その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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仕事が忙しくてちょっとだけペースが落ちてしまっているかもしれませんが、モチベ自体は高いのでこれからも執筆頑張りたいと思います!



第16話『その転生者は尽力する』

当初の予定通り職員のほとんどが慰安旅行に向かい、俺は新菜の家に泊まり込む事となった。

薫おじいちゃんが倒れた事を受け、俺の家族を始めほぼ全職員がおじいちゃんを心配して旅行を辞退しようとしていたが、せっかくの旅行を自分のせいで台無しにしたくないという考えの基、おじいちゃんは社長命令を行使して半ば強制的に皆を送り出した。

ただ一人、俺のじいちゃんだけは心配するどころか腰を痛めて旅行の機会を棒に振った事を笑っていた。傍から見れば薄情にも思えるがこの二人は数十年の付き合い、気の置けない仲だからこそのやり取りなのかもしれない。

ともあれ、無事に皆を送り出し、現在は昼。場所は学食。

俺と新菜は今後のスケジュールを練っていた。

 

「とりあえず、昼休みの時間はテスト勉強に宛てよう。で、俺がおじいちゃんの見舞いとか家事をしている間は衣装作り。晩御飯の後も作業に宛てて、寝る前の一時間か二時間くらいにもう一度テスト勉強」

 

「勉強の時間、それだけで大丈夫かな……?」

 

俺の立てたプランでは彼が思う以上にテスト勉強の時間が少ないようで、新菜は少し不安な様子を見せる。

しかし、俺は普段の彼の学習態度や成績を知っているので全く心配していない。

 

「新菜は普段からちゃんと勉強してるから基礎は出来てる。だからそれくらいの時間を確保してやれば赤点は回避できるし、平均点かそれ以上は確実に取れる。心配しなくていい」

 

「そ、そうかな」

 

「ああ。それよりも俺が心配してるのは新菜が根を詰め過ぎないかどうかだ。お前の事だから途中で無理しそうな気がする」

 

「うっ……」

 

間に合いそうになければ多少の無理をしようとするのは目に見えているので釘を刺せば、新菜は言葉を詰まらせる。どうやら図星のようだ。

俺は彼が有耶無耶にしないように睨みつけながら念を押す。

 

「いいか、進捗状況に問題が出たら正直に言え。あと、お前が無理するなら俺もするからな」

 

「な、なんで守優まで……!」

 

「なんでもだ。分かったら返事」

 

「うぅ……わかった、気を付ける……」

 

俺の言葉に折れた新菜が力なく頷く。

言質取ったぞ、ヨシ!

今後の大まかな流れを共有したところで、次に俺は今日の予定について語った。

 

「俺は今日、授業終わったら美織お姉ちゃんの家に寄って、工房見学の対応に行く。新菜は直帰して作業な?」

 

「うん……やっぱり、今日くらいは俺が料理を――」

 

「腹減ってなにか適当に摘まむくらいなら止めないけど、そうじゃないなら作業に集中しろ。時間がないのは新菜が一番分かってるだろ?」

 

「う、うん……」

 

俺の事を気遣ってか、俺に面倒事を押し付けてしまっていると考えて後ろめたいのか、はたまたその両方か。

新菜が家事を代わろうとするのを俺はあえて少し厳しい口調で切り捨てる。

アニメで補完されていた衣装制作中のシーンを思い返すと相当無理をしていたのが窺えた。

昨日確認したところ図面自体は書き上げており、昨夜は型紙を起こすまでは進んだのは嬉しい誤算だが、それでも気を緩める事は出来ない。

 

「さて、じゃあさっさと食べて勉強しようか」

 

腹が減ってはなんとやら、だ。

俺は打ち合わせの間に少しだけ冷めてしまった料理に手を付けようと手を合わせる。

食事の前には合掌して感謝をする。これ大事。

 

「いただきまー……どした?」

 

まだ何かあるのか、新菜は硬い表情で俺を見つめている。

俺の言葉に新菜は視線を右へ左へと泳がせた挙句、テーブルへと着地させた。

 

「いつも思うんだけどさ……それ、全部食べるの?」

 

新菜の視線に釣られ、俺もテーブルへと目をやる。

そこには俺達が学食で注文した食事が並んでいる。

 

俺の昼食

・カレーライス(大)

・かつ丼(大)

・サラダ

 

新菜の昼食

・日替わり定食

 

「……」

 

「……」

 

 

「…………これ位普通じゃない?」

 

(絶対普通じゃない……‼)

 

 

新菜は苦い表情で押し黙った。

なんで? 男子高校生ならこれ位食べるんじゃないの?

