「ジュジュって……喜多川さんが好きだって言ってたコスプレイヤーの……確か、守優が写真を見せてくれた人だよね……?」
目の前の美少女の正体を知り、新菜が驚愕する。
それどころか「えっ、本物……⁉」なんて半ば疑う始末だ。
そんな状態で俺に視線を送ってくるが、ぶっちゃけ俺は正体を知っているので驚きも何もない。
「あー、うん……そう、その人……ぶっちゃけ俺もビックリしてる……」
ただ、界隈では超有名なレイヤーと相対してなんのリアクションもないのもおかしいので、驚きの余り呆然とするフリだけしておく。
あと、今更ながらシャツ一枚姿という貴重な姿を今更ながら脳内フォルダに保存した。
「えっと……あの、ジュ、ジュジュさんがなぜうちに……? どうしてうちが分かったんですか……?」
新菜がまだ驚きを隠せないまま、そんな有名なレイヤーが自分を訪ねてきた事、そしてその家を知ったのかを質問する。
するとジュジュ様はさっきまでの気の強い表情から一転し、気まずそうに目を逸らしながら口を開いた。
「……まりんってレイヤーがコスイベに行くって呟いてたから、衣装を近くで見たくて行ったのよ。そうしたら、あなたが作ったものだって分かったから……跡をつけさせてもらったわ……ごめんなさい……」
ジュジュ様の回答に新菜がぐっと堪える様に顔をしかめる。
彼女の行動力に心の内でツッコミを入れているのだろう。それはそれとしてストーキング行為は『ストーカー規制法』で罰せられる犯罪で1年以下の拘禁刑、又は100万円以下の罰金が科されるから絶対にしちゃ駄目だぞ。
「あの、オーダーと言われましても……コスプレ衣装は商売でやっている訳ではないので……」
「新菜、とりあえず話だけでも聞いてあげなよ。あのジュジュさんがここまでして頼みに来てるわけだしさ」
取った方法は褒められたものではないが、俺はそれを知って止めなかったので正直今更だ。
そして、超有名なレイヤーであるジュジュ様がストーキングまでして新菜に衣装を依頼したいというのは、相当な理由があるのだと察せられる。
新菜もそれを理解したのか、俺の言葉に頷いてジュジュ様の方へと視線を向けた。
彼がジュジュ様の話を聞こうとする姿勢が整ったところで、俺は彼女に問いかける。
「ジュジュさん、どうして新菜に衣装を依頼しようと思ったんですか? 彼の腕は確かなのはそれを間近で見てきた俺が保証します。ただ、彼はキャリアだけで言えば駆け出しもいいところです。そもそも、あなたという大物のコスプレイヤーなら大手に依頼する事だって簡単なはず……どうして、新菜なんですか?」
本来ならもっと後で語るであろう彼女の気持ちを、俺はここで引き出すべきだと思った。
原作では不慮の事故によって彼女の裸を見てしまった為に勢いで衣装制作を受ける事になったが、彼女が本気で新菜に衣装を依頼したいと思うのなら、それを伝えた方が互いの為にも良いと考えたのだ。
俺の言葉にジュジュ様は少し躊躇いがちに視線を彷徨わせた後、観念したように語り始める。
「私、この写真を見た時――嫉妬したのよ」
ジュジュ様は自身のスマホを見つめる。
そこには変わらず、雫たんコスを着た海夢ちゃんの姿が写っている。
「嫉妬なんてみっともないって分かってるけど、本当にどうしようもない位に羨ましかったの。『私もこの人の作った衣装が着たい』『どうしてもこの人じゃないと駄目だ』って……」
彼女の表情は言葉の通り、他者に嫉妬してしまった自分に対する呆れと、それでも衣装を諦められない熱意が窺える。
俺も新菜も、そんなジュジュ様の言葉をただ静かに聞き入った。
「確かに衣装を作れる人は沢山いるわ。自慢じゃないけど、あなたが言う通り『
ジュジュ様はゆっくりと新菜へと視線を向ける。
「一目惚れしたのよ。あなたの作った衣装に」
その眼差しは真っ直ぐで煌めいていて、自分の好きなものに対して妥協しない力強さが込められていた。
「正直に言うと、自分でも嫉妬したのには驚いたわ。でも、どうでもいいものに嫉妬なんてしないでしょ?」
乾さんの言葉に、俺は昔を思い出していた。
雛人形に目を奪われたあの日の事を。
『一番って言ってもらえるのは、じいちゃん嬉しいなぁ』
数ある人形店の中で自分の店を、自分の人形を選んでもらえる喜び。
それがどれほどのものなのか、俺は今日それを身をもって体感した。
『お客さんに一目惚れさせる人形を作る』。
俺があの時目指した、じいちゃんみたいな頭師になるという夢。
まだ頭師としては未熟かもしれないけど……俺は今、衣装作りを通してじいちゃんの気持ちを知る事が出来た。
(こんなに……こんなに嬉しい気持ちだったんだ……)
自然と頬に涙が伝う。
俺の作った衣装にそこまで言ってくれる乾さんに感謝の気持ちを伝えたくて仕方がない。
「私はそれだけコスプレを……え、何⁉ ちょっ、何よ……‼ なんで泣いてんのよ‼」
俺はゆっくりと乾さんへと手を伸ばす。
「何……えっ、なんなの! 何何何……⁉ ちょっと……本当になんなのよ‼ 何か言いなさいよ……‼」
乾さんが何か言っているが、俺はただ彼女にお礼を言いたいという事で頭がいっぱいだった。
俺は乾さんの手を取り、心の底から感謝の思いを伝える。
「あ゙り゙がどゔござい゙ま゙ず……!」
乾さんが目を見開いて固まってしまった。
しかし、俺は気持ちが抑えられず、そのまま続けた。
「俺、じいちゃんがあの時こんなに嬉しかったんだって、今やっとわかりました……こんな気持ちだったなんて……いつか雛人形でもそう言ってもらえるように必ず――え……乾さん? どうしたんですか⁉」
乾さんが突然気を失い、倒れ込む。
ど、どうして⁉ もしかして体調が悪かった⁉
守優、どうしよ――なんでそんな呆れた顔で見てるの⁉
新菜が暴走した事でジュジュ様が気絶するというアクシデントもあったが、その後ジュジュ様は意識を取り戻し、新菜も自分の意志でジュジュ様の衣装制作の依頼を受けるという形で収まった。
ちなみに、その後にジュジュ様を風呂場に案内して制服類は洗濯済み。今は浴室で乾燥中だったりする。
「乾さんのご期待に沿えるよう、全力で取り組ませてもらいますね……!」
「え、ええ……」
「?」
力強く拳を握って宣言する新菜に対して、ジュジュ様は頬を赤らめて彼の手をチラチラと見ながらそれを誤魔化すように返事をする。
女子校に通い続ける彼女には手を握られるのは刺激が強すぎたらしい。
本来なら新菜も異性との交流なんて最近海夢ちゃんと持ち始めたくらいでドキドキしそうなものだが、彼にはそれよりも衣装を褒めてもらえた方が重要らしい。罪な男である。
ブブッ
「ん?」
スマホが震えて通知が届いた事を告げる。
どうやら海夢ちゃんがグループラインに書き込みをしたようだ。
もう文面から新菜に対する好きな気持ちが見て取れる。ハートいっぱいじゃん。
それに対する新菜のこの淡白さよ。でも二人とも凄くその人らしくて見ていて面白い。
グループラインでイチャついてる事にツッコミは入れたが、出来ればこれからもグループラインで俺に見せつけてもらいたいところ。
「? どうしたのよ?」
そんな事を考えているとジュジュ様が俺に話しかけてくる。
どうやら色々考えているうちに固まってしまっていたらしい。
「新菜、喜多川さんへの返事は任せる」
「うん、わかった」
「……ジュジュさん」
「な、なによ……」
新菜に海夢ちゃんへの返信や対応を任せつつ、俺はジュジュ様へと向き直る。
俺の反応にジュジュ様は何か感じ取ったのか、身構えつつ警戒するような表情を浮かべた。
そんな彼女に俺は心の準備をしてもらうようゆっくりと告げる。
「今から嵐が来ます」
「あなた何言ってるの?」
「ジュジュさんの事がめちゃくちゃ大好きな嵐です」
「あなた本当に何言ってるの?」
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原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について
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内容的に違和感がなければ登場してほしい
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登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
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執筆者の自由にしたらいい
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原作準拠であまり出さないでほしい