その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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今回はほぼ新菜視点です。


第17話『その頭師見習いは支えられてる』

張り切って夕食を作ったはいいが、少し作り過ぎたのか新菜は早々にギブアップしてしまった。

別に残りを俺一人で食べきっても良いのだが、それはちょっともったいないので一部の料理は冷蔵庫に保管する事にする。

ちなみに新菜は食事終えた後はまた二階に戻って衣装作りの作業。俺は食器を洗っている最中だ。

 

(これ終わったら、風呂洗ってお湯沸かして……あ、弁当の用意もしておかないと……)

 

いつもは購買や学食を利用しているが、今回は昼休みにもテスト勉強をするので時間が惜しい。

なので弁当を用意してそれらを利用する時間を短縮し勉強に宛てる事にしよう。

まぁ、基本は夕食の余りとかを詰める事になるだろうけど。

俺は洗い物を終えてタオルで手を拭きながらカレンダーを確認する。

 

(今日が木曜日。明日の夜と土日を使えば作業は大きく進められるはずだ……!)

 

薫おじいちゃんが転ぶのを防ぐ事は出来なかったが、それを除けば今のところは順調だ。

このまま新菜に無理をさせずに来週の土曜日まで乗り切る!

俺は小さく拳を握り、決意を新たにした。

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

守優が泊まり込みで俺の身の回りを助けてくれているお陰で作業は順調に進んだ。

……昨日の夜はちょっと食べ過ぎて若干胃もたれしたけど。

だが、彼がじいちゃんの見舞いに始まり工房見学の対応、そして家事全般を代わりにしてくれているのは本当にありがたい。

なにより地頭のいい守優に勉強を教わるからか一人でテスト勉強をするよりも効率良く進み、更に時間に余裕が出来た。

しかも昼食には弁当まで用意してくれたお陰で、今日の昼休みにもテスト勉強が捗ったのは大きい。お陰で来週のテストに焦りを感じる事なくコスプレ衣装の制作に取り組む事が出来る。

 

「ただいま~」

 

そんな事を考えているうちに守優がじいちゃんの見舞いを終えて帰ってきたようだ。

作業が丁度一区切りしたので俺は手を止めて親友を出迎える。

 

「お帰り。じいちゃんの様子はどう? 変わりない?」

 

「ああ、オヤジギャグ言って美織お姉ちゃんを苦笑いさせるくらいには元気だったよ」

 

「あ、あはは……そうなんだ……」

 

じいちゃんがギャグを言って美織姉ちゃんを呆れさせている光景がありありと想像できて思わず俺も苦笑いを零す。

しかし、順調に回復しているというのは朗報だ。

守優に任せきりで顔を見に行けていないのは、正直申し訳ないところではあるが……

 

「明日土曜日だし、軽くおじいちゃんのお見舞い行くか?」

 

「え?」

 

「心配なんだろ?」

 

まるで心を見透かされたように言い当てられてドキリとする。

守優は俺の考えはお見通しだとばかりにニヤリと笑みを浮かべていた。

 

「で、でも、衣装作りが……」

 

「どした、思ったより難航してる?」

 

「いや、今のところは……」

 

でも、身の回りの事を彼に任せているにも関わらず、個人的な理由で作業の時間を削って見舞いに行ってもいいのだろうか。

そんな事をする暇があるなら作業をしろと言われてもおかしくないはずなのに。

 

「じゃあ問題ないじゃん。おじいちゃんに顔見せてやりなよ、きっと喜ぶから」

 

「……いいのかな」

 

「あたり前だろ。身内の事心配して何が悪いんだよ」

 

「それはそうなんだけど、守優にこんなに迷惑かけてるのに俺の都合ばっかりでいいのかなって……」

 

少し申し訳なくって思わず顔が下を向く。

彼がそんな事で怒ったり迷惑がったりするような人間でない事は分かっている。しかし、それとこれとは話が別だ。

なにより、自分は彼に与えられてばかりで何一つ返す事が出来ていない。

 

「新菜」

 

「……な、に゛ッッ⁉」

 

