その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第38話『その妹は勇気を出す』

「マジ楽しみだったのにィ~~、雨とかないわ~~っ」

 

喜多川海夢が窓の外を眺めながらぼやく。

窓に反射して見えるその表情は萎えており、纏う空気も外の天気のようにどんよりとしていた。

 

「この時期はゲリラ豪雨も多いし、仕方ないでしょ。むしろ涼しいしイメージにも合うしいいじゃない」

 

天気予報では曇りとなっていたが、降水確率は50%を超えていた。

ゲリラ豪雨は仕方ないし、むしろ移動中に降られなかっただけありがたいと言えるだろう。

 

「そーなんですけど~、気分的に?」

 

しかし、喜多川海夢としては楽しみにしていた合わせに水を差された気分なのだろう。

まるで拗ねた子供のように唇を尖らせている。

私はそんな喜多川海夢が身に纏っている衣装をじっくりと眺める。

 

「素敵よね、コルセット。私、ブラックロベリアの衣装好きなのよ」

 

上質で落ち着いた雰囲気の衣装は大人びた印象を受け、魔法少女らしい可愛い服が目立つ“烈‼”の中では異色を放っている。

衣装の制作者である五条新菜のアイデアでエンボス加工された生地を使ったコルセットはブラックロベリアのシックな衣装デザインとマッチしており、これが衣装制作として駆け出しの者が作った作品とは到底思えない。

 

「分かりみが深い~‼ コルセットって謎に良きですよね~♡ やっぱドレスっぽいからかな~。あと甘辛だし!」

 

自分がどれだけ優秀なデザイナーに恵まれているのか、この子は気付いてもいないのだろう。

喜多川海夢は改めて自分の衣装を眺めて笑いながら、“烈‼”について語る。

 

「あたし、子供の頃からネオンおねーたまからブラックロベリアになるギャップが超好きで! コス出来てガチで最高‼ みたいな‼」

 

どこまでも楽しそうに語る喜多川海夢の笑顔は、ブラックロベリアのイメージとはかけ離れているけれど。

だけど心の底からブラックロベリアを、“烈‼”を愛しているという事が伝わってくる。

コスプレが楽しくて仕方ないのだと、無邪気な笑顔が教えてくれる。

 

「……そうね」

 

そんなこの子が、少し羨ましい。

ブラックロベリアのコスプレをしている事が、ではない。

私がブラックロベリアのコスをしないのは私の身長ではそれに適さず、イメージを壊してしまうからだ。

目の前にいる彼女・喜多川海夢だってそう。

彼女はシオンが好きだけど、自分とは合わないからという理由でコスプレを控えている。

お互いに持つものと持たぬものがあり、それを考慮して作品のイメージに配慮するのはお互い様だ。

 

(だけど……)

 

喜多川海夢の顔には未来に対する不安が一切ない。

……能天気と言えば、それまでかもしれないけど。

 

 

『いつまで続けていいんだろう』

 

 

時折、この言葉が脳裏をよぎる。

私はもう高校二年生。来年には受験勉強が控えている。

受験に合格すれば大学生に。大学を卒業すれば社会人に。

嫌でも少しずつ年を重ねて、大人になっていく。

コスプレをするのは楽しい。

 

(だけど、いつかは――……)

 

「てか、お願いがー……あるんですけど~……」

 

喜多川海夢の言葉に思考が浮上する。

今考えても仕方のない事だ。私は一抹の不安を心の底に押し込んで会話に集中する。

 

「何よ?」

 

「あのぉ~~……ぃ、一緒に、写真撮っていーですか……? なんて――」

 

緊張しているのか恥ずかしがっているのか、私と目線を合わせないようにしながら撮影を頼んでくる喜多川海夢。

もじもじと不安気に写真を依頼してくる姿に思わずため息が漏れた。

初対面の時はあれだけ距離を詰めてきた癖に……だけど、『ジュジュ』がこれまで誰とも交流してこなかった事を考慮してのお伺いなのだろう。

私はその不器用でちょっとズレた気遣いに免じてあげる事にした。

 

「別に……もう好きにしなさいよ」

 

「マジすか……⁉ やった! 神対応‼」

 

撮影を許可してあげると喜多川海夢は途端に笑顔になり、私の隣に座ってスマホで撮影を始める。

インカメラで撮られた写真には私と、満面の笑みでピースサインをする喜多川海夢が写っていた。

喜多川海夢が写真を確認すると、大事そうにスマホを抱えて震えている。

 

「あ゙り゙がどゔござい゙ま゙ず……っ。無理すぎ……っ。呟いていいですか……っ」

 

「いいけど……メイク落ちるわよ」

 

挙句には感動のあまり涙を流す始末だ。

せっかく五条新菜が時間をかけて施したメイクが崩れてはいけないと思い、私はハンカチで優しく目元を拭いてやる。

まったく、これで心寿より年上だなんて信じられない。あの子の方がしっかりしてるんじゃないかしら。

そこでふと、その心寿が戻ってこない事に気付く。

 

