その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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今回は最初から最後まで新菜視点です(


第4話『その転生者は注意する』

念のために被服準備室の扉から背を向けて立ち、待つこと数分。

 

「ごじょー君、月見里君、入っていいよ」

 

扉の向こうから喜多川さんの声が聞こえ、俺たちは再び準備室へと入った。

俺たちを出迎える喜多川さんはさっきまで着ていた制服姿から一変して黒い衣服に身を包み、どこか恥ずかし気にこちらの様子を伺っている。

 

「……まだ、と、途中だよ? 途中なんだけど……これ、あの……どーかな?」

 

……?

 

「どう……とは……? なんの格好ですか……?」

 

彼女の言っている意味が分からず、俺はただ聞き返すことしかできない。

隣に立つ守優も無言のまま、ただじっと喜多川さんのことを見つめている。

そんな俺たちに喜多川さんが差し出してきたのは、自身のものと思われるスマホ。

そこには黒いドレスに身を包んだ美少女が映し出されていた。

 

「え~っとぉ、そ~……その服を作った~…………みたいな?」

 

あたしが。

最後にぼそっと呟いて締めくくる喜多川さんの言葉に俺は衝撃を受ける。

彼女は本気で言っているのだろうか?

念のために俺は一度だけ確認する。

 

「……冗談ですか? ふざけてます?」

 

「へ? ふざけてないよ? 真面目に作ったし……っ」

 

喜多川さんは本気らしい。

でも、俺にはそれが信じられずにいた。

 

「いや、だって! 狙っても普通ここまで下手に出来ませんよ‼」

 

だってこの服は基本のキから出来ていない!

お雛様の服を作るためにいろいろ勉強して、練習してきた俺からしてみれば信じられないことばかりだ!

 

「よくわからないんですが、まずなんで裏地がないんですか? それ、裏地が必要な布ですよね?」

 

「裏……? 裏って?」

 

「そこから分かってないんですか⁉ 信じられない……‼」

 

「おい、新菜」

 

「失礼します! ……やっぱり。返し縫いも全然してないし、シワになってる‼」

 

「新菜、落ち着け」

 

「あっ‼ 下糸ないじゃないですか‼ これじゃ縫った事になりませんよ‼」

 

「…………」

 

「縫い代は? 忘れてますよね⁉ うわっ、も~~、どうしてここダイヤル変えてるんですか‼ それと――」

 

「新菜っ!」

 

「う゛ッ‼」

 

喜多川さんの作った服について指摘をしていると横腹に肘打ちが叩き込まれ、俺は呻き声が漏れた。

その痛みに座り込みつつ、隣から肘を叩き込んできた守優へと視線を向ける。

 

「な、なにするんだよ、守優……」

 

「ん」

 

なにを怒っているのか、守優は眉間にシワを寄せて俺を睨みつけながら、顎で前を見るよう促してくる。

それに従い顔を向けるとそこには涙を堪えながら震える喜多川さんがいた。

一瞬で自身から血の気が引くを感じつつ、俺は反射で土下座して精一杯お詫びする。

 

「調子に乗って申し訳ございませんでした……‼ 殺してください……‼」

 

「ちょっ、はぁ~~~~っ⁉ 何してんの‼ やめてよ‼」

 

「あっ、あああ、あといくら程支払えばよいでしょうか……‼」

 

「いいよ、いらないって‼ 全然怒ってない‼ 怒ってないから‼」

 

喜多川さんが慌てて俺を止めるが、そう簡単に頭を上げるわけにはいかない。

俺がいつまでも土下座しているせいか、喜多川さんが「あ~」とか「もうっ」とか狼狽えているのがわかる。

 

「月見里君っ、月見里君からも言ってあげてよ!」

 

「わかった。おい、新菜……セプクだ! セプクしろ‼」

 

「そうじゃない‼ てか、セプクってなに⁉」

 

