その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第30話『その転生者は交渉する』

「……私、そろそろ帰るわ」

 

あれからジュジュ様はひとしきり泣き、それを俺達で温かく見守って……

漸く涙が止まったジュジュ様が鼻を啜りながら帰路に就く事を告げる。

 

「わかりました。制服が乾いたか見てきます」

 

「新菜頼んだ。ジュジュさん、その間に目を冷やしてください」

 

「ん、ありがと……」

 

冷水で絞った濡れタオルを手渡すと、ジュジュ様は短く礼を言いながらそれを目に当てる。

泣きすぎてちょっと目が腫れてたもんな。少しでもマシになればいいんだけど。

 

「五条新菜、連絡先教えてくれる? ブラックリリィの資料と私のサイズ表を送るから」

 

「あ、はい。ちょっと待ってくださいね」

 

ジュジュ様の制服を確認する為に立ち上がろうとする新菜をジュジュ様が呼び止める。

それを受けて新菜は立ち上がるのを止め、言われるがままにスマホを取り出し始めた。

ジュジュ様は新菜を待つ間に海夢ちゃんの方を向き、新菜と連絡先を交換する事の意味を説明する。

 

「誤解しないでよ。あくまで衣装の連絡だから」

 

「何の誤解ですか?」

 

言われている意味が分からず、海夢ちゃんが軽く首を傾げる。

隣の新菜も同じようで不思議そうにジュジュさんを見つめていた。

そんな二人にジュジュ様はどこか呆れた様子を見せる。

 

 

「なんのって……あなた達付き合ってるんでしょ?

 

 

ジュジュ様惜しい! そうなるのは半年後なんです!

俺が内心で叫んでいると、新菜が顔を真っ赤にして否定する。

 

「ちっ、違っ、違います‼ あ、あと俺っ、お、お付き合い……した事ないので‼」

 

「わ、私の方が勘違いしてたわね……ごめんなさい……」

 

必死過ぎるあまりに声が裏返る新菜にジュジュ様は圧倒され、その場を後にする新菜を見送りながら謝罪する。

一方、海夢ちゃんは『にへえっ』とだらしのない笑みを浮かべていた。

 

「へ~、ごじょー君今彼女いないんだ~♡♡」

 

「……」

 

緩んだ顔で笑いながら新菜に恋人がいない事を喜ぶ海夢ちゃんを見て、ジュジュ様は軽く引いている。

その表情から喜多川海夢という人物像を測りかねているのが窺えた。

海夢ちゃんはジュジュ様に冷ややかな視線を送られている事に気付かずにへにへと笑っていたが、ふと何かに気付いたように表情が切り替わる。

 

「ジュジュサマっ」

 

「何よ」

 

「あの~、あたしさっき“烈‼”ならネオンおねーたまのコスしたいとか言ったじゃないですか~」

 

「ええ。言ってたわね」

 

もじもじと体をくねらせたり、チラチラとジュジュ様に熱い視線を送りながら言う海夢ちゃんに対して、ジュジュ様は勿体ぶるような言葉に眉をひそめる。

海夢ちゃんはそんなジュジュ様の様子を伺いつつ、意を決してとある提案をした。

 

 

「あたしがネオンおねーたまのコスするんで~……あたしと“烈‼”合わせしま――」

 

「嫌っ‼」

 

「食い気味に拒否られたんだけど‼」

 

 

彼女の誘いは秒で切り捨てられた。

盛大にフラれた海夢ちゃんは「ぶわははは‼」と豪快に笑ってる。メンタル強すぎ。

そこにジュジュ様の服の具合を見に行っていた新菜が戻ってきた。

 

「何かあったの? 喜多川さん、凄い笑ってるけど……」

 

大笑いする海夢ちゃんを見て、新菜が苦笑しながら隣に座る。

 

「海夢ちゃんがジュジュさんを合わせに誘って、秒で断られた」

 

「確か同じ作品のキャラクターで衣装を揃えるやつだよね? ……断られたのになんで笑ってるんだろう?」

 

「これが分からない」

 

彼女の思考は時折謎に包まれている。ギャルとは不思議な生き物なのだ。

当の本人は大笑いこそ止まったものの、身を乗り出しながら「ねーねー、ジュジュサマー」ともう一度合わせに誘っており、「しないわよ」ときっぱり断られていた。

まさに取り付く島もないという様子である。

 

「私は自分の為だけにコスプレして、いい写真を残したいだけ。他のレイヤーとつるむつもりはないわ」

 

