その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第18話『その幼馴染達はやり遂げる』

俺と新菜が夜更かしをして片や面相書きの練習を、片やその練習を眺めて過ごした翌朝、薫おじいちゃんの見舞いの為に二人で美織お姉ちゃんの家に向かった。

順調に快方に向かい、今日は整体に行くのだと笑いながら話すおじいちゃんは一見すると以前と変わりないように思える。実際痛みはほとんどないらしいが、一応先生の指示に従いもう一週間無理せず様子を見るとの事らしい。

原作の通り来週いっぱいも五条家は新菜一人となる為、俺はおじいちゃんの理由とテスト勉強を理由に来週もお邪魔させてもらいたい事を告げた。

 

『新菜なら心配ないと思うが、一人ぼっちで家にいるよりずっといいからな。そうしてやってくれ』

 

結果は快諾。笑顔で了承してくれたおじいちゃんに改めて礼を言い、俺達はお姉ちゃんの家を後にした。

そして家に帰れば俺は買い出しや洗濯、夕食の準備などの家事を、新菜は衣装作りとそれぞれがやるべき作業に没頭。

日が落ちる頃にはヘッドドレスが完成した。新菜すげぇ。

日曜日はほぼ丸一日を衣装作りに宛てた。テストに向けた予習・復習はほとんど問題ないので休日を利用して一気に作業を進め、月曜日の夜にだけ念のためもう一度勉強をするという作戦である。

 

「この調子ならイベントに間に合いそう。守優のお陰だよ、ありがとう」

 

夕食の際に、新菜が笑顔で礼を言う。

俺はその言葉にゆっくりと首を横に振って返した。

 

「俺は新菜が作業に集中出来るようにサポートしただけ。衣装は新菜の努力の賜物だ」

 

「守優がいたからこそだよ。きっと俺一人じゃこんなに順調に進んだりしてない」

 

「……そう言ってもらえると、俺も支えた甲斐がある。明後日にはテストも始まるから気を抜けないけど、このまま頑張ろうな」

 

「うんっ」

 

笑顔で頷く新菜を見て、俺は思う。

彼に真実を告げなかった罪に対して少しは返す事が出来ているだろうか、と。

元を辿れば原作の流れを壊したくないという俺のエゴのせいで新菜に負担を強いたのだ。

面相書きの練習だって、普段と比べると明らかに短い時間しか確保出来ていない。

 

(本当はもっと練習させてやりたいんだけどな……)

 

申し訳ない気持ちになりつつ、原作の流れに沿う事が結果的に彼の為にもなるのだと自分に言い聞かせる。

原作ではテスト終わりの夜に一人で必死に衣装を作っていたのが、今は余裕を持って作成に臨む事が出来ているのだ。

見方によってはあの夜に追い込まれながら海夢ちゃんの為に頑張った事が大きな意味があるのかもしれないが、だからといって目に見えている苦境に親友を立たせたくはなかった。

 

(ともかく、ここまで漕ぎつけたんだ……! このまま滞りなく完成まで支える……!)

 

全ては日曜日のコスイベに二人を送り出す為に!

その一心で俺はその後も全力で新菜を支えた。

月曜日は朝に弁当を作り、昼には休み時間を利用して新菜に勉強を教え、放課後は帰宅後食事と風呂の準備。そして就寝前には翌日から始まるテストに向けてもう一度新菜に勉強を教える。

そして火曜日から金曜日のテスト期間中はありがたい事に午前中に学校が終わるので、新菜と一緒に即帰宅。彼が作業に集中できるように一切の家事を代わりに行う。あと、新菜が効率よくテスト勉強できるように前もって内容を纏めたりもした。

 

(やることが……やることが多い……‼)

 

なんだかもう主婦と家庭教師の二役をしているようなものだった。勉強云々を抜きにしてもこの家事を毎日こなしている主婦の皆さんは本当にすごいと思う。とりあえず、今度母さんに何かお礼しよう。

