その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第34話『その転生者達は夢を語る』

ジュジュ様に誘ってもらい、予定通り俺達は新三郷駅から近い廃病院スタジオへとロケハンに来ていた。

梅雨時の為仕方ないが、今日の天気予報は曇りのち雨。空を見上げれば今にも降り出しそうな曇天である。

 

「こういうスタジオもあるんですね」

 

「写真屋さんみたいに一部屋がスタジオになってるとかは想像つくけど、一棟丸々って凄いなぁ」

 

俺と新菜が並んで廃病院を見上げる。

空模様も相まって、スタジオはおどろおどろしい雰囲気を醸し出していた。

 

「あたし廃墟初、みたいな!」

 

「私もです。今日とっても楽しみで……♡」

 

海夢ちゃんと心寿ちゃんは初の廃墟にテンションが上がっている。

海夢ちゃんは言葉の通りだろうが、心寿ちゃんはホラー系が好きなのもあってその喜び様はこの中で一番だ。

本当に楽しみだったのか「昨日中々寝れなくて……」と照れ笑いまでしている。くそ可愛い。流石に気分が高揚します。

 

「……」

 

一方でジュジュ様は苦い顔で廃病院を凝視している。

既に冷や汗をかき、顔色もどこか悪そうだ。

心寿ちゃんとは真逆でジュジュ様はホラー系ダメだもんなぁ。

そんなジュジュ様の様子には気付かず、海夢ちゃんと心寿ちゃんは意気揚々と正面の大扉を開けて中へと入っていく。

 

「うわっ、ヤバ~~っ! よき~~っ!」

 

「わ~~っ、こんな感じなんですね~~っ」

 

廃業し、無人となって久しいと思われるその内部は薄暗く、所々に見える汚れや塗装の剥がれた壁、一部罅割れた床等が更に雰囲気を掻き立てている。

 

「確かに、ブラックリリィがプリンセスデイジーの右ストレートに敗れて逃げ込んだ廃病院にピッタリですね」

 

先日“烈‼”を履修し終えたばかりの新菜が内部を見渡しつつ、ジュジュ様へと話しかける。

確かに彼の言う通りのシーンにピッタリの環境だ。特に階段近くの辺りなんかはまるであの自問自答シーンの空間を実写にしたかのように合致している。

新菜の言葉にジュジュ様も同感なようで小さく頷いて返した。

 

「そうね。暗い展開なんだけど、負けたシオンが自問自答するシーンが好きなのよ……ていうか、あなた本当に全話観たのね……」

 

「勿論です、(新菜は)プロですから」

 

「なんであなたが自慢気に言うのよ……」

 

新菜とは兄弟同然の以下略。

 

「ごじょー君、あたしら上見てくるねー」

 

「はいっ」

 

階段を上りながら海夢ちゃんに呼び掛けられると、新菜が返事をして見送る。

俺が笑顔で手を振ると心寿ちゃんは小さくお辞儀をして海夢ちゃんへと着いていった。可愛い。

本当なら二人に同行して心寿ちゃんの撮影テクニックを生で聞きたいところではあるんだけど……

 

「雰囲気ありますね……どうかしました?」

 

「べっ、別に……」

 

今回はこっちのサポートの方が重要だからなぁ。

一階部分の下見をする為に奥へと進もうとする新菜に対して、ジュジュ様は入り口から一歩も進んでいない。

加えて呼び掛けに対して素っ気ない返答もどこか震えており、その両手は不安を押し殺すように強く握られている。

その様子を見れば誰にでも察しが付く。

 

「乾さんもしかして、こういう場所(・・・・・・)苦手なんですか?」

 

「…………そんなわけないでしょ……何言ってんのよ……」

 

(苦手なんだ……)

 

案の定、新菜にもあっさりとバレている。

 

「……~~っ、ホラ……! い、行くわよ!」

 

彼の表情になんとなく察知されているのを感じたのだろう、ジュジュ様は誤魔化すように速足で奥へと進もうとする。

俺はそれに待ったをかけ、背負っていた鞄を下して中を漁ってジュジュ様へと手渡した。

 

「ちょっと待ってください。これをどうぞ」

 

「……懐中電灯……?」

 

俺が用意していたのは、彼女の言う通りの懐中電灯。

少しでも彼女が負担なくロケハンを行えるようにと家から持ってきた物だ。

 

「なんで、こんなもの……」

 

「廃病院スタジオと聞いていたので、薄暗い場所だと必要になるかなと……良かったら使ってください」

 

俺がそう言うとジュジュ様はポカンとした様子で懐中電灯を見つめるが、すぐに慌ててそれを突き返してきた。

 

「い、いい、いいわよっ! こんなものがなくたって私は――!」

 

もし仮に(・・・・)、狭い所や暗い所が苦手だったとして……それは恥ずかしいものでもないし、俺達がそれを嗤う事なんて絶対にありません」

 

