その転生者は見届ける   作:街中@鈍感力

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第50話『その頭師見習いは理解する』

「ごくっ……ごくっ……っっはぁ~~~っ! うま~~~っ!♡」

 

あれからなんのハプニングもなく、海夢ちゃんが風呂を終えて俺達三人は新菜の部屋に移動していた。

風呂上りに用意していた麦茶を海夢ちゃんが美味しそうに一気に飲み干す。

 

「お風呂ありがとー、さっぱりした~♡」

 

「いえ……」

 

「喜多川さん、おかわりいる?」

 

「大丈夫、ありがとっ」

 

俺が普段と変わりなく海夢ちゃんと会話する横で新菜は頬を赤らめ、どこかぎこちない様子を見せる。

まぁ、海夢ちゃんが今来てるのは新菜の体操着だしね。

所謂彼シャツ、しかも自分と同じ匂いがするという何気にグッとくる要素もプラス。耐性のない新菜がドキドキしてしまうのも仕方がないのかもしれない。

 

(仮に俺の体操着を心寿ちゃんが着たら同じような反応しちゃうのかな……)

 

ふと考える。

もし、心寿ちゃんが俺の体操着を着たら……

スタイル抜群な心寿ちゃんが、彼女より身長の低い俺の体操着を……

 

(……うん、これはだいぶ犯罪的だな)

 

目の前に座る海夢ちゃんと比べてあまりにも暴力的だ。

頬に熱が溜まるのを感じたので思考を振り払う。

 

「二人とも顔赤くない?」

 

「えっ! き、気のせいでは……」

 

「そうそう、気のせい気のせい」

 

俺達が揃って顔を赤くしているのに気付いた海夢ちゃんがそれを指摘するが、新菜も俺も適当に誤魔化す。

海夢ちゃんはそこまで気にしていないのか「ならいーけど」とあっさり話題を移し、自身の荷物を漁り始めた。

 

「てかさー、見てくんない? さっき塗ってた黒肌ファンデと白のカラーマスカラ!」

 

「これでベロニカたゃのまつ毛も出来るよ!」と嬉しそうに紹介する海夢ちゃんからファンデとマスカラを受け取った新菜は興味深そうにそれを見つめる。

 

「あー、これが……すみません、細かい物を買いに行ってもらって……」

 

「全然いーよ。てか今回必要なメイク道具とか割と目星ついてたし。買い物ぐらいしか手伝えないから分担分担!」

 

申し訳なさそうに礼を言う新菜に対し、海夢ちゃんはむしろ嬉しそうに言葉を返す。

以前ブラックロベリアのジュエル等を作っていた際にも話していたが、こういうところで手伝えるのが嬉しいのだろう。

 

「しかもこのファンデ、ウォータプルーフでめっちゃ優秀~」

 

「そういえばここに来るまでに汗かいてたけど、全然落ちてなかったよね」

 

滝のような汗をかいていたにも拘らず、それに流される事なく保っていたのを思い出す。

今回のベロニカは勿論、もし今後他の褐色キャラのコスプレをする機会があればこのファンデの情報が非常に有益だろう。

 

「あと鎖っ! これハロウィンコーナーで800円だったんだけど~! ()っす~!」

 

ジャラリと音を立てながら取り出した鎖を伸ばして見せながら海夢ちゃんが笑う。

「見た目重そうなのに軽くてビビる」と海夢ちゃんが言う通り、重厚感のある色合いに反してとても軽い。

最近のグッズは安価でも結構クオリティ高いだなぁ。

 

「もう付けちゃお」

 

「いや、流石に付けるの早いし、それ二度手間にならない?」

 

「え、なんで?」

 

自分の足に鎖を取り付けようとする海夢ちゃんに言葉を掛けると、海夢ちゃんはキョトンとした顔で俺の事を見つめてきた。

 

「だってこの後着替えたりファンデ塗ったりするんでしょ? その時に邪魔になるし、なにより何か咄嗟に動く時に付けたままだと危ないよ」

 

「確かにっ。そこまで考えてなかったわ~!」

 

海夢ちゃんは俺の言葉に納得してくれたようで鎖を取り付けるのを止め、一旦袋の中へとそれをしまう。

よしよし、これで後で転んで頭をぶつける心配はなくなったな。

原作ではこの後に転んで頭をぶつけてしまったせいでベロニカコスが延期になっちゃうわけだけど、別に今日コスする事になっても今後に影響はないだろうし、なにより海夢ちゃんが怪我をするのを防げる。

状況によっては分かっていて見過ごすという苦渋の決断を迫られる事もあるけど、これくらいなら問題ないだろう。

 

「これ、何ですか?」

 

「あ~、それ気になっちゃう系⁉」

 

俺が人知れず推しの負傷フラグを折る横で新菜が海夢ちゃんの荷物の中にあるそれに気付く。

よくぞ聞いてくれました、とばかりに海夢ちゃんは嬉々として取り出したのはレンガ調の壁紙。

 

「剥がせるシール的な壁紙なんだけどー、こうするとー……じゃ~~んっ‼」

 

「おー!」

 

和室の中に一角だけ全く違う空間が出来上がる。

それはそれとして、嬉しそうに壁紙を指差す海夢ちゃん可愛い。

 