そんなやり取りがありつつ俺達は昼休憩はテスト勉強に励み、午後の授業を終えた。

俺は新菜と一旦別れて美織お姉ちゃんの家へ。

 

「守優君、いらっしゃい」

 

「お邪魔します。薫おじいちゃんの様子はどう?」

 

笑顔で出迎えてくれた美織お姉ちゃんに手土産のお菓子を渡しながら尋ねる。

 

「まだ腰を庇いながらじゃないと辛そうだけど、だいぶ良くなってきてるみたい。鍼灸に行ったのもよかったのかも。おじいちゃん、守優君がお見舞いに来てくれたわよ?」

 

容体は安定している事を説明しながら案内してくれる美織お姉ちゃんに続いてリビングにお邪魔すると、そこにはソファに座って面相書きの練習をしているおじいちゃんがいた。

美織お姉ちゃんに呼ばれて手を止めたおじいちゃんは眼鏡を外しながら笑みを浮かべる。

 

「おお、わざわざ悪いなぁ。気ぃ遣わせちまって」

 

「心配位させてよ。でもよくなってきてるみたいで安心した。それから、友達におじいちゃんの事話したら『早くよくなってね』って言ってたよ」

 

海夢ちゃんがおじいちゃんの事を気にかけていたのでその事を伝えると少し照れ臭そうに頭を掻いて苦笑する。

 

「ははっ、そうか。お友達にまで心配かけて悪かったな、その子にはよろしく言っといてくれ」

 

「わかった、伝えとくよ」

 

「守優君、よかったら座って。お茶出すから」

 

「ごめん、お姉ちゃん。実はこの後に用事が……」

 

美織お姉ちゃんに促されるが、この後に予定があるため心苦しいが首を横に振って辞退する。

 

「あら、そうなの?」

 

「うん。昨日工房見学の依頼があってさ。この後俺が対応させてもらうんだ」

 

「昨日の今日とはずいぶん急だな」

 

「お客さんの友達が海外の人らしくて、その人が雛人形に興味があるんだってさ。それで、帰る前に一度雛人形を見せてあげたいって」

 

俺が詳細を説明すると、おじいちゃんは嬉しそうに穏やかな笑みを浮かべた。

その笑顔には雛人形の魅力に気付いてもらえた事、そして岩槻という雛人形町の中で自分の店を選んでもらえた事に対する喜びが見て取れる。

 

「そうかそうか、海外の人にも雛人形に興味持ってもらえるのは嬉しいなぁ。守優、しっかり雛人形の良さを教えてやってくれ」

 

「はい、社長」

 

俺が笑顔で返せば、おじいちゃんも更に笑顔を深めてうんうんと頷く。

そうして会話もそこそこに俺は美織お姉ちゃんの家を後にして工房へ。

予約の時間から少し余裕をもって到着し、お客さんを待っていると恐らく電話で話したと思われる日本人女性と金髪の白人男性の二人組がやってきた。

 

「お待ちしておりました。本日案内をさせて頂きます、月見里です。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、突然のお願いにも関わらず今日はありがとうございます」

 

「ありがとうございマス、よろしくお願いシマス」

 

俺の挨拶にお客さんも丁寧に返してくれた。

そのまま挨拶もそこそこに案内を開始する。

 

「岩槻は元々箪笥などの桐工芸の産地でして、その副産物である桐粉を材料にして人形を作ったのが始まりとされていて――」

 

まずは岩槻が人形の産地となった歴史から始まり、

 

「岩槻の人形は他の地域の物と比べるとふっくらとした丸顔や非常に滑らかな質感の肌、そして生糸を使った美しい髪が特徴でして――」

 

岩槻の人形の特徴を伝え、

 

「雛人形は分業制で顔や小道具、衣装などをそれぞれ別の作成して最後に組み合わせて作られておりまして――」

 

