守優の言葉を受けて勇気を出した乾さんの為にコスプレの手伝いをする事が決まった。
「それで何の作品のコスプレがしたいんですか?」
「あの、実は……私も『フラワープリンセス烈‼』のキャラで……」
乾さんがもじもじと照れ臭そうにしながら、喜多川さん達がコスをするのと同じ作品のキャラクターである事を教えてくれる。
「そうだったんですね!」
誰になりたいんだろう?
違うタイプって言うくらいだから……背が低いキャラクターの誰かかな?
やっぱりヒロインのミライちゃんとか――
「私……」
「颯馬お兄ちゃんになりたいんです」
「颯馬お兄ちゃん」
まさかの男性キャラだった。
「……えーと、確か……ミライちゃんのお兄ちゃんの……」
「はいっ。私ずっとずっと颯馬お兄ちゃんに憧れててっ。強くてカッコ良くて、ミライちゃんが困った時はすぐに助けてくれるし……なんだかお姉ちゃんに似てて、大好きなんです……♡」
「な、なるほど……」
お姉さんと颯馬おにいちゃんは全然似ていない気が……
とりあえず相槌は打ったが、正直理解が追い付いていない。
一方、そんな俺の隣では守優がうんうんと何度も頷いている。
「なんだか分かるなぁ。ジュジュさんって可愛いんだけど凛々しさもあるし、二人が一緒の時は心寿ちゃんの事を細かく気にかけていたし……人としての在り方っていうのかな? そういうところが似てる気がする」
「そうなんですっ、分かってもらえますかっ!」
守優の言葉に乾さんの声が更に弾む。
楽しそうに語り合う二人に正直ついていけていないが、これは俺が“烈‼”への理解が足りないせいだ……うん、きっとそう……
二人に水を差すわけにもいかず、俺はその話題には触れずにコスプレをするタイミングについて提案する。
「せっかくなので、合わせの日にコスプレしませんか? 二人とも喜ぶと思います!」
「だな。“烈‼”の合わせなんだし、ピッタリだと思う。どうかな、心寿ちゃん?」
「は、はいっ! で、でも当日まで秘密にしてもらえますか? 初めてなので、恥ずかしくて……っ」
「分かりました」
乾さんの気持ちは理解できるし、そのお願いを拒む理由もない。
俺は勿論、守優も頷いてそれを受け入れた。
「あの……本当になんとかなりますかね……」
突然乾さんが不安そうに声を震わせる。
その理由が分からず、俺は乾さんに問いかけた。
「何がですか?」
「私っ、えと……ふふ……太っ、太ってて……服が、入らない事が……多くて……っ」
思わず体が固まる。
(それは太っているのではなくて……)
心の内で思うが、それ以上は言えないと判断して俺は沈黙するしかなかった。
「別に心寿ちゃんは太ってないと思うけどなー」
隣では守優が乾さんにフォローを入れている。
あ、ちょっと遠い目をしてる。
たぶん俺と同じ考えに至ったんだろうけど、それを正直に言えなくてフォローに留めたのだろう。
そんな俺達の考えを他所に、乾さんは恥ずかしさと申し訳なさが合わさったような苦笑いを浮かべながら続けた。
「あと今まで出来なったわけがもう一つあって……お小遣いなので、お金があまりなくて……」
「…………」
そうだ‼ 大人っぽいから忘れてた……‼
中学生だからまだバイト出来ないんだ‼
まずい……これが一番まずい……‼ 衣装が作れない‼
(い、いや! 確かにコスプレはお金のかかる趣味だけど、皆がお金に余裕があるわけじゃない……使える金額が限られてても、楽しめるはず――)
「颯馬コスならたぶんそんなにお金かけなくても大丈夫だと思うよ?」
俺が内心焦っている横で、守優があっさりと言い放つ。
「ほ、本当ですか……?」
「うん。プリンセスみたいな衣装なら難しかったと思うけど、颯馬ならいけると想う」
不安そうに聞き返す乾さんに守優は頷いてみせた後に笑顔を浮かべる。
「安心して。絶対に俺達がなんとかしてあげるから」
「…………」
守優の心強い言葉を受けて乾さんは静かに彼を見つめる。
その瞳には不安な様子はもう見えなかった。
それにしても、本当になんとかなるんだろうか?
