撃。

 姿勢を崩した装甲車は、左の壁に吸い込まれるように激突した。

 

 後1台は、もうどうにでもなれ。目についたマシンガンを引き出して、ガンナーに向けて乱射する。

 重機関銃の激しい銃声に、セダンをガンガンと叩くプレッシャー。

 おまけに車はジグザグに走ってるから、狙いなんて付けられたもんじゃない。でも何もしないよりマシだ。

 マシンガンの強烈な反動を全身で抑え込み、銃身をトランクに押し付けて撃ちまくる。

 ベルトの端が見えてきた所で、ガンナーの頭に1発直撃。

 そのまま気絶したのか、車内にストンと落ちていった。

 残りの弾は運転手にぶちまける。

 銃口を軽く落として引き金を引こうとした瞬間、装甲車は白煙を上げて急ブレーキ。

 不思議に思ってストックから頬を離すと、視界の左端に映ったゲヘナの看板。

 ゲヘナ自治区の境界を越えた。私達は逃げ切ったんだ。

 

 「フッフゥ~!!どんなもんだ!!」

 

 マシンガンをトランクに戻し、シートを起こして腰掛ける。

 もう、どっと疲れた。初仕事とは違う方向で疲れた。

 次は私が計画立てます。そう抗議すれば、先輩は満面の笑みで悪い悪いと適当な返事。

 この人、仕事をアトラクションだと思ってるんじゃないだろうか。

 もしそうなら、1周回って羨ましい。人生ずっと楽しそう。

 大きなため息を隠さず吐いた所で、足元でもぞもぞと動く存在の事を思い出した。

 カーペットにたんこぶだらけの顔を擦り付けてテープを剥がしたのか、口元があらわになっている。

 

 「プハッ!お前達、誰から雇われた!?」

 

 「知らねぇ。オメェを派手に連れて来いって以外知らねぇぞ、アタシらは。」

 

 「こんな事を依頼するのは……。まさか、奴らか!?」

 「いくらだった!?いくらで雇われた!?私を逃がすなら倍払うぞ!」

 

 「ボス。見逃してくれるなら倍払うって言ってるけど、どうする?」

 

 恨まれる心当たりがあるのか、急に身をよじりながらわめきだすターゲット。

 拳銃を抜いてその場で大人しくさせておき、先輩とリーダーの判断を仰ぐ。

 

 『無視しろ。依頼を遂行するんだ。』

 

 「悪ィ、断られたわ!そのまま大人しく座ってな!」

 

 ボスの返答は実に無慈悲。正直私も同意見だ。

 ここまでやっておいて、やっぱ無しは通じないだろう。

 

 「たっ、頼む!見逃してくれ!奴らだけは勘弁してくれぇ!!」

 

 「良いから大人しくしてろって。怪我しても知らねぇぞ!」

 

 いよいよ外聞を投げ捨てて泣き出したターゲット。

 大の大人がこんな情けない表情をするのか。

 それとも、そんなに怖い人たちに恨まれたと思っているのか。

 でも、仕事の前にリーダーが言ってた。これからこの人がどうなるかなんて、私達は知らなくていい。

 少し悪い気はするけど、これも仕事。依頼人の元にしっかり届けなきゃね。

 

 その後ぐるっと大回りしてゲヘナに戻って、引き渡し地点まで爆走。

 そこで待っていたのは、同じ黒スーツにサングラスをかけた、クローンみたいな人が4人。

 四つ子なのかなと思いつつ、“荷物”を無事に引き渡した。

 4人は泣きわめくターゲットをズルズルと引きずり、車に押し込んで去っていった。

 押し込めてる間に、ザッケンナコラー!とか、ダマレッコラー!とか言ってたのが、妙に耳に残った1日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 『やってくれたわね、レイヴン。後輩からの報告を聞いた。』

 『たった2人にしてやられたって話だから、何事かと思ったけど。』

 

 『そういう仕事だ。分かっているだろう、ヒナ。』

 

 『分かってる……。今度は手加減して。それで、本題に入るけど……。』

 『新人の、メリッサ。あの子を実戦投入するつもり?』

 

 『そのつもりだが。』

 

 『それなら急いだ方が良い。奴らの動きが変わってきてる。』

 『あまりうかうかしてると、展開次第で間に合わなくなる。』




そういえば、ルーシーのモチーフ犬種書くの忘れてましたわ。
モチーフは王道のジャーマンシェパードでございます。
まあモチーフによらず、皆大なり小なり凶暴なんだけどね。

次回
囚われのお姫様
誤爆、誘爆、ご用心

次回も気長にお待ちくださいませ……。

――――――――――――――――――――――――――――――――

長谷川リッカ(ピットブルテリア)
 コールサイン:「エルマー」

独立傭兵部隊、ハウンズの3番手

ゲヘナの不良生徒だった彼女は、
ある日レイヴンに叩き潰され、
以来彼女を慕うようになった

何度追い返しても頭を下げる彼女にレイヴンは根負けし、
今ではレイヴンの戦いを最も色濃く受け継ぐ猟犬となっている

脳内麻薬を異常分泌する体質の持ち主で、
それがもたらす高揚感の依存者でもある

固有武器
 SG:「ファンザーカー」

ハウンズの猟犬の1人、リッカの獲物

ショットガンらしからぬ激しい連射速度は、
彼女が持つ性質を端的に示している
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