その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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拙い作品にも関わらず数多くの方に気に入って頂けた事、本当に嬉しく思います。
これからも頑張って執筆していくつもりなので、応援よろしくお願いします!


第46話『その姉は妹の真意を知る』

「次はまりんさんだけで撮りましょう」

 

「おけまる」

 

俺の撮った写真で盛り上がった後、海夢ちゃんだけでの撮影をする為に心寿ちゃんと海夢ちゃんが階段を上っていく。

その際に心寿ちゃんがチラリとこちらを見たので手を振ると、心寿ちゃんは照れながら控えめに手を振り返してくれた。可愛い。

 

「五条新菜、月見里守優」

 

心寿ちゃん達の姿が見えなくなったところで新菜と揃って名前を呼ばれる。

 

「どうもありがとう。心寿に色々してくれて」

 

「いえ、そんな……」

 

「心寿ちゃんが勇気を出して俺達を頼ってくれたからこそですよ。気にしないでください」

 

ジュジュ様からのお礼の言葉にそれぞれ返す。

新菜はともかく、俺は本当に大した事はしていない。むしろ俺が心寿ちゃんにお礼を言う側だ。

俺達の反応に「そう……」と短く返したジュジュ様は、そのまま「話が変わるけど」と新菜の方へ視線を向けた。

 

「五条新菜、あなたあの子から材料費しか受け取ってないんじゃない?」

 

「……っ!」

 

ジュジュ様の指摘に新菜がギクリと体を震わせる。

黙っていた事がバレてしまった新菜は、気まずそうに苦笑いを浮かべた。

 

「やっぱり……交通費とか色々あるのに、あの子そこまで気付いてなさそうだもの。私が払うわ、ごめんなさい」

 

新菜の反応を見て自分の予想が当たっていた事を理解したジュジュ様は簡単な謝罪と共に不足分の支払いを申し出た。

まぁ、心寿ちゃんはこれまで撮影する側でコスするなんて初めてだからね。というか、ジュジュ様だって衣装の依頼は今回が初めてだろうに、よくそこまで気が回るものだ。本当にしっかりしている。

 

「お、お小遣いだと聞いてましたし……その、いいかなと……」

 

「駄目よ。お金の事はきちんとしなさい」

 

気遣いから来る新菜の言葉にジュジュ様はキッパリと言い切る。

材料だけでなくそれを集める為の交通費、衣装制作時の電気代と道具代、なにより大切なのが技術料。衣装を完成させた製作者の技術に対してもしっかりと報酬を支払う事は作ってくれた相手へのリスペクトだ。

これはコス衣装の制作に留まらない大切な話だと思う。それを新菜も理解したのか「……わかりました。後程計算して請求させていただきます」とジュジュ様の申し出を受け入れる。

 

「……まさか、喜多川海夢からも貰ってないんじゃないでしょうね?」

 

「だ、大丈夫です! ちゃんと頂いてますっ!」

 

新菜のお人好しな面を見て思い至ったのか、海夢ちゃんからも材料費しか貰っていないのかとジュジュ様が疑いの眼差しを向ける。

そのじとりとした眼差しに新菜慌てて弁明して海夢ちゃんを擁護した。

新菜の反応だけでは信用しきれなかったのだろう。そのままジュジュ様は俺にも視線を向けてくるが、事情を知っている俺が頷いて返し新菜の言葉が真実である事を示すとジュジュ様は「ならいいわ」と納得する。

 

「……心寿の事、気遣ってくれて本当にありがとう」

 

ふいにポツリとジュジュ様が呟く。

 

「私、あの子がコスしたい程颯馬君を好きだなんて知らなかったわ。私には何か言えない訳があったのね……姉失格ね……」

 

ジュジュ様の表情からは心寿ちゃんに話してもらえなかった寂寥感、そしてその妹の思いに気付けなかった自責の念が窺えた。

彼女がどれほど心寿ちゃんの事を想っているのか、その表情や声色からそれが伝わってくる。

 

「乾さんに問題があったわけではないと思います」

 

