その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第31話『その転生者は休日を過ごす』

乾さんの突然の訪問から始まり、彼女と喜多川さんのコスプレ衣装制作依頼を受けた夜、俺は事のあらましをじいちゃんに説明し、その為に今度の休日喜多川さんの家にお邪魔する事になった旨を説明した。

 

「はっはっはっ、そーかそーか」

 

「うん。結構重いみたいだから、今度喜多川さんの家に取りに行ってくる」

 

「おお。店の事はいいから行っといで」

 

じいちゃんは笑顔で快諾してくれると、眼鏡を掛けて手に持っている物に注視する。

それは俺が面相書きをした雛人形の頭だった。

 

「……」

 

言い訳するつもりはないが、最近は喜多川さんの衣装制作もあって以前と比べると練習する時間があまり取れていない。

まだまだ未熟である自分が練習を減らせばどうなるか。

 

(へ、下手になってるよな……絶対……)

 

じいちゃんの真剣な眼差し、無言で時が過ぎているこの間に緊張してしまう。

頭師の師匠でもあるじいちゃんは俺の努力を知っているし、それを褒めてはくれる。

しかし、駄目なところは駄目だとはっきり言ってくれる人だ。血縁であろうがなかろうが、そこは一人の職人として色眼鏡なく評価する。

 

「……新菜」

 

「ハイっ!」

 

だから、俺は正直じいちゃんからの厳しい評価を覚悟していた。

 

「前より良くなったなぁ」

 

だが、結果は予想とは真逆。

まさかの高評価に俺は思わず聞き返した。

 

「えっ……本当⁉」

 

「おお。前は線が強張ってたもんだが、少し柔らかさが出てきた」

 

「そうかな……自分だと分からないけど……」

 

「だから言ったじゃん。心配ないって」

 

予想外の評価に少し頬が熱くなるのを感じる。

そんな俺の背後に声を掛けてきたのは、台所で洗い物を済ませてきた守優だった。

手にはお盆と三人分の湯飲み。どうやら俺達にお茶を淹れてくれたらしい。

 

「だって、前と比べて練習する時間が減っちゃってからさ……」

 

「新菜がこれまで積み重ねてきたものを考えればそれでも十分だろ。むしろ、人形以外の事に時間を割いたのが良かったんじゃない?」

 

「守優の言う通りかもな」

 

俺達の前に湯飲みを配りながら微笑む守優に、じいちゃんは受け取ったお茶を一口啜ると親友の言葉があながち間違いでないと評した。

 

「海夢ちゃんの衣装作ったのがお前には良かったんじゃないか? 化粧もお前がしたんだろ?」

 

「うん」

 

「面相描きと同じで、慎重に丁寧に……神経集中させるからなぁ」

 

そう言ってじいちゃんが返してくれた雛人形の頭を受け取った俺は、その顔を見つめる。

脳裏に浮かんだのは喜多川さんのメイクをした時の事。

喜多川さんを雫たんにする為に、喜多川さんの夢を叶える為に、筆を走らせた感覚を思い返す。

 

「将来いい人形作りたいんなら、人形だけ見てちゃ駄目だぞ」

 

じいちゃんが柔らかい笑顔をこちらに向けて言う。

その笑顔はまるで祖父として孫の幸せを願う様で、師匠として弟子の成長を喜ぶ様で。

 

「色んな事やって色んなもん見とけよ。いつか必ず、身になるからな」

 

人生を豊かにする為の金言を、俺にくれた。

俺はその言葉を胸に刻み込むように、ゆっくり頷いてみせる。

思わず、人形を持つ手に力が籠った。

 

「ハイっ」

 

そこで話に一区切りつき、それを待っていたかのように守優が「ところでさ」と口を開く。

 

「今度喜多川さんの家に行ってDVD受け取るんだろ?」

 

「うん。結構な重さみたいだから受け取りに――」

 

 

「どうせならついでに喜多川さんの家でちょっと見せてもらってくれば?」

 

 

守優の言葉に体が固まり、理解が追い付かなくなる。

彼は今、何て言ったんだろう?

喜多川さんの家で? ちょっと見てくれば?

それは、つまり、喜多川さんの家に上がって居座る事に……

 

「……へぁ⁉」

 

やっと脳の処理が追い付き、彼がとんでもない提案をしてきた事に声が裏返る。

 

「そ、そんな! 無理だよ‼」

 

「? なんで? 別に友達の家にお邪魔するくらい普通じゃん。俺の家にも何回か来た事あるだろ」

 

首を傾げる守優。それは確かにそうなんだけど!

でも、こんな事を言ったら失礼かもしれないけど、幼馴染で気心の知れた同性の守優の家にお邪魔するのと、最近友達になったばかりの異性の喜多川さんの家にお邪魔するのとでは訳が違う。

 

「それにちょっとでも観ていった方が貸し借りする数が減るし、なにより“烈‼”初心者の新菜が一人で観るより、内容をよく知ってる喜多川さんが一緒に居た方がどこかで疑問を感じた時にすぐ教えてもらえるだろ」

 

これも正論だ。

彼の言う通り、受け渡しをする数が少ない方がお互いにとって良いに決まっている。

そして内容を理解するために喜多川さんの知識を借りて補足するのは有用だ。

わかってる。わかってるんだけど……!

 

(駄目だ、守優が言ってる事が正しすぎて反論が思い浮かばない……!)

 

俺は顔が熱くなるのを感じながら、俺は必死に思考を巡らせること数秒。

俺はハッと思いつき、渾身の反撃を行った。

 

「き、喜多川さんも急にそんな事言われたら困るんじゃないかな⁉ だから今回は予定通り、受け取るだけで――」

 

「そういうと思って、喜多川さんにライムで確認しといた。むしろバッチコイな感じだぞ」

 

そう言いながらスマホの画面を俺に向けてくる。

表示されているのはライムの俺達三人のグループトーク部屋。

 

 

五条新菜、喜多川海夢

今度新菜が“烈‼”のコンプリートボックス借りに行くと思うんだけど、喜多川さんが良かったら家で少し観せてあげてくれないかな?

既読

その方が貸し借りする数も減るし、喜多川さんと一緒に観た方が新菜も“烈‼”の事を理解しやすいと思うし

既読

喜多川海夢

月見里君天才!絶対そっちの方がいいじゃん!

喜多川海夢

ごじょー君、おいでよ♥♥♥

喜多川海夢

一緒に“烈‼”観よ?♥♥♥

 

 

 

(行動力……‼)

 

知らないところで話を進めて逃げ道を塞いだ二人に俺は心の中で唸る事しか出来ない。

そんな俺を見て守優はニヤニヤと、じいちゃんは豪快に笑っていた。

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

俺の作戦で最初から海夢ちゃんの家に居座ってDVD鑑賞させる流れを作った日から数日経った。

約束の当日。俺は今、池袋にいる。

新菜はあの日の夜に海夢ちゃんの家でDVD鑑賞する事は承服したが、最後の最後まで俺に同行をせがんできた。

 

(二人のお家デートを邪魔するわけにはいかんでしょ~)

 

これから何度かお邪魔するし、ゆくゆくはお泊りもする事になるんだから新菜には頑張って慣れてもらわないと。

そういう訳で若いお二人にはお家デートを楽しんでもらってる間に俺は一人の時間を満喫していた。

 

(欲しい物も買ったし、後は適当にブラブラしよっかな~)

 

今回の外出の目的の一つでもあった荷物を一瞥しつつ、スマホで時刻を確認する。

時刻は既に14時過ぎ。早めに昼食を摂った事もあって、ちょっと小腹が空いてきた。

軽くデザートでも食べようか、なんて考えていると背後から声を掛けられる。

 

「あれー、月見里君じゃん。めずらしー」

 

「あ、河西さん。それに大塚さんも」

 

「やっほー、月見里君」

 

振り返るとそこにいたのは1年5組のクラスメイト。

メッシュの入ったセミロングの髪と間延びした口調が特徴的なギャル・河西成蘭ちゃん。そして成蘭ちゃんとよく行動を共にしているウェーブの掛かったブラウンの髪をポニーテールにしている大塚加恋ちゃんだった。

 

「こんなところで会うなんて奇遇だね」

 

「マジそれ。てか、さっきも言ったけど月見里君が一人とかめずらしーじゃん」

 

「そうそう。今日は五条君と一緒じゃないの?」

 