呼ばれて顔を上げたと同時に額に感じる衝撃と痛み。

思わず額を抑えて痛みに耐えつつ涙で滲む視界で前見れば、笑顔でこちらを見る守優の姿。

 

「これでチャラな?」

 

「え……?」

 

突然の言葉に理解が追い付かず、ただ聞き返す事しか出来ない。

 

「新菜の事だから『気にするな』とか『大丈夫』とか言っても、どっかで自分の事を責めるだろ? だから俺の事振り回した罰としてデコピン一発。これでチャラだ」

 

「そ、それは――」

 

「ん? もう一発いっとく?」

 

「い、いや……」

 

笑顔でまた指を構える守優に俺は思わず待ったを掛ける。

情けないかもしれないけど思ったより痛い……もう一度これを受けるのは勇気がいる……

そんな俺を他所に、守優は構えを解いて手をプラプラと振りながら言った。

 

「確かに新菜の都合に合わせてるけど、俺はやりたくてお前の事を支えてるんだ。だからあんまり気にされても正直困る。それに、新菜が作る衣装もそれを着る喜多川さんを見るのも俺は楽しみなんだよ」

 

続けて「だから頑張って衣装作って俺に見せてくれ」と言って守優は笑みを深める。

そこまで言われてはこれ以上悩むのは却って守優に失礼かもしれない。

俺は今回も親友に甘えさせてもらう事にした。

 

「わかった、頑張るっ」

 

俺の言葉を受けると守優は満足そうに頷いた。

 

「それでよし! じゃあ、俺は晩御飯の用意するわ。昨日の残りもあるし焼き魚と野菜炒めと味噌汁くらいで――」

 

「味噌汁だけでいいよ」

 

「え、でもそれだとちょっと足りな――」

 

「足りるから。昨日の残りと味噌汁だけでお願い」

 

「……わかった」

 

昨日食べきれたのは天津飯と餃子だけだ。

守優が作ってきてくれたお弁当にも少し入っていたけど、それでも一食としては十分な量のおかずが残っている。

なので俺は本気で守優に待ったをかけ、彼もそれを理解してくれたのか味噌汁だけで了承してくれた。

じいちゃんがいた時は気にならなかったけど、守優って結構作る量多いよな。

そんな事を考えながら作業に戻り、エプロンをほぼ完成させたところで守優に夕食に呼ばれる。

いつも思うけど守優の料理はやっぱり美味しい。俺やじいちゃんが作るものと比べると味が濃く少し脂っこい気もするが、それを差し引いても彼は料理が上手だった。

 

「ん~、うまっ。味噌汁も完璧」

 

俺の対面に座る守優が自分で作った味噌汁の出来栄えに舌鼓を打っている。

正直、豚汁みたいな具沢山な味噌汁になるのを覚悟していたが、そこら辺は考慮してくれたみたいだ。

 

「本当はもうちょっと具を増やそうと思ったんだけどさ、そうすると明日のご飯の分があやしいから今回は控えめにした。物足りなかったらごめんな?」

 

「う、ううん。これくらいが丁度いいよ」

 

「そうか?」

 

食材のペース配分を考えて抑えていただけだったみたいだ。

もしかしたら具がいっぱいの味噌汁、それに加えて食卓に焼き魚と野菜炒めまで載っていたのかと思うと正直ゾッとする。

大して運動をしているわけでもないのにそれだけ食べても平気で体重も増えないというのが本当に不思議だ。

 

(まぁ、運動をしてないっていうのは他人の事言えないか……)

 

面相書きばかりに没頭している自分が言えた義理ではないな、なんて考えながら味噌汁に口を付ける。

彼が自画自賛する通り、確かに美味しい。

彼の料理を食べらえるのが今日で最後なのが正直残念だ。

なぜなら明日には慰安旅行に行った皆が戻ってくる。つまり守優の家族である月見里家の人達も帰ってくるのということ。

守優が家にいるのは慰安旅行の間という約束だ。つまり彼がサポートしてくれるのも今日で――

 

(……ん?)

