その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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皆さん、あけましておめでとうございます。
本年一発目の投稿です。今年も拙いながらも執筆作業を頑張っていきたいと思います。よろしくお願いいたします!


第43話『その妹はコスをする』

「どうでしょうか⁉」

 

心寿ちゃんの気合の籠った言葉を受け、俺と新菜が揃って眼下を覗き込む。

俺達の目の前には新菜がカットしたウィッグが心寿ちゃんの手によって颯馬の髪型にセットされていた。

 

「おお~~っ! 凄いよ、心寿ちゃん!」

 

「セットってこうやるんですね‼ ありがとうございます‼」

 

無事にカットは出来たが、その後のセットの方法が分からず土壇場になって新菜が慌てたりもしたが、心寿ちゃんが「私がやります……!」と頼もしく名乗りを上げてくれたお陰で無事にウィッグが完成した。

俺や新菜の賞賛の言葉に心寿ちゃんが恥ずかしそうに頬を染め、俺達と目を合わすのが照れ臭いのかウィッグを見つめたまま謙遜する。

 

「お姉ちゃんがセットしているのを見てたのでなんとか……‼」

 

「それでも凄いよ。心寿ちゃんは今、俺達に出来ない事をしてみせたんだから」

 

「……あ、ありがとうございます……っ」

 

俺が褒めると心寿ちゃんは更に顔を赤くして俯いてしまった。可愛い。

そんな心寿ちゃんの反応を新菜も微笑ましく見守りつつ、本番に向けてのリハーサルを提案する。

 

「一度被って化粧もしてみましょう」

 

「はい!」

 

「化粧品は百均で全て買えたので、費用は一万円以下に収まりました!」

 

心寿ちゃんの颯馬コスに掛かった費用

・衣装代:0円

・Bホルダー:3600円

・ウィッグ:1799円

・カラコン:1999円

・メイク道具や肩パット諸々:約2000円

 

締めて合計約9500円。やったね‼

 

「私もっとかかるかと……ありがとうございます!」

 

「俺もです。意外と抑えられるもんですね」

 

「やっぱり衣装代抑えられたのは大きいなぁ」

 

海夢ちゃんやジュジュ様の衣装制作で数万単位でお金が使われているのを知っているだけに、そこを節約できた影響の大きさを実感する。

掛かった費用が明確になったところで、心寿ちゃんから俺や新菜へと代金の支払いが行われた。

お金の事はきちっとしてないとね。まぁ、本当は技術代やら追加料金は発生するのだが、原作では後でジュジュ様が気付いてくれるし、嬉しそうにしている心寿ちゃんに言うのは野暮なので黙っておく事にする。

 

「じゃあ心寿ちゃん、基礎化粧から始めようか。手順とか纏めたサイト見つけたから、これ見ながらやってみて」

 

「はいっ」

 

俺が差し出したスマホを見ながら基礎化粧とファンデーションを塗る心寿ちゃん。

原作では初めて付けた的な事を言ってたから調べておいたけど、役に立ってよかった……ところで、やっぱりこの世界の子って化粧してなくても可愛い子多すぎじゃない?

そんな俺の考えを他所にどこか緊張した面持ちの心寿ちゃんが化粧を終えたところで新菜の出番だ。

 

「まずはテーピングからです」

 

女性らしい印象をなくす為、輪郭の丸みを抑えるために顎周りをテープで引き上げ、同時に颯馬の切れ長な目に近付ける為に目尻と眉の間にもテーピングが施された。

 

「次は眉を描いてハイライトを入れていきます」

 

続けて新菜が心寿ちゃんに化粧を施していく。

雫たんコスを完成させて初めて海夢ちゃんに化粧をした時は少し緊張していたものだが、今はその緊張は見られない。真剣さはそのままに程よくリラックスして取り組めているのは海夢ちゃんが相手ではないからか、それとも経験を積んだからか。

俺の思考が脇に逸れている間に鼻筋と顎にハイライトが入り、アイシャドーやアイラインが引かれていく。

 

「毛量の多すぎないつけまつ毛を、カールを抑えて着けて……最後にウィッグを調整して……」

 

新菜の手によって、可愛らしい心寿ちゃんの顔がどんどん凛々しくなっていく。

最後にウィッグを被せて整えると、首から上が涼やかで凛としたイケメンへと変貌した。

カラコンを入れて体形も整えれば完全に“烈‼”の颯馬になるだろう。

 

「おお~……っ」

 

「これは……っ‼」

 

「ど、どうでしょうか……どこか、変だったり……?」

 

俺達の感嘆の声に心寿ちゃんが不安そうにこちらを伺う。

顔は超絶イケメンなのに可愛らしい声とオドオドとした様子は、颯馬らしさはないが……なんだかギャップがあって、これはこれであり!

俺は鞄の中に入れていた鏡を取り出して、ゆっくりと心寿ちゃんへと向ける。

 

「心寿ちゃん」

 

「は、はい……っ」

 

心寿ちゃんが緊張した面持ちでこちらを向く。

鏡を心寿ちゃんへと向ければ、その顔は感動と衝撃で大きく目を見開いていた。

遅れて少し目が潤んできた心寿ちゃんに、俺は笑顔で言葉を掛ける。

 

「俺達を信じてくれてありがとう。凄く、カッコいいよ」

 

 

「――はいっ」

 

 

今にも泣きそうで、それでも嬉しそうに笑う心寿ちゃんはやっぱり、奇麗だった。

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

「しっ、心寿……⁉」

 

先に待機していたお姉ちゃん達のところに行くと、お姉ちゃんが驚きの声を上げた。

隣に座るまりんさんは衝撃のあまりこちらを見て固まったまま動かない。

そんな二人の視線に晒され、思わず後退りしてしまいそうになる。

お姉ちゃんもまりんさんも、凄く可愛くて似合ってる。それこそ、本物のブラックリリィとブラックロベリアみたい。

 

(私、似合ってるのかな……)

 

月見里さんや五条さんの助けを借りてここまで来たけど、お姉ちゃん達と違って私は颯馬お兄ちゃんという凛々しくて逞しい男性キャラのコスプレだ。

性別も体格も違うキャラクターのコスプレをして、違和感はないだろうか……?

 

『俺達を信じてくれてありがとう。凄く、カッコいいよ』

 

月見里さんの言葉を思い出す。

 

『心寿ちゃんは心寿ちゃんが思っているより強い人だよ』

 

今思えば、月見里さんはいつも私に勇気をくれた。

私の事を肯定して、導いてくれたり、背中を押してくれた。

 

『ジュジュさんは心寿ちゃんを否定するような人じゃない』

 

月見里さんの言葉を思い出すと、後ろに下がろうとする足が自然と止まった。

そうだ。お姉ちゃんは可愛くてコスプレに真剣に向き合うけど、とても優しい人。

逃げるように下を向いていた視線を上げて、お姉ちゃんへ向き直る。

 

 

『だから、一歩だけ勇気を出して前に進んでみようよ――その一歩を、俺達が全力で手伝うから』

 

 

この場にいないはずの月見里さんが、背中を押してくれたような気がした。

私は一歩前に出て、未だに驚いたままのお姉ちゃんへと声を掛ける。

 

「あ、あの……あのねっ……私も、コス……してみたんだけど……どうかな……っ」

 

月見里さんと五条さんに手伝ってもらったんだよ。似合ってるでしょう?

そう言うだけの勇気は出なかったけど、真っ直ぐお姉ちゃんを見つめれば、お姉ちゃんは驚きに見開いた目を輝かせながら私の手を握った。

 

「凄い‼ 凄いわ‼ 凄いじゃない‼ 心寿だって分からなかったもの‼ もっ、もっとよく顔見せて‼ 本物の颯馬君にしか見えないわ‼ 信じられない……‼ あなた、あなた本当に心寿なの⁉」

 

「マジのガチでそう‼ ヤバヤバのヤバ‼ いや、は⁉ 凄っっ‼ 一瞬ご本人登場かと思ってパニクったってか……え⁉ 本物じゃん‼ 本物なんだけど⁉」

 

お姉ちゃんといつの間にか駆け寄ってきていたまりんさんが畳みかけるように賞賛の言葉をくれる。二人の表情には先程の衝撃と驚愕に興奮が混ざり、その凄い熱量の言葉に思わず圧倒されてしまう。

 

