その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第23話『その転生者達は参加する』

一夜明けて、翌日の日曜日。

場所は池袋、マーリンシティ。*1

俺達はコスプレイベント会場へと到着した。

 

「ヤッッッバ~~~いっ♡♡♡ コスイベすっっっっご‼」

 

右を見ればコスプレ、左を見てもコスプレ。

休日の池袋、それも大規模な会場という事もあってか想像以上の数の参加者がそこにはいた。

 

「レイヤーさんだらけなんだけど~♡♡♡ ガチでアガる~っ♡♡」

 

有名なアニメやゲームのキャラクターになりきったレイヤーさん達を眺め、海夢ちゃんは目を輝かせる。

ぶっちゃけ俺も内心ではテンション上がりまくりだ。前の人生ではこういうイベントには参加した事なかったのもあって、軽く感動すら覚えている。

 

「か、ら、の~……あたしもついに、コスデビュ~……♡♡♡」

 

ただ会場でコスプレを見るだけでなく、参加者の一人としてこの場に立っている幸せを海夢ちゃんは噛み締めていた。

 

「よかったね、喜多川さん」

 

「うんっ♡ マジ嬉しい♡ 最高♡ ごじょー君もありがと……ごじょー君、どうしたの?」

 

海夢ちゃんは満面の笑みで嬉しさを表現しつつ、その衣装を作ってくれた新菜へと話しかける。

しかし、当の本人は視線を右往左往させて挙動不審な様子を見せていた。

 

「いえっ、あのっ……じょ、女性だらけなので、肩身が狭いといいますか……落ち着かなくて……あと、なんだか視線が気になって……」

 

顔を青くさせてキョロキョロと視線を泳がせる新菜に続き、俺も周囲へと視線を向けた。

確かに、多くの参加者がこちらへと注意を向けているのが分かる。

 

「確かに……はっ! もしかして! みんなごじょー君の衣装に見とれてるんじゃない⁉ 絶対そうだよっ‼」

 

新菜や俺に続いて海夢ちゃんも周囲の視線に気付き、その理由を考えるがものの数秒で真実に辿り着いた。

海夢ちゃん正解。1年5組に十点。

 

「いや、俺が場違いだからじゃないですかね……私服も作務衣(コレ)だし……っ」

 

新菜は不正解。1年5組十点減点。

 

「え? 何がダメ? ごじょー君って感じがして、めっちゃいいじゃん!」

 

「そうそう。それにこれだけいろんな格好している人が集まってる場で作務衣着てる位で浮くわけないだろ」

 

「で、でも……」

 

海夢ちゃんや俺が言っても自信無さげにソワソワと周囲を気にする新菜。

 

「やっぱこの中で一番いい乳袋だからじゃん?」

 

そんな新菜に海夢ちゃんはおもむろに自身の胸を鷲掴みにして揺らして見せた。

だからそれやめなさいって。

 

「この出来、誰にも負けてないと思うんだけど‼」

 

「きっ、喜多川さんっ‼ 持ち上げないでくださいっ‼」

 

自信満々に胸を揺らす海夢ちゃんを新菜が慌てて制止する。

今日の新菜は顔を青くしたら赤くしたりと大忙しだな。

 

「とりあえず上の広場に行かない? カメラマンさんとか男の人もそっちに行ってるの多かったし。新菜もそっちの方が多少落ち着くだろ」

 

「う、うん……」

 

「そうだね、行こっか」

 

このままでは埒が開かないので移動する事に。

階段を上がった先でも下の広場ほどではないが、あちらこちらにレイヤーさんの姿が確認できた。場所によっては撮影も行われている。

 

「お~っ♡ こっちもまったりしてていい感じじゃん♡ へぇ~、撮影って順番待ちするんだ~」

 

足早に階段を駆け上がった海夢ちゃんが広場の様子を眺める。

そして列に並んで撮影が行われているのを発見し、その先へと視線を向けた海夢ちゃんが「あっ‼」と声を上げた。

 

「ヴァネッサ様だ! コス可愛い~‼ てかあの人、超おっぱいデカい‼」

 

海夢ちゃんの言葉に釣られて自然と視線を向けると、長蛇の列の先で一人のコスプレイヤーさんがポーズをとって撮影されていた。

体のいたるところに見える縫い痕と露出度の高いナース服が目を引く女性、対戦型格闘ゲーム『KILLING GIGS』の登場キャラクターの一人、ヴァネッサ様である。

 

(うおでっか)

 

思わず脳内で感想が漏れる。てかあの人完成度たっか!