 

俺はそこで先程の会話を思い出し、小さな違和感を覚えた。

 

「ねぇ、守優」

 

「ん? ……どうした?」

 

俺に呼ばれた守優は咀嚼していた食事を飲み込んでから会話に応じる。

 

「守優が家にいるのって明日までなんだよね? 確か、泊まるのは慰安旅行の間って言ってたし……」

 

「……あ、忘れてた。それなんだけど、おじいちゃんが戻ってくるまで新菜一人じゃん? どうせならおじいちゃんが戻るまで泊まってもいいか? 勿論食費出すから」

 

守優は俺の言葉で思い出したのか数秒固まった後、何でもないかのように軽いノリで俺に尋ねてきた。

突然の申し出は俺にとっても非常にありがたいものだ。当然否はない。

 

「いいよ。正直その方が俺も助かる」

 

「よし、決まり。それじゃ、父さん達に連絡してくる。明日帰った時に俺がいないとビックリするだろうし」

 

ご飯中にごめんな、と一言断りを入れてから守優がスマホを片手に席を立つ。

旅行先にいるおじさん達に電話をするのだろう。

俺はそれを見送って食事を再開し、守優もすぐに戻ってきた。

結果は快諾。彼曰く『おじいちゃんがいなくて大変な間、好きなだけ息子を使ってくれ』だそうだ。実の息子をそんな風に扱っていいのだろうか。

とにかくおじさんたちの了承も得られたので、守優は俺の家に泊まり続ける事になった。

 

「俺がしばらく泊まる事、明日おじいちゃんに伝えないとなぁ」

 

「そうだね。まぁ、じいちゃんが反対する事はないだろうけど」

 

じいちゃんは守優の事をもう一人の孫みたいに扱ってる。

自分が家におらず俺一人なのを気にしているだろうし喜びこそすれ、断る事はまずない。

守優もなんとくそれを理解しているのか俺の言葉に否定もせず、「まぁな」と軽く返してくる。

そんなやり取りをしつつ食事を終えた俺達は順番に風呂に入り、守優は家事を、俺は衣装作りを再開。

就寝前のテスト勉強をする頃にはエプロンが完成し、ヘッドドレスに手を付け始める事が出来た。

テスト勉強に関しても問題なく終了し、俺達は分かれて床に就く。

 

「…………」

 

約三十分ほど経った頃、俺は布団から抜け出してこっそりと机の前へと座り、筆を取り出した。面相書きの練習である。

守優のお陰で当初想定していたよりも余裕をもって衣装作りに取り組む事が出来ている。加えてテスト勉強も順調。

なので俺は彼が泊まりに来てから毎晩、こうやって面相書きの練習をさせてもらっている。

守優に内緒でしているのは、彼のお陰で衣装作りが滞りなく出来ているのに、その衣装作りと関係のない面相書きの練習をしているのが少し後ろめたいからだ。

彼はどうか分からないが、普通に考えれば『練習する時間があるなら衣装を作るか家事を手伝え』と思うだろう。

でも、この練習はどうしても外せない。俺が夢を目指す為には必要な事なのだから。

じいちゃんが腰を痛めた日もその次の日も練習は出来なかった。

 

『一日でもサボると感覚戻すのに三日もかかるんだぞ?』

 

幼い頃、旅行先にまで筆を持っていく理由をじいちゃんに尋ねた時の事を思い出す。

じいちゃんのように長年筆を握っていた職人でさえそうなのだ。

まともに筆を使いこなせない未熟な俺が二日もサボればどれだけの遅れになるのか。

その遅れを少しでも取り戻したい。その一心で俺は寝る間を惜しんで練習に取り組んだ。

 

「……ふぅ」

 

また一つ、顔を描き終える。俺は息を吐いて肩の力を抜いた。

時計を見やれば練習を始めて早一時間。先程練習を始めたばかりだと思ったのに、想像以上に集中してしまったらしい。

いつもならこの辺で切り上げるが、明日は土曜日。もう少し練習してもいいだろう。

俺は新しくまだ顔が描かれていない人形の頭を取り出した。

 

 

「なにやってんだ?」

 

 

「……‼」

 

突然襖が開き、そこから呼び掛けられて俺は思わず飛び上がりそうになりながら俺は振り返る。

振り返った先には寝間着を着た守優がこちらの様子を伺っていた。

 

「し、守優……」

 

まさか彼が起きていて、そして俺の部屋に来るとは思わず、俺は気まずさのあまり視線を逸らした。

彼はそんな俺の反応など気にもせずに部屋に入ってきて、そのまま俺の隣まで来ると床に座る。

 

「練習、見てていいか?」

 

「え?」

 

予想外の申し出に俺は思わず聞き返す。

 

「……ダメか?」

 

「っ、ううん……ダメじゃ、ないけど……」

 

駄目な訳がない。だが、俺を咎めるでもなく練習を見学したいと言われて俺は思わず面食らってしまった。

俺が困惑しながらも許可した事で守優はその場に居座り、静かに俺の練習を見続ける。

先程まではただ練習が捗る静かな空間だったが、隣に人がいるのに会話がない事がなんだか気まずくて、俺は思わず守優に尋ねた。

 

「あの、さ……その……怒らないの……?」

 

「なんで? 別に怒られるような事してないだろ?」

 

あっけらかんと言い切る親友に衝撃を受けつつ、俺はその理由を説明する。

 

「だって……守優にいろいろとしてもらってるのに、俺は自分の事ばっかりだし……しかも衣装とは関係のない面相書きの練習なんかしてるから……」

 

「何言ってんだよ、面相書きの練習がどれくらい大事なのか俺なりに理解しているつもりだ。怒るつもりなんて欠片もないよ」

 

「それに」と守優は続ける。

 

 

「俺、新菜がちゃんと練習してるの見て安心したんだ」

 

 

「え?」

 

まさかの言葉に思わず聞き返す。

どうして、俺が練習していた怒るどころか安心するんだろう。

俺は守優の時間を奪って、好意に甘えているようなものなのに。

俺が不安に思っているのが顔に出たのか、守優は微笑みながら俺の背を叩く。

その手つきはとても優しいものだった。

 

「俺があれこれやって『衣装作りに全力を注げ』なんて言ったから、新菜はやりたい事を我慢してるんじゃないかって思ってさ……」

 

「それは……」

 

本来はあたり前の事だ。

彼のお陰で忙殺される事なく順調に衣装を作る事が出来ている。

もし一人で何もかもしていたら、俺はきっと寝る間もなく、そしてそれでも面相書きの練習など出来なかっただろう。

しかし守優は俺とは全く違う考えの基、不安を抱いていた。

 

「俺は新菜が無理せず衣装を作れるようにする為に支えてるんだ。そしてその中には新菜が夢に向かって練習する時間も確保できるようにする事も含まれてる……なのにお前、俺の前では全然練習しないしさ……」

 

「守優……」

 

彼がそんな風に考えていただなんて、全然知らなかった。気付こうともしなかった。

俺は自分の事にしか目が行かず、喜多川さんに喜んでもらいたい一心で衣装作りに没頭し、その一方で自分の夢の為に面相書きの練習をしている。

彼の信頼に応えたいなんて思っていたのに……なんて自分勝手なんだろう。自分の身勝手さに呆れてしまう。

しかし、そんな俺を見る守優の目はどこまでも優しかった。

 

「お前はそれでいいんだよ。お前が喜多川さんの為にって頑張って衣装を作る事はいい事だと思うけど、その為に自分がやりたい事を我慢する必要なんてない。もっと欲張って、どっちも欲しがれ。その為に、俺がいる」

 

喜多川さんの為に衣装を作り、自分の夢の為に練習を続ける。

その為に彼は自分の時間を消費してくれているのに……俺だけがこんなに恵まれていていいのだろうか?

だけど、その笑顔がそれでいいんだと肯定してくれている気がした。

俺と同い年のはずなのに、時折まるで大人が子供を優しく見守るような温かい目で俺を見る。俺が立ち止まって俯いてしまう時に背中を優しく押してくれる。不思議な、そして頼れる親友。

 

「でも、ほどほどにな。今日はもう遅い……」

 

「うん……」

 

「……やっぱり、新菜は上手だな。凄いよ」

 

「ありがとう……」

 

そんな親友に見守られ、俺はゆっくりと筆を走らせる。

また一歩、俺は彼のお陰で夢に近付けた気がした

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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