その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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今回はほぼ心寿ちゃん視点です。


第44話『その妹は恋をする』

元々コスプレに興味がない訳ではなかった。

生前、というか前の人生でもコスプレという文化は知っていたし、何より『着せ恋』という最高の作品の根幹にあたる要素だ。

ただ、実際にやろうと踏み込むほどの熱もなかった。『やってみたら面白そうだな』『でも実際やるのは大変そうだからいいや』……そんな程度のもの。

だけど、新菜や海夢ちゃんと出会ってそれが少し変わった。

コスプレをする大変さを、それでもする楽しさを知った。そして『いずれ機会があれば』という程度には熱が灯った。

それからジュジュ様や心寿ちゃんと出会い、心寿ちゃんの背中を押す為に言葉を送った。

 

『一歩だけ勇気を出して前に進んでみようよ』

 

その言葉が自分の内側にも響いているのを感じていた。

 

(俺の言葉で心寿ちゃんは勇気を出してコスプレに挑戦する)

 

なら、俺は?

また『いずれ』を待つのだろうか? そもそも『いずれ』は何時来るのだろうか?

 

(今がその『いずれ』なんじゃないか)

 

新菜は心寿ちゃんの為に時間と労力を割き、準備を手伝った。

だけど俺は原作知識を利用して小賢しく口を出しただけ。

それではダメだと思った。なんだか卑怯な気がして、心寿ちゃんに申し訳ないと思った。

 

(だから、俺は今思いつく事で心寿ちゃんの力になろう)

 

その思いで俺はコスプレをする事に決めた。

他にもっと方法はあったかもしれないけど、今の俺にはこれくらいしか思いつかなかった。

背中を押した。手も引いた。

なら今度は隣に立とう。

もし心寿ちゃんが初めてのコスプレで不安を感じた時に、一人じゃないと思えるように。

“烈‼”が大好きな心寿ちゃんなら、きっと喜んでくれると信じて。

その為にこっそりと新菜にライムで連絡して協力を仰ぎ、心寿ちゃんのコスプレの道具を揃えるのに紛れて自分の分も買い揃えた。

今朝なんか朝早くに新菜の家に行って基礎化粧やファンデを塗り、悪戦苦闘の末にカラコンも入れた。

 

(海夢ちゃんやジュジュ様の衣装だけでも大変だったのに、心寿ちゃんの手伝いもして、俺のサポートまでさせて……新菜には悪い事したなぁ)

 

カラコン入れる時なんて俺がビビッて顔動かしたりして大変だったし。

でも、親友のお陰で俺の準備も万端だ。

眼鏡を外して懐にしまう。薄暗がりの中でぼんやりとした視界で待つと、ガチャリと音を立てて扉が開く。

 

「守優、行ける?」

 

「ふーっ……大丈夫!」

 

俺は大きく深呼吸をしてから、自身を鼓舞するように力強く頷く。

初めてのコスプレだ。正直不安がないわけではない。

だけど俺よりも幼い女の子が、俺の言葉で勇気を出しているのだ。

 

(だったらカッコ悪いところは見せられないよな!)

 

俺は新菜に手を引かれて、笑顔で心寿ちゃん達の下へと向かった。

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

五条さんに手を引かれて現れたのはどこからどう見ても“烈‼”の朔夜君だった。

だけど、現れた時の声で私はすぐに分かった。目の前に立つ朔夜君の正体が月見里さんだと。

 

「は⁉ え、ちょ⁉ マ⁉ もしかして、月見里君⁉」

 

「せいかーい」

 

まりんさんが驚きにわなわなと震えながら指を差して言えば、朔夜君コスをした月見里さんはニコニコと笑顔のまま頷く。

お姉ちゃんは未だにまりんさんの隣で固まったままだ。

 

「てか、その目……! 月見里君、カラコンじゃん!」

 

確かにまりんさんの言う通り、月見里さんの瞳は朔夜君と同じ緑色で一目でカラコンを入れているのが分かる。

だけどそれってコスプレでは普通の事だし、別に驚く事でもないような……

 

「そっか、心寿ちゃんは知らないんだっけ。月見里君って目に物を入れるのが苦手らしくってさー。だからこれまでコンタクトとか一回も入れた事ないんだって」

 

疑問が顔に浮かんでいたのか、私の反応を見てまりんさんが教えてくれる。

そうだったんだ。目薬入れるのが苦手な人もいるって聞いた事あるし、月見里さんもそうなのかな。

 

「そうだったんですね。あの、大丈夫ですか?」

 

「違和感はあるけど、一回入れちゃえば平気……入れるまでが大変だったけど。なぁ、新菜……?」

 

「あはは……」

 

月見里さんの言葉に五条さんは曖昧に笑うだけ。その表情も苦笑いだし、想像よりも大変だったのが窺える。

そこまでコスプレをしてみたかったんだなと思ったところで、五条さんの言葉を思い出す。

 

『実は、守優に一つ頼まれ事をしていたんです。妹さんのコスプレの準備について『自分は口しか出せずに何も出来てないから、せめて別の事で乾さんを喜ばせたい』って……』

 

(私の、為……?)

 

私の為にわざわざ苦手な事をしてまで、喜ばせようとしてくれたのか。

勇気を出せるように背中を押してくれて、悩まないように導いてくれて、なのにまだ私の為に――

 

「心寿、あなた泣いてるの……?」

 

「え?」

 

お姉ちゃんが慌てながら呼び掛けてきた事で我に返る。

そこで初めて自分の瞳から涙が零れたのを理解した。

 

「心寿ちゃん⁉」

 

「大丈夫ですか⁉」

 

そんな私にまりんさんも五条さんも心配した様子で気にかけてくれる。

皆に心配をかけてしまうのが申し訳なくて、なんとか言葉を返そうと思うけど中々涙が止まってくれない。

 

「心寿ちゃん」

 

いつの間にか私の前に立っていた月見里さんが、不安そうな顔で私の様子を伺っていた。

いつもは分厚い眼鏡に隠れていた瞳が真っ直ぐに私の事を見つめている。

眼鏡を掛けていないからだろうか、私の様子を知ろうと今までにないくらい月見里さんの顔が近い事に驚いてしまい、そのせいか涙が引っ込んでしまった。

 

「大丈夫? 俺がコスプレしたのビックリしちゃった?」

 

「……はい」

 

「そっか、驚かせちゃってごめんね……良かれと思ってしたんだけど、あんまり嬉しくなかったかな?」

 

 

「っ、違いますっ‼」

 

 

困ったように笑う月見里さんに思わず大きな声を上げてしまった。

外で降る雨音が聞こえる程静かだった廃病院に私の声が響く。

 

「わ、私……嬉しかったんです……っ! ここまで手伝ってくれて、私の為に頑張ってれたのが……凄く嬉しかったんです……っ‼」

 

堰を切ったように言葉が出てくる。

お姉ちゃんやまりんさん、五条さんは私の事を驚いた様子で見ているけど、今はそれも気にならなかった。

私の前にいる月見里さんも最初は驚いていたけど、すぐに優しく笑みを浮かべて私の言葉に耳を傾けてくれた。

 

「だから……だから、あの時声を掛けてくれて……お手伝いしてくれて……私の為に、コスプレしてくれて……ありがとうございましたっ」

 

月見里さんに伝えたかった感謝の思いをぶつけて頭を下げる。

再び雨音だけが響く中で、頭を下げた視界で月見里さんがゆっくりと私に手を伸ばしてきたのが見えた。

 

「……心寿ちゃん、顔を上げて」

 

頬に触れそうで触れない、そんなギリギリの位置でウィッグの髪の毛に触れながら月見里さんが言う。

その言葉に顔を上げれば、変わらず柔らかい笑顔で私を見つめる月見里さんと視線が交わった。

 

「俺がコスプレをして、それで心寿ちゃんが喜んでくれたのなら良かった。それに正直に言うとさ、心寿ちゃんが勇気を出してコスしようって頑張ってくれたから、俺も決心がついたんだよ。だから……こちらこそ、ありがとう」

 

まさかの感謝の言葉を返す月見里さんはそのまま「よかったら、もっと近くで見てもいいかな?」なんて聞いてくる。

それに私は反射的に頷いてしまい、了承を得た月見里さんは更に顔を近付けてきた。

前に見た時とは違う、朔夜君と同じ緑色になった瞳が颯馬お兄ちゃんになった私を写す。

 

 

「――うん、やっぱりカッコいい。似合ってるよ、心寿ちゃん」

 

 

「……!」

 

月見里さんが笑みを深める。

その笑顔にドクリと自分の心臓が強く跳ねるのを感じた。

一度強く跳ねた心臓はそのままドキドキと早鐘を打つのを止めてくれない。

月見里さんの笑顔が、私にはとても眩しく見えて、目が離せなくて――

 

「……んんッ!」

 

「‼」

 

お姉ちゃんの咳払いに私は慌てて我に返る。

月見里さんもそれに気付いたのか少し気恥ずかしそうに「ごめんね」と一言謝りながら距離を取った。

……それが少し名残惜しく感じたのは内緒だ。

 

「あなたまでコスプレをしてきたのは驚いたけど……似合ってるわよ、月見里守優」

 

「ホンそれ! 心寿ちゃんもだけど、マジでご本人登場かと思ったもん!」

 

「ありがとうございます」

 

これだけ似合っているから心配はしていなかったけど、月見里さんのコスプレはお姉ちゃんから見ても納得の行く出来みたいだ。

横ではまりんさんが私と月見里さんを何度も見ながら興奮気味に力強く話し、かと思えばウットリとした顔で「二人とも顔がいい~」なんて呟いている。

 

「さぁ、時間も押しているしそろそろ撮影を始めましょう」

 

「はーい」

 

お姉ちゃんの号令にまりんさんが返事をして撮影が開始される。

二人を撮影しようとカメラを手に持つと、何故かお姉ちゃんにそれを止められた。

 

「何してるのよ、心寿。こっちに来なさい。月見里守優、あなたもよ」

 

「え?」

 

「俺もですか?」

 

私だけじゃなく月見里さんまで呼ばれ、二人揃って前に出る。

 

「お姉ちゃん、撮影始めるんじゃないの……?」

 

「そうよ。心寿、あなた達を撮影するの。可愛い妹のコスデビューの写真、撮らせてちょうだい?」

 

そう言ってお姉ちゃんは優しく私の手からカメラを取り上げながら微笑む。

姉の心優しい気遣いに嬉しさが込み上げ、私は思わず月見里さんの手を掴んだ。

 

「お姉ちゃん、ありがとう……! 月見里さんっ、一緒に撮影お願いしますっ!」

 

「う、うんっ」

 

月見里さんは何故か体を強張らせながらぎこちなく頷く。

だけど、私はそんな事は気にも留めず、どんな写真を撮るかに思いを馳せた。

 

(どうしよう、最初は普通に並んで撮ってもらったほうがいいかなっ……それとも、プリンセスデイジーとプリンセスリリィが戦ってるのを二人で見守るあのシーンとか……!)

 

颯馬お兄ちゃんと朔夜君の二人が揃っているシーンは好きな物が沢山ある。

元々お姉ちゃんとまりんさんの合わせだし、なにより二人の写真もいっぱい撮りたいから私と月見里さんはそう多くは撮影出来ない。

どうしようどうしよう、と贅沢な悩みに翻弄されていると“烈‼”の中でも屈指の人気シーンを思い出す。

 

「月見里さん、そこに立ってもらえますか?」

 

「……これでいい?」

 

眼鏡を外している為か少し慎重な足取りで、私が言う通りに窓際へと移動する月見里さん。

それを確認してお姉ちゃんに視線を向ければ、私がどんなシーンを撮りたいのか察したようでお姉ちゃんは小さく頷いて私と月見里さんの側面へと回り込む。

 

「?」

 

「……ハッ、もしかして……!」

 

五条さんは察しがついていないのか首を傾げているが、まりんさんはどうやら気付いたようだ。

慌ててお姉ちゃんと同じく私達の横へと移動する。

カメラを操作して準備が出来たところでお姉ちゃんが合図をくれた。

 

「準備出来たわよ、心寿」

 

「うん……じゃあ、やるね……っ」

 

こんな事、今まで一度もした事ないから緊張する。

私がやったって格好はつかないかもしれないけど、今の自分は颯馬お兄ちゃんになったつもりで意を決し、月見里さんへと近付いた。

 

「心寿ちゃん? これ、もしかして……」

 

ドンッ

 

慌てる月見里さんの言葉を遮るように、彼の顔の真横に手を突く。

そう、ファンの中でも人気の高いワンシーン。颯馬お兄ちゃんによる、朔夜君への――

 

「壁ドン‼ キタコレ‼」

 

まりんさんが黄色い歓声を上げながらスマホのシャッターを連射する音が聞こえる。

言葉を発してはいないけど、お姉ちゃんもきっとカメラのシャッターボタンを押してくれているだろう。

だけど、私はそちらには一切視線を向けずに月見里さんの事を見つめ続けた。

当の本人は驚いたまま固まって動かず、その表情は図らずも原作の朔夜君そっくりだ。

私の顔はどうだろうか。変な顔をしていないだろうか。

大好きなシーンを撮っている事や月見里さんの顔が近い事で表情が崩れそうになるのを、顔に力を込めて必死に抑える。

 

(今の私は颯馬お兄ちゃん……今の私は颯馬お兄ちゃん……)

 

キャラの雰囲気を壊さないように表情にも気を付けて撮影に臨むお姉ちゃんを思い出す。

カメラの前でらしくない顔をして、颯馬お兄ちゃんのイメージを壊さないように私は心の中で繰り返した。

 

「心寿ちゃん、大丈夫……?」

 

私の緊張が伝わったのか、少し落ち着きを取り戻した月見里さんがこちらを気遣う様に小声で呼び掛けてくれる。

どこまでも私を気にかけてくれるその優しさが嬉しいと同時に、私はまだ月見里さんに伝えられていない言葉があった事を思い出した。

 

「……月見里さん」

 

「?」

 

「月見里さんも……あのっ、似合ってます……」

 

違う。そうじゃない。

確かに似合っているけど、私が伝えたいのは別の言葉。

私の言葉に月見里さんは安堵と嬉しさが混ざったような笑みを浮かべている。

その表情を見つめながら、私は意を決してもう一度口を開いた。

 

「あ、ああ。ありがとう。心寿ちゃんも――」

 

 

「……凄く、奇麗……です……!」

 

 

『心寿ちゃん。好きな事を好きって言うのは、人によっては難しい事だけど凄く素敵な事だから……その気持ち、大事にしてね』

 

初対面の時、ファミレスで月見里さんに言われた言葉を思い出す。

今の私には直接思いを伝えるだけの勇気はないけれど。

それは素敵な事だって、あなたが教えてくれたから。

その思いを込めて私は月見里さんに言葉を贈る。

 

「…………へ?」

 

私に大切な事を教えてくれた想い人は、顔を真っ赤にしてこちらを見つめている。

そんな年上で優しくて頼り甲斐のある、お姉ちゃんのようにカッコいい人が今はとても可愛く見えた。

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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