衣装自体はシンプルだが、ボディラインが出る服だし脇とか太股とかガッツリ見えるから体作り大変そう。

とりあえず、完成度高いしエッチだから後で写真撮らしてもらおうっと。

 

「あたしも並んで撮らせてもらお――」

 

「すみません。撮影いいですか?」

 

海夢ちゃんも同じ事を考えていたようで、ヴァネッサ様コスの撮影に並ぼうとすると、後ろから声を掛けられる。

三人同時に振り返ると、そこにいたのは首からカメラを掛けた男性が一人。

 

「……え゛っ⁉ あたしですか⁉」

 

「は、はいっ。“ヌル女2”の黒江雫ですよね? ……あ、もしかして撮影ダメでした?」

 

声を掛けられると思っていなかった海夢ちゃんは数秒フリーズした後に慌てて聞き返し、その反応に驚いた男性はキャラコスの確認をしつつ、撮影の可否を尋ねる。

途端に海夢ちゃんの瞳が煌めき、顔が明るくなった。その表情には歓喜の色がありありと見て取れる。

 

「ハイっ‼ 雫たんですっ‼ 撮影全然オーケーです‼ 逆にお願いしますっ‼」

 

「こちらこそお願いします」

 

海夢ちゃんは興奮しながら嬉々として撮影に応じる。

カメラマンの男性も丁寧に返しながら、撮影の準備を始めた。

 

「撮影の邪魔にならないよう隅に寄ろうか」

 

「そうだな」

 

二人の邪魔にならないようにと気遣う新菜の提案に応じ、俺達は端の方へと移動する。

 

「ポーズお願いします」

 

「はいっ」

 

少し距離を取り、他の参加者の邪魔にならないように行われる撮影。

遠目ではあるが、シャッターが押される瞬間の表情や仕草はまさに雫たんそのものだ。

 

「やばー、めっかわじゃん! ありがとうございました!」

 

「こちらこそっ‼」

 

数回の撮影を行った後、写真の出来を完成する海夢ちゃんとカメラマンさん。

どうやら満足のいく撮影が出来たようで、和やかな雰囲気で確認を終える。

 

「そうだ、あたしも一緒に撮ってもらっていいですか⁉ 記念的な‼」

 

「えっ⁉」

 

それで終わりだと思っていたのか、カメラマンさんは驚きながらも美女の誘いは断らず急遽自撮りのツーショット撮影が始まる。

 

「撮りますよー。あ、ギリ入んないんでちょい寄ってください」

 

「あっ、は、はいっ」

 

海夢ちゃんの言葉にカメラマンさんは照れながら距離を詰める。

あんな美少女に自分からツーショット頼まれた上に、進んで距離詰められたら絶対意識しちゃうだろ! 現にカメラマンさん顔赤いし!

あの可愛さでオタク趣味やコスプレに理解あって、ギャル特有のフレンドリーさで距離ガン詰めしてくるでしょ? 誰も勝てないって。

 

 

「喜多川海夢……恐ろしい子……ッ」

 

「突然どうしたの……」

 

 

海夢ちゃんの凄さを再確認していたら新菜にちょっと引かれた。解せぬ。

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

喜多川さんが最初に声を掛けてきた男性と写真の出来を確認しているうちに、その後ろに数人の列が出来ていた。

そのまま自然と他のレイヤーさんと同じように撮影会が行われるのを、俺は遠目から見守っている。

一方守優は「せっかくだし、俺もちょっと撮影回ってくる」と言ってその場を離れてしまった。

 

(まさかそれで最初に並ぶのが喜多川さんのところなのはちょっと笑っちゃったけど)

 

喜多川さんも順番が来て守優が目の前に立ったのを見て大爆笑していた。

それでも撮影の時はしっかりと雫たんの表情に切り替えていたのは流石という他ない。

(つつが)なく撮影が行われている様子に安心したところで、俺は次々に列に並んで撮影を楽しむ守優を目で追っているうちにある事に気付いた。

 

(あの人、女装だ……)

 

アニメやキャラクターの名前は分からないが、明らかに女の子の衣装に身を包む男性が楽しげに会話をしている。

 

(そういえば、下にも男装している女性が沢山いたな……)

 

緊張していてあの時は気付かなかったが、男性キャラクターのコスプレをしている女性もいた。

現に今この場にも、男装している参加者がちらほらといる。

しかし、そんな女装や男装を奇異の目で見る人は誰一人としていない。

 

(あ、そうか……自分の好きなキャラのコスプレだから、自由に楽しめるのか……)

 

この場にいる誰もが、自分の好きなものを形にして表現して、他者の好きなものに共感し大事にしている。

自分の好きなものを否定されず、受け入れられる場所。

 

(なんか、いいな……)

 

数日前には想像すらしなかった場所に連れてきてくれた喜多川さんへと目を向けると、また別のカメラマンさんと写真の出来を確認しては顔を綻ばせている。

喜多川さんが楽しそうでなによりだ。

 

(俺も約束が守れてよかっ――)

 

そこでふと、重要な点を忘れていた事に気付く。

 

『あたしにコス衣装作ってくれないかな……⁉』

 

そうだ。

もう約束は守ったから、喜多川さんとこうやって過ごすのは……

 

(今日で終わりなんだ――)

 

衣装の制作を依頼された事で始まった関係。

話す機会すらなかった、まるで別の世界にいるような人。

俺にとっては友達は守優だけで、彼以外の友人なんて一人もいなくて、そんな守優とだって放課後に夜遅くまで寄り道したり、こんな風に過ごす事はなかった。

全部、初めての経験だった。

 

(守優の言葉や喜多川さんが歩み寄ってくれたお陰で友達になれたけど、もうこんな事はないんだろうな……)

 

同じクラスだから話す機会はあるだろう。友達なのだ、もうそこに不安はない。

だけど、喜多川さんはクラスの人気者だ。俺と違って友達も沢山いるし、そういう人達と遊ぶ機会だって多いだろう。

そうなれば、俺との関係だって次第に希薄になるはずだ。

 

「いやー、お待たせ。完成度高いレイヤーさんばっかりでめっちゃ撮影しちゃったわ!」

 

そんな事を考えていると撮影巡りから守優が帰ってきた。

そのほくほく顔を見れば、彼がどれだけイベントを満喫したのかが分かる。

そんな親友の表情に思わず笑みが零れた。

 

「ふふっ……」

 

「? どうかした?」

 

「……ううん、なんでもない」

 

守優のお陰で少しだけ気持ちが前を向けた気がする。

 

(楽しかったな)

 

きっとこんな経験はもう二度とないだろう。

慌ただしくて、大変な事も沢山あったけど、本当に楽しい時間だった。

この日々を俺は決して忘れる事はないだろう。

俺は少し俯いていた顔を上げて、再び喜多川さんの方を見た。

喜多川さんもこちらの気付いたのか、俺の方へと向き直り、

 

 

――輝くような笑顔を浮かべた。

 

 

(……ッ‼)

 

その笑顔を見た瞬間心臓が大きく跳ね、胸が締め付けられるような、背筋に衝撃が走るような感覚に陥る。

俺はこの感覚を知っている。遠い昔、俺の人生を変えたあの日の事を覚えている。

 

(な、なんで……き、喜多川さん……っ)

 

喜多川さんが参加者の女性に頭を下げてからこちらに駆け寄ってくる姿に、俺は目が離せないでいた。

 

「喜多川さん、走ったら危ないよ」

 

隣で守優が喜多川さんに何か話しかけているのはわかるのに、何を言っているのか理解できない。

さっきまで感じていた喧騒も気にならない。ただ、喜多川さんの姿を目で追う事しか出来ない。

 

「ハァッ……ハァッ……ごじょー君っ!」

 

駆け足でやってきた喜多川さんが肩で息をしながら俺を呼ぶ声がやけに透明に聞こえた。

 

「は……はい……っ!」

 

「よかった……いなくなっちゃったかと思って、かなり焦った……」

 

撮影の邪魔にならないよう離れていたせいで勘違いさせてしまったようだ。

申し訳なく思いながらも、未だに心臓が早鐘を打つせいで謝罪の言葉も紡げず、俺は顔を赤らめ汗ばんだ喜多川さんの顔を見つめる事しか出来ない。

 

「あの……あのねっ、あたし……」

 

息を乱しながら、なんとか言葉を繋げる喜多川さんの言葉を俺はただ待つ。

彼女が何を言うのか、俺は俺は固唾を飲んで待ち構えた。

 

 

「服脱げそう!」

 

「なんですって?」

 

 

「~~っ、ぶはッ‼ やっぱ無理‼」

 

守優は何故か数秒耐えた後に、堪え切れず噴き出していた。

……前もこんな事、あったな。

 

 

 

 

.

*1
MaringCity。アニメ第1期5話より参照。着せ恋の世界におけるサンシャインシティ

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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