そんな感じで忙しさに振り回されている俺だったが、新菜だって頑張っていたし彼の笑顔と日に日に完成に近付く衣装を見ればなんて事はなかった。

そうしてテストが一日、また一日と終わっていき、そして金曜日……

 

「はーい、そこまでー」

 

「「「終わったー‼」」」

 

中間テストの最後の科目、家庭基礎のテストが終了。

学生達にとって長く苦しい戦いが終わり、クラスの皆が歓喜の声を上げる。

……一部の人は別の意味で終わりの声を上げたりもしていた。特に森田とか。

ともあれ、今日の午後からは完全にフリータイムだ。

 

「新菜、帰ろう」

 

「うんっ」

 

俺は新菜に声をかけ、彼と一緒に速足で学校を後にする。

衣装はもう八割以上は完成している。新菜曰く、今夜には完成する見込みらしい。

ここまで来たらもう俺に出来る事は何もない。衣装が完成するのを待つだけだ。

とりあえず今日の分の家事を終えて、俺は居間に座って傾いていく夕日を見つめる。

 

(思い返すとバタバタした二週間だったなぁ……)

 

今思えばもうちょっと上手く立ち回る事も出来たような気もするが、なんだかんだで俺も焦っていたのかもしれない。

薫おじいちゃんには怪我をさせてしまったし、新菜には心労を掛けさせた。点数にすれば赤点レベルの失態だろう。

でも、それでも俺なりに出来る事はやったつもりだ。原作では今頃肉体的にも精神的にも追い込まれて涙ながらに孤独に衣装を作っていた新菜は余裕を持って着々と完成へと向かっている。

そう思うと俺の頑張りは無駄ではなかったのだと思えた。

 

(……あぁ、やばい……なんか……眠くなってきた……)

 

そういえば、なんだかんだで最近はちょっとしか寝てなかったなぁ……

今更睡眠不足を自覚し、そのせいか猛烈に睡魔が襲ってくる。

 

(ちょっとだけ、寝ようかな……)

 

新菜が頑張ってるのに俺だけ寝るなんて、とは思うけど……正直限界だ……

ちょっとだけ寝よう。ほんのちょっと、仮眠するだけ……

 

(……そうだ、アラーム……かけよ……)

 

まだ夕食の支度が残ってる。アラームをかけて、起きられるように……

 

(……あ、やべ……)

 

手からスマホが落ちる。

俺は空になった手をただ眺める事が出来ず、そしてスマホに続くように瞼が落ちた。

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

針を通し、糸を走らせる。

糸を止め、ハサミで切る。

俺が作業をする音以外、何も聞こえない。

家に帰って作業を再開してから、何時間経っただろう。

時間を確認するのが惜しい。

俺はただただ、作業に没頭した。

自然と手が動き、レースが縫い付けられていくのを見ながらふと思い出す。

幼い頃、俺はじいちゃんに聞いた。大変ではないのか、嫌になったりしないのか、と尋ねた時の記憶。

俺の質問にじいちゃんは笑いながらこう言った。

 

『そりゃ大変だよ。好きだからってやってけるもんじゃねーしよぉ』

 

今思えば当たり前の事だ。

好きという気持ちでどうにか出来る程仕事は甘くない。才能や技術がものをいう世界なら尚の事。

だからと言って努力をすればどうにかなる保証もない。頑張りが報われるとは限らないなんてありふれた話なのだから。

しかし、じいちゃんはそこから更に続けた。

 

『好きだから大変な時に踏ん張れるもんでなぁー……お客さんの笑った顔見ると、やっててよかったなって思うしなぁ』

 

そう言って見せてくれたアルバムにはうちの店で雛人形を買ってくれたお客さんの写真でいっぱいだった。

そしてその誰もが、満面の笑みを浮かべている。その笑顔がじいちゃんの背中を支え、押してくれているのだと感じた。

 

『喜んでほしいから、しんどくても頑張れるもんだぞ』

 

あの日、俺はじいちゃんからとても大切な事を学んだのだと、今になって思う。

そして、その言葉を思い出しながら、二人の事を考える。

 

『ごじょー君、ありがとっ』

 

