その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第37話『その神レイヤー達は試着をする』

「はあぁ~~っ♡♡ ぐうかわ……♡♡♡」

 

「乾さん、どうですか?」

 

お説教事件から約三週間が経過。

(つつが)なく作業を進め、余裕を持って衣装を完成させた新菜の家に心寿ちゃんを除く一同が集まり試着をする運びとなった。

先に試着を終えた海夢ちゃんが目を輝かせ、新菜は実際に着てみて問題がないかを確認する。

 

「……凄いわ。サイズもぴったりよ……素敵……」

 

二人が見つめているのはブラックリリィの衣装に身を包んだジュジュ様。

ジュジュ様は目を輝かせ、幸せそうに笑みを零す。

今日はウィッグや化粧まではしておらず、現段階ではブラックリリィの衣装を着たジュジュ様なのだが、それでも全く違和感がない。

ジュジュ様が可愛すぎて、こういうキャラクターとして実在してそうなレベルだ。

 

「動きにくくないですか?」

 

「ええ、大丈夫」

 

宇佐見さんに生地のアドバイスをもらい関節部分で使い分けをしたお陰で、雫たんコスの時にあった問題も解決されているようだ。

 

「尊~い♡♡」

 

「分かる……」

 

顔がニヤケ過ぎて溶けそうな海夢ちゃんの横で俺も静かにジュジュ様の姿を脳内に焼き付ける。

俺達がジュジュ様の可愛さに尊みを感じているのを他所に、新菜は衣装の調整が必要か確認を続けていく。

 

「気になる箇所があればなんでも仰ってください」

 

「そうね……スカートがもう少し広がっていてもいいかしら」

 

「確かにそうですね」

 

ジュジュ様の言葉に新菜は己が描いた三面図のブラックリリィのイラストとジュジュ様を見比べながら頷く。

 

「ワイヤーを入れてみますか?」

 

「下に硬めのチュチュを履けばいいと思うわ。私持ってるから」

 

「分かりました。マントも羽織ります?」

 

「ええ」

 

衣装の手直しが不要である事を理解した安心した様子で壁際に立てたトルソー、そしてそれに掛けている衣装へと視線を移す。

海夢ちゃんが横で「見た~いっ!」と声を上げる隣でジュジュ様が頷き、促されるままにマントを手に取り身に纏った。

 

「! エンボス加工の生地を裏地に使ったのね……奇麗だわ……!」

 

マントを羽織ったジュジュ様がすぐに裏地に気付く。

実際の“烈‼”ではエンボス加工のような模様はなかったが、全くイメージを損なう事なく高級感を出していた。

制作者の新菜も、衣装を着る側のジュジュ様もその仕上がりに満足そうだが、その一方でマントを羽織っての撮影についての懸念点について語り合う。

 

「ただ、この生地厚さがあってポーズを取る時に動きが出にくいかもしれません」

 

「大丈夫よ。動きながら連射で撮れば靡いているように見せられるし、重みがある生地の方が見栄えが良くていいわ」

 

「……」

 

そんな二人のやり取りを海夢ちゃんが静かに興奮しながら見つめている。

恐らく二人の知的な会話を真似したいと思っているのだろう。

 

「喜多川さんはどうですか?」

 

「うッ、うん‼」

 

ジュジュ様の衣装に問題がない事を確認した新菜は、次に海夢ちゃんに着心地を尋ねた。

唐突に尋ねられて海夢ちゃんは肩を跳ねさせ、「んっと、んーっと」となんとか言葉をひねり出そうと思考を巡らせる。

 

「ここがキュッてなってて……ヤバい!」

 

しかし、コスプレ初心者の彼女にはまだまだ知らない事が多すぎる。

 

「肩のヤツもなんか良くてー……鬼ヤバいし!」

 

しかも海夢ちゃんはどちらかというと感覚派。

 

「こことか可愛すぎてヤバすぎ! ガチのマジでヤバい!」

 

