その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第10話『その転生者は激怒する』

土日の休みが明け、月曜日の朝。あの夢を見たわけでもないのに、学校に向かう俺の足は重かった。

理由は二つ(・・)

一つは、昨夜見た夢だ。

 

『ごじょー君……ごじょ……ご、ごしゅじ……ご主人様ぁ……♡』

 

コスを完成させ、それを着た喜多川さんが心まで性奴隷(雫たん)になってしまい俺に迫ってくるという夢。

今思い出すだけでも顔に熱が集まるのを感じる。

 

(あ、あんな事(・・・・)して……喜多川さんに会ったらどんな顔すれば……)

 

土曜日の採寸、そして喜多川さんから借りた“ヌル女”のプレイ。

きっかけはあるが、だからってなんて夢を……

 

(それから……)

 

俺はチラリと視線を横に向ける。

もう一つの理由。それは幼馴染の守優が――

 

「あ゛ァ? なんだよ?」

 

滅茶苦茶怒ってるという事。

 

「いや、その……今朝は本当にごめ――」

 

「ホントにな⁉」

 

俺が謝罪の言葉を言い切る前に守優が言葉を被せてくる。

身長差のせいで俺を見上げるような形になるため上目遣いの彼の表情が直接窺えるが、その顔は眉間にシワを寄せ怒りの感情がありありと出ていた。

守優がここまで怒る理由。それは俺の家を出る際に起きたじいちゃんとの会話だった。

 

 

 

~☆~

 

 

 

『じいちゃん、行ってきます』

 

『薫おじいちゃん、行ってきます』

 

『おお、気ぃ付けて――……あー、守優……ちょっといいか?』

 

俺達が学校へ行こうとする際に、じいちゃんがどこか躊躇いがちに守優の事を呼び止めて、手招きする。

俺は勿論、守優も呼び止められた理由が分からず、俺達は揃って首を傾げた。

 

『? どうかした、おじいちゃん?』

 

『お前、土曜日に友達と一緒に遊びに来てたんだよな?』

 

『うん。その日におじいちゃんが電話してきて俺が対応したじゃん』

 

いまいち要領を得ない様子のじいちゃん。

じいちゃんは俺の方を一瞥すると更に手招きをして守優を傍に寄らせ、耳打ちをする。

 

 

『……その日の夜に新菜がパソコンでゲームしてたんだが……あれはお前が貸したのか?』

 

「はへぁ?」

 

 

小声のはずなのに何故かしっかりと耳に届いたじいちゃんの言葉に、俺は空気がビシリと罅割れた感覚に襲われる。

耳打ちをされた守優は笑顔のまま固まり、彼の口から洩れた声はまるでじいちゃんの言葉の意味を理解するのを拒んでいるようだった。

 

『へ? は、ぁ? な、なんで……? お、おじ、おじいちゃんがそれ……知ってんの……?』

 

『いやぁ……ミシン買ってきた事を伝えるために新菜の部屋に行ってな。その時に……その、なんだ……声が聞こえちまってよぉ』

 

今までにないほど狼狽える守優にじいちゃんも気まずそうにしながら答える。

その二人の会話から俺はその時の様子を思い返した。確かにじいちゃんが部屋に来た時、俺は衣装制作のために“ヌル女”をプレイしてて……

 

(っ、そうだ……! 最初はヘッドホンをしてたけど、途中で外して――っ‼)

 

付けなれないヘッドホンに違和感があったから結局外したんだった!

焦って俺は守優の方へと視線を向けると、彼は俺以上に焦ってじいちゃんに釈明をしている。

 

『ご、ごめんねおじいちゃん! でも、あのゲームは確かにちょっと大人向けなところはあるけど、感動できるシーンとかあったりして本当に良いゲームで……! いや、その、ホント……! っ、っ……ごめんなさい』

 

『い、いや、お前も新菜も年頃だし、そういうのに興味があるのは普通の事だよなっ。じいちゃんが悪かった、忘れてくれっ』

 

最後には顔を真っ赤にして涙さえ浮かべる守優に、じいちゃんも思わず謝罪する。

俺の不注意のせいで朝から気まずい雰囲気になってしまった……!

