そして少し更新が遅くなってしまいました、申し訳ありません!
区切りを良くする為に今回は少しだけ長めです、よろしくお願いします。
期末テストも終わり、本格的に衣装制作に取り組む事となった新菜の為、俺達は再び池袋へと訪れていた。
ちなみに海夢ちゃんは別行動。今は俺と新菜だけだ。
「うーん……」
黒系統の布が集まっている一角で新菜が唸る。
雫たんコスを作った時の反省点を活かし、見た目以外にも注意して生地を選んでいるのだろう。
しかし、新菜は技術はともかくそれ以外の面はまだまだ初心者。色や質感ならまだしも、それ以外にも考慮しながらの選別は彼にはまだ少しハードルが高い。
「やっぱり店員さんに相談した方がいいんじゃない?」
今回は海夢ちゃんとジュジュ様の二人分を作るのだ、下手な生地を選んで失敗する事は出来ない。
新菜もそれは分かっているし、今の自分では色んな面を考慮した生地選びは難しい事を再確認したのか苦笑しながらそれに同意した。
「そうだね、そうしようか――すみません」
「はい」
新菜が呼び止めたのは初老の男性店員。今後新菜に様々なアドバイスをくれる宇佐見さんだ。
「お聞きしてもいいでしょうか」
「はい、なんでしょう」
宇佐見さんは呼ばれるがままに新菜へと近付き、人好きの良い笑顔で対応してくれる。
新菜は鞄から三面図を取り出し、宇佐美さんへと見せながら尋ねた。
「この衣装を作りたいんですが、どの生地にすればいいでしょうか。重々しい印象にしつつ、出来れば通気性も良くしたくて……」
「‼」
あ、宇佐見さんの笑顔が固まった。
「……ッ、これを……君が……⁉」
宇佐見さんが困惑している。新菜がブラックリリィのコスプレをするんだと勘違いしてるんだろうなぁ。
……なんか、俺の方もチラチラ見てない?
俺は着ませんよー。ちなみに新菜も着ませんよー。
俺が心の中で否定する横で、新菜は真っ直ぐ宇佐見さんを見ながら頷く。
「はい、そうです」
(即答した……‼)
その躊躇いの無さに宇佐見さんの動揺が更に濃くなるが、そこで何かに気付いたのかハッとした顔になる。
恐らく内心で反省しながら自分の着たい服を自由に着るべきだと考えているのだろう。
凝り固まった考えを持たずに、人それぞれの好みを受け入れて力になろうとする宇佐見さんの考え方っていいよね。俺も見習いたいところだ。
でも、勘違いさせたままも申し訳ないので、それとなく修正させてもらおう。
「先日彼が作った衣装を友人に着てもらったんですけど、腕周りの動かしにくさや通気性の悪さが目立ってしまって……」
「え……?」
「そうなんです。なので、その反省点を活かして生地を選ぼうと思ったのですが、どれにすればいいか分からず……」
俺の、そしてそれに続いた新菜の発言に宇佐見さんがポカンとした顔を浮かべる。
そこで漸く自分が勘違いをしていた事に気付いたようで「ご友人の衣装でしたか、大変失礼いたしました……!」と頭を下げた。
「えっ? だ、大丈夫ですよっ。頭を上げてください」
「本当に申し訳ございません……」
困惑する新菜に言われて、宇佐見さんはもう一度謝罪をしてから頭を上げる。
勘違いが修正されたところで、俺達はもう一度要望を伝えると、宇佐見さんは「こちらへどうぞ」と別のコーナーへと案内してくれた。
「ベルベットはいかがですか? 素材の特徴は起毛していて優雅さがある事です。こちらは厚いものと薄いもの、それからストレッチの利いたものもあります」
「へぇ~」
宇佐見さんが紹介してくれた生地に触れてみる。
同じ素材なのに用途に分かれて作られた生地に衣装作りの奥深さを感じた。
当然だし今更ではあるが、やっぱり雛人形の衣装とは訳が違うんだなぁ。
「それにすれば動きやすくなりますか?」
「ええ。側面や関節部分で使い分けるといいと思います。涼しくするには裏地をメッシュにしたり、色々方法はありますよ」
「なるほど……」
新菜が生地を見つめながら宇佐見さんの説明を傾聴する。
俺も横で聞きながら他の生地を眺めていると、これまでの物とは雰囲気の違う生地が目に止まった。
「これ、凄く奇麗ですね。触ってみてもいいですか?」
「是非。こちらの生地はエンボス加工と言いまして、生地に圧をかけることで立体的に模様を浮き上がらせ、彫刻のような高級感があるのが特徴です」
宇佐見さんの解説を聞きながら生地に触れる。
手触りも良さも相まって、確かに高級感を感じさせる生地だ。
原作で使われているのは知っているが、衣装のイメージにもピッタリだろう。
「新菜、これいいんじゃない?」
「そうだね、俺もそう思う。この二つをお願いします」
「かしこまりました。カットしてきますので、少々お待ちください。それと……」
新菜が購入を決めた生地を裁断するべく、宇佐見さんはロール状の生地を持ち上げながら新菜が手に持つ三面図を見やる。
「差し出がましいかもしれませんが、その衣装ウエスト部分を少し高くすると脚が長く見えてシルエットが奇麗になりますよ」
優しく微笑みながら新菜にアドバイスをくれる宇佐見さん。
確かこの人は若い時に服飾関係の仕事を目指そうとしてたんだっけ?