結果的に、海夢ちゃんの衣装はヤバくて問題なさそうという事しか分からなかった。

この語彙力が低い感じも海夢ちゃんらしくて可愛いと思う。

 

「無理しなくていいのよ」

 

「ありがとうございます」

 

「喜多川さん頑張ったね」

 

「~~……ッ」

 

ジュジュ様に新菜、そして俺と三人からフォローされて海夢ちゃんは顔を真っ赤にして押し黙ってしまった。

そんな海夢ちゃんの様子を微笑ましそうに見つめながら、新菜が海夢ちゃんの化粧ポーチを取り出す。

 

「喜多川さんはウィッグと化粧もして合わせてみたいので髪を纏めましょう」

 

「お、オッケー……!」

 

新菜に言われて、海夢ちゃんは少し恥ずかしそうにしながら上着を脱ぐ。

俺がそれを受け取ってトルソーに掛け、新菜が準備を進める。

その傍らで海夢ちゃんは下地とファンデーションを塗っていると、ジュジュ様が海夢ちゃんのポーチの中身を眺めながら言った。

 

「喜多川海夢、あなたファンデーションはこの色しかないの?」

 

「? そうです」

 

「髪の色が明るいキャラの時は普段よりワントーン明るい方がウィッグと馴染むわよ。あとはコントロールカラーで調整しなさい」

 

唐突に始まるジュジュ様のメイク講座。

大人気コスプレイヤー直々の講座なんて、この界隈の人にとってはお金を出してお願いしたいレベルだろう。

とりあえずメモっておこうと俺はスマホのメモ機能を使って今の講座の内容を記録した。

 

「ブラックロベリアならブルーがいいかもね。敵だし。ないなら当日貸すわよ」

 

「いーんですか⁉ めっちゃ嬉し~‼ ありがとうございます‼」

 

講座だけでなく当日メイク道具まで貸し出す事を決めたジュジュ様に海夢ちゃんが笑顔で礼を言う。

二人のやり取りを新菜が優しい笑顔で眺めつつ、あっという間に準備を終えてしまう。

ネットと髪の毛を纏めたところで、新菜は次にリフトアップテープを取り出した。

 

「何ソレ‼」

 

「リフトアップテープです。乾さんに教わってこの前買いました。ブラックロベリアの切れ長の目はつけまつ毛だけでは表現できないと思いまして……あと、興味があったので……」

 

「マジで凄いよ。これ使うだけで本当に変わるから」

 

「マジ⁉ いーじゃんっ! 使おーよ!」

 

新菜の言葉に俺が続くと海夢ちゃんも興味をそそられたようで、ノリノリで使用に応じる。

そうしてジュジュ様監修の下、テープによる補正が行われ始めた。

 

「目尻から斜め上に少しずつ……こうでしょうか?」

 

「そうね。貼ったらネットとテープをヘアピンで止めるのよ」

 

「わかりました」

 

実は先日練習もかねてちょっと使ってみた事もあり、新菜の手つきは慎重ながらもどこかスムーズだ。

彼の手際にジュジュ様も小さく頷き、問題がない事を確認する。

一方海夢ちゃんは、皮膚を引っ張られる感覚に慣れない様子だった。

 

「なんか変な感じ」

 

「引っ張られて目の形が変わるから違和感凄いよね。この前新菜の練習に付き合ったんだけど、俺も変な感じだった」

 

「だよね~」

 

テープ使用の経験がない者同士、初めて特有の違和感を共有して笑い合う。

その間にテーピングは終了。目元の化粧へと作業が移行する。

新菜の淀みない手つきで海夢ちゃんの顔がどんどん別人へと変わっていく。

まるで一つの芸術作品が作り上げられていくような時間。この静かな時間が俺は好きだ。

 

「今日は眉毛は? 剃る?」

 

首をかしげながら海夢ちゃんが確認する。

ちょっと首を傾ける動作かわよ。好きです。

 

「平行眉を生かせるので大丈夫です」

 

「りょ」

 