 

『ホントにごめんね、おじいちゃん! あの、俺、学校行くから……!』

 

その場の空気に耐え切れず、守優が走り去る。

そして取り残された俺とじいちゃん。

 

『……悪い。新菜、お前からも謝っといてくれ』

 

『……うん。そもそも俺が原因だし、ちゃんと謝っとくよ』

 

俺達もその場の空気に耐え切れず、電車の時間が押している事もあって解散した。

 

 

 

~☆~

 

 

 

そして、守優に追いついて現在に至る。

 

「お前さぁ⁉ どういう神経してたら家族の前で堂々とエロゲできるんだよ⁉ そもそも、なんでヘッドホンしてないんだよ⁉」

 

「ご、ごめん……! あの時は衣装作るための資料作りに集中してたからっ! へ、ヘッドホンも最初は着けてたんだけど、着け慣れてないから違和感が凄くて……!」

 

「だったら耳から外すだけにしとくよな普通⁉ 俺の配慮を返せよ‼」

 

守優の言葉も怒りも尤もだった。

一応俺にも理由があったので弁明するが、やはり最後には謝る事しかできない。

 

「ほ、本当にごめん……! 俺のせいで、守優に迷惑かけて……!」

 

「……あ~、もうっ! 俺、今度からどんな顔しておじいちゃんに会えばいいんだよぉ……」

 

両手で顔を覆いながら、守優は力なく呟く。表情は窺えないが、耳や首まで赤くなっているのが分かった。

正直一つ屋根の下で一緒に生活している俺も今となってはちょっと気まずいけど、ゲームをしていたのは俺だし、ヘッドホンを外していたのも俺だ。それは自業自得だろう。

でも、守優の場合は完全な貰い事故だ。

 

「守優、ごめん……」

 

「……いいよ、もう……」

 

顔を覆ったまま、守優が弱弱しく答える。

そんな幼馴染の様子を見ている本当に申し訳なくなってくる。

なにか、お詫びになるような事が出来たら――

 

「一週間、ご飯奢れ。それで許してやる……」

 

「う、うん……」

 

俺の財布、大丈夫かな。

一抹の不安を覚えるが、俺は首を縦に振る事しか出来なかった。

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

どうも、新菜のせいで朝から恥ずか死しかけた守優です。

マジでコイツありえないんだけど! ヘッドホン着けるのに違和感あるのは百歩譲って分かるけど、なんでプラグ抜いてんだよ⁉

そもそも海夢ちゃんの水着姿でキョドってた癖に、エロゲでガッツリ濡れ場シーン見てて、しかもそれを家族に見られても気にしてないっていうのが理解できない。職人特有の集中モードってやつなんだろうか?

とりあえず新菜に悪気はないし反省もしてるし、なにより申し訳なさそうにしてる新菜が怒られた大型犬みたいに見えて可哀想になったので許した。

でも恥をかいたのは事実なので、代わりに新菜の財布には犠牲になってもらう。

 

「あっ、喜多川さん!」

 

「やっぱ海夢ちゃん超可愛い~!」

 

新菜と一緒に教室に向かっていると、周りの生徒達が向かい側から歩いてくる海夢ちゃんを見て口々に褒めているのが聞こえる。

「脚長ぇ~」や「骨が違う」などの声が聞こえる度に俺は心の内で強く頷く。喜多川海夢という人間の造形美、最高だよね。

しかも見た目だけじゃなく中身も最高なのが神。

俺が彼女の美貌で栄養を摂取している隣では新菜がそそくさと教室に入ろうとする。

大方土曜日の事と今朝見たであろう夢の事を思い出して気まずいのだろう。

そうはいかないなのです!(シオンのフラワーペット感)