喜多川さんがまた声をあげる。俺も分からない。セプクってなんだよ、守優。

二人とも困惑しているのがわかったのか、守優は咳ばらいをすると「冗談はさておいて」と前置きをすると俺の頭を軽く叩いてきた。

 

「痛っ」

 

「新菜、お前は自分が一生懸命作ったものが否定されることがどれだけツラいか分かる人間だろ。さっきのは本気で反省しないといけないやつだ」

 

「……うん。喜多川さん、本当にすみませんでした」

 

守優に言われてハッとした。

そうだ、さっき俺がしたことは物作りに携わる人間として最低なことだ。

土下座したまま、もう一度俺は喜多川さんに謝罪する。心の底から、誠意をもって。

 

「……いいよ、気にしてないから。だから顔上げて、ごじょー君」

 

喜多川さんに言われて、俺はゆっくりと顔を上げた。

 

「喜多川さん、ごめんよ。今のはコイツが完全に悪いけどそれだけ衣装作り、というか雛人形に人一倍本気なんだ。さっきのアレコレはその熱意からくるものだって思ってあげてほしい」

 

俺の隣で守優が頭を下げた。

ボソッと「お前も」って聞こえて、俺も合わせてもう一度頭を下げる。

 

「うん、ごじょー君がそれだけマジなんだって伝わったし。だから本当に大丈夫」

 

喜多川さんの言葉を受けて今度は二人揃って顔を上げた。

俺たちの謝罪を受け、会話に一区切りつくと「それでね」と喜多川さんが続ける。

 

「あたしが着てるこれなんだけど……」

 

喜多川さんは窓の方へと歩くと、着替えるために一度閉めたのであろうカーテンを一気に開いた。

夕日の光が部屋へと差し込み、それを背にするように喜多川さんが俺たちへと向き直る。

 

「これはあたしが――コスしたくて作ったの!」

 

誇らしげに、胸を張って言う喜多川さん。

その真っ直ぐな姿に俺は一瞬目を奪われつつ、聞きなれない単語を聞き返す。

 

「コス……?」

 

「そう、コスプレ! あたしねっ、漫画とかアニメとか、あとゲームのキャラと同じ格好がしたいの!」

 

喜多川さんは目を閉じ、そのコスプレというものに思いを馳せながら語り始める。

 

「コスってね、推しへの想いを全力でアピれんのよ! 凄くない⁉ それってもう、究極の愛じゃん♡」

 

力説する喜多川さんの衣装の裾が彼女の動きによってふわりと上がった。

そうして僅かに見えた、喜多川さんの、下――

 

「ごじょー君、聞いてる?」

 

「ッ、はいっ! 聞いてます、すみません!」

 

事故とはいえ見てしまった後ろめたさから、思わずまた土下座してしまう。

そんな俺に構わず、喜多川さんは自身が纏う衣装を見ながら苦笑いを浮かべた。

 

「うち、ミシンないから放課後ここで作ってたんだけど、でもこんな感じでかなりヤバめだし、周りに裁縫得意な人いなくてー……その……」

 

そこまで言うと、喜多川さんは数秒の間を置いた後、何かを決意したよう顔で俺へと近付いてくる。

そして俺の前にしゃがみ込むと、俺の手を掴んで言った。

 

 

「ごじょー君‼ あたしにコス衣装作ってくれないかな…⁉」

 

 

俺の手を掴む喜多川さんの手は、震えていた。

 

「無理なら……無理って言ってくれればいいんだけど……」

 

その震えが彼女がどれだけ本気なのか物語っている気がした。

理想に近付けず、だけど助けてくれる人もおらず、孤軍奮闘した彼女の苦労はどれ程のものだったろう。

 

「あのっ、あたしねっ、もう自分じゃどうにも出来なくて……でも、どうしても雫たんに……大好きだからなりたいの! お願い、ごじょー君……っ」

 