「あなた、前回全部剃ったの?」

 

「前回はテーピングで形を変えるなんて知らなかったので、困り眉を作る為に全剃りしてました。豪快ですよね」

 

「そう……思いきりがいいのね……」

 

俺の補足説明にジュジュ様が少し引いている。

同じ女性でありながら躊躇いなく眉毛を全剃りする海夢ちゃんに少し圧倒されたようだ。

俺とジュジュ様が語っている間に、新菜が海夢ちゃんの眉を整える。

 

「フー……終わりました……!」

 

「お疲れ、新菜」

 

「うん、ありがとう」

 

前回同様、海夢ちゃんの化粧に神経を集中させていた新菜は自身の仕事を終えると大きく息を吐く。

汗を滲ませながらも口元に笑みを浮かべる新菜の様子から、本人も出来栄えには納得しているようだ。

というか、二回目でこのクオリティとか新菜はやっぱりおかしい。(誉め言葉)

 

「うん、いいわね」

 

「おつーっ! ねっ、鏡見たいんだけどっ!」

 

「ハイ、どうぞ」

 

拘りの強いジュジュ様も納得のクオリティ。

当の本人である海夢ちゃんもその目で確かめる為に鏡を求め、新菜がそれを手渡した。

 

「……! ちょっ……ヤっ、バ……こマ⁉ あたしこんな顔だった⁉」

 

鏡を受け取った海夢ちゃんが衝撃と感動に静かに震える。

 

 

「あたし……あたしって……あたしってブラックロベリアだっけ⁉

 

「違うわよ」

 

 

感動のあまり自己の認識が曖昧になる海夢ちゃんにジュジュ様が冷静にツッコミを入れる。

しかし、海夢ちゃんの言葉も致し方ない部分があると思う。

新菜の技術にジュジュ様の知識が組み合わさり、前回の雫たん以上にキャラクターに近い仕上がりになっているのだ。

もしブラックロベリアが実在したらこうだろう、というイメージがそのまま形になったかのような姿を見て、俺も静かに感動している。

 

「ウィッグいい色ね。どこの?」

 

「スワローテイルさんのです! 奇麗ですよね!」

 

ジュジュ様と新菜がウィッグについて話している間も、海夢ちゃんは鏡を手放す事なくそこに映る自分自身を眺める。

その瞳はまた一つ自分の夢が叶った感動に潤んで揺れていた。

 

「っっっ~~~~♡♡♡‼」

 

「わっ、あ~~っ」

 

そしてその感動はとうとう抑えきれず、昂った感動と興奮に身の置き所がなくなったのか海夢ちゃんはポカポカと新菜を叩き始める。

 

「本当に嬉しそうね」

 

「実際嬉しくて仕方ないと思いますよ。それくらいのクオリティですし」

 

「確かにね……それにしても――」

 

ジュジュ様が叩き叩かれのイチャコラを続ける新菜と海夢ちゃんの様子を眺める。

 

 

「あれで本当に付き合ってないの?」

 

「ハイ、付き合ってません」

 

 

俺の言葉にジュジュ様は「嘘でしょ……」と困惑気味に呟く。

二人のじゃれあいは恋人のそれだと思うのは俺だけじゃないらしくて安心した。

まぁ、俺としては見ていて尊みが摂取できるので全く問題ない。むしろもっとやってくれ。

そんな俺の思いとは裏腹に、海夢ちゃんは漸く新菜を叩くのを止める。

しかし、その感動は冷めやらぬようで鏡を見てニヤついたり、その場でクルリと回って自身の衣装を再度確認したりしている。

その姿は本当に心の底からコスプレを楽しんでいるのが伝わってくる。

海夢ちゃんの様子に俺や新菜は勿論、ジュジュ様さえ温かい目を向けていた。

俺達の視線に気付く事なく、海夢ちゃんはハイテンションのまま声を上げる。

 

 

「めっちゃアガってきた~~‼ マジで合わせくっそ楽しみ~‼」

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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