「とりあえず、まずは新菜の家に行こうか。そこで準備を始めよう」
「すぐに出来るんですか……⁉」
「待って、俺の家でするの⁉」
今すぐ取り掛かれると知って驚く乾さん。
そしてその為に自宅に行く事になって驚く俺。
二人の驚く顔をそれぞれ見て、それでも守優は笑顔を崩さない。
「詳しい話は後で。電車の時間もあるしまずは移動しよう」
そう言って一足先に改札へと守優が向かう。
俺と乾さんは顔を見合わせた後、言われた通り着いていくしかなかった。
岩槻にある新菜の家に到着した俺達は新菜の部屋で心寿ちゃんのコスプレの準備を進める事にした。
俺は二人が今最も知りたがっているであろう颯馬コスの衣装について早速答えを教える。
「颯馬コスには……あれを使う」
俺が指差した先にあるのはハンガーで壁掛けされている――
「俺の、制服……そうか! 前にも思ったけど、確かにうちの制服に似てる!」
「本当にそっくり……っ!」
そう、うちの高校の制服だ。
悲しいかな俺より心寿ちゃんの方が背が高いので、今回は新菜のものを使用する。
本来なら新菜が機転を利かせて思いついたアイデアだけど、今回は俺から提案させてもらった。
「これを使えば衣装代は掛からないし、その分他にお金が回せるはずだよ。新菜、クリーニングに出した予備とかある?」
「そうだね、確かに俺が着てたやつを貸すわけにはいかないし……乾さん、ちょっと待っててください」
「は、はいっ」
俺が予備の制服を出すよう頼むと新菜が用意の為に部屋を出る。
ものの数分で戻ってきた新菜の手にはビニールでカバーされた制服一式。
新菜はそのカバーと制服に付けられていたタグを取り外すと心寿ちゃんへと差し出した。
「どうぞ」
「お借りしてもいいんですか?」
「ハイ! サイズが合うかどうかですが……」
「一度着て確かめてもらうしかないか。心寿ちゃん、俺達は一度外に出るから、試着してもらえる? もしサイズが合わなそうなら無理して着ずに声かけてね」
「分かりました」
身長は新菜の方が上だが、心寿ちゃんは胸が大きい分シャツがキツいはずだ。実際原作ではそうだったし。
心寿ちゃんの尊厳を
「……」
チラリと横を向けば、新菜が無言のまま天井を見上げており、黙ったまま徐々に顔を赤らめている。
きっと海夢ちゃんに制服を貸したシチュエーションを想像しているのだろう。
「……っ……な、何……?」
俺の視線に気付いた新菜がビクリと体を跳ねさせ、焦りながら尋ねてくる。
その反応に悪戯心が芽生えた俺は幼馴染をちょっと揶揄ってやる事にした。
「……喜多川さんの事考えてただろ」
「⁉ べ、べべべべ、別に……! 喜多川さんが、おおお、お、俺のシャツを着たらかどうだったかなんて……‼」
おお、凄い勢いで自爆する。
顔を真っ赤にして、声が裏返るのも気にせず必死に弁明する新菜だが、その反応こそが答えだ。
まぁ、原作で考えてるの知ってるからバレバレなんだけども。
『お、お待たせしました……っ! 出来ました……っ!』
もう少し新菜を揶揄ってやろうかと考えていると、襖の向こうから心寿ちゃんからお呼びがかかる。
新菜はこれ幸いとばかりに話題を変えるべく、襖へと手を伸ばそうとした。
「は、はいっ‼ 開けま――」
「ちょっと待った」
俺はその新菜の手を掴んで制止する。
止められると思っていなかった新菜は驚いてこちらを見ているが、今はそれよりも確認だ。
「心寿ちゃん、ちゃんと着れた?」
『は、はいっ……大丈夫です……っ』
本当に? 原作ではとてもじゃないけど、ちゃんと着れてはなかったぞ?
もしかして、新菜のシャツが原作よりも大きい? そんな偶然ある?
いやいや、そんな都合良くはいかないでしょ。
でもちゃんと念押しした上で、心寿ちゃんがああ言ってるし……
「? どうしたの、守優? 早く入ろうよ。乾さん、開けますね」
『はい……っ』
「あっ、待てって――」
俺が悩んでいるうちに新菜は向こう側にいる心寿ちゃんに声を掛けながら襖を開ける。
一瞬遅れてしまった俺も慌てて後を追い中に入った。こうなったら一か八かだ。
何事もありませんように。俺は祈る気持ちで心寿ちゃんの様子を確認する。
(アカーーーン‼)
祈りは届かず、やっぱり心寿ちゃんはパッツパツだった。
ほらやっぱり着れてないじゃん! 天使の小窓が見えてるじゃん!
心寿ちゃん、どうしてそれで大丈夫だって言ったの⁉
「……ッ、……~~ッッ、……ぷはっ」
俺の心の中での悲痛な問いに対する返答はなく、心寿ちゃんはシャツを着る為に我慢していた呼吸を開放する。
それと同時にぶちっと嫌な音を立ててボタンの糸が切れて彼女の豊満な谷間が見え――
(……ボタン?)
何故か一連の流れがスローモーションに見えていた俺の視界に映ったのは、こちらに向かってくる一つのボタン。
まるで静止したような世界の中でその白くて小さなそれだけはしっかりと動いている。
(速……! 避けるか……⁉ ――無理!)
その弾丸への対処に俺は思考を巡らせる。
しかし、圧倒的に時間が足りない。
(受け止める⁉ 無事で⁉ 否……! 死――)
というか、考えが巡るばかりで体が一向に動かない。
なるほど、これが臨死体験というやつか。
バキィッッ
心寿ちゃんの胸によって打ち出されたボタンは正確に俺の右目――の眼鏡のレンズを捉えた。
「イイッ↑タイ↓メガァァァ↑」
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原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について
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内容的に違和感がなければ登場してほしい
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登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
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執筆者の自由にしたらいい
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原作準拠であまり出さないでほしい