その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第9話『その転生者は送迎する』

「お疲れ様でした」

 

「おつー」

 

採寸を終えた事を告げる新菜の言葉に海夢ちゃんは大きく伸びをしながら返す。

俺は二人の横で海夢ちゃんの採寸結果を纏めたメモと海夢ちゃんのコス衣装作成のための教本を見比べ、測り忘れた個所がないか念のためチェック中だ。

 

「服着るね」

 

「ハイ。守優もお疲れ様、手伝ってくれてありがとう」

 

「別にお礼言われる程の事はしてないよ。ほとんど新菜がやったんだし」

 

チェックした箇所が分からなくならないよう、目線を逸らさずに返事をする。

実際俺が言った通り採寸をしたのは新菜だ。俺はアンダーバストを測る手伝いをしただけ。

むしろ最後のシーンこそ見逃したが、伝説の採寸回をこの目で見届けられたのだ。感謝するのはこちらの方だろう。

 

「いやもうホントにありがとうございました。ご馳走様です」

 

「なんで敬語……それに何もご馳走してないよ……」

 

新菜が困惑しているが、お前はそれでいい。

これからも純粋なままでいてくれ。

 

「ところで喜多川さん、型紙を起こすのに衣装の詳細が知りたいのですが……何か資料とかありますか?」

 

「ああ、そうそれ! あたしもそう思って――はいっ♡ “ヌル女”の1と2♡」

 

新菜の言葉を受けて思い出した様子の海夢ちゃんが取り出したのは二つの神ゲー。

しかし、パッケージ版を買うのはあまりにも強者(つわもの)過ぎる。俺はそんな度胸がないのでDL版を買いました。

満面の笑みで“ヌル女”を差し出す海夢ちゃんに新菜は若干引き気味ながらそれを受け取る。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「“ヌル女2”だけあればいーと思ったけど、1の流れも分かってた方がいーかなって!」

 

「一理あるかもね。流れとか世界観とか分かってる方がそれに合わせて生地を選ぶのに役立ったりしそうだし」

 

きっと頭の中で『画像があれば十分なんだけど』なんて考えてそうな新菜のため、海夢ちゃんの言葉に同感の姿勢を見せる。

コスプレ衣装を作るためにその元ネタについての理解を深めるというのは、今後の新菜の衣装作りに大きく役立つと思う。実際、そうしてきたからこそ、原作ではいくつもの素晴らしい衣装を作っていたのだから。

 

「た、確か、に゛っ⁉」

 

「明日日曜だし、プレーしてみてよ! マジカワイーから♡」

 

俺の言葉に納得しかけていた新菜の声が裏返り、そのまま固まる。

視線を向ければ、新菜は着替え中の海夢ちゃんの服から覗く谷間や股間に釘付けになっていた。

上着だけって逆にエッチだし、そこから覗くチラリズムが余計にエロさを増してる気がする。

 

「あ……着替えの途中に声かけてすみません……」

 

「全然いーけど、大丈夫? お腹痛いの?」

 

「すみません、大丈夫です……」

 

顔を赤くして前屈みになる新菜。やはり彼には刺激が強すぎたらしい。

海夢ちゃんは様子がおかしい新菜の事を気遣うが、その無自覚さと無防備さが今の新菜には毒なんだよなぁ。

 

「喜多川さん、お行儀悪いから先に服を着なさい」

 

「あはは、月見里君ってばお父さんみたいっ」

 

俺の指摘に笑いながら、海夢ちゃんが着衣を再開する。

その間に俺も新菜にあるものを渡すために声をかけた。

 

「新菜、“ヌル女”をプレイするならこれ使った方がいいぞ」

 

「ヘッドホン……?」

 

新菜の言う通り、俺が彼に渡したのは俺のお古のヘッドホンだ。

原作見ててビックリしたけど、この子は海夢ちゃんの採寸には終始ドキドキしてた癖に、エロゲはヘッドホンもつけずに真顔でプレイするからな。

まぁ、“ヌル女”をプレイするのは資料を作るための研究だし、そこにやましい気持ちがないからなんだろうけど。それでも薫おじいちゃんを無駄にビックリさせないためにもこれは必要だろう。

 

「わかった、ありがとう。それにしても、よくヘッドホンなんか持ってきてたね」

 

原作知識(チート)です。

 

「資料作成のために“ヌル女2”をプレイしようとする可能性があったからな。念のため」

 

「月見里君、さっすが~!」

 

俺がそれらしい理由で言い訳している間に服を着終えた海夢ちゃんが笑顔で参加する。

ついでと言わんばかりに俺の肩に触れてきた。ギャル特有の距離の詰め方がエグい……!

推しからのボディタッチに顔がニヤけそうになるのを押し殺しながらスマホを確認すると、既に時刻は17時を超えていた。

 

「もうこんな時間か。採寸終わったし、今日はこの辺で解散かな」

 

「そうだね。あたしも明日バイトあるし、そろそろ帰らないと」

 

俺の言葉に海夢ちゃんが同意し、今日はお開きの流れになる。

お互いに荷物を纏めて順番に階段を降り、最後に新菜が続いた。

玄関の戸を開けば夕日が沈みかけ、反対の空を見やればぼんやりと月が見え始めている。

 

「喜多川さん、今日はお疲れ様でした。守優もお疲れ様、色々とありがとう」

 

「ごじょー君もお疲れ様!」

 

「さっきも言ったけど、俺はほとんど何もしてないよ。今日一番頑張ってたのは新菜だ。本当にお疲れ様」

 

「……それでもだよ。本当に、いつもありがとう(・・・・・・・・)

 

新菜が柔らかく微笑む。

……お前、もしかしてあの時海夢ちゃんとの会話聞いてたな。

くそっ、不意打ちとかズルいだろ!

 

「……どういたしまして」

 

「あれ~? 月見里君、なんか照れてる?」

 

海夢ちゃんがニヤニヤと笑みを浮かべて俺の顔を覗き込んでくる。

原作読んでて思ったけど、海夢ちゃんって結構人を揶揄うの好きだな。とりあえず、今だけはやめてほしい……!

 

「照れてない」

 

「え~? でも顔赤いじゃ~ん」

 

「夕日のせいだって。ほら、駅まで送るから行くよ。新菜、またな」

 

これ以上絡まれるとボロが出そうだ……!

俺は海夢ちゃんを促しつつ、一足先に駅へと向かう事にした。

 

「あははっ。じゃあね、ごじょー君っ」

 

「はい。また月曜日に」

 

海夢ちゃんと新菜が笑顔で別れの挨拶を交わし、そして海夢ちゃんが俺の隣に並ぶ。

背後を見れば、律儀に新菜が小さく手を振って俺達を見送っていた。

俺と海夢ちゃんは手を振り返し、岩槻駅へと向かう。

 

「今日楽しかったね」

 

駅に向かう道中、ふと海夢ちゃんが口を開く。

彼女の表情を見れば、どこか満たされたような笑顔を浮かべている。

 

「最初は『早く雫たんになりたい』って気持ちでごじょー君の家に行ったけどさ、ただの採寸があんなに楽しい時間になると思わなかった!」

 

「……そりゃ、喜多川さんは新菜の事を散々揶揄ってたんだから楽しかったんじゃない? 最後には俺も揶揄われちゃったし」

 

「それはマジゴメンって! でもそういう意味じゃなくて――」

 

「わかってるよ。俺も楽しかった」

 

あえて海夢ちゃんの謝罪を遮りながら、俺は返す。

俺の言葉にちょっと驚いた顔をしているのを見て、思わず笑いが零れた。

 

「俺、ずっと新菜の事を友達に紹介したかったんだ。真面目で純粋で、誰かのために一生懸命になれる優しい親友の事を。で、新菜も巻き込んで友達とふざけあえたら最高だなって」

 

「……」

 

「新菜もさ、喜多川さんに揶揄われて困ってはいたけど、一回も嫌そうな顔はしてなかった。喜多川さんのコスプレへの想いに応えようって気持ちは勿論あったんだろうけど、それを抜きにしてもあの時間を受け入れてたと思うんだよね」

 

本当にどう思っていたかは分からないが、幼馴染としてずっとアイツの傍にいた俺はそう感じたのだ。

なにより、その相手は海夢ちゃんだ。俺はこの直感が正しいと信じる。

 

 

「だから、今日は本当にありがとう。これからも、新菜の事よろしく頼むよ」

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

分厚い眼鏡の奥で微笑む月見里君は本当に幸せそうだった。

それだけごじょー君の事を紹介出来て嬉しかったんだって伝わってくる。

 

(あたし、こんなに友達の事考えてあげられたかな)

 

決して友達の事を大事にしていない訳ではない。

乃羽や大空に瑠音。それ以外にも友達は沢山いるし、一人一人があたしにとって大切な友達なんだって自信を持って言える。

でも、月見里君みたいに一人の友をここまで想う事はあったかと思うと素直に頷けない。

それくらい二人はお互いを大切にしてるし、お互いの事を考えてるんだって思った。

 

(それって、めっちゃ素敵じゃん……‼)

 

これが親友(マブダチ)ってやつ⁉ めっちゃエモくない⁉

ごじょー君も月見里君も最近まであんま絡みなかったけど、二人とも最高すぎなんだけど!

 

「そんなのあたり前じゃん! てか、月見里君もだからっ!」

 

月見里君の言葉にあたしは興奮気味に返した。

てかエモいとか抜きにしてもごじょー君も月見里君もめっちゃいい人ってわかったし!

そんな友達が二人も出来たのに、絡みがないとかありえないでしょっ。

 

「! ……うん。じゃあ、俺も一緒にこれからよろしく」

 

「こちらこそヨロ!」

 

あたしは月見里君の肩を軽く叩きながら返す。

その後は今クールで放送中のアニメについて色々と語り、そうしている内にあっさりと駅に到着した。

 

「はぁ~、マジ最高の一日だった!」

 

雫たんの衣装作りに一歩近づいたし新しい友達のエモいとこ知れたし!

大きく伸びをするあたしの横で月見里君が変わらず笑みを浮かべている。

 

「暗くなってきたし、帰り気を付けてね」

 

「うん。てか、送らせちゃってごめんね?」

 

「いいって。俺が言い出した事なんだから……それにしても、今日の事思い出したら、また“ヌル女”したくなったな。寝る前にプレイしよっかな、明日は休みだし徹夜で遊ぶのもありかも」

 

「わかる~! 雫たんのコス衣装に近付いたって思っただけでまたプレイしたくなる!」

 

月見里君の言葉に反射的に同意する。

元々神ゲーだし、今日の採寸がきっかけであたしの中の雫たんへの愛が再び燃え上がってるのを感じる。

でも、明日は朝からバイトなんだよね~……

 

「…………ねぇ、月見里君。なんで今そんな事言うの?」

 

「え~? なにが~?」

 

「なんで! 明日バイトのあたしの前でっ! そんな事言ったの⁉」

 

「別に他意はないって~。ほら、電車来ちゃうよ?」

 

さっきまでとは違う、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべた月見里君が電光掲示板を指差す。

確かにあたしが乗る電車がもうすぐ到着する時間だ。

これ絶対あたしへの仕返しじゃん! しかもタイミング見計らって言ったでしょ!

 

「いいし! バイト終わってから遊ぶから!」

 

「明後日は学校だから夜更かししないようにね?」

 

「イ゛~ッ! 月見里君の意地悪! バイバイ!」

 

「あははっ、バイバイ」

 

意地悪されてちょっとムカついたけど、笑顔で手を振る月見里君に怒る気持ちが削がれて、最終的にはあたしも笑顔で返す。

……でもやっぱりちょっとムカついたのには変わらないので、月見里君にほんのちょっとだけ不幸な事が起こるように心の中で祈っておいた。

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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