その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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今回も区切りを良くする為に少し短めです、よろしくお願いします。


第40話『その妹達は準備を進める』

「本当にすみません……」

 

「いえ、こんなのすぐ付けられますから……」

 

心寿ちゃんのボタン飛ばしによって俺の眼鏡がお亡くなりになるというアクシデントの後、新菜の作務衣を借りた心寿ちゃんがしょんぼりとした様子で力なく謝罪する。

新菜はそれを笑顔で受け入れながら、テキパキとボタンを縫い直していた。

 

「月見里さんもすみません、お怪我はないですか……?」

 

「大丈夫、眼鏡に当たっただけだから」

 

「あはは……当たったというか食い込んだというか……」

 

俺の言葉に新菜が苦笑いを浮かべる。

彼の言う通り、俺の眼鏡のレンズにはボタンが思いきりめり込んでいた。

恐るべし、心寿ちゃんの胸囲の破壊力。

ともあれ、分厚い瓶底眼鏡のお陰で目は無事。ボタンが直撃した驚きで倒れ込んでしまい、その時に打った尻が少し痛む程度だ。

 

「サイズはあれで大丈夫そう? もう少し大きい方がよかったりとかする?」

 

「いや、サイズ自体は問題ないと思う。裾上げだけで済みそうだし」

 

「はい。袖も捲るので長さも大丈夫です」

 

俺の言葉に対して新菜も心寿ちゃんもサイズに関しては問題ないとの答えを示した。

ならば、と俺は外した眼鏡を弄りながら今回のコスプレにおける課題について考える。

 

「そうなると、問題はどうやって男性らしい体形に見せるかだね」

 

「……」

 

「……? 心寿ちゃん?」

 

返事がない事を訝しんでぼやけた視界を向けると、心寿ちゃんがこちらを無言で見つめているのが分かる。

 

「心寿ちゃん、どうかした?」

 

「……あっ、いえ……大丈夫です、すみません……っ!」

 

「?」

 

眼鏡を外して視界がぼやけているので細かい表情は窺えないが、手を振って慌てているのが分かる。

何か引っ掛かる事でもあるのだろうか? 原作では特に何も言ってなかったと思うけど……

 

「乾さん、サラシを使ってみましょう! サラシを使って凹凸をなくせば、男性らしい体に見せられると思います。試してもらえますか?」

 

「分かりました!」

 

俺と心寿ちゃんがやり取りをしている間に、どうやら新菜は原作通りサラシを使う発想に至ったようだ。

心寿ちゃんも乗り気なのを見て「じいちゃんが腰を痛めた時に買ったものが余ってるので取ってきます」と新菜が部屋を出て階段を下りていく。

 

「サラシってお祭りの時に使う物ですよね。初めて使います」

 

「普通は使う機会なんて中々ないものだしね。でも着物を着る時に使う女性の人もいるみたいだよ? 着崩れしないようにサラシを巻いて胸を抑えるんだって」

 

美織お姉ちゃんが成人式の際に着る振袖の写真を見せてもらった時に晴美おばさんが言っていたのを思い出す。

振袖姿の美織お姉ちゃん、奇麗だったなぁ。

 

「そうなんですね。機会があれば別のところでも試してみたいです」

 

「梅雨が明ければ、場所によっては夏祭りなんかもあるもんね。もし着物や浴衣を着たりするなら試してみてもいいと思うよ」

 

「はいっ」

 

俺の言葉に心寿ちゃんが柔らかい笑顔で返事をする。

自分で言っておいてなんだが、心寿ちゃんの着物姿か……原作では見る機会なんてなかったけど、絶対可愛いやつじゃん。

もしチャンスがあれば、写真だけでも見せてもらいたいところだ。

 

「お待たせしました。乾さん、こちらを使ってみてください」

 

「ありがとうございます、お借りします」

 

「じゃあ、俺達はまた出てようか。ついでに一回家に戻って眼鏡変えてくる」

 

確か中学卒業前まで使っていた眼鏡があるはずだ。

歩いて数分の距離だし、ちょっと出て戻るくらいなら問題ないだろう。

俺は二人に断りを入れてから一度五条家を後にした。

帰宅した際に母さんに割れた眼鏡を見られて驚かれたりしつつ、眼鏡を昨年まで使っていた一世代前のものに交換して再び新菜の家へ。

戻った頃には心寿ちゃんはサラシを巻き終えたようで、改めて新菜と一緒に部屋へと入った。

 

(今回はボタンが飛んでこない、ヨシ!)

 

俺の中の現場猫が安全を確認する。

心寿ちゃんの胸はサラシのお陰でだいぶ落ち着いている。しかし、それでもまだその存在感は依然として残っていた。

 

「お腹は目立たなくなりました、けど……胸が……」

 

「…………ですね」

 

心寿ちゃんの言葉に新菜がドキリとしながら同意する。

顔を赤らめて気まずそうに視線を逸らす新菜の反応は年頃を考えれば正常な反応だろう。

というか、サラシで潰してなお目立つ胸……流石着せ恋屈指の凶悪ボディだ。

 

「後は肩も補正した方がいいかもな。今のままだと颯馬のイメージとはまだまだ離れてるし」

 

「確かにシャツだと丸みがよく分かって女性らしい印象を与えてしまうし、補正が必要だね……」

 

「颯馬お兄ちゃんはスポーツ万能なので、逞しく見せたいです……」

 

俺が心寿ちゃんの姿を眺めながら意見を言うと、新菜も当の本人である心寿ちゃんも同意見のようで今では不十分であるという認識を一致させる。

颯馬はスポーツ万能な上に弓道部に所属している。彼の精悍なイメージに合わせる為にももう少し肩幅が欲しいところだ。

 

「というわけで、ネットで色々調べてみたんだ。心寿ちゃんみたいに自分の体となりたいキャラクターとのギャップで悩む人は結構いるみたいで、その為のグッズも色々あるんだって」

 

「本当ですかっ?」

 

理想に近付くにはまだまだ課題が残っているのを再確認して落ち込む心寿ちゃんの顔が一気に明るくなる。

華やいだその顔に思わず頬が緩んでしまうのを自覚しつつ、俺はスマホの画面を見せた。

 

「うん。肩の丸みはパットで補正出来るし、胸の方も色んなアイテムがあるみたい。例えばこれとか……」

 

「『Bホルダー』……えっ‼ こんなに変わるんですね……‼」

 

俺が見せたのは原作でも購入してたBホルダー。胸を潰して抑えるためのホック式のインナーだ。

実際の使用前後の写真を見比べて、心寿ちゃんは驚きの声を上げる。ジュジュ様はこういうアイテムとは無縁だし、それ故に知る機会のなかった心寿ちゃんにとってはまさに青天の霹靂だろう。

 

「後は『ぺた胸メーカー』っていうのあるみたい」

 

続いて俺が紹介したのは原作で海夢ちゃんも使用していたぺた胸メーカー。コルセットのような見た目のBホルダーに対し、こちらはスポーツブラのようなデザインだ。

心寿ちゃんは俺に身を寄せ、真剣な表情でスマホの画面を覗き込んでいる……正直ちょっと当たってるけど、気付いていないフリをして黙っておこう……

 

「お姉ちゃんは男装しないので、こんなのがあるなんて知りませんでした」

 

「でもこういう凄い物って高いんじゃ……」

 

新菜の懸念は尤もだ。

これだけ便利なのだ。「でも、お高いんでしょう?」と言いたくなる気持ちも分かる。

しかし、現実は有情である。

Bホルダーは3600円、ぺた胸メーカーは3900円。とてもお求めやすい価格だ。

 

「「そうでもない‼」」

 