 

「ごじょー君、月見里君、おはーっ」

 

俺達に気付いた海夢ちゃんが笑顔で大手を振る。

眩いほどの笑顔で俺達に駆け寄る海夢ちゃんに、新菜は落ち着かない様子だった。

 

「あっ、お、おはようございます……!」

 

「喜多川さん、おはよう」

 

「土曜はありがとねーっ。雫たんに一歩近づいたって感じでマジ嬉しかったよ~♡」

 

先日新菜の家で行った採寸の事を思い出し、海夢ちゃんが笑顔を浮かべる。

対する新菜はそこから別の事も思い出したようで茹蛸みたいになっていた。

 

「…………すみませんっ……」

 

「は? 何が?」

 

海夢ちゃんは突然謝罪の言葉を口にする新菜に首を傾げるも、話題を切り替えようと自身の髪を持ち上げてアピールする。

先日は奇麗なストレートだったのに対し、今日はヘアアイロンを使ったのか可愛くロールしていた。

 

「ねっ、どー? 今日ノリで巻いてきたんだけどっ!」

 

「あ、はいっ……えと……ま、巻いてますね……っ」

 

普段とは違う髪型をアピールする海夢ちゃんに対して、交友関係に乏しい新菜はどのような返しをしたらよいのか分からずオウム返しのように返答するしかなかった。

 

「まんまかよっ! ウケる‼」

 

「すっ、すみませんっ!」

 

「新菜、そういう時は『可愛いですね』とか『似合ってます』とか、思ったままに褒めてあげたらいいんだよ」

 

だが、場合によっては『意識して見てきてキモい』とか言われたりするから要注意だぞ!

自分からアピールしてきても、意中の相手やイケメンからの賞賛しか受け取ってくれないパターンがあるからな!(前世で一敗)

 

「な、なるほど……! よく似合ってて素敵です……!」

 

「あはっ、サンキュー!」

 

前世の苦い思い出を思い出している間に、新菜は言われるがままに海夢ちゃんの髪型を褒める。

俺に言われるがままに褒めたのには変わりないが、それでもその言葉は本心である事は伝わったのか、海夢ちゃんは嬉しそうにピースして返した。

 

「何話してんのー? うちも混ぜろよ~」

 

駆けてきた海夢ちゃんに追いつく形で乃羽ちゃんが会話に参加する。

更に後ろから大空ちゃんと瑠音ちゃんもやってきて、あっという間にギャルに取り囲まれる形となった。

 

「おっす!」

 

「おっ、おはようございますっ」

 

「おはよう、菅谷さん」

 

「オハヨーす」

 

「おは~」

 

「八尋さんと山内さんも、おはよう」

 

俺は挨拶は何度も交わしているし、会話だってしているので特に新鮮さはない。

一方新菜はこれまで俺以外と関わってきた事がないのもあって、少し緊張した面持ちだ。

 

「何気に初絡みだよねー、ヨロー」

 

「ハイっ、よろしくお願いしますっ」

 

「山内さん、うちの新菜の事よろしくね」

 

「いいけど誰目線の台詞なんソレ?」

 

兄弟同然のマブ目線です……前も同じ事あったな。

俺の言葉に笑う瑠音ちゃんの横で、乃羽ちゃんが飴を取り出して新菜へと差し出す。

 

「アメいる?」

 

「あっ、ありがとうございますっ」

 

「新菜、女性から物を貰ったら三倍返しが基本だぞ」

 

「ええっ⁉」

 

「ホワイトデーかよ、ウケる」

 

新菜がしっかりと飴を受け取ったのを確認してから揶揄えば、新菜は自身が受け取った飴と俺、それから乃羽ちゃんの顔を忙しく見て困惑していた。

そんな新菜の新鮮な反応を見て乃羽ちゃんは笑いながら「お返しとかしなくていいからっ」と誤解を解いてあげる。

 