神にでも願うような声から彼女の必死さが俺に伝わってくる。

光明も見えずたった一人で闇雲に藻掻いていた時、希望の光が差した彼女はどれだけ嬉しかっただろう。

 

『すっごーーーーい‼ ごじょー君、ミシン出来る人なの⁉』

 

俺がミシンを扱えると知って驚いていた顔が、

 

『わーー……めっちゃキレーじゃん……っ!』

 

雛人形を見て、目を輝かせていた顔が、

 

『人の好きなものバカにすんなよってなるでしょ』

 

自分の好きなものを大切にするがゆえに怒った顔が、

 

『自分の気持ちは、自分の為に言わなきゃダメだよ』

 

俺に大切なことを思い出させてくれた顔が、脳内に蘇る。

俺に、出来るだろうか。彼女の力になることが出来るだろうか。

 

「やってあげなよ、新菜」

 

今まで静かに見守っていた守優が口を開く。

 

「新菜なら出来るさ。お前の実力は俺がよく知ってる。その腕と人の想いを大切にできる優しい心を持った新菜なら、絶対に出来る。親友の言葉を信じろ!」

 

ニッと歯を見せて笑う守優。

その笑顔と言葉に、俺は心を決めた。

 

「分かりました。ヒト用は作った事がないので上手くいくか分かりませんが、出来るだけやってみます」

 

頼まれたから仕方なくじゃない。

俺がそうしたいから、そして“親友”が背中を押してくれたから。

 

「……マジ? いいの?」

 

「はい」

 

俺は、喜多川さんの力になりたい。

 

「~~~~ッ、やった~~~~‼ やったやったやった~~‼ ヤバい嬉しっ……マジで嬉しいんだけど……っ‼」

 

感極まった喜多川さんは、飛び跳ねたり、室内を走り回ったり、泣き出したりと大忙しだ。

 

「喜多川さん、嬉しいのはわかるけどあんまり走り回ったりしたら危ないよ」

 

横で守優が笑顔で優しく諫める。

あ、よく見たら目を閉じてる。たぶん不意に見てしまうのを防いでるんだろう。

 

「嬉しい~っ、雫たんになれる~っ! え~~ん、ガチで涙出てきた……っ」

 

守優の声が聞こえていないのか、それとも聞こえてはいるけど嬉しい気持ちが抑えられないのか。

喜多川さんは踊るように駆け回る。そんな彼女を見て改めて思う。

自分とは真逆の世界で生きているような彼女と、こんな約束をするなんて。数日前の自分には想像もつかなかった。

それにしても、凄い喜び様だ。

 

「あっ、あたしにも出来ることはするからっ。出来ることは少ないけどっ」

 

「いやいや、喜多川さん。そういう自分の出来ることは自分でやろうとするって気持ちは凄くいいと思うよ」

 

「あははっ! てか、月見里君もありがとねっ。色々気遣ってくれて! 神対応!」

 

出来る限り頑張ろうとする姿勢を肯定する守優に、喜多川さんは笑顔で礼を言う。

そういえば、彼女が着替えようとする時に部屋を出たり、今思えば俺が服の指摘をしている時も何回も止めようとしていた。

守優のそういう気配りが出来るところは素直に尊敬する。俺も気を付けないと。

 

「どういたしまして。それにしても、まだ作り始めてないのに凄い喜ぶじゃん。新菜、話受けてあげてよかったな」

 

「うん。喜多川さん、そんなにその人になりたいんですね」

 

「だって滅茶苦茶尊いんだもん――」

 

喜びを隠せない喜多川さんは涙を目に浮かべたまま言う。

 

 

「『(セイント)♡ヌルヌル女学園お嬢様は恥辱倶楽部ハレンチミラクルライフ2』の黒江雫たん!」

 

「なんですって?」

 

 

「ぶはッ‼」

 

何故か守優は横で笑いを堪えきれず噴き出していた。

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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