工房の中を説明しながら、人形作りの工程を説明し、

 

「最近では雛人形のデザインや衣装の中でも新しいものが増え、西洋風に近い顔立ちの人形や着物の素材も――」

 

販売店の方にも案内し、古き良き時代の物とはまた一味違う、現代的なデザインについても紹介した。

海外から旅行で来たという男性の方は熱心にメモを取り、女性の方も昔と今で違うデザインに驚いたりしていた。

どこまで魅力を伝えらえたは分からないが、少しでも雛人形に対する理解・興味を得るきっかけになった事を祈るばかりである。

 

「ありがとうございました! 友人の為にとお願いしたものでしたが、私もいろんな事が知れてとてもよかったです!」

 

「ニホンの雛人形、とても美しかったデス! ありがとうございマシタ!」

 

「こちらこそ、この度は当店にお声掛け頂きありがとうございました」

 

笑顔でお礼を言われて、少なくとも及第点の案内が出来た事に内心安堵しつつ俺も笑顔で対応する。

最後にお店の公式アカウントと「雛人形をお求めの際は是非当店に」と軽く宣伝をして、見学の案内は終了。

お客さんをお見送りし、俺は急いで新菜の家に向かう。

 

「ごめん、遅くなった! 今からご飯作るから!」

 

「お帰り。別に急がなくていいよ。それより今日は本当にありがとう、助かったよ」

 

家に到着すると同時に二階に駆け上がり、遅くなった事を謝罪する。

新菜は型紙に合わせて生地を裁断しているところだった。ハサミを入れる手を止めると、振り返って俺に労いの言葉と笑顔を向けた。

その表情には今のところ焦りや不調といったものは見られない。俺の助けで少しでも余裕が生まれているのならありがたい。

 

「俺がやるって言いだしたんだし、別にいいって。それから、見学に来たお客さん喜んでくれてたよ」

 

「本当に? よかった。守優は接客とか上手いから、お客さんにも魅力が伝わったのかもね」

 

「それ以上に店の人形がいいんだよ。じゃなきゃそもそも見学の依頼自体来なかったんだから。じゃ、ささっと作ってくるから。料理出来たらまた教える」

 

「うん、わかった」

 

見学の対応が無事に終わった事を報告をするついでに言葉を交わして俺は夕食の準備、新菜は衣装作りの作業、それぞれがやるべき事へと戻る。

 

「……ふふっ」

 

閉めた襖の向こうで新菜が笑っているのが聞こえる。

原作では忙殺されてそんな事を思う余裕すらなかったのかもしれないが、大好きな雛人形の良さをお客さんに分かってもらえて嬉しいのだろう。

余裕があるとは言えないが、今のところは作業行程的にも新菜の状態的にも順調だ。

 

(具体的な日数の描写がなかったから確定ではないけど、原作よりは間違いなく良いペースだ)

 

自分が臆病なせいで新菜に負担を強いているのは申し訳なく思うが、だからこそ自分ができる事で彼を支えたいと思うし、それが実を結んでいるというのが原作と比べた進捗状況で分かって嬉しい。

さて、俺は俺のやるべき事をしよう。

 

「……今日はちょっとガッツリめに行くか!」

 

薫おじいちゃんがいる時は体の事を考えてヘルシーな和食系が多いが、今は不在なのでそういう気遣いは必要ない。

むしろ衣装作りやテスト勉強で体力を使うのだから、その方が好都合だろう。

待ってろ新菜、俺が美味しい晩御飯を用意してやるからな!

頑張っている新菜の為に、俺は惜しみなく料理の腕を振るった。

 

「新菜ー、ご飯出来たぞー!」

 

「うん、ありが……と……」

 

俺の呼び掛けに応じて二階から降りてきた新菜が、テーブルに並んだ料理を見て固まる。

 

本日の夕食

・天津飯

・餃子

回鍋肉(ホイコーロー)

・ニラレバ炒め

・エビチリ

 

 

「……ちょっと作りすぎたかな。まあ二人だし食えるだろ!」

 

(全然ちょっとじゃない……‼)

 

 

新菜はまた苦い表情で押し黙った。

もしかして、この前ラーメン食べたばっかりだったから中華の気分じゃなかったかな?

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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