その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第21話『そのコスプレイヤーは開花する』

部屋を出て数分、俺はなんとか涙を止める事が出来た。

困りながらも俺を気遣ってくれた新菜に感謝。

 

「……ホントごめん」

 

「いいよ……それより、もう大丈夫?」

 

「ん、もう大丈夫」

 

俺の様子を心配する新菜に答えるが、正直自信がない。

しかしこれ以上は新菜だけではなく、海夢ちゃんにまで心配をかける。二人を困らせないようしなければ。

 

『……あの、二人とも……着てみたんだけど……』

 

「はい、開けま……」

 

襖の向こうから海夢ちゃんが着替えを終えた事が告げられる。

それを受けて新菜が襖を開けようと手を掛けるが、何故か急に固まってしまった。

 

「? どうした?」

 

「いや、ちょっと……心の準備が……」

 

気まずそうに視線を泳がせる新菜。

ああ、そういえば雫たんの衣装は胸元開いてたから見ていいのかちょっと悩んでたんだっけ?

でも、ここまで来て足踏みする必要ないよな。というわけで……

 

「関係ない。行け」

 

「ちょっ、守優……っ⁉」

 

俺は新菜の制止を無視し、ドアボーイのように横に立って襖を開ける。ついでに彼の背中に手を回して部屋へと押し出した。

本当は今すぐにでも見たいけど、彼女の姿を最初に見るべきは新菜だからな。

 

「…………」

 

部屋の中にいるであろう海夢ちゃんを見て、新菜が息を飲む。その瞳が感動に揺れているのが分かった。

俺は彼に続くように横に並び、部屋の中を見る。

 

「二人とも……どう、かな……?」

 

そこには雫たんが、“ヌル女2”の黒江雫がいた。

想像を遥かに超えた完成度に、俺も呼吸を忘れそうなほどだ。

固まったまま動けない俺達を見て、海夢ちゃんは不安げな様子で俺達の様子を伺う。

 

 

「あたし、ちゃんと……性奴隷(雫たん)になれてる……?」

 

「はい! 喜多川さんは立派な性奴隷(雫たん)です!」

 

 

なんだろう、感動すら覚えそうなシーンなのに隠されたルビのせいで一気に冷静になれた。

 

「だっ……だよね! だよねだよねだよねっ‼ えっ、待って、ヤバい! ごじょー君凄い……っ‼ これっ、マジでっ……マジで雫たんすぎない⁉」

 

「はいっ! マジで雫たんすぎてます‼」

 

そんな俺の内心など知る由もない二人は、その仕上がりにハイテンションで喜び合う。

その喜びようの可愛さと尊さに俺の中の何かが沸き散らかした。温度差で風邪ひきそう。

 

「あっ、サイズはどうですか? どこかキツいとか大きいとか……」

 

「超ぉ~ピッタリ! でもちょっと動きづらいかな? 腕あんま上がんないとかだけどー、全っっ然ヨユー! ありよりのあり‼」

 

俺の内なるテンションが乱高下しているのを他所に新菜が海夢ちゃんに尋ねる。

それに対して海夢ちゃんは腕を軽く動かしながら答える。傍から見ている限りでは分からないし、本人が言う通り本当に僅かなものなのだろう。

俺はこの流れは知っていたけど、二週間で仕上げないといけないのにそういった細かいところまで指摘するのは憚られたから言っていない。

 

「そうか……“ヒト用”は動く事とか着心地も考えて作らないといけないんだ……」

 

「てかさてかさ、聞いてくれるっ⁉」

 

「は、はい。なんでしょう……」

 

これまで人形用の衣装しか作った事がない為に気付かなかった点を反省しているところに海夢ちゃんが声を掛け、新菜はそれに反射的に視線を向ける。

 

「『マジでこんな事ある⁉』って位乳袋が出来てんの‼ ってか、こんなピッタリ作れるもんなの⁉ ガチでビビる! 何これ‼」

 

海夢ちゃんが自分の胸を下から揺らしまくってた。

あー、ダメダメ。エッチすぎます。

 

「あたしも自分で作ろうとしたから分かるけど、これめっちゃ鬼ムズなのに‼ ほら見て、完璧じゃん♡」

 

新菜なんか目を見開いて視線釘付けになっているし。まったく、これだから健全な男子高校生は。

ちなみに俺は瓶底眼鏡越しにしっかり拝見しました。眼福です。

それはそれとして相変わらず無防備というか警戒心がなさすぎるのでちょっと注意だけしておく。

 