そう、ジュジュ様が合わせを頑なに断るのは、なにも海夢ちゃんが嫌いだからというわけではないのだ。

……もしかしたら、未だに喜多川海夢という人物に警戒心はあるかもしれないが。

ともあれ、彼女の言葉に偽りはない。その証拠に、これまでSNSにアップされてきた写真はどれも素晴らしいものである。

 

「乾さんの写真、どれも凝ってますもんね」

 

「そうそう。しかもコスしてるキャラクターのイメージに凄く合ってるんだよね。表現の仕方と撮り方が『分かってる』って感じで」

 

「……ありがと」

 

新菜と俺がジュジュ様の写真を褒めると、彼女は少し頬を赤らめて目を逸らしながら小さく呟く。

褒められるの嬉しくてちょっと恥ずかしそうにするジュジュ様可愛すぎ。

そんな俺達の視線に気付いたのか、ジュジュ様は話題を切り替えようと語気を強める。

 

「そ、それに今回はブラックリリィだからスタジオを借りるつもりなのよ。時間も限りがあるし、とてもじゃないけど合わせなんかしてる余裕はないの」

 

「スタジオ⁉ スゴっ‼ 見た~い♡」

 

スタジオでの撮影と聞いて、海夢ちゃんが目を輝かせる。

そしてまたもや身を乗り出してジュジュ様に顔を急接近させた。

 

「一緒に行っていいですか⁉」

 

「だから、合わせはしないって――」

 

「スタジオ代、ワリカンするんで‼」

 

「!」

 

今度はジュジュ様が海夢ちゃんの言葉に遮られ、その内容にジュジュ様の反論が止まる。

新菜に衣装を頼む上にスタジオ代となれば相当な出費だ。高校生としてアルバイトをしているとしても、出費を抑えらえるならそれに越した事はない。

しかもジュジュ様はコスプレに強い拘りを持っている。衣装制作に妥協はしたくないだろうし、だからこそ海夢ちゃんの提案は相当なメリットがあるはずだ。

 

「スタジオ代って何気にけっこするんだよねー」

 

「そうなんですか? じゃあ、俺も出します」

 

腕を組んで悩むジュジュ様に、今度は新菜が挙手をしながら申し出る。

コスプレをする海夢ちゃんはともかく、新菜まで参加を希望するとは思っていなかったジュジュ様は慌てて新菜の方へと向いた。

 

「どうしてあなたまで撮影に来るの⁉」

 

「喜多川さんは自分でつけまつ毛が付けられないので、俺が化粧もしてるんです」

 

「……本当なの⁉ 冗談でしょ⁉」

 

新菜の言葉に、ジュジュ様は視線を海夢ちゃんへと移動させる。

その表情には信じられない物を見たかのような驚愕と焦りの色が濃く見えた。

 

「ヨユーでガチっすよ! ないわ~って感じですよね(笑)」

 

「あなたの事なんだけど」

 

対する海夢ちゃんは気にする様子もなく、笑顔で自虐した。

それにまたジュジュ様は若干引きつつ、そのまま押し黙る。

どうやらメリットとデメリットを天秤に載せて推し量っているようだ。

おそらくこのままいっても原作通り合わせは出来るだろうが、今のままだと俺が参加できるか怪しい。

なので俺はあえて彼女の思考を遮るように声を掛けた。

 

「ジュジュさん、ちなみに今回のスタジオ代はいくら程掛かる予定ですか?」

 

「……一時間で15000円、二時間借りる予定だから30000円ね」

 

「なるほど……では、その内の一時間分を払うので俺も撮影に同行するはありですか?」

 

「‼」

 

ジュジュ様の目が驚きに見開かれ、その色が変わるのが分かった。

俺は彼女がこの提案に先程までに強い魅力を感じているのを察しつつ続ける。

 

「コスプレをする喜多川さんや、そのメイクを手伝う新菜と違って俺は完全な部外者です。なので、俺が皆さんより多めに負担するのは見学料って事で……」

 

「な、なんでそこまで……」

 

「新菜の作った衣装を着た二人の“烈‼”合わせが見たいからですが?」

 

「そ、そう……」

 

原作やアニメで見たあの衣装を生で見れるとか実質無料だし。

本当なら、二時間分全額負担してもお釣りくるレベルだわ。

そんな事を考えながら答えると、ジュジュ様はなんだかさっきまで海夢ちゃんに向けてたような視線を俺に向けてきた。なんでだろう?

 

「とにかく、悪い提案ではないと思います。俺が半分負担し、残りの半分を三人で割り勘。本来30000円だった出費を5000円に抑えられるんですから……」

 

「……」

 

俺の言葉にジュジュ様は静かに考え込む。

本来予定していた料金の六分の一だ。決して無視できるものではない。

俺は更にここでダメ押しを一つ。

 

「……すみません、ジュジュさん。ちょっと一方的過ぎましたよね。あのジュジュさんの撮影を直で見てみたいって思って、力が入ってしまいました。申し訳ありません」

 

「あたしも、無理言ってすみませんでした。あたし達が言った事、全然シカトしてオッケーなんで!」

 

謝罪と共にあえてこちらから交渉を打ち切るように見せかける。

こうする事で心理的に相手の方から話に応じやすくするのだ。

少々卑怯かもしれないが、俺は二人のコスプレが見たいし、原作通り海夢ちゃんも後に続いて同じような事を言っているのでセーフって事で。

「ブラックリリィの写真マジで楽しみにしてま――」

 

「しっ、仕方ないわね……っ……と、特別に……今回だけいいわよ……?」

 

果たしてジュジュ様はこちらの思惑通り、基原作の通り合わせに応じた。

 

「~~っ♡♡ やったぁ~っ♡♡ ジュジュサマと♡♡ 合わせ~~♡♡♡」

 

恥ずかしそうに目線を逸らしながらもしっかりと合意の言葉を口にしたジュジュ様に、海夢ちゃんは嬉しさのあまり言葉通り舞い上がる。

 

「こっ、今回だけ‼ 今回だけだから‼」

 

「凄い喜び様だな。まぁ、ジュジュさんと合わせ出来るんだから当然か」

 

「良かったですね、喜多川さん。では、俺もそのアニメを観ないと……」

 

ジュジュ様が照れ隠しに声を上げる横で、俺と新菜は海夢ちゃんの喜ぶ姿を微笑みながら見守る。

同時に新菜は、当然のように“烈‼”の履修をする事を決めた。

 

「えっ⁉ 今から全部観るの⁉ 資料画像があればいいでしょ⁉」

 

「あ、ハイ。俺も初めはそう思ってましたが、内容を知っておいてキャラクターに合った生地を選びたいので……」

 

参考資料があれば十分だと思っていたジュジュ様は驚きの声を上げるが、新菜は気にした様子もなく返す。

そんな新菜をジュジュ様は静かに見つめる。その表情は彼の衣装作りに対する拘りに感銘を受けているようにも見えた。

ただ資料を見るだけではなく、実際に作品を通してその世界観やキャラクターへの理解を深めて臨むという姿勢は原作に対するリスペクトとも言える。

その在り方は、どこかジュジュ様のコスプレやキャラクターへの拘りに通じるものがあるのだろう。

 

「前回の“ヌル女”も1と2、両方クリアしました」

 

「ね」

 

「え゙ッ」

 

しかし、その為にアダルトゲームをプレイした事を堂々と公言するのには流石のジュジュ様も驚きを隠せなかった。

というか、前に注意したのに新菜はもう忘れてしまったのだろうか?

 

「感動しました。主人公が初めて部室に入った時、部長が――」

 

「新菜」

 

「――あ……」

 

俺が名前を呼べば、以前注意された事を思い出したのか新菜は少しずつ顔を赤くして「……すみません」と縮こまる。

それを見てジュジュ様は怪訝そうな顔を浮かべ、対する海夢ちゃんはにやけ顔だ。たぶん、照れている新菜の事を可愛いと思っているのだろう。

 

「え、えーと……『フラワープリンセス烈‼』は放送終了してるんですよね……どうやったら観られるか調べないと……っ」

 

新菜は誤魔化すように笑いながらスマホで“烈‼”の視聴方法を調べ始める。

実を言うと俺は複数のサブスクリプションに登録していて、それを利用すれば新菜に“烈‼”を観せてやる事も出来るのだが、今回は黙っておく。

何故ならば――

 

「あたしコンプリートボックス持ってるから貸すよ!」

 

「本当ですか⁉ ありがとうございます!」

 

「モチ! マジ面白いから一瞬で観れちゃうよ! 126話しか(・・)ないから‼」

 

「126⁉」

 

海夢ちゃんの家で二人にデートしてもらう必要があるからだ‼

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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