「それにしても心寿遅いわね……いつもこんなに準備に時間かからないのに……」

 

「ごじょー君も月見里君も帰ってきませんよねー」

 

喜多川海夢が言う通り、心寿の様子を見に行った五条新菜と月見里守優も戻ってきていない。

もう少し待って戻って来なければ様子を見に行った方がいいかもしれない。

 

「はっ⁉ めっちゃ“らぶりつ”されてる‼ あたしの写真あんまされないのに‼ やっぱジュジュサマ凄っ‼ パない‼」

 

ツツキッターのアカウントを見ながら喜多川海夢が叫ぶ。

 

「あなた、ご飯の写真ばかりアップするからでしょ」

 

コスプレ用のアカウントだと思うのだが、呟きの内容は日常の事やアニメやゲームについて語ったりと煩雑だ。

以前イベント前に投稿していた黒江雫のコスプレにはそれなりに反応を貰っていたような気がするけど……調子に乗りそうだから、あえて言わないでおく。

 

「たまにアップする炒飯に色々乗ってる写真なんなのよ」

 

「あたしが作った料理ですよ」

 

「冗談でしょ?」

 

どういう食生活してるのよこの子。

健康も栄養も無視したような料理を食べているのを想像すると呆れを通り越して心配になる。

もし私のお母さんが知ったら卒倒してしまうかもしれない。

 

「リプめっちゃきてる……ん? 『ジュジュ実在したんだ』?」

 

「してるわよ‼ なんなの‼」

 

「ジュジュサマ、コスイベ出ないですもんねー」

 

そう言って喜多川海夢が楽しそうに笑う。

確かに自宅での撮影ばかりでイベントには出た事ないけど、まさか存在を疑われてたなんて……

自己満足での撮影が思わぬ弊害を生んでいた事に衝撃を受けていると、私達が控えていた部屋の扉がガチャリと音を立てて開く。

どうやら心寿達が戻ってきたようだ。

 

「すみません、お待たせしました……!」

 

「あっ、遅かったじゃーん……」

 

五条新菜の謝罪の言葉に私と喜多川海夢が揃って視線を向ける。

 

 

「「へ⁉」」

 

 

まさかの光景に、私と喜多川海夢は揃って声を上げて固まった。

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

まさかのジュジュ様にまで新菜と付き合っているのか勘違いされて誤解を解いた後、俺達は二階に上がって海夢ちゃんや心寿ちゃんと合流。

大体の下見を終えた二人が撮影に使えそうな場所をピックアップしてくれていたので、それらを重点的に見て回った。

結局、ジュジュ様が気を失うようなアクシデントもなくロケハンは終了。俺達は新三郷駅へと戻っていた。

 

「今日はお疲れ様。予定より少し時間はかかったけれど、全体を見て回れてよかったわ」

 

ジュジュ様が一同を労う。

原作とは違い、最後までロケハンをやりきったジュジュ様だが、その顔には少し疲労の色が見える。

途中で離脱する事こそなかったが、やはり苦手な環境で長時間過ごしたのは負担が大きかったようだ。

 

「よさそうな場所は写真も撮ったし、家で一緒に見ようね」

 

「ええ」

 

しかし、心寿ちゃんにはバレていないようだ。というより、その疲労を感じさせない優しい笑顔を浮かべている。

流石は神レイヤーというべきか、お姉ちゃんというべきか。

 

「じゃ、今日はここで解散って感じ?」

 

「そうしましょう」

 

「オッケ。あたし、乃羽たちと渋谷で待ち合わせしてるから行くね。期末始まるからカラオケで気合入れる的な!」

 

「普通に勉強しなさい」

 

解散の流れとなり、海夢ちゃんが一抜けする。

テスト前に勉強ではなく遊んで気合を入れる事を優先する海夢ちゃんにジュジュ様が鋭くツッコミを入れるが、海夢ちゃんはどこ吹く風という様子で笑ってそれを受け流していた。

 

「ジュジュサマっ、心寿ちゃん、おつでしたー! じゃね、ごじょー君っ、月見里君っ」

 

「ハイ」

 

「お疲れ~」

 

軽やかな足取りで改札へと向かう為に階段を上っていく海夢ちゃんを俺と新菜で見送る。

海夢ちゃんが去った後、ジュジュ様は隣に立つ心寿ちゃんへと話しかけた。

 

「私達もそろそろ行きましょう」

 

「私、新三郷初めて来たから駅前のお店見てから帰ってもいい?」

 

「そう? 私は先に帰るから、気を付けてね」

 

「うん」

 

どうやら原作の通り、ジュジュ様は帰宅する一方で心寿ちゃんは新三郷に残るらしい。

ジュジュ様もその場を離れ、残るは俺と新菜、そして心寿ちゃんのみ。

やっと来た機会に俺は心寿ちゃんへと一歩近付いて声を掛ける。

 

「ねぇ、心寿ちゃん」

 