「気持ちは分からなくないけど、はしたないからそういうのはやめようね喜多川さん」

 

「え~? でもこんだけ奇麗な乳袋出来たらアピりたくならない⁉」

 

「まぁ、ロマンだよね」

 

「守優?」

 

おっと、つい本音が。

新菜にツッコまれた俺は、とりあえず咳払いをして誤魔化す。

そうしている間に海夢ちゃんのテンションは衣装の下部へと移動していた。

 

「スカートもさ~、ちょーどイイ長さで『分かってる』って感じだよね♡ 雫たんってチュールからのガーター透けがマジ可愛いんだけど、そこも完璧っ‼ ごじょー君神! まんま雫たんすぎる♡♡」

 

ホントそれ。

実際に“ヌル女2”をプレイして雫たんを攻略した身だから分かるけど、海夢ちゃんが言う通りこの衣装の一番の良さはスカート部分にあるのだ。

新菜はそれをしっかりと再現している。原作をプレイして理解を深めたからこそだろう。

 

「あっ、ありがとうございます……! そう言ってもらえて嬉しいんですが、その……自分的にはまだまだで……」

 

「初めての挑戦でこれ(・・)なんだ、十分だろ。胸張って自慢していい」

 

「守優……」

 

照れ臭そうに目線を逸らす新菜の肩を叩いてやれば、彼はその自信なさげな瞳をこちらに向けてくる。

彼の謙虚さは美徳だが、度が過ぎるのは良くない。

それに、新菜は知るべきだ。自分が作った衣装で夢を叶えた人間が目の前にいる事を。

 

「ほら、喜多川さんを見てみろ」

 

俺が海夢ちゃんの方を指差すと、新菜も自然とそれを追って目線を向けた。

 

「マジであたし、雫たんになれるなんて嬉しすぎる……超ヤバっ……れーせーにヤバ……えっ⁉ これ、あたし……ウソ、待って……」

 

そこでは海夢ちゃんが俯いてプルプルと震えていた。

新菜は心配そうに見つめて声を掛けようとしているけど、それよりも先に海夢ちゃんが勢いよく顔を上げる。

 

「はっ⁉ 待って無理‼ 最高過ぎて無理なんだけど……っ‼ まぢ無理……‼ えっ⁉ マ⁉♡ めっちゃドキドキしてきた♡♡ キレちゃうっっ♡♡♡♡」

 

その表情は恍惚に染まっていて、溢れんばかりのハートが幻視できそうな程だ。

 

「な? 喜多川さんめっちゃ喜んでるじゃん」

 

「あ、あれは喜びすぎな気が……」

 

その勢いに若干押され気味な様子で新菜が言う。

限界オタク特有のテンションについていくのはまだハードルが高いようだ。

しかし、その喜びようはしっかり伝わっているようで、苦笑いを浮かべつつもまんざらでもない様子が窺える。

 

「さてと……喜多川さん、そろそろ落ち着いて。戻ってこーい」

 

歓喜の極みに舞い上がっている海夢ちゃんに呼び掛け、現実に戻ってきてもらう。

俺の声で海夢ちゃんは意識をこちらに向けるが、まだ興奮は冷めやらぬようで肩で大きく息をしている。

 

「はぁ……はぁ……そーだ、写真……っっ! 写真撮りたいっ‼ 写真撮って‼」

 

慌ただしくスマホを取り出し撮影を依頼してくる海夢ちゃん。

俺はスマホを受け取ると既に起動されていたカメラアプリを利用して撮影する。

 

「オッケー、じゃあ撮るよー……」

 

カシャッ

 

「見せて見せてっ‼ 盛れてる⁉」

 

シャッター音と共に撮影が行われると、海夢ちゃんは一秒でも早く写真が見たいのか一気に距離を詰めてくる。

そうして右側には最初から隣にいた新菜、左には急接近してきた海夢ちゃんという図らずも推しに挟まれる事に。

助けてくれ、推しの過剰供給で俺もキレそう……‼

 

「うわっ♡ よき~♡」

 

「……いえ、これは……なんと言いますか……雫たんなんですが、喜多川さんですね……」

 

「俺もそう思う……」

 

なんとか内心で自分を落ち着かせつつ写真を見れば、そこには笑顔でピースをキメてる海夢ちゃん。

見た目は完璧なのに原作の雫たんとは似ても似つかない。所謂『これじゃない感』というやつだ。

 

「え? ダメなの? よくない? めっちゃ笑ってて自分でウケる‼」

 

