その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第1話『その幼馴染は転生者』

幼い頃、事故で両親を亡くして塞ぎこんでいた俺のためにじいちゃんが見せてくれたあの日の感動は、今でも忘れない。たぶん、死ぬまで忘れないと思う。

 

『奇麗だろぉ~。このお雛さん、じいちゃん達が作ったんだぞ。凄ぇだろ!』

 

じいちゃんの嬉しそうな、そして誇らしげな声が聞こえる。

だけど、俺はそんなじいちゃんの方を見ることが出来なかった。

 

『うん、凄い……!』

 

一瞬だって目を逸らしたくなかったから。

俺はあの雛人形に目を奪われてしまった。

 

『凄い奇麗……世界で一番奇麗……!』

 

あの感動が俺の暗い世界に光をもたらしてくれた。

あの時抱いた夢が俺に前を向いて歩く力をくれた。

 

 

俺もあんな風に奇麗な雛人形を作ってみたい。

 

 

『わっはっはっは! なれるなれる! 新菜も練習すりゃあ、じいちゃんみてーになれらぁ』

 

じいちゃんもそんな俺を応援してくれて、余っていた筆を借りて面相書きの練習を始めた。

紙を丸めて顔に見立てて、筆を走らせる。

何回も、何回も、何回も。

今思えばあまりにも酷い出来だったけど、当時の俺は少しずつ上手くなっていっているような気がして、とても楽しくて……。

幼い俺には世界が輝いて見えた。

 

『気持ち悪い!』

 

だけど、その世界にまた影が堕ちた。

 

『なんでわっちゃん、男の子のくせに女の子のお人形が好きなのよ!』

 

のんちゃんが涙ながらに睨みつけてくる。

まるで俺が悪いんだ、俺がおかしいんだと糾弾した。

 

『わっちゃんなんて、大嫌い‼』

 

そう叫んで自分の横を走り去るのんちゃんの背中を、俺はただ見送ることしかできなかった。

否定したかった。自分の大好きなものをそんな風に言わないで、と。

しかし、言い返せなかった。幼い自分のどこかで彼女の言葉に半ば納得してしまう自分がいたから。

 

男のくせに雛人形が好きなんて、自分は異端なのだと思った。

だけど、それでも、雛人形が好きという思いは捨てられない。

そんな歪を抱えながら、本当の想いを隠しながら、それからも俺は面相書きに没頭していった。

 

(また、この夢か……)

 

いつの間にか、これが夢なのだと自覚している自分がいた。

自分の内の闇を見せつけられている気分になる。

早く夢から覚めてくれ。お願いだから、早く――

 

 

『新菜君は雛人形が好きなんだろ? 好きなら好きでいいじゃん』

 

 

暗く沈みかけた夢に淡い光が灯る。

 

『そういうのって人それぞれじゃない? 俺にだって、俺の好きがあるわけで』

 

いつだったか、彼に雛人形が好きだとバレた時、彼は真摯に受け止めてくれた。

嘲笑も侮蔑もなく、のんちゃんとの一件で臆病になってた俺に温かい言葉をくれた。

 

『自分が好きなことを誰かに見せるのが難しいなら、無理に見せなくてもいいと思う……でも、好きっていう気持ちは偽らずに大事にしていいんじゃないかな』

 

彼の言葉に俺は救われたんだと思う。

 

『だってそれって、滅茶苦茶素敵なことだと思うし!』

 

そのお陰で俺は大切なものを、大切にしたまま今まで歩んでこれたと思うから。

 

(ありがとう、守優(しゅう)……)

 

あの日、笑顔でそう言ってくれた親友に俺は心の中でもう一度礼を言った。

それと同時に意識が浮上するのを感じる。

 

ピピッ ピピッ ピピッ

 

スマホのアラームの音が聞こえ、目を開ける。どうやら目覚めたらしい。

いつもはのんちゃんとの一件で夢が終わり、気が重いまま一日を迎えることになるのだが、今日はそんなことはなかった。

体を起こし、机の上に立てられた雛人形の頭へと視線を向ける。

 

「おはよう。今日も奇麗だね……♡」

 

毎朝欠かさない挨拶。

やっぱり俺は雛人形が大好きだ。

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

桜は散り、しかし初夏はまだ遠い。過ごしやすい気温に晴々とした青い空。

 

「今日もいい天気だなぁ」

 

俺はのんびりと通いなれた道を進んでいた。

『彩の国』埼玉県さいたま市は一区、岩槻。

前は関西方面で生活してたから土地感なんてさっぱりだったけど、生まれ変わって十五年(・・・・・・・・・・)。流石にもう慣れたものだ。

 

(それにしても、転生した先が――)

 

転生自体凄いことだけど、危ない能力や武器が飛び交うバトル漫画系の世界じゃなくて本当によかった。

生前はなんの取り柄もない、三十路手前の冴えないおっさんだったのだ。危険からほど遠い現代社会というだけで当たりだろう。

 

(――『着せ恋』の世界とか最高過ぎでは?)

 

それに付け加えて、まさかただの現代じゃなくて前の人生で愛読していた『その着せ替え人形は恋をする』の世界だったなんて!見たことも会ったこともないけど神様ありがとう!

幼い頃はなんとも思っていなかった。

地元が岩槻で、祖父や両親が老舗の人形店で働いていると知った時は『着せ恋の世界に似てるな~、でもあの作品自体が岩槻の人形工房さんをモデルにしてたらしいし、似ててもおかしくないか』なんて考えていた。

 

しかし、

 

『父さんたちが働いてるお店の名前ってなんていうの? ……五条人形店!?』 

 

次々に明かされる、

 

『社長の名前が五条薫!? しかも、じいちゃんと昔馴染み!?』 

 

衝撃の真実。

 

『俺と同い年の孫がいて、その子の名前が新菜!?』

 

それらを知り、交流を深めた結果が――

 

 

「おはよう、新菜。薫おじいちゃんもおはよう」

 

「おはよう、守優」

 

「おお。おはよう、守優」

 

 

これですよ(ニッコリ)。

新菜の幼馴染ポジとして日々を謳歌しております。

薫おじいちゃんなんかこの前俺のこと「もう一人の孫みてぇなもんだ」って言ってくれたしね。

 

「新菜、学校行こ」

 

「うん。じいちゃん、行ってきます」

 

「おう。二人とも気ィ付けてけよー」

 

「うん」

 

「はーい」

 

薫おじいちゃんに見送られ、俺たちは並んで学校へと向かう。

小学校・中学校と共にほぼ毎日一緒に登校している間柄だ。もはや二人一緒に通学するのが当たり前になっていた。

 

(にしても、新菜ホントに背ぇ伸びたよな~)

 

俺の身長は現在170cm。対する新菜は俺より頭一つくらい高い。前に身長聞いたときは185とかそのくらいだった気がする。

面相書きに没頭して碌に運動してないはずなのに身長は高いし、太らず、しかし痩せすぎずしっかりとした体格だ。

同じ男として思うところは……ない!

 

(健康でいてくれぇ~)

 

人生二週目の自分からしたらもはや息子みたいなものである。

ただただ健康で幸せでいてくれ。それだけだ。なにより、今の自分の姿も気に入ってるし。

 

「守優、どうかした? 俺の顔になんかついてる?」

 

「いいや、別に。それよりさ、今朝なんかあった?」

 

俺の視線に気付いた新菜の言葉を軽く流しながら質問を投げ返す。

途端に、新菜の表情が固まった。

 

「…………なにも」

 

「相変わらず嘘下手すぎかよ」

 

汗をかきながら目線を逸らす新菜。

昔から新菜は嘘をついたり誤魔化したりするのが苦手だ。

それが彼のいいところではあるんだけども。

 

「もしかして薫おじいちゃんになんか言われた?」

 

「! ……なんでわかったの」

 