どこか悲しげに遠くを見つめるジュジュ様に新菜が語り掛けた。

新菜の言葉にジュジュ様が視線をそちらに向け、それに気付かぬまま新菜は「ただ……」と続ける。

 

「自分の好きなものややりたい事を人に言うのって怖いんですよ。勇気が必要なんです」

 

その言葉は優しくて臆病な新菜だからこそ分かる、穏やかな熱が宿っているように感じられた。

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

「俺がそうなんで……」

 

照れ臭そうに笑いながらそう締めくくる五条新菜。

隣では朔夜君コスを着た月見里守優が眼鏡の奥で優しい眼差しで彼の事を見つめている。

二人の様子から彼らがどれだけお互いを信頼しているのかが窺えた。

固い絆で結ばれている二人の様子に思わず笑みが零れるが、同時にそんな二人と自分達姉妹を比べてしまう。

 

「ジュジュさん」

 

「っ、なにかしら?」

 

突然月見里守優に呼び掛けられ、慌てて意識をそちらに向ける。

彼は五条新菜に向けていた笑顔を浮かべたまま、私へと語り掛けてきた。

 

「心寿ちゃんがジュジュさんに相談できなかったのは、ジュジュさんが頼りなかったわけじゃないですよ」

 

「……そうなのかしら」

 

確かに先程五条新菜が言った通り、自分の好きなものを曝け出すのは勇気のいる事だ。

しかし、それでも心寿は月見里守優や五条新菜にそれを打ち明けている。

私ではなく出会って間もない彼らに相談したのは、自分が信頼されていないのではないか……そんな風に考えてしまう。

 

「はい。むしろその逆……ジュジュさんが心寿ちゃんの事を大切に思っているように、心寿ちゃんもジュジュさんの事が大切だから言えなかったと思うんです」

 

まるで私の不安を見透かすように、そしてそれを理解した上でその不安をかき消すように月見里守優は続ける。

 

「大切な人だから、その人が大事にしているものを傷付けたくない……ジュジュさんがどれだけコスプレに真剣に向き合っているか誰よりも長く、誰よりも近くで見てきた心寿ちゃんだからこそ、ジュジュさんのそのこだわりを大切にしたかったんじゃないでしょうか」

 

「……!」

 

確かに私は常々自分のコスプレに対する姿勢やこだわりを心寿の前で語ってきた。

別にそれをあの子に押し付けていたわけではないけれど、私がそれだけ強い思いでコスプレをしてきた事をあの子は知っている。

だからあの子は私が大事にしているものを傷つけたくなくてコスプレを我慢して、それすらも隠していたのか。

 

「今回の合わせで心寿ちゃんが一番嬉しかったのは、颯馬コスが出来た事よりもジュジュさんにそれを受け入れてもらえた事、似合っていると褒めてもらえた事だと思います。だってそれは、大切なお姉さんの大事なものを傷付けずに済んだって事ですから……素敵な妹さんですね」

 

そう言って月見里守優が笑みを深める。

彼の隣で五条新菜も笑顔で私の事を見つめていた。

それがなんだか恥ずかしくて、思わず俯いてしまう。

 

(何を言ってるのよ……)

 

私の事を想ってくれているから、私を傷付けたくないから、我慢していたなんて。

大好きなキャラクターのコスプレが出来た事よりも、私にそれを褒めてもらえた事が嬉しいなんて。

 

(心寿が、素敵な妹だなんて……)

 

なんていじらしくて、なんて優しくて、

 

(あたり前じゃない……っ)

 

なんて愛しいのだろうか。

大切な妹からどれほど想われているのかを理解し、胸が熱くなる。

あの子がどれほど大切な存在なのか、私はそれを改めて理解した。

 

(そして、あなた達は私の大切なものをずっと……ずっと……大切に扱ってくれた……)

 

五条新菜。そして、月見里守優。

 

(あなた達は本当に……)

 

 

「素敵だわ……」

 

 

「何か言いました?」

 

「いいえ、何も……聞こえてなくていいのよ……」

 

五条新菜の問いに私は素っ気なく返す。

そう、聞こえていない方がいい。

心寿の姉として、カッコ悪いところは見せられないもの。

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

「次、ゆっくり目線お願いします」

 