「……!」

 

わざとジュジュ様の言葉を遮るように言えば、彼女は勢いに押されて口を閉ざす。

ジュジュ様が心寿ちゃんの事を想って弱いところを見せないようにしているのは知っているし、その気持ちも分かる。

俺達の中で一番年上なのだからしっかりしないといけない、という考えも理解できる(一旦、俺の実年齢は無視するものとする)。

しかし、心寿ちゃんの前で隠すならともかく、そうでない今やせ我慢をする必要はないはずだ。

暗所や閉所を怖がる人は世界に沢山いる。勿論、その中には大の大人だって大勢含まれるだろう。彼女の恐怖は、決して恥ずべきものではない。

 

「ジュジュさん、本当に必要ないなら必要ないでいいんです。でも、使えるものは使うべきだと、俺は思います」

 

「……」

 

俺の言葉に、ジュジュ様は懐中電灯を静かに見つめる。

俺とジュジュ様、そして事の成り行きを見守っている新菜。三人が押し黙り、静かな時間が過ぎていった。

十秒が過ぎた頃、ジュジュ様は大きな溜息を吐いた後に困ったような笑みを浮かべる。

 

「はぁ……わかったわ。せっかくだし使わせてもらうわね」

 

「はい」

 

どうやら俺の提案を受け入れてくれたらしい。

俺、そして隣で見守っていた新菜が笑顔を浮かべると、ジュジュ様は顔を赤くしながら声を荒げた。

 

「かっ、勘違いしないでよね⁉ 私は別に怖がってるわけじゃなくて、あなたの好意を無下にしちゃ駄目だと思っただけなんだから……!」

 

「はい、分かってます」

 

テンプレみたいなツンデレ台詞に頬が緩みそうになるが必死に抑える。

ジュジュ様は「分かってるならいいのよっ」と俺達に背を向け、懐中電灯で暗がりを照らしながら病院の奥へと進み始めた。

俺と新菜は無言で目配せをしてまた笑みを浮かべながら、小さな先輩の後を追った。

それから約数十分。懐中電灯の明かりのお陰が、ジュジュ様は原作よりもスムーズにスタジオの下見を進める事が出来ている。

しかし、原作よりマシという程度で全く問題がないというわけではなかった。

 

「予報通り降ってきましたねー……乾さん、大丈夫ですか?」

 

「……ええ、大丈夫よ……ちょっと疲れただけ……」

 

なんとか一階を全て見終わった俺達は現在、二階へと続く階段の踊り場で休憩をとっていた。

原作では新菜の言葉に強がっていたが、先程のやり取りのお陰か少し態度が軟化しており、無理に取り繕う様子はない。

 

「入り口で待ってますか?」

 

「っ、駄目よ……っ! ブラックリリィのコスが出来るんだもの……っ、ちゃんと中を確認しておかないと……いい写真が撮れないでしょ……」

 

新菜の提案をジュジュ様は跳ねのける。

傍から見ても疲労の色が窺えるにも関わらず、ロケハンを続行しようとする強い意志を垣間見た新菜は、その理由をジュジュ様に尋ねた。

 

「……乾さん、どうしてそこまで拘るんですか? 何か理由があるんですか?」

 

新菜の質問にジュジュ様は視線を彷徨わせ、小さく口を開閉させる。

まるで今から口にする事は本当に語ってよいのか、相手はそれに値するのかを測っているような様子だ。

そして意を決した様子で、ジュジュ様は俺と新菜の方を見つめた。

 

「…………あなた達、将来の夢ってある?」

 

「はい。俺は雛人形の頭師、人形の顔を作る職人になる事です」

 

「素敵な夢だわ。絶対に叶えなさい」

 

ジュジュ様の突然の問いに、新菜は一切の淀みなく自身の夢を口にする。

その真っ直ぐな瞳と言葉を受け、ジュジュ様はとても優しい声色でその夢を応援しつつ続けた。

 

「私は――魔法少女になりたかったの」

 

ジュジュ様は天井を見上げながら呟く。

 

「強くて、キラキラして、かっこよくて、フリフリの可愛い服を着てて……子供の頃魔法少女に憧れて夢中で『大きくなったら魔法少女になる』って本気だったわ」

 

自身の夢を語るジュジュ様の声色は少しずつ弾み、その夢を抱くに至った思い出が今も色褪せていない事を教えてくれる。

同時にその声色は現実を受け入れた自嘲めいたものを感じさせた。

 

「けど、小学生にもなれば分かるじゃない。あれは全部作り物の世界で、魔法少女みたいに努力しても願っても『私の夢は一生叶わないんだ』って……」

 

そう、あれはアニメで架空の世界。俺のような存在は例外中の例外。

本来なら決して飛び込む事も交わる事もない、作り物の世界なのだ。

 