「月見里さん、どうかしましたか? もしかして、カメラの事で何か……」

 

俺が呼び止めた理由がカメラに関連する事かと当たりをつける心寿ちゃんに俺は小さく首を横に振って否定してみせた。

 

「心寿ちゃん、単刀直入に訊くね? 本当は、コスプレしたいんじゃないの?」

 

俺の言葉に心寿ちゃんが固まる。

 

「前に初めて会った時、喜多川さんの質問に否定してたけど……ジュジュさんの前だから言いだせなかったんじゃないのかな?」

 

「……」

 

心寿ちゃんが気まずそうに目を伏せて俯く。

その表情には心の内で静かな葛藤が渦巻いているのが窺えた。

そんな彼女に、俺はもう一度言葉を贈る。

 

「……この前、心寿ちゃんにこう言ったよね? 『好きな事を好きって言うのは、人によっては難しい事だけど凄く素敵な事だ』って……」

 

「……はい」

 

「――その気持ち、大事にしてね」

 

心寿ちゃんが小さく両手を握る。

俺はそれを静かに見つめ、二人の間に強い雨音だけが響く。

原作ではこの場を去ろうとした新菜を呼び止めるように心寿ちゃんが本音を晒すんだけど、俺はあえてその場に留まり続けた。

心寿ちゃんが十分に心の内を整理してから、本当の気持ちを出せるように。

ただ、静かに待った。

 

「…………し、してみたいです……」

 

「うん」

 

「……本当は……っ! コス、してみたいです……!」

 

心寿ちゃんが声を震わせながら、思いを吐き出す。

彼女が一歩踏み出そうとする様を、俺は静かに見守った。

 

「すごく好きなキャラがいて……やってみたいんです……海夢さんの言ってたように、お姉ちゃんがコスしているの見て、本当はずっと……羨ましくて……」

 

「……じゃあ、どうして心寿ちゃんは今までコスしなかったの?」

 

「……駄目なんです私……絶対、似合わないから……」

 

自分の髪を握りながら、心寿ちゃんは不安そうに続ける。

 

「私……お姉ちゃんみたいに可愛くないし、細くないし、その好きなキャラも私とは全然違うタイプだし……私はあんな風になれないから……絶対変になっちゃうから……だったら、しない方がいいんです……」

 

彼女にとってジュジュ様は基準であり、模範であり、憧れでも、そして壁でもあるのだろう。

ジュジュ様を通してしかコスプレの世界を見てこなかった心寿ちゃんにとって、キャラのイメージを守る事は当たり前で、それを崩す事は悪い事なのだ。

 

「それに……変なコスして、お姉ちゃんに嫌な思いさせたりしたら……嫌われたら、どうしようって……怖くて……」

 

なにより、心寿ちゃんはジュジュ様に嫌われる事を恐れている。

これまで一番近くでジュジュ様のコスプレを見て、その強い拘りに触れてきたからこそ、それに反して失望されるのが怖いのだ。

勿論ジュジュ様はその拘りを誰かに強制するような人ではないけど、心寿ちゃんがそれを知る術はない。

 

「この前、コスプレイベントに初めて行って、沢山のコスプレイヤーの方々がコスプレを楽しんでいるをの実際見て……なりたいものに何にでもなれるのが、コスプレの魅力だと思いました」

 

静観していた新菜が穏やかな口調で言う。

その言葉には初めてその世界に触れたからこそ感じた思いが込められていた。

 

「少しでもしたいという気持ちがあるなら、コスプレしましょう。俺達が手伝うので」

 

新菜の言葉に心寿ちゃんが僅かに顔を上げる。

そこに俺も続いて心寿ちゃんに語り掛けた。

 

「さっきのロケハンの時にさ、将来の夢についてジュジュさんと話す機会があったんだ。俺の将来の夢はあやふやで、皆みたいに立派じゃないけれど……それでも、ジュジュさんは俺の夢を笑わずに応援してくれた」

 

あの時の穏やかなジュジュ様の瞳と言葉を思い出す。

俺達にさえ優しい言葉をくれたジュジュ様が、心寿ちゃんを否定するなど天地がひっくり返ってもありえない。

 

「ジュジュさんは心寿ちゃんを否定するような人じゃない。だから、一歩だけ勇気を出して前に進んでみようよ」

 

『その一歩を、俺達が全力で手伝うから』。

俺の言葉に心寿ちゃんは背筋を伸ばし、しっかりと顔を上げる。

その瞳は今にも涙を零しそうに潤んでいたけど、不安の色は消えている。

髪の毛を強く握りしめてた手がゆっくりと解かれていくその様子は、彼女の心情を表しているように見えた。

 

「月見里さん、五条さん、お願いします……っ、お手伝いしてください……!」

 

心寿ちゃんが深々と頭を下げて、俺達に協力を願う。

俺と新菜は静かに互いを見合って、小さく頷く。

返事など、決まっている。

 

 

「ハイ! 勿論です!」

 

「喜んで!」

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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