カメラを構えながらまりんさんにお願いすれば、まりんさんが無言でゆっくりと振り返りながら視線をこちらに向けてくる。

凛々しく鋭ささえ感じる眼差しや落ち着き払った動作はブラックロベリアのイメージ通り厳かな雰囲気を纏っていた。

 

カシャッ カシャッ カシャッ

 

その素敵な姿を逃さないように、シャッターを切り続ける。

レンズの向こうでまりんさんが扮するブラックロベリアがこちらに軍帽のブリムを押さえながらこちらに向き直ったと同時に、小さな隙間風が吹いて銀色の髪を泳がせた。

逆光ゆえに影を帯びた表情と物憂げな瞳に思わず目を奪われる。

今私の目の前に立っているのは本当にまりんさんなのだろうか? それともブラックロベリアが実体化しのだろうか?

そんなありえない疑問が脳裏に過ぎる程、まりんさんの振る舞いは完璧だった。

 

「……――わぁ……っ」

 

思わず感嘆の声が漏れる。

凄い……! お姉ちゃんに負けないくらい……!

 

「今っ、凄くいいの撮れました……!」

 

「マ⁉ 見せて見せて‼」

 

まりんさんがぱっと顔を明るくさせながらこちらに身を寄せる。

一瞬で雰囲気が切り替わる姿に驚きつつ、私はカメラのモニターを見せた。

 

「はいっ、どうぞ!」

 

「ありがとっ! うわ、マジすご……! めっちゃいいじゃん!」

 

モニターに映る自分の写真を眺めながら「心寿ちゃんやっぱ撮るの上手!」「やば、くっそニヤける~!」なんて嬉しそうに声を上げるまりんさん。

そこまで喜んでもらえるなんて写真を撮ってよかった、なんて思っていると何故かまりんさんが急に静かになり私の事を見つめている。

 

「……あの、まりんさん? どうかしましたか?」

 

「……ねぇ、心寿ちゃん」

 

「は、はい……」

 

まるで私の瞳を覗き込むように顔を近付けてくるまりんさんに思わず身構える。

まりんさんは撮影中の雰囲気とは一変し、目を輝かせながら私に一つの質問を投げかけてきた。

 

 

「心寿ちゃん、月見里君の事好きなの?」

 

 

「……え? ぇ、え……っ?」

 

まりんさんの言葉に一瞬思考が停止し、その言葉の意味を遅れて理解したと同時に顔が熱くなるのを感じた。

今自分の顔がどれほど赤くなっているのか容易に想像出来てしまい、それがまた恥ずかしさを助長させる。

それよりも、なんでバレたんだろう……!

 

「な、なんで……ですか……っ?」

 

「なんとなくかなー。なんて言うか、月見里君の事見てる時の心寿ちゃんがキラキラしてたってゆーか……!」

 

(そ、そんな理由で……⁉)

 

それほど分かりやすかったのだろうか?

もしかして、月見里さんにもバレてたりするのかな……⁉

私の不安を他所にまりんさんが「で! どうなの⁉」と勢いよく詰め寄る。

 

「えっと、あの……っ」

 

思わず言葉に詰まっていると、ミシッと小さなが聞こえた。

 

ミシ ミシ 

 

「……? 何の音……」

 

ミシ ミシミシ ミシッ

 

まりんさんが音の出所を探るように視線を動かし、ある一点で止まると途端に顔を青褪めさせる。

彼女が見ているのは……私の……胸? 

 

「……⁉ 心寿ちゃん……な、なんか……胸が膨らんできてるん……だ、け……ど……っ」

 

ぶちっ パンッ

 

何かが千切れ弾けるような音と共に訪れる解放感。

 

「ぎゃーーっ!」

 

「Bホルダーが壊れたー‼」

 

まりんさんと私の悲鳴が廃病院に響き渡り、予想外のハプニングに私もまりんさんも慌てふためく。

その後、それまでの会話なんて忘れて私達は月見里さん達に助けを求めに走り、初めての事だらけの合わせは騒々しいまま幕を引いた。

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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