心寿ちゃんと新菜が揃って驚きの声を上げる。

 

「これ……‼ これいいですよ、乾さん‼ この値段で体形補正が出来るなんて……‼」

 

「はいっ‼ すぐ買いますっ‼ 月見里さん、教えてくれてありがとうございます‼」

 

「どういたしまして」

 

補正下着の価格に興奮する新菜と、自分の悩みを解決してくれるアイテムとの出会いに満面の笑みを浮かべる心寿ちゃん。

二人の反応を見ていると、最終的には同じ結論に行きつくとはいえ、教えてあげてよかったと思える。原作知識(チート)万歳。

ところで、心寿ちゃんの「すぐ買いますっ‼」の声、めっちゃ可愛かったと思うのは俺だけ?

 

「それで、心寿ちゃんはどっちを買う?」

 

「出来るだけ予算は抑えたいので、今回はBホルダーを買おうと思いますっ」

 

「そっか。ちなみに受け取り方法は大丈夫? ジュジュさんにバレないようにするなら、自宅での受け取りはリスキーだと思うんだけど」

 

「あっ……確かに、そうですね……どうしよう……」

 

俺の確認に心寿ちゃんは一気にテンションが下がり、困ったように眉尻を下げる。

気落ちさせてしまったのはちょっと申し訳ないが、海夢ちゃんやジュジュ様にバレずに事を進める為には必要な事だ。

そこで俺は心寿ちゃんに一つの提案を持ち掛けた。

 

「よかったら俺が注文して受け取っておこうか? 代金はまた今度、商品と交換でもらえればいいから」

 

「え……い、いいんですか……?」

 

予想外の提案に心寿ちゃんは驚きつつ、申し訳なさそうにこちらを見つめる。

 

「勿論! これくらいお安い御用だよ」

 

安心させてあげようと笑顔で頷けば、心寿ちゃんは数秒こちらを見つめた後に「…………よろしくお願いしますっ」と深々と頭を下げてきた。

そこまで大した事じゃないのに、ここまで感謝されると逆に恐縮だ。

そんな俺達のやり取りを笑顔で見守っていた新菜が、最後の作業に取り掛かろうとする。

 

「あとはウィッグですね。買い出しの時一緒に買いたいので、頭周りのサイズ測ってもいいでしょうか?」

 

「はいっ、お願いします」

 

「ああ、よかったら俺が測るよ。確かここら辺にメジャー置いてたよな?」

 

「え? う、うん」

 

あえて有無を言わせぬ勢いで心寿ちゃんの頭囲測定を買って出ると、新菜が少し戸惑いながらも素直に俺に任せてくれる。

新菜に任せてしまうと例のラッキースケベが発生してしまうからな。心寿ちゃんに恥ずかしい思いをさせない為にもここは俺が対応させてもらう。

 

「心寿ちゃん、背筋を伸ばして目線は前にお願い」

 

「は、はいっ」

 

指示をすると心寿ちゃんが言われるままに姿勢を正す。

俺は体は心寿ちゃんの胸に触れないように気を付けながら頭周りを測定した。気を付ければなんて事はない作業だ。

 

「はい、オッケー。お疲れ様、心寿ちゃん」

 

「……っ! ……ありがとうございますっ」

 

体勢の関係で心寿ちゃんの顔を見下ろしながら労いの言葉を掛ければ、心寿ちゃんは静かに俺の顔を見つめた後、はっとした様子で言葉を返してくる。

…………これ、もしかして俺の顔が心寿ちゃんに刺さってたりする?

 

(いや、ないない。絶対ない。だってあのジュジュ様の妹だし)

 

ジュジュ様のご尊顔を生まれた時からずっと見続けているのだ。

いかに今の俺の顔が良くてもジュジュ様の美貌の前では霞むし、それを見慣れている心寿ちゃんにはたいした事ないだろう。

内心でそう結論付けて、俺はそれ以上考えない事にした。

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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