だからこそなのか的確なアドバイスをくれる宇佐見さんに新菜も笑顔で礼を返す。
「勉強になります‼ どうもありがとうございます‼」
「俺からも、ありがとうございます」
「いえいえ、そんな……また何かあったらいつでもいらしてください」
「「ハイっ」」
俺と新菜が図らずも返事が被り、思わず顔を見合って笑い合う。
そんな俺達を見て宇佐見さんは笑みを深めると「では、カットしてきますね」とその場を後にした。
「親切な人だったね」
「だな。しかも結構色々知ってそうだし、これからもお世話になるかも……ん?」
宇佐見さんの接客の良さを話しているとレジカウンターの近くに設けられた雑誌コーナーが目に留まる。
理由はそこに立てられた雑誌の表紙になる『コスプレメイク』の文字。
「コスプレメイクブック……『なりたい顔に思いのまま』か……」
思わず座り込んで本を手に取る。
「こんな本も置いてるんだね。やっぱり衣装作りで生地を買いに来る人とか多いのかな?」
背後から新菜が覗き込んできながら、この本が置かれている理由を考察する。
恐らく彼の言う通り、コス衣装を作る為にこの店を利用する人が多いのだろう。俺達だってその一人な訳だし。
そんな事を考えながら俺は本を手にしたまま立ち上がる。
「守優、その本買うの?」
「ああ、中身ちょっと興味あるし。それに、この本は新菜が喜多川さんのメイクする時にもなんか役に立ちそうじゃない?」
「確かにそうだけど……じゃあ、俺も半分出すよ」
「いいって。俺が買いたいから買うんだから」
俺が購入の意思を見せ、その理由を伝えると新菜が財布を取り出そうとする。
俺はそれを片手て制止し、購入はあくまでも自分の為である事を伝えた。
それを受けて新菜は「分かった……」と引き下がり、そこに丁度彼のスマホに着信が届く。どうやら相手は海夢ちゃんのようだ。
『もしもし、ごじょー君? あたしの買い物終わったんだけどー』
「俺達も後は会計だけです」
『オッケー。じゃー、イケフクロウんとこいるねー』
端的にやり取りを終えると丁度良いタイミングで宇佐見さんがカットした生地を持って戻ってきた。
俺達はそれぞれ会計を終え、宇佐見さんに改めてお礼を言った後にイケフクロウへ移動。海夢ちゃんと合流し三人で新菜の家へと帰った。
「「お邪魔しまーす」」
俺と海夢ちゃんが揃って挨拶をして、三人で階段を上り新菜の部屋へと向かう。
「今日の買い物で買い出しはバッチリ?」
「はい。それと、注文していたトルソーも今日届きます」
「マジ~? めっちゃ楽しみ~!」
「何時頃届くんだっけ?」
「大体あと一時間位じゃないかな」
本日届く予定であるトルソーについて会話が弾む。
こういう何気ない会話でも推しとしてると本当に楽しいよね。
「あ、そーだ。ごじょー君、これどう?」
推しとの日常会話に内心ニヤけていると、突然海夢ちゃんがスカートを捲って新菜へと見せつけた。
「⁉ ⁉ ア」
俺が油断していたせいで未然に防ぐ事が出来ず、えちえちすぎるラインのハイレグが新菜の脳を焼いた。
新菜がどこから出しているのか謎な奇声を上げ、それに海夢ちゃんが驚きスカートから手を放す。
「えっ、何⁉ 超叫ぶじゃん……‼ ビビるんだけど‼」
「どう考えたって今のは喜多川さんが悪い」
「なんで⁉」
分からんのか、このたわけが。
ピュアッピュアな新菜が突然そんなエッチなの見せられて平気な訳がないでしょうに。
「きゅっ、きゅきゅ急に、ししししっ、下着……っ‼」
「水着だって! さっきそのまま履いてきたの!」
「パンツじゃないから恥ずかしくないもん、ってやつだね」
「そうそう!」
おそらく元ネタがある事には気付いていないだろうが、海夢ちゃんが言葉のままに受け取り笑顔で頷く。
そんな俺達のやり取りを見て、新菜は顔を赤らめたまま「えぇ……?」と理解できないという感情をありありと見せていた。
