その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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なんとか今年中にアップする事が出来ました。今回も区切りを良くするためにちょっと短めです。
来年も執筆作業頑張りたいと思います! 皆さん、よいお年を!


第42話『その転生者達は更に準備を進める』

ジュジュ様と海夢ちゃんの試着を行った翌日。

心寿ちゃんに再び岩槻に来てもらい、颯馬コスの準備を再開する運びとなった。

まだ土地勘がない心寿ちゃんの為に今回も俺が岩槻駅まで迎えに行き、二人で新菜の家へ。

予定通りBホルダーの受け取りをした事を伝えたり、それに対する礼を言われたりしているうちに到着し、新菜が笑顔で出迎えてくれる。

 

「遠いのにまた来てもらってすみません、乾さん」

 

「月見里さんが迎えに来てくれたから大丈夫です!」

 

申し訳なさそうに詫びる新菜に心寿ちゃんは笑顔で返す。

そう言ってもらえると俺としても新菜としてもありがたい。俺達は心寿ちゃんの気遣いを素直に受け取りながら、三人で二階にある新菜の部屋へ移動した。

 

「あ、マネキン!」

 

以前来た時にはなかったウィッグ用のマネキンを見て心寿ちゃんが声を上げた。

 

「欲しかったので買いました」

 

「この為にですか……⁉ すみません……!」

 

「今後必要になると思いますし、別件で使う予定もあったので(・・・・・・・・・・・・・)、気にしないでください」

 

自分のせいで不要な出費をさせてしまったと感じた心寿ちゃんが詫びるが、新菜は気にした様子もなく笑顔で返す。

そのまま「どうぞ、座ってください」と心寿ちゃんに座るよう促し、心寿ちゃんは言われるがままにマネキンと向き合うような形で腰を下ろした。

マネキンには新菜が事前に購入していた黒髪のウィッグが被せられている。

 

「喜多川さんのウィッグは美容師さんにカットをお願いしているんですが、乾さんのコスプレは秘密にしているのでカットは俺達でしましょう」

 

そう言いつつ、新菜はヘアクリップでウィッグの髪の毛を固定し、ハサミを取り出す。

 

「まずは襟足から……」

 

「はい!」

 

真剣な表情でハサミを構える新菜を心寿ちゃんが緊張した面持ちで見守る。

ウィッグにハサミを入れようとする新菜とそれを見守る心寿ちゃん。二人の様子が見える様に俺は横からその様子を眺めていたが、新菜はハサミを構えたまま、固まったように動かない。

 

「……」

 

「……」

 

「…………」

 

「…………?」

 

そのまま一分ほど両者は動かず、沈黙の時間が流れる。

流石に心寿ちゃんもそのおかしさに気付いたようで、チラリと視線だけを新菜に向けてその様子を伺っていた。

緊張した面持ちの新菜の手が少し震え始めたところで俺は助け舟を出すつもりで声を掛ける。

 

「新菜、一旦深呼吸しな」

 

「……っっ、はぁ~~っっっ」

 

俺の言葉に新菜が大きく息を吐き出し、そしてそのまま深呼吸をする。

視線を少し横に向ければ心寿ちゃんはぽかんとした様子で意外そうに新菜の事を見つめていた。

 

「ありがとう、守優……! 失敗できないと思うと緊張しちゃって……!」

 

「縫い直しが出来る衣装とは違って、こっちは一発勝負だもんな」

 

「そうなんだよ。だから――」

 

「フフッ」

 

俺達のやり取りを、というより新菜の反応を見て心寿ちゃんが笑みを零す。

その反応に俺と新菜が視線を向けると、彼女は慌てながら理由を語った。

 

「す、すみません……っ、五条さんもそんな風に思うんだなって思って……っ」

 

「お、思いますよ!」

 

「お姉ちゃんに見せてもらったんですけど、あんなに凄い衣装作っちゃうから器用で出来ない事なんてない人だと思ってました」

 

心寿ちゃんの言葉に焦りながら新菜が否定するが、傍から見ればその勘違いも仕方ないだろう。

なにせ今回が二回目の衣装制作にも関わらず、その技術は神レイヤーのジュジュ様が認めるほどなのだから。

 

「出来ない事だらけですよ‼ 今だって手探りで……」

 

「そうなんですか?」

 

「その手探り状態で結果出してるから凄いんだよな、新菜は」

 

「守優……っ」

 

謙遜する新菜に俺が横から口を出せば、親友に咎められてしまう。

茶化さないでくれと言わんばかりの口調だが、その表情には気恥ずかしさこそあれど嫌悪の色はない。

しかしこれ以上揶揄っても仕方ないので口を噤むと、新菜はゆっくりと心寿ちゃんに語り始めた。

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

「……俺、同じクラスに憧れてる人がいるんです。その人は明るくて周りからも好かれていて、自分の事をハッキリ言えるとても強い人で……きっと、俺みたいな悩みなんてないんだろうって思ってたんです」