海夢ちゃんはあまり気にならない様子で写真の自分を見て笑っている。

しかし、俺からしてみれば見た目だけで終わってしまうのはあまりにも勿体ない。

 

「コスプレなんだし、やっぱ雫ちゃんのイメージに合ったポーズとか表情で撮った方がいいんじゃない?」

 

「俺もそう思います。それと、和室(この部屋)だと背景があまり世界観と合ってないのでそこもなんとかしないと――」

 

原作通り新菜も俺と同意見のようだ。

彼の言う通り和室という背景は“ヌル女2”の舞台であるお嬢様学校という世界観に全く当てはまらない。

なのでその対応策を考える必要があるのだが、ここら辺は別に勿体ぶる必要もないので俺からササッとアドバイスする事にしよう。

 

「背景を無地にするだけでいいなら布団とかでどうだ? 床に敷いて畳を隠して、壁は布団のシーツでも使えばいけるだろ」

 

「なるほど、確かに……‼」

 

「それイイ! 月見里君ナイス!」

 

原作知識(チート)にひと手間加えたアドバイスをすれば、推し達から純粋な賞賛が与えられる。

あ~、ズルなのは分かってるけど推しの供給によって承認欲求が満たされていく~。

俺は二人に見えないようにニマニマと笑みを浮かべながらさっさと撮影環境を整えた。

 

「……これでよしっ。喜多川さん、どうぞ~」

 

「ありがとう、守優。じゃあ今度は雫たんの性格に合わせて撮ってみましょう」

 

「オッケーっ!」

 

布団とシーツで無地の背景を用意し、そこに海夢ちゃんが立つ。

邪魔にならないよう俺は新菜の背後に移動。後ろからスマホの画面を覗き込むが、問題なく撮れそうだ。

 

「では、撮りますねー……」

 

カシャリ、と新菜がカメラアプリのシャッターを切る。

結果は、やはり今回もニヤケ顔だ。

 

「待って、今のなし‼」

 

自分でも失敗したのが分かったのだろう、海夢ちゃんは笑いながら画面を確認する。

そして想像以上のデキの悪さに思わず噴き出した。

 

「ぶふーっ、ブス‼」

 

「また笑っちゃいましたね……」

 

「喜多川さんどんだけ嬉しいんだよ~」

 

その様子に新菜も俺も釣られて笑ってしまう。

本来なら注意の一つでもしなければならないのだろうが、楽しく撮影出来るのはいい事だし、彼女の嬉しい気持ちも理解できる。

 

「無理無理無理! 笑うなって無理すぎ‼ ニヤけるに決まってんじゃん‼ だって今そーとー嬉しいし‼ 嬉しさハンパないし‼」

 

やはり歓喜の気持ちが抑えられないのか、海夢ちゃんがぴょんぴょん飛び跳ねる。

しかし、彼女もこのまま撮影が進まないのは良くないと思ったのか、表情を切り替えて気合を込めた。

 

「でも待って、マジ本気出す‼ 次はちゃんとやるから‼ もっかい撮って‼」

 

「はっ、はい!」

 

新菜が再びスマホを構え、その間に海夢ちゃんは大きく深呼吸をして息を整える。

 

「……よしっ……せーのっ」

 

カシャッ

 

海夢ちゃんの合図でシャッターが切られる。

その瞬間、俺の目の前にいたのは黒江雫だった。

 

「……!」

 

原作ではいろんな人が彼女の表情や所作から来る演技に驚愕していたが、こうして目の前で見ると納得する。

これはまさに憑依だ。シャッターが切られる瞬間、喜多川海夢という人物は消え、黒江雫という存在がそこに立っていた。

 

「……ははっ」

 

彼女の才能の凄さに思わず笑みが零れる。

新菜の衣装の出来は一流だが、それを着こなし演じる彼女もまた一流なのだと俺は魂で理解させられた。

 

「今のどう⁉ ありじゃない⁉」

 

「はいっ‼ 雫たんになりました……‼ 喜多川さん、流石です‼ このまま続けますね‼」

 

俺の前で新菜と喜多川さんが嬉しそうに写真の出来を喜び合う。

二人は自分達がどれほどの才能を開花させたのか気付いていない。

でも、俺はそれでいいと思う。

彼らはただの高校生で、コスプレは二人が楽しむ為にしているのだから。

 

「待って、俺も写真撮りたい! 目線くださーい!」

 

俺はただ、二人が後悔なく人生を謳歌してくれるのを見守るだけ。

心の内でそう呟きながら、俺は撮影に参加した。

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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