「ここだけ刑務所っぽくない⁉ 天才!」

 

「確かにベロニカの登場シーンにピッタリじゃん。天才!」

 

「「いえーい!」」

 

素晴らしい発想に俺が褒めて返し、そのままテンションのままにハイタッチ。

俺達のやり取りを新菜はニコニコと笑顔で見守りながら、その視線を壁紙へと移す。

 

「確かに写真の印象がかなり変わると思います」

 

「他にも色んな柄あったからなんでも出来そー」

 

「壁紙変えてまた雫コスで写真撮るのもいいかもね」

 

「アリ寄りのアリ!」

 

初めての撮影の時は布団のシーツで背景を隠しただけだった事を思い出す。

どんな柄があるか分からないのでまだ何とも言えないが、もしシチュエーションにピッタリのものがあれば撮影の幅がまた広がるだろう。

 

「あ、でもーやっぱ歯だけは探しても八重歯しかなくてさー。前歯全部ってあんま見た事ないし……うーん、ギザ歯だけはレタッチかなー」

 

「ギザ歯ってアニメのキャラで結構見るのにないんだ。需要ありそうなのに」

 

「それねー」

 

歯に被せるようなやつとかあれば結構売れそうな気もするな、なんて考えながら海夢ちゃんと語っていると、「そう聞いていたので」と新菜がポケットをまさぐり何かを取り出す。

すっと差し出されたのは大量のギザ歯。

 

「歯は俺が作りました」

 

「絵面軽くホラーなんだけど」

 

「襲った相手の歯を集めるサイコパスキラーだ」

 

「ええっ⁉」

 

海夢ちゃんと俺の言葉に新菜が困惑する。

優しい新菜ではそんな事を考えもしなかっただろう。新菜は俺達の思考に染まらずにそのままでいてほしい。

 

「えっと……調べたらご自身で作ってる方が結構いらっしゃったんです。百均のネイルチップで作れるとの事で、真似して作ってみました」

 

未だに少し戸惑いつつ経緯を説明する新菜。

今の時代調べてばいくらでもやり方は分かるだろうが、それを真似てすぐに作れるあたり、やっぱり新菜は要領がいい。

 

「スゴーっ‼ 付けていい⁉」

 

「どうぞ」

 

新菜から付け歯を受け取った海夢ちゃんが手鏡で確認しながら一つずつ取り付けていく。

装着自体は簡単なのか数分で取り付けを終えた海夢ちゃんは小指で口を広がながら笑顔でその出来栄えを披露してみせた。

 

「どーお? 見へ!」

 

うお、可愛い。

 

「わああっ‼ いい‼ 凄くいいですね‼ 思ったより自然な仕上がりになってますね‼」

 

うお、うるさ。

海夢ちゃんの可愛さに感動していたのが、幼馴染の大音量に搔き消されてしまった。

正直文句の一つも言ってやりたいところだが、当の新菜も目を輝かせて喜んでいるのが可愛かったので我慢する。

 

「声デカっ‼」

 

「はっ! すみません、どうなるか結構不安だったので……」

 

「ブチ上がるよね~、分かる~~」

 

新菜のハイテンションにウケつつ、海夢ちゃんはその喜びに共感の姿勢を示す。

さて、俺はそろそろ一旦退室しなければ。

 

「俺、下に降りるよ。そろそろ準備しないと遅くなるし」

 

「あ、うん。いつもごめんね」

 

「いいよ。逆にこっちが助かってるくらいだから」

 

「何々? 月見里君どっか行くの?」

 

俺と新菜の会話に海夢ちゃんが反応し、俺達の顔を交互に見ながら尋ねる。

 

「一階に降りてお昼の用意するんだよ。ライムで言わなかった?」

 

「……あ~! そういえば言ってた! 今日は何に作るの⁉」

 

記憶を辿り会話を思い出した海夢ちゃんは怪訝そうな顔から一変し、期待に目を輝かせる。

どこか子供っぽいその反応に思わず笑みを零しながら俺は予定を伝えた。

 

「今日は素麺だよ。後はかき揚げも用意するつもり」

 

「いいじゃん! ザ・夏って感じ!」

 

「今日は喜多川さんも来るって分かってたしいっぱい作るつもりだから。遠慮せずにたくさん食べてね」

 

「りょ!」

 

満面の笑みで敬礼する海夢ちゃんに俺も笑顔で返す。

とにかく、そういう訳では俺は一旦離席だ。

 

(海夢ちゃんの下乳を新菜以外が見るのも解釈違いだし)

 

もし仮にベロニカのコスをしたとなれば話は変わるが、その準備段階で彼女の下乳を見るのが許されるのは新菜だけというのが俺の考え。

ふふふ、新菜よ。海夢ちゃんの健康的な下乳を見てお前も健康になるがいい。

俺はニヤニヤと笑いながら一階へと向かった。

 

 

 

―――――☆―――――

 

 

 

「素麺か~。何気に食べるの久しぶりかも」

 

「そうなんですか?」

 

「うん。自分しか食べないのにわざわざ買う事ってあんまないし、お父さんが帰ってきた時は『折角だから~』ってちょっと奮発するