海夢ちゃんが初のコスイベに参加し、新菜と海夢ちゃんが両片思いになった記念日から数日。
あの日を皮切りに季節は少しずつ夏へと移り変わり、その始まりとして梅雨が到来した。
今日も昼までは晴れていたというのに、学校を終えて俺達が家に帰ろうとした頃には天気が急変して雨が降り注いでいる。
「もう梅雨だなぁ。暑いしジメジメするし、嫌になる……」
「そうだね。俺も湿気のせいでいつもと違う筆を使わないといけないから気を遣うよ」
二人並んで傘を差しての下校。
俺が曇天を見上げながら呟けば、隣の新菜もそれに習って顔を上げる。
しかし、彼の口から出てくるのは相変わらず人形に関するワードだ。
「……ふふっ、ホント人形バカだなぁ」
「そ、そうかな……」
梅雨に入っての言葉が天気の事ではなく面相書きの筆についてとは、本当に筋金入りだ。
たが、それが彼・五条新菜という人物なのだ。そういう人形バカなところも、もはや可愛くさえ思う。
「ただいま」
「お邪魔しまーす」
「おお、二人ともお帰り」
そうやって雑談をしているうちに、俺達は新菜の家に到着。
玄関を開けると、おじいちゃんが草履に履き替えていた。
「あれ? おじいちゃん、どこか行くの?」
「ちょっと向こうの作業場の方にな」
「そっか、足元気を付けてね」
作業場なんて目と鼻の先だが、それでもこの雨の中だ。
普段より足元も悪いし、気を付けるに越したことはない。
そんな俺の考えが伝わったのか、おじいちゃんは笑って頷いた。
「おう、ありがとな。あとな、友達来てるぞ」
「え?」
「!」
おじいちゃんの言葉に新菜は小さく驚き、俺はそれが誰なのか一瞬で理解した。
そうか、
「びしょ濡れだったから、今風呂入ってもらってる。上がったら、何か飲み物でも出してやんな」
そう言い残して、おじいちゃんは作業場へと向かっていった。
俺がおじいちゃんを見送る隣で、新菜は不安そうな顔で家の中を見つめる。
「じいちゃん……いったい誰を家に上げたんだろう……? 喜多川さんは確かバイトだって言ってたよね……?」
「言ってたな……ちなみに、俺や喜多川さん以外に友達は――……」
新菜は無言で首を横に振っている。
そうだよな、知ってた。もっと友達作れ。
俺が内心で呆れる中、新菜はどんどん悪い方向に考えが働いているのか顔が青ざめていく。
「も、もしかして……詐欺⁉ 新手の泥棒⁉ 騙されたとか……⁉」
「落ち着けって。ほら、深呼吸深呼吸」
「う、うん……」
俺の言葉を受けて新菜はゆっくりと深呼吸を繰り返す。
息を吸って吐いてを繰り返すうちに少しずつ落ち着きを取り戻したのを見てから、俺は彼の悲観的観測が現実的でない事を説明してやる。
「いいか、新菜? おじいちゃんは相手を俺達の友達と勘違いしてたんだ。つまり、俺達と同年代。少なくとも大人の可能性は低い」
「た、確かに……」
「それに、もし詐欺だったら騙す相手であるおじいちゃんを逃がしたりしないし、泥棒なら顔も見られてるのに呑気に風呂なんか借りたりしない」
「そ、そっか……言われてみればそうだよね……」
俺の説明に納得したのか、新菜は最悪の想定は頭から払拭出来たようだ。
しかし、そうすると彼の頭に浮かんだのは他の疑問。浴室にいるのは誰かという事。
「じゃあ、いったい誰が……?」
「さあな。それは確認してみないと」
俺は玄関を上がると浴室の方へと向かう。
「え、確認って……今から⁉」
そんな俺を新菜は慌てて追いかけてきた。
原作と比べると落ち着いているが、新菜に主導権を握らせると大変な事になりそうだからな。
ジュジュ様の尊厳は俺が
「俺が相手の話聞いてくるから、新菜は居間でお茶でも用意しといて」
「一人で大丈夫……?」
「大丈夫だって。何かあったら呼ぶから」
俺の言葉に新菜は不安そうにしながら一応納得して頷く。
「何かあったらすぐに呼んでね! 絶対に!」と何度も念押しをしながら居間へと向かっていく新菜についつい笑ってしまった。
そうして俺は、浴室の扉の前に一人で立った。
中からシャワーの音はしない。入浴中ではないようなので、扉をノックして話しかける。
「すみません、五条人形店の者なのですが」
『は、はいっ』
扉の向こうから可愛らしい声が聞こえる。
ノックと俺の声に驚いたのか、若干上擦っていた。
「こちらの家主から『客人を風呂に案内した』と言われたのですが、来客の予定もなかったので誰なのかと思いまして……よかったらお話聞かせてもらってもいいですか?」
『わ、わかりました。少し待ってもらえますか……っ』
「はい、構いません。ごゆっくりどうぞ」
すげぇ、ジュジュ様の敬語だ。
原作では大人組の人達に使っているのを見たが、なんだか新鮮な気分である。
そんな事を思いながら待つこと数分。髪を乾かしていたであろうドライヤーの音が止まり、ゆっくりと引き戸が開いた。
「すみません、お待たせしま――……」
脱衣場から出てきたのは絶世の美少女。
日曜日のコスイベでは遠目に、それもサングラスとマスクで顔を隠してほとんど見る事が出来なったそのご尊顔に俺は言葉を失った。
てか、ヤバ。マジで美少女すぎる。そして小さい、可愛い。
新菜のシャツだけで太股くらいまで隠れてるのがまた小柄さと可愛らしさを際立たせている。
俺はニヤケ面にならないよう全力で表情を引き締めつつ、ある事に気付く。
それは、ジュジュ様も俺の顔を見て固まっているという事だ。
「……あの、何か?」
「あっ、ごめんなさい。しっかりした言葉遣いだったから、てっきり大人の人かと思って……」
どうやら俺の話し方から大人だと思われてたらしい。
前世だけでもアラサーだし、ある意味正解だ。
「ありがとうございます。とりあえず、まずは当店にいらっしゃった理由を聞いても?」
「え、ええ。ここにいる職人に衣装のオーダーをしに来たのよ。その途中に雨に降られてしまって、その時にこの家のお爺さんがお風呂を貸してくれて……」
俺が本来の目的を切り出すと、ジュジュ様は少し緊張した様子で居住まいを正しながら経緯を説明する。
「なるほど……やっぱり詐欺だの泥棒だのって事ではないか……」
「当たり前でしょ⁉」
俺がわざとらしく呟けば、ジュジュ様は心外だとばかりに大声で怒鳴る。
彼女が怒るのも仕方ないかもしれないが、俺のように事情を知る人間でなければ警戒するのもやむなしなのだ。
新菜にはあんな風に説得したが、今の時代はお年寄りを狙って悪事を働くような人間もいるわけだし。
「すみません、ですがこちらとしても多少の用心は――」
「守優! 大丈夫⁉」
俺がジュジュ様を宥めようとすると、慌ただしく音を立てながら新菜が駆け寄ってくる。
恐らく先程のジュジュ様の怒鳴り声が聞こえたのだろう。
話がややこしくなるかもしれないからと居間で待機させたのだが、俺を心配してくれたようだ。可愛い奴め。
新菜は急いで俺の傍までやってくると、俺の会話相手がいる脱衣場の方へと向いた。
「……へ? 子供……?」
「! ちょっと、私は高校二年生よ!」
「え、年上⁉」
「何なのよその反応‼」
あーもう滅茶苦茶だよ。
俺が会話している相手の正体が予想外だったのか、新菜がほぼ反射で口にしてしまったワードがジュジュ様の逆鱗に触れてしまった。
ジュジュ様は新菜の事を怒鳴り、新菜は遅れて自分の失言に気付いてただひたすらに謝り続ける。うーん、中々にカオスだ。
「とりあえず、細かいお話は居間の方で。こちらにどうぞ」
「ふんッ」
「うぅ……」
このままでは埒が開かないので、空気を切り替える為に場所を移動する。
俺が案内するとジュジュ様は鼻を鳴らして新菜を一睨みした後に、案内に従って後に続いた。
少し後ろでは女性の恐ろしさに触れた新菜が肩を落としている。どうやら高い授業料だったようだ。
そんなこんなで俺達は居間に移動し、自然と宅を囲むように座る。
「さ、先程はすみませんでした……あの、今日は……どのようなご用件で……」
未だに自分を睨みつけているジュジュ様に対して、新菜は恐る恐る用件を伺う。
その様子にジュジュ様はまるで気持ちを切り替えるように大きくため息を吐いた後、ゆっくりと口を開いた。
「……衣装、あなたが作ってるんでしょう?」
「! ハイ、作ってます! 少々お待ちください!」
ジュジュ様の言葉を受けて彼女を雛人形の見学に来たのだと勘違いしたのだろう。
新菜は顔を明るくさせながら、見学に来た顧客の連絡先を控える為のノートを取り出した。
「お名前と学校名をお願いします」
「乾紗寿叶。桜ノ宮女子高二年よ。そういえば、あなた達の名前をまだ聞いてなかったわね」
名前と学校名を名乗り、そこでまだ俺達の名前を聞いていない事を思い出したジュジュ様が視線を向けてくる。
「自己紹介が遅れました。月見里守優、高校一年です」
「彼の同級生で、五条新菜といいます……あの、衣装でしたらすぐ見学出来ますよ? 一部ですが……」
「本当⁉ 今すぐ見たいわ‼ お願いっ‼」
自己紹介と共に見学が可能である事を告げられると、ジュジュ様は目を輝かせて身を乗り出す。
ジュジュ様はコスプレ衣装を見れると思って興奮しているんだろうけど、それを知らない新菜はこの後工房に彼女を案内するのだろう。
それならば俺は今のうちに出来る事をしようと小さく手を挙げる。
「あの、見学に行くのなら今のうちに乾さんの服を一度洗濯しておきましょうか? 少しお時間を頂きますが、今から洗濯して乾燥させておけば帰る頃にはマシになってると思うので」
「それは助かるけど……いいの?」
「構いませんよ。あ、乾さんの服に触る事になるので一度風呂場まで来てもらえると助かります」
善意で提案したが、流石に初対面の男に制服だの下着だの触られるのは流石に嫌だろうしね。
そう思って一言付け加えれば、数秒遅れてそれを察したジュジュ様は頬を赤らめながら「そ、そうね……」と納得した。
「じゃあ新菜、俺は一旦乾さんと風呂場に行ってくるから、その間にお店の見学の準備しといて」
「うん、わかった」
「? ちょっと待って……お店に衣装を飾ってるの? ここ、雛人形のお店よね?」
俺達のやり取りに違和感を覚えたのか、訝しむように新菜と俺の顔を交互に見つめる。
それに対して新菜はキョトンとした様子で「はい」と頷いて返した。
「仰る通り、うちは雛人形店ですが……なので雛人形の衣装もそちらに……」
「私が言ってる衣装っていうのは、コスプレ衣装の方よ‼ これ、あなたが作ったんでしょう⁉」
ジュジュ様がおもむろにスマホを取り出すと、画面を操作して新菜へと見せつけた。
そこに写っていたのは先日新菜の自室で撮影し、海夢ちゃんが投稿した雫たんコスの彼女の写真。
「私はコスプレ衣装のオーダーをしに来たのであって、雛人形の見学に来たんじゃないの!」
「そ、そうだったんですか……」
語気強くここに来た目的を語るジュジュ様に、新菜は途端にガッカリした様子を見せた。
ジュジュ様が『今すぐ見たい』って言った時、新菜嬉しそうにしてたもんなぁ。
お互いに勘違いしてすれ違っただけでどちらも悪くはないのだが、その急な落差にジュジュ様は少し勢いを削がれ眉をひそめる。
「……なんなのよ?」
「……彼、雛人形が大好きなんです。たぶん、乾さんが雛人形に興味を持って来てくれたと思って嬉しかったんだと思います。で、それが勘違いだと分かって……」
「そ、そういう事……なんだか、ごめんなさい……」
新菜の落胆の理由を知り、ジュジュ様は若干気まずそうだ。
しかし、これはお互いが勘違いしてしまった結果だ。新菜もそれは理解しているようで、「こちらこそすみません」と頭を下げる。
互いに謝罪をした事で、仕切り直しとばかりにジュジュ様が立ち上がって新菜を見下ろす。
「とにかく! 五条新菜、私に……ジュジュに衣装を作ってほしいの‼」
「……ジュジュ?」
ジュジュ様の名乗りを受けて、新菜がその聞き覚えのある名前に固まる一方、俺もまた別の理由で固まってしまっていた。
(やっべ、新菜がジュジュ様の裸見てないから衣装の依頼ゴリ押し出来ないじゃん)
ジュジュ様の尊厳を守った事でこんな事になるとは……! おのれディケイド!
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原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について
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内容的に違和感がなければ登場してほしい
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登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
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執筆者の自由にしたらいい
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原作準拠であまり出さないでほしい