二人が辺りを軽く見渡しながら尋ねる。

確かに俺は学校では新菜と一緒に行動してる事が多いからなぁ。ニコイチみたいに思われてても仕方ないのかも。

そんな事を考えながら、今は一人である事を俺は二人に説明する。

 

「今日は一人だよ。新菜には新菜で用事があるし、俺も俺で一人の時間欲しい時だってあるしさ」

 

「それもそっか。でも学校では二人一緒にいるのをよく見るからなんか新鮮かも」

 

俺の言葉に加恋ちゃんが確かに、と頷きながら笑う。

原作キャラとのまさかの交流に内心テンション爆上がりになりながら、今度は俺が二人に質問した。

 

「ちなみに二人は? 買い物?」

 

「それもあるけど、最近話題の映画観てきたとこー。けっこーおもろかったよ~」

 

「これこれ~」と成蘭ちゃんがパンフレットを取り出して見せてくる。

見るとそれは最近テレビやSNSでも有名な恋愛ものだった。笑いあり涙ありの人気作でネット上でちらほらと評価を見るが、高い評価を得ている印象があるのを思い出す。

 

「へ~。今度俺も観に行ってみようかな」

 

「いいんじゃない? 面白いしオススメだよ」

 

「そーそー、彼女とかと一緒に行けば盛り上がるんじゃね?」

 

「そうなると俺はまず彼女を作らないといけなくなるなぁ」

 

加恋ちゃんと成蘭ちゃんの言葉に俺は笑って返す。

前世と合わせれば四十路近いおっさんだ。

前の人生でもまともな恋愛なんてした事ないし、仮に縁があっても俺みたいな中身おっさんな奴では相手が可哀想だと思う。

 

「意外だね。月見里君モテそうなのに」

 

「実は月見里君の事狙ってる子とか多かったりー?」

 

「お世辞でも嬉しいよ、ありがとね」

 

二人のお褒めの言葉はありがたいが、当の二人から俺の事をそういう目で見ている雰囲気は感じられない。

別にそれが悲しいわけではない。俺からしてみれば原作キャラである二人とこうして語って交友を深められるだけでもありがたいものだ。

しかし、相手がいない話をずっと続けるのもなんだか居心地が悪いので俺は話題を切り替える事にした。

 

「ちょっとそこで休憩しようと思ってたんだけど、二人もどう? 一杯くらい奢るよ」

 

「マジ? やりぃ~」

 

「ちょっと、成蘭……っ」

 

俺がお茶に誘うと成蘭ちゃんはあっさりと乗ってくる。

そのあまりにも軽いノリが加恋ちゃんには不躾に見えたのか成蘭ちゃんを窘めた。

 

「いいよ、大塚さん。ここで会ったのに俺だけっていうのも何だかなーって思っただけだから」

 

「ほらー、月見里君もこう言ってるしー。ここで断る方が逆に失礼じゃん?」

 

「……わかった、お言葉に甘えさせてもらう。なんかごめんね?」

 

人によってはたかるように見られかねない事になってしまった加恋ちゃんが苦笑して謝罪してくる。

それに俺は小さく首を横に振って気にしていない事を示した。俺から誘ったのだから当然である。

むしろ「ありがとねー」と礼を言って奢られてくれる成蘭ちゃんみたいな軽いノリの方が気を遣わなくて楽だったりする。

そんなわけで、俺達三人は目前に店舗を構えているコーヒーが有名なチェーン店へと足を運んだ。

 

「そういえばさー、海夢から聞いたんだけどあの子コスプレしたんだってー?」

 

「私も聞いた。月見里君と五条君が手伝ったって聞いたんだけど、どんな感じだった? 写真とかない?」

 

そこで咲いた話題は海夢ちゃんのコスプレについて。

どうやら当の本人から簡単に話を聞いたようで、それに俺が一枚嚙んでいた事も聞いたらしい。

別に隠す事もないので俺はそれが事実である事を認め、スマホで撮影した写真を見せてあげた。

写真を見た二人は「すごっ⁉」とか「これホントに海夢⁉ 別人じゃん‼」など、新鮮な反応を見せてくれる。

 

(この反応見れただけでも二人に奢った甲斐あるわ~)

 

ヤバいヤバいと繰り返す二人の反応を楽しみながら、俺は呪文みたいなオーダーをしたフラペチーノを味わう。

あー、原作キャラの新鮮な反応が眺めながら飲むフラペチーノうめー。

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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