ジュジュ様と心寿ちゃんとの合わせから数日経った。
俺達が通う高校は終業式を終え、待ちに待った夏休みに突入。
当時は長期の休み特有の宿題の多さに辟易してたけど、社会人を経験した後だとそれを加味してでもこの休みが如何に素晴らしいものなのかが分かる。
前世では毎日の激務に追われながら『学生時代に戻りたい』なんてぼやいていたものだが、それが想像の斜め上を行く神掛かり的転生で叶うとは思わなかった。
「あっ、あ! 喜多川さ……っ、ちょっ、待っ……強っ……あっ!」
『K.O.』
「あぁぁ~~……また負けた……」
自分の数奇な運命とそれを辿る事が出来る幸運を噛み締めながら、俺は新菜と海夢ちゃんの対戦を眺めている。
推しカプが俺の目の前で仲良くゲームしてる姿が尊いし、海夢ちゃんに一方的にやられて情けない声出してる新菜も可愛くて無理。
そう、何を隠そう俺は海夢ちゃんの家にお邪魔している。
理由は海夢ちゃんが新しく衣装を依頼する元となるキャラクターを新菜に知ってもらう為だ。
本来であれば俺は必要ないのだが、家主である海夢ちゃんから誘ってもらった事もありお邪魔させてもらっている。
正直、漫画やアニメでしか見た事がなかった推しの部屋に招かれ、俺の内心はテーマパークに来たみたいでテンションが爆上がりしていた。
「格ゲー楽しいでしょ⁉ どう⁉」
「初めてなので難しいです……操作方法見ながらでないと……」
「確かにこういう系統の格ゲーはコマンドの入力難しいよな」
二人が遊んでいるのは対戦型格闘ゲーム『KILLING GIGS』。登場キャラクターの露出度や世界観等が理由で対象年齢制限はあるが、アニメ・ゲーム好きには結構有名な格ゲーだ。
技が豊富な分操作が複雑で、確かにこれまでゲームに触れた事がない新菜が初めて触るには少々ハードルが高いようにも思う。
「月見里君は格ゲーとかやるの?」
「全然やるよ。なんなら俺も『KILLING GIGS』持ってるし」
「マジ⁉ やろやろ!」
「守優、俺代わるよ」
「サンキュー」
俺が経験者だと知ると海夢ちゃんが対戦に誘ってくる。
同時に新菜が快く交代を申し出てくれたので、俺はお言葉に甘えてコントローラーを受け取った。
「月見里君はヴァネッサ様使うんだ~」
「他にも色々使うけどね。でも一番やり込んでるし、持ちキャラが誰かって言われたらこの子かな」
「そういえば、以前のコスプレイベントでこのキャラクターのコスプレされてる方がいましたね」
俺のキャラ選択を見て海夢ちゃんが意外そうな声を上げる横で、新菜が初めて参加したコスイベでの事を思い返す。
「あー、あのおっぱい超デカい人⁉」
「お……っ」
「喜多川さん、直球過ぎ」
「え~? でも実際めっちゃデカかったじゃん! てか、あの人めっちゃ似合ってて良かったよね~」
真っ先に胸の大きさに触れるのはどうなんだ?
でも実際デカかったしな。そして彼女の言う通りとても似合っていた。
なんなら撮影お願いしたし、後日海夢ちゃんに見せて滅茶苦茶羨ましがられた。
「それにしても、登場人物は物騒な人ばかりですね。殺し屋に悪徳警官にヤクザ……」
「そっち系の人集めてどっちが勝つかって金持ちが賭けしているってやつだからさー。ちゃんと全員性格も終わってるの良くない?」
(良く)ないです。
しかし、ゲーム自体はとても良く作り込まれていて遊び甲斐のあるゲームだ。
「でも意外です。喜多川さんはこの『
新菜がキャラ選択画面に映る少女を見ながら言う。
三國は雫たんと同じ黒髪、クールな表情と雰囲気はブラックロベリアに近いものを感じる。
しかも三國自身もポニテや臍出し、エグいスリットから覗く網タイツの脚等あらゆる癖が詰め込まれている。新菜が予想していた通り、海夢ちゃんがこのキャラクターが好きでも全く違和感はなかった。
「分かる~、黒髪だしねー。けど~~、こっち~~みたいな」
海夢ちゃんがキャラクターを選択し、双方の登場シーンへと画面が移行する。
「出た~~っ‼ めっっっちゃいい‼ 最っっっ高~‼ ここ見たら即落ちでしょ~‼ ベロニカたゃ~~♡♡♡」
推しキャラの登場シーンに海夢ちゃんが沸く。
隣では新菜が「たゃ……?」と若干困惑しており、俺に視線を向けてきたがオタクとはそういうものなのだと俺は小さく頷くだけに留めた。
「褐色‼ ギザ歯‼ ジト目‼ 顔が天才‼ あと下乳‼ とりあえずマジで下乳が良すぎる‼」
海夢ちゃんは興奮気味にベロニカの良さを挙げていく。
こうして聞いているとベロニカも中々に性癖の詰め合わせだ。良き。
登場シーンでベロニカの動きに合わせて揺れる彼女の胸を、海夢ちゃんはキラキラと目を輝かせて見つめていた。
「健康的な下乳を見ると健康になれるから最高‼」
(どういう事だろう……)
「分かる」
(俺には分からない……‼)
海夢ちゃんの言葉に俺はまた頷く。
新菜は海夢ちゃんや俺の言葉についていけないようで若干困惑気味だ。
「先手必勝!」
「あっ、喜多川さんズル……!」
お互いにベロニカの下乳の良さを再確認していたところでまさかの不意打ち。
既に試合は始まっていたし、特に示し合わせていたわけではないけど……!