『そーゆーこだわりとかって大事じゃん!』

 

『ごじょー君がいてくれてマジでよかった』

 

喜多川さんは自分の好きを俺に託してくれた。

俺を信頼して、頼ってくれた。

俺はそれに応えたい。彼女の笑顔を曇らせたくない。

 

『迷惑なわけないだろ。少しくらい役に立たせてくれよ』

 

『自分がやりたい事を我慢する必要なんてない』

 

『俺は全力でお前を支える。頑張れ、新菜』

 

守優は俺の為に何から何まで尽くしてくれた。

俺に期待して、助けてくれた。

俺はそれに報いたい。彼の献身を無駄にしたくない。

 

(二人に喜んでほしいから……!)

 

俺はその一心で、また糸を走らせる。

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

やっとテストが終わって、明日から土日の休み。

流石にテスト明けの休みは遊びたいし、だけどお金貯めたいしって入れてたバイトも終えてライムを開いてみたけど、あたしとごじょー君、そして月見里君のグループ部屋には未だに二人の既読がつかない。

バイト終わりにごじょー君の家に行こうと思っている事を伝えても同様。

晩御飯を食べたかどうかの確認に対しても、やっぱり返事はおろか既読もつかない。

 

「やっぱおじいちゃんの様子見に行ってまだ帰ってきてないパターンかなー……」

 

身内の怪我を心配するのは当然の事。テストが終わって明日から休みとなれば、時間を気にする事もなくゆっくりしているかもしれない。

そう思いつつ、もう岩槻まで来てしまった。こうなったらダメ元で一度家を覗いてみよう。

 

「二人とも、大丈夫かな……」

 

ごじょー君も月見里君もここのところはずっと大変そうだった。

昼休みは二人で勉強してたし、授業が終われば急いで帰っていたし……そんな二人の邪魔をするのもなんだか気が引けて、最近はほとんど会話も出来ていない。

おじいちゃんのお見舞いもあるだろうし、そのおじちゃんがいない事でお店が忙しいという事もあるだろう。

月見里君は家族ぐるみの付き合いらしいし、ごじょー君は自分の家の事だ。大変なのはあたしでも分かる。

 

「とりあえず、ダメ元でごじょー君の家行ってみよ。いなかったらその時はその時だし……もしいなかったら、あたし一人で食べるかー……」

 

バイト終わりにチェーン店で買った三人分の牛丼。

これ凄く美味しいから、ごじょー君達にも食べてもらいたいな、なんて思っているとブブッ、としまっていたスマホが震えるのを感じた。

何か通知が届いたのか、スマホを取り出して確認する。

届いたのはライムの通知。相手はごじょー君だった。

既読がついた事に安心しながら、送られてきたメッセージの内容を確認する。

 

 

五条新菜

今からごじょー君ち一瞬行こうと思ってるんだけど

既読

夜ご飯もう食べた??

既読

五条新菜

衣装出来ました。よければ一度見に来てください。

五条新菜

ご飯はまだ食べてません。

 

 

 

「……え?」

 

衣装が、出来た……?

あまりにも予想外な内容に思考が止まる。

 

(嘘……もう出来たの……⁉ なんで⁉ まだ二週間も経ってないのに……⁉)

 

コスプレ衣装ってこんなに早く作れるものなの⁉

あたしが挑戦した時はあそこまで作るのに倍以上掛かったのに⁉

……いや、そんなはずない。

おじいちゃんが転んで怪我をしたし、中間テストだってあった。

実際、ごじょー君も月見里君も学校では休む暇もない様子だった。

 

(とにかく、ごじょー君の家に行こう……‼)

 

あたしは急いでライムで既にごじょー君の家に向かっている旨を連絡する。

 

(ああもう、走って行きたいのに牛丼あるから無理なんだけどー!)

 

ごじょー君も衣装も逃げたりしないのは分かっているけど、今は一分一秒が惜しい。

完成した衣装への期待と、ここまで早く完成した理由を知る為にあたしは速足でごじょー君の家に向かった。

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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