原作知識(チート)です。

といっても、細かい時期なんて分からないから半分当てずっぽうだが。

 

「新菜の考えてることなんて手に取るようにわかるよ。メンタリストSyūと呼んでくれ」

 

「ふふっ、なにそれ」

 

おどけてみせると新菜が笑みを零す。

そしてそのままポツポツと語り始めた。

 

「じいちゃんが『高校に上がって友達出来たのか?』って聞いてきてさ。俺が小学校も中学校も面相書きとか人形作りの練習ばっかりしてるのを気にしてたみたいで……それで、友達いるって嘘ついちゃって」

 

「別に嘘ついてないだろ。少なくとも……いるさっ、ここに一人な!」

 

「うん。俺もそう言ったんだけど……」

 

スルーはやめて。

まぁ、この世界には元ネタがないし、仮にあったとしても新菜はこういうネタ知らないだろうから仕方がない。

 

「『守優はもう兄弟みたいなもんだろ』って言われちゃって、なんか納得しちゃって……」

 

「! へへ、そっか」

 

やば、不意打ち過ぎて顔がにやける。

というか新菜も新菜でなに照れてんだ。可愛いかよ。

 

「まぁ、友達って作ろうと思って作るもんじゃないし、焦らなくていいと思うぞ。万が一なにかあれば、お兄ちゃんがなんとかしてやるよ~」

 

手を伸ばし、自分よりも高い位置にある新菜の頭を撫で回してやる。

俺の撫で回し攻撃に新菜は更に頬を赤くしながら抵抗してきた。

 

「わっ、やめてよ守優! 大体お兄ちゃんって言っても半年しか変わらないじゃないか!」

 

「細かいこと気にすんなって!」

 

フィジカルでは新菜の方が圧倒的に強いので、抵抗されるとあっさり手を払われる。

その抵抗さえも相手に怪我をさせないように加減してるのが本当に新菜らしい。

心優しい彼の一面を再確認しながら、先程の友人云々の話へと戻る。

 

「なんならさ、俺の友達紹介しようか? つっても、同じクラスの人だけど」

 

個性的だけど、みんな本当にいい子なんだよ。

おじさん、担任の花岡先生とトークできる自信あります。

 

「いいよ、俺じゃみんなの会話についていけないし。そんな俺がいても逆に気を遣わせちゃうだろうから……」

 

俺の提案に新菜は申し訳なさそうに視線を落とす。

まぁ、新菜の趣味って――

 

・雛人形制作(練習含む)

・雛人形鑑賞

・雛人形と会話

 

だもんなぁ。はっきり言って今時の男子高校生ではありえない、絶滅危惧種レベルのストイックさだ。

今の若者の流行りなんて何一つ知らないだろうし、会話についていけるかと言われればNOだ。絶対にない。

それを少しでも解消しようと、俺も幼い頃から軽くいろんな遊びやコンテンツに誘ってみたけど、ほとんど雛人形に負けた。勝率の低さに目を覆いたくなるレベル。

というか、

 

「そういう気遣いをするなら、遊びに誘ってもほぼ毎回断られる俺にも気を遣ってほしい」

 

「それは本当にごめん」

 

面相書きの練習が楽しくって、と俺に対する申し訳なさと雛人形のことを考える楽しさが混ざったような苦笑で謝る新菜に溜息が漏れる。

けど仕方がない。これが五条新菜という人間なのだ。

むしろこれでも原作よりちょっとマシになった方でもある。

 

「別にいいけどな、今更だし。それよりそろそろ電車来るかもだから急ぐぞ。お先!」

 

「あっ! 待ってよ守優!」

 

駄弁っている間に見えてきた最寄り駅へと小走りで向かう。

不意打ちで先に走ったのはこれまで誘いを断ってきた細やかな仕返しだ。

 

「急に走らないでよ。危ないじゃん」

 

俺の方が先に走ったのにもう新菜に追いつかれた!

くっ、この足長高身長め!

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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