俺は慌てて応戦し、俺と海夢ちゃんの戦いが始まった。
「……このゲーム出たの中一のちょーどテスト前でさ~、あたし最初全然普通に弱くてー」
ガチャガチャ、カチカチとコントローラーが騒がしく音を立てる中、海夢ちゃんが語り始める。
「でもベロニヤたゃの動き全部観たいし、エピソードも知りたいから一人で2P対戦にして練習して……」
「あの……」
「コンボ練習とかクソ楽しくてやりまくったら……結果テスト全然出来なかったのマジ笑った!」
「えっと、喜多川さん……」
当時の事を思い返して笑う海夢ちゃんに、新菜は青褪めた顔で画面を指差す。
「そのベロニカたゃがずっと攻撃されてるんですけど、いいんですか……?」
「だってハメられて全然動けないんだもん‼」
若干キレ気味で吠える海夢ちゃんの言う通り、現在俺は海夢ちゃんのベロニカ相手に壁ハメを行っていた。
ベロニカは攻撃とスピードに特化している分、耐久面がやや弱い。あっという間に体力が削れていく。
『K.O.』
「よし勝った!」
「マジで手も足も出なかったんですけど! リアルで
俺がしっかりとやり込みの成果を見せて完勝すると、海夢ちゃんは敗北を悔しがりつつも俺が見せたコンボに興奮を隠せない様子だった。
負けてもそれを受け入れて楽しくゲームを出来るのはマナーだし、ある意味才能だ。海夢ちゃんのこういう一面も彼女の良い所だと思う。
「
新菜が海夢ちゃんの口からこの場にそぐわない単語が出てきた事に首を傾げる。
「格ゲーでは画面端の事を『小屋』とか『ハウス』って言って、そこから画面端に追い込んでそこから逃がさずにコンボを入れ続ける事を指すんだよ。で、ヴァネッサはナースだからそれに合わせて
「なるほど」
「ねーねー! 月見里君、もっかいやろ! リベンジ!」
俺が新菜に解説している間にキャラ選択を終えた海夢ちゃんが再戦を申し込んでくる。
こちらとしては新菜にも楽しんでほしいのだが、視線を向けると「俺は見てるだけでも楽しいから大丈夫」とニコリと微笑むので俺は海夢ちゃんの申し出を受ける事にした。
「よーし! 次は勝つぞー! あたしとベロニカたゃと絆見せちゃうんだから!」
海夢ちゃんが力強くコントローラーを握りながら意気込んだ。
先程話していた通り、ベロニカへの愛で相当やり込んでいるのが分かる。
しかし、初心者ならいざ知らずやり込んでる経験者に手加減する程俺は甘くないのだ。
『K.O.』
「あともうちょっとだったのにー! もう一回!」
『K.O.』
「むぐぐ……! もう一回!」
『K.O.』
「あ゙~! 勝てない~‼」
怒涛の三連敗を喫した海夢ちゃんが頭を抱える。
「ごじょー君! 月見里君が苛めるんだけど~!」
「えぇっ⁉ ちょっ、喜多川さん⁉」
わざとらしい泣き真似をしながら隣に座る新菜に縋る海夢ちゃん。
想い人に密着されて顔を真っ赤にした新菜は、海夢ちゃんを引き離して良いのか葛藤するように両手をワタワタと動かす事しか出来ない。
(推しカプのイチャつき見ながら食うピザうめ~)
俺はそんな二人を肴にピザを頬張った。
あ~、推しの絡みが間近で見れて脳味噌蕩ける~。
「き、喜多川さんっ。次に作る衣装はベロニカたゃでいいんですよね……⁉ この衣装なら、すぐ作れると思います……っ‼」
「マジ⁉」
海夢ちゃんと密着しているせいで挙動不審になりながら、新菜はなんとか衣装制作が可能である事を伝える。
そんな新菜の返事に海夢ちゃんはガバッと顔を上げて聞き返した。
先程の噓泣きから一変して花が咲いたような笑顔で新菜を見つめ、それに新菜は再び顔を赤くしながら「は、はい……っ」と上擦った声で返す。
「で、でも肌の色はどうしましょうか? レタッチ試してみます?」
「それいー! 肌の色変えれるんだっけ!」
そこから自然と次のコスプレについての相談が始まり、俺は二人の邪魔にならないようやりとりを眺めながら再びピザを一切れ手に取った。
わかまりのやり取りを特等席で見ながら食べるピザ、最高やな。
俺がニマニマと笑いながら眺めている事にも気付かず、二人は画面に映るベロニカの姿を見ながら衣装について話を詰めていく。
「すみません、お手洗いお借りします」
大まかに方針を決めたところで新菜が席を立つ。
トイレに向かう新菜を俺と海夢ちゃんが揃って「いってら~」と見送り、図らずも二人きりとなった。
さて、新菜が戻ってくるまでどうするか。
また対戦をしてもいいし、ゲームやコスプレについて語ってもいい。
海夢ちゃんは推しであると同時に貴重なオタク仲間だ。語りたい事はいくらでもある。
まずは『KILLING GIGS』のキャラクター達の魅力について熱く議論でも交わそうか。
そんな事を考えながら俺は食べかけていたピザの残りを口に詰め込む。
「あ、そういえば月見里君って心寿ちゃんの事どう思ってるの?」
「んぐぅッッ⁉」
なんで今⁉ 全然脈絡なかったんだけど⁉
突然の爆弾に言葉と喉が詰まる。
俺は慌てて目の前に置かれたコーラに手を伸ばし、自身の中へと流し込んだ。
「~~ッ、ぷはっ! はぁ……はぁ……」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫……」
本当は全然大丈夫じゃないけど、なんとか言葉を返す。
海夢ちゃんめ、なんてタイミングでぶっこんでくるんだ。
「それでそれで⁉ 実際のトコどーなの⁉」
当の本人は目をキラキラと輝かせて距離を詰めてくる。
顔の良さとギャル特有の距離の近さに顔が熱を帯びるのを感じた。
これで俺の事をただの友人位にしか思ってないのだろうからズルい。
俺がわかまりガチ勢で海夢ちゃんの事を推しとして見ていなかったら危ないところだ。
「…………いい子だとは思うよ」
ゆっくりと海夢ちゃんから距離を取りつつ、正直に答える。
「可愛くて優しくて、自分に自信がないけど好きな事には一生懸命で……本当に、素敵な子だと思う……」
誤魔化そうと思えばいくらでも誤魔化せるが、それは心寿ちゃんに対して失礼だろう。
だからこそ俺は、自分が如何に情けないかを自覚しつつも正直に自分の思いを吐き出し続ける。
「あんなに魅力的な子に好意を向けられるのは嬉しいけど、それ以上に『俺なんかじゃ釣り合わない』って思っちゃうんだ……」
俺なんて皆に内緒でズルしているだけの、アラフォーのおっさんだ。
心寿ちゃんの純粋な想いを向けてもらえる程の価値があるとは思えない。
「っ、そんなこと――!」
「ありがとう。でも、この不安はそう簡単には拭えないよ……」
「月見里君……」
海夢ちゃんが咄嗟に否定しようとしてくれる事は嬉しいし、自分のせいで推しにそんな顔をさせてしまう事に申し訳ない気持ちになるが、俺は自分の発言を翻す気はない。
心寿ちゃんは中学生。まだまだ未来のある若者だ。
そんな彼女がズルして好感度上げたような奴に恋をしてしまい、そのせいで人生が狂わされていいとは思えない。
「……でも、それが俺の独りよがりな考え方だっていうのも分かってる」
そう。この考え方もまた心寿ちゃんの想いを踏みにじる行為と言える。
あの日勇気を出して俺に言葉を送ってくれたあの子に対して無礼な行いだ。
「だから、まずは友達から……始めようと思う……」
「!」
心寿ちゃんが俺に歩み寄ってくれたように、俺からも歩み寄ろう。
「連絡取り合ったり、一緒に遊んだり……それでお互いを知っていこうと思う……」
それを積み重ねて、心寿ちゃんの俺に対する恋心が冷めてしまえばそれまでだ。
哀しいが、受け入れるしかないだろう。
そして、それまでに俺は自分の中で答えを見つけなければいけない。
彼女の想いを受け入れるのかどうかを。
「……やっぱり、ズルいよね。こんなの」
心寿ちゃんの気持ちに気付いていながら、自分に自信がないから保留にする。
なんとも情けない話だと我ながら思う。
「――そんな事ないよ」
しかし、海夢ちゃんは優しく笑いながら俺の言葉を否定した。
「月見里君は心寿ちゃんの事を大事にしたいんだって伝わってくる。きっと、心寿ちゃんにも届いてるよ!」
「……ありがとう、喜多川さん」
海夢ちゃんが拳を握りながら俺を激励してくれる。
その力強い言葉に本当にありがたかった。
「お互いに頑張ろうね、月見里君!」
「……うん!」
心寿ちゃんの想いに応えるにはまだ覚悟が足りないけれど、今はこれが俺に出来る精一杯だから。
まず、友達から始めよう。
まず、お互いを知ろう。
少しずつ、歩み寄った先に光があると信じて。
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原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について
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内容的に違和感がなければ登場してほしい
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登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
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執筆者の自由にしたらいい
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原作準拠であまり出さないでほしい