 

偶然喜多川さんと言葉を交わす機会を得た時の事を思い出す。

クラスの中心にいて、沢山の学友達と楽しそうに語らい、自分の思いを隠す事も否定する事もなく口にするその姿が、俺には眩しく見えた。

自分には縁のないどころか、住む世界が違う人。

 

「でも色々あってその人と過ごすようになって、分かったんです。その人にもやりたくても出来ない事や上手くいかない事、失敗する事もあって俺と同じ気持ちだったり……」

 

雫たんが大好きで、だけど雫たんの衣装を自分では作る事が出来なくて……どうしようもなくて行き詰っていた喜多川さんに助けを求められたあの日。

思えば、あの日から俺の人生は大きく変わった。

喜多川さんが手を引いてくれて、守優が背中を押してくれて……そのお陰で数ヶ月前の俺では想像もできないような日々を、俺は今送っている。

 

「……あんなに喜んで……」

 

ブラックロベリアのフラワージュエルを作った時、喜多川さんは『自分も役に立てて嬉しい』と言っていた。

その言葉は、奇しくも喜多川さんに抱いていた思いと同じで……互いに支え合えている感じがして、とても嬉しかった。

不器用だけど、真っ直ぐで……好きな事にはとことん本気で……だからこそ――

 

「可愛らしいところもあって……――はっ」

 

俺は今、いったい何を……⁉

 

「いっ、いい今のは……っ‼ ちがっ……違うんです……‼」

 

「?」

 

思わず口を突いて出てしまった慌てて訂正する。

幸か不幸か乾さんには何の事なのかよく分かっていなかったようできょとんとした顔をしていた。

その反応に安堵の息を吐きつつ、俺は今の発言を聞いていたもう一人の人物の存在を思い出す。

 

「……!」

 

バッと勢いよくそちらを見れば、口元に穏やかな笑みを浮かべている親友が。

その微笑みに俺は一瞬安心しそうになるが、キラリと光るレンズの向こうで彼の目が楽しそうに弧を描いているのに気付き、思わず顔が熱くなる。

あれは、俺の事をもっと揶揄おうとしている目だ……!

 

「あーっと……! その、つまりですね……!」

 

守優が何かを言う前に俺はわざと大きな声をあげて話題を切り替える。

先程の事も相まって少し照れ臭いが、それでも乾さんに伝えておきたい事があるのは本当だから。

 

「胸の内は目に見えないので分からないだけで、誰にでも色々あるんですよ」

 

「新菜の言う通り」

 

横で見守っていた守優が俺の言葉に頷いて同意する。

その瞳には悪戯めいたものはなく、もう俺を揶揄おうとする意思は見えなかった。

守優の瞳は穏やかで優しく、温かい眼差しを乾さんに送っている。

 

「心寿ちゃんは、心のどこかでこんな風に思ってたんじゃない? 『きっと私とは違うんだ』って……」

 

「……!」

 

彼の言葉に乾さんは驚いたように目を開く。

どうやら心寿ちゃんの本心を言い当てたようで、その反応を見た守優は笑顔で続けた。

 

「図星みたいだけど、その考えは正しいようでちょっと違う。みんな違うのは当たり前……心寿ちゃんには心寿ちゃんの思いがあるし、新菜には新菜の、俺には俺の思いがある。だけど心のうちに何かを抱えてるっていうのは一緒なんだよ」

 

「…………」

 

「弱みや悩みを打ち明けたり、好きなものを好きだと告白するのは勇気がいる事だ。自分に自信が持てないなら猶更さ」

 

守優の言葉に乾さんは自身なさげに眉を下げて俯いてしまう。

そんな乾さんに、「でもね」と守優は語り掛ける。

 

「心寿ちゃんは心寿ちゃんが思っているより強い人だよ。だって心寿ちゃんは俺達に悩みを打ち明けて、コスしたいって言えたんだから。その勇気に俺達は全力で応えるよ」

 

「……!」

 

乾さんの目が強く輝く。

キラキラとした瞳は守優の事を正面から捉えていた。

その目を見て、俺は確信する。

彼女もまた、守優の言葉に救われているのだと。

 

(俺と同じように……)

 

当の本人は「といってもほとんど新菜頼りだけど。口ばっかりでごめんね?」なんて謝っているけれど。

でも、彼の言葉がどれだけ力をくれるのか俺は知っている。

きっと今回の合わせで乾さんは大きく変われるだろう。

 

「ふふっ。カット続けますね」

 

その一助に俺もなれるように、俺はカットを再開した。

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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