「本当に素敵……素敵よ、心寿……っ‼ 似合ってるわ……っ!」

 

これまでずっとお姉ちゃんを、『ジュジュ』を見てきたからこそ分かる。

お姉ちゃんはお世辞でもなんでもなく、私のコスプレを見て感動して賞賛してくれているのだと。

その言葉に胸の奥から熱いものが込み上げてくるのを感じながら、今回のコスプレに大きく力を貸してくれた五条さんの方へと振り返った。

 

「良かったですね」

 

「……はいっ!」

 

まるで自分の事のように喜んでくれる五条さんの言葉に思わず涙が溢れる。

 

「ねっ、心寿ちゃん! 体ってか、胸とかどこ⁉ 謎なんだけど‼」

 

まりんさんが私の頭からつま先までを何度も見返しながら尋ねる。

私の太ってた体でもしっかり男装出来ている事に安心しながら、そうする事が出来た方法をまりんさんに教えた。

 

「Bホルダーとサラシを両方使って押さえて、肩パットをつけてもらいました……! 月見里さんが色々調べてくれて――」

 

「‼ メス顔じゃん‼ ちゃんとオスみが強いのに、笑うとメス顔になるギャップえぐい‼ 待って最高‼ 鬼ヤバ‼」

 

嬉しくて笑ったのがまりんさんの琴線に触れたみたいで、再び凄い熱量で語り始める。

勢いに押されてしまうけど、自分のコスプレを見て興奮してくれているのが伝わってきて凄く嬉しい。

 

「て、てゆーか…写真撮っていい⁉ 一緒に撮ろ‼ お願い‼」

 

更には写真の撮影にまで誘ってもらえた。

まさかここまで受け入れてもらえるとは思わなかったけど、その誘いを断る理由はない。

 

「はい……っ! あ、でも……ちょっと、待ってもらえますか……?」

 

だけど、出来るなら……最初に写真を撮るなら、あの人がいい……っ

 

「最初の写真は……月見里さんと、撮りたいので……」

 

「そっか! オッケー! ……それで、その月見里君は?」

 

私のお願いを快く受け入れてくれたまりんさんは、この場にまだ月見里さんだけ来ていない事に気付いて辺りを見渡す。

私のコスプレの後片付けをする為に遅れてくるのは聞いてるけど……確かにちょっと遅い……

 

「乾さん」

 

疑問に思っていると五条さんから声が掛かる。

あ、お姉ちゃんも一緒に五条さんの方を見た。

私達が揃って反応したのを見て、「すみません、妹さんの方です……」と五条さんが申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「実は、守優に一つ頼まれ事をしていたんです。妹さんのコスプレの準備について自分は口しか出せずに何も出来てないから、せめて別の事で乾さんを喜ばせたい、って……」

 

「そんな……月見里さんには凄くお世話になりましたし……」

 

確かに技術的な面は五条さんに頼ったところが大きい。

だけど、そもそもコスプレをする勇気を与えてくれたのは月見里さんだ。

それからも色々調べてアドバイスをくれたり、知恵を貸してくれていたし、何よりあの人の言葉に私は何度も助けてもらった。

 

「はい。俺もそう思ったんですけど、彼の案を聞いて乗る事にしました。きっと、喜んでくれると思ったので」

 

「?」

 

笑顔でそう言う五条さんに思わず首を傾げる。

私が喜ぶ事……? いったい何だろう……?

分からず疑問符を浮かべている間に、五条さんは「ちょっと待っててくださいね」と扉の方へと向かった。

向こう側で誰かが待機していたのか、扉を開けるとそこから覗いた手を掴んでこちらへと案内を――

 

「……へ?」

 

五条さんが連れてきた人物が誰か気付いて、思わず声が漏れる。

 

「嘘でしょ……!」

 

「マ⁉ マ⁉」

 

お姉ちゃんとまりんさんもその衝撃にまた固まっていた。

私達の驚愕を他所に五条さんが手を引いて連れてきた人物を私達は良く知っている。

一部の“烈‼”ファンの中では『真のヒロイン』なんて言われている、颯馬お兄ちゃんの恋人の……‼

 

「サプラーイズ♪」

 

 

「「「朔夜君⁉」」」

 

 

い、今の声って……もしかして……⁉

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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