「つーかリアルに何? 超困っててカワイソーだろ。ウザ絡みすんなって」

 

女子との交流の仕方が分からず困惑する新菜を気遣ってか、大空ちゃんが海夢ちゃんを窘める。

対する海夢ちゃんは新菜の肩を抱いて身を寄せ、もう友人として仲を深めている事をアピールした。

 

「困ってないっつっーの! ねっ、ごじょー君っ!」

 

その時、新菜に電流走る。

 

「はっ、はい‼」

 

海夢ちゃんの胸が新菜の腕に当たっているのが分かる。

恐ろしく自然な流れでの密着。(原作を知ってる)俺でなきゃ見逃しちゃうね。

 

「てか海夢~、早く自販機行こーよ。一限始まっちゃうよ」

 

「ヤバっ、そーだった」

 

乃羽ちゃんの言葉を受け、海夢ちゃんは新菜から離れる。

そして友人達とその場を後にしようとして、くるりと振り向いて可愛らしくウインクをした。

 

「んじゃねっ♡ ごじょー君っ! 月見里君!」

 

「っ、はいっ!」

 

「いってらっしゃーい」

 

新菜と一緒に海夢ちゃんを見送る。

なんだあのウインク、可愛すぎんか? マジで眼福。ありがとうございました。

それにしても、海夢ちゃんは勿論、乃羽ちゃんたちもホントいい子過ぎる。

新菜とは初めての交流だったし、新菜が緊張していたのもなんとなく察してくれていた。

だからこそ自然体で話しかけてくれていたし、気遣って助け舟も出してくれていたのだと思う。

俺、1年5組に入れてよかった。

 

 

「喜多川さん、さっきあの男と密着してたけどもしかして付き合ってんの?」

 

「ないない。フツーになくね?」

 

「だよね」

 

 

(うちのクラスにはああいう奴いないもんな)

 

なにが『ない』んだ? お前らは新菜の何を知ってるんだ?

俺の親友の良さを1ミリも知らないような部外者が心無い言葉を囁き、嘲笑しているのが気に入らない。

我慢できず、文句の一つでも言ってやろうと俺は新菜を見てクスクスと笑っている女子達の方へと向く。

 

「いいよ」

 

どこか冷めたような口調で新菜が俺を制止する。

そちらを見れば、先程まであんなに楽しそうにしていた新菜の表情は凍っていた。

 

「新菜……でも……っ」

 

「もうすぐ一限始まっちゃうし、教室に入ろう?」

 

「……わかった」

 

俺が了解したのを見て、新菜は足早に教室へと入る。

彼の背中は、俺よりずっと大きいはずなのに小さく、寂しそうに見えた。

 

「……」

 

俺は嘲笑していた女子二人へと視線を向ける。

向こうもこちらに気付いたのか笑うのを止め、どこか気まずげな顔だ。

なんだよその顔。後悔するなら最初からあんな事言うなよ。

言ってやりたい事は山ほどあるが、それを全てぶつけてトラブルになるのは新菜は望んでいない。

だから俺は細やかな仕返しだけする事にした。

 

「…………チッ」

 

「「……っ‼」」

 

眼鏡を外し、ぼやけた視界で思いきり睨みつけてからあからさまに舌打ちをする。

それだけで女子達はビクリと体を跳ねさせて、慌てるように離れていった。

本当はこんな事しても意味なんてないし、俺の気持ちも全然晴れやしないけど。

眼鏡を掛け直して教室に入ると、既に席に座った新菜はぼんやりと外を眺めている。

 

「新菜……あんなの気にするなよ……」

 

俺は新菜の傍に立ち、彼の背中を優しく叩く。

 

「うん……ありがとう、守優……」

 

俺の言葉に新菜は返事をしてくれたが、こちらを向いてくれる事はない。

己の無力さに、少し胸が痛くなった。

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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