「てゆーか、昨日衣装の相談してたじゃん? 写真送ったのに既読スルーしたでしょ! なんだったのアレ、ヒドくない⁉」
「月見里君はちゃんと反応くれたのに!」と、新菜の反応を他所に海夢ちゃんが頬を膨れさせながら彼を睨む。
そう、昨晩ブラックロベリアの衣装について新菜が海夢ちゃんに相談をしたのだが、海夢ちゃんが水着姿の自撮りをグループライムに貼ったにも関わらず新菜は一言も返していないのだ。
俺は『水着似合ってるね』『でも確かに衣装には合わないかも』など、簡単に返信している。
「そ、それは……」
(写真を見たら色々あったからですね、分かります)
新菜が顔を赤くしたまま海夢ちゃんから視線を逸らした。
まぁ、新菜だってお年頃だもんなぁ。好きな人のあんな写真見ちゃったら……ねぇ?
海夢ちゃんは新菜からの返答がない事に「まぁ、それはもういいんだけど~」と話題を切り替え、再びスカートを捲って水着を見せてくる。
「ハイレグってゆーの? 全然なくてさー。やっとインポートのやつ見つけたんだよねー。どう? 良くない? 脚めっちゃ長く見え――」
「喜多川さん、とりあえずスカートを下しなさい」
「え……? や、月見里君……?」
「下ろしなさい」
「……ハイ」
楽しそうに語っているところに悪いけど、そろそろ一回注意しておかねばと思い俺はマジトーンで海夢ちゃんに捲ったスカートを下すように指示する。
海夢ちゃんは最初は戸惑っていたが、俺の声色からふざけている場合ではないのを察してくれたようで若干気まずそうにスカートを下した。
「新菜は一旦この後の作業に使う机かなんか取りに行ってくれる?」
「わ、わかった……」
俺の指示を受けて新菜も気まずそうに部屋を出る。
ちょっと前屈みだった事には触れないでおいてあげよう。
とにかく、これで海夢ちゃんと二人きりだ。俺が先に座り、それに倣って海夢ちゃんも腰を下ろした。
「あのね、喜多川さん。前から思ってたけど喜多川さんはちょっと異性に対して無防備過ぎます」
「そ、そうかな? あたしの中では『友達だから別にいーじゃん?』位のノリなんだけど……」
「それでも、急に脱ごうとしたりスカート捲ったりはやりすぎです」
「うぅ……ハイ……」
俺の説教に海夢ちゃんはちょっとションボリしたような顔で小さく頷く。
これで少しはマシになるといいんだけどね。
「これからはもうちょっと危機感持って、新菜の前でだけやりなさい」
「あ、ごじょー君にだったらいいんだ」
俺の言葉が予想外だったのか海夢ちゃんがちょっとビックリしてる。
好きな人にアピールするのはいいでしょ。セーフセーフ。
それに海夢ちゃんのスキンシップにドギマギする新菜見たいし。
「たぶん昨日の写真に既読スルーしたのも海夢ちゃんの自撮りにドキドキしちゃったんだと思うよ。あとさっきの水着も」
「マジ⁉」
マジです。
原作だと新菜が余裕なさ過ぎたせいで勘違いしちゃったけど、これくらい教えるのは大丈夫だろう。
「でも、新菜ってビックリするぐらいピュアだからあんまり攻め過ぎると逆効果だから気を付けてね」
「りょっ‼」
さっきまで俺に説教されてしょぼくれていたのが嘘のような元気さで海夢ちゃんが敬礼する。
そこにタイミングよく新菜が戻ってきた。脇にはアイロン台を抱えている。
「すみません、丁度いい机が用意出来なかったので、アイロン台でいいですか?」
「…………」
折り畳み式のアイロン台を広げながら新菜が尋ねるが、海夢ちゃんはそれに返事をする事なくニマニマと笑みを浮かべて彼を見つめる。
「あ、あの……喜多川さん? どうかしましたか……?」
「ううん、なんでもないよ!」
「そ、そうですか……?」
海夢ちゃんの反応に新菜は少し戸惑うが、海夢ちゃんがにやけ顔のまま返事をするとそれ以上は追及しなかった。
というか、海夢ちゃん喜び過ぎじゃない?