「でも中学生の時、衣装が売ってる事を知ってすぐに買って着たの。知識がないからウィッグをセットする事も知らなかったし、メイクもしてないし、衣装のサイズは合ってなくてブカブカだし、初めてのコスは酷いものだったけど……それでも、ただ本当に嬉しかった」

 

しかし、ジュジュ様はその創作の世界へ思いを馳せる事を止めなかった。

 

「無理をしてでも、全部作り物でも、私は私の夢を叶えたいのよ」

 

彼女は彼女なりに現実と向き合いながら、自分の夢を諦めずに努力を重ねているのだ。

その在り方はどこか儚く、しかし気高い美しさを感じさせる。

この世界に生きる人達はどこまでも自分の『好き』に真っ直ぐで真摯で、そして輝いている。

 

「乾さん……俺、今回の衣装制作頑張ります! 乾さんの夢を叶えるお手伝いが出来るように……!」

 

ジュジュ様の『好き』の根源に触れた新菜が力強く宣言する。

それを受けてジュジュ様は小さく微笑みながら頷いた。

 

「ええ。期待してるわ、五条新菜。素敵なブラックリリィの衣装を作ってちょうだい」

 

「はいっ」

 

「ふふっ……ねぇ、月見里守優。あなたの夢は何なの? よかったら聞かせてちょうだい」

 

新菜の熱意に思わず笑いながら、ジュジュ様が見上げる様に俺の顔を見つめる。

 

「俺の、夢は……」

 

正直、二人の会話を聞きながら考えていた。

俺の夢は、本当に夢と呼べるものなのだろうか、と。

新菜と海夢ちゃん。二人は俺にとって大切な存在で、二人が結ばれて幸せになるのを見届けたい。そう思って俺はこれまで過ごしてきた。

それに二人だけじゃなく、他の皆にも幸せになってもらいたい。その人生を見守りたいと俺は願っている。

でもこの思いは、この夢は……他の皆と比べれば小さくて、不純なものだ。

 

(とても、胸を張って語れるようなものじゃ……)

 

「月見里守優」

 

言葉に詰まっている俺の名前をジュジュ様が呼ぶ。

俺は無意識に逸らしていた目線を再びジュジュ様へと向けた。

俺が自分の方を向いたのを確認したジュジュ様は静かに、優しく語り掛けてくる。

 

もし仮に(・・・・)、あなたが自分の夢に負い目を感じていたとして…それは恥ずかしいものでもないし、私達がそれを嗤う事なんて絶対にありえないわ」

 

だから胸を張って自分の夢を語ればいい。

そう言われたような気がした。

 

 

「俺の夢は……大切な人達の幸せな未来を、見届ける事です……」

 

 

俺は正直に自身の夢を伝える。

新菜やジュジュ様、この場にいない海夢ちゃんや心寿ちゃんと比べて、あまりにも曖昧なそれを聞いたジュジュ様は先程言った言葉の通り、俺を嘲笑する事なく穏やかな目をしていた。

 

「そう……あなたの夢は、誰かの幸せを願うものなのね。とても素敵よ、応援するわ」

 

その言葉に、少し救われた気がした。

そんな風に言ってもらえるとは思わなくて、俺は呆然としたまま礼を言う事しかできない。

 

「ありがとう、ございます……」

 

「お礼を言われるような事はしてないわ。さてと、そろそろ休憩は終わり。心寿達と合流しましょう?」

 

話しているうちに回復したジュジュ様が立ち上がり、電灯を手に階段をゆっくりと上がっている。

俺がその後姿を目で追っていると、優しく肩を叩かれる。

振り向くと、新菜が嬉しそうに朗らかな笑みを浮かべていた。

その笑顔を向けられるのが何だか気恥ずかしくて、俺は視線を泳がせる。

 

「な、なんだよ……」

 

「ううん、なんでもない。でもなんだか嬉しくてっ」

 

そう言って笑みを深める新菜。

こんな風に本音を語る事なんてなかったし、それを新菜に聞かれたという事実に思わず顔に熱が集まるのを感じた。

 

「~~ッ、俺の事はいいから……っ! ほら、ジュジュさんが待ってるから早く――」

 

「あなた達」

 

とりあえずその場を移動して話題を切り替えようと考えていると、頭上からジュジュ様が俺達に話しかけてくる。

何故か階段を上る足を止めて俺達を見詰めるジュジュ様にいったいどうしたのだろうかと、俺と新菜は揃って視線を送った。

 

「ジュジュさん、どうかしましたか?」

 

俺が尋ねても返答はなく、ただジッ……と俺達を見続けるジュジュ様。

静かに視線を向けられて俺も新菜も少し居心地の悪さを感じた頃、ジュジュ様はようやく口を開いた。

 

 

「……もしかしてあなた達が付き合ってたりするの?」

 

「「付き合ってません」」

 

 

俺達は揃って無表情でキッパリと言い切った。

さっきまでちょっと感動的な雰囲気だったのに!

なんかもう色々と台無しだよ!

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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