そんなに新菜に意識されているのが嬉しかったのか。
いや、好きな人に異性として意識されてるって分かったらそりゃ嬉しいよな。とりあえずニマニマしてる海夢ちゃん可愛い。
数分経って漸く海夢ちゃんの表情が元に戻ったところで、ブラックロベリアのフラワージュエル作りが始まる。
俺はその間、コスプレメイクの本を読みながら二人の様子を静観していた。
(推しカプの初めての共同作業……尊い……)
新菜が教え、海夢ちゃんがアクリルパーツにマニキュアやトップコートを塗っていく。
たった一つ、それもフラワージュエルは小さいので二人の共同作業はすぐに終わってしまった。残念である。
「ふーっ、ふーっ……マジ関係ない話なんだけど、たまに冷たい麺とか冷ましてる時ない?」
「あります」
「気付いた時、うわ恥ず! みたいな」
あるあるなシーンについて笑いながら語る海夢ちゃんに新菜が頷く。
そうこうしている内にトップコートも固まったようで、海夢ちゃんが完成したフラワージュエルを手に取って明かりに翳す様に見上げた。
「ガチでいい感じじゃ~んっ‼ 激エモ~っ♡」
「俺にも見せてよ……おお、ラメ入りだからキラキラしてる。奇麗だね~」
「でしょ~⁉」
俺が共感すると海夢ちゃんが嬉しそうに顔を綻ばせる。
原作では新菜が早口オタクになってたけど、闇堕ちしたとはいえ元魔法少女なんだからフラワージュエルが黒く染まっても輝きを失ってないっていうのはマジで解釈一致。
この発想に至った新菜が、“烈‼”を履修してまだ数日というのが驚きだ。
「嬉しそうですね」
「当たり前なんだけど~。やっぱさ~、自分も役に立ってる感って嬉しいじゃん!」
続けて「ゆーてちょっと塗っただけでドヤるとかクソザコだけど」と自虐的に笑う海夢ちゃんの言葉に、新菜が小さく微笑む。
その表情は以前自分が感じた『誰かの役に立てた嬉しさ』という思いを海夢ちゃんと共有出来た事を喜んでいるようにも見えた。
「マジキレー……♡ 俄然コス楽しみになってきた~♡ ちょっとあてがってみよっかな~♡」
海夢ちゃんが突然ネクタイを解きだす。
この子、まるで成長していない……!
嘘でしょ、さっき説教したばっかりなんだけど?
「ちょっ、喜多川さ――‼」
「喜多川さん正座」
守優は激怒した。
必ず、この有頂天な推しに再度説教をしなければならぬと決意した。
「…………あ」
慌てる新菜の言葉を遮るように俺が指示をすると、笑顔で胸元を緩めようとする海夢ちゃんが固まる。
その笑顔は徐々に蒼ざめ、若干冷や汗を流しているようにも見えるが、今の俺には関係ない。
「……あー、ね……月見里君、あたし今日は見せブラだから……見られても平気~、みたいな……」
「喜多川さん正座」
守優には見せブラが分からぬ。
守優は、三十路前に転生したおじさんである。
そんなおじさんに見せブラがどうこう言われても分からないし、さっき言ったばっかりなのに軽率に脱ごうとした海夢ちゃんはギルティなのでお説教です。
「……ご、ごじょー君……」
「あー、えっと……」
俺が言い訳を聞くつもりがない事を察すると、海夢ちゃんが俺の背後にいる新菜へと助けを求め始めた。
新菜はどちらの味方をするべきか迷っているようで、困ったように声を漏らしている。
ピンポーン
「五条さん、お届け物でーす」
インターホンのチャイムと宅配業者の声が聞こえる。
どうやら予定通りトルソーが届いたようだ。
「……お、俺……荷物受け取ってきますね……っ」
これ幸いとばかりに新菜がそそくさと部屋を出ていく。
触らぬ神に祟りなし。新菜は賢い選択をしたようだ。
「ご、ごじょーくーん!」
見捨てられた海夢ちゃんの声が木霊する。
しかし、その悲痛な声は聞こえないフリをされてしまった。残当。
とりあえず、この後滅茶苦茶お説教した。
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原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について
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内容的に違和感がなければ登場してほしい
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登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
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執筆者の自由にしたらいい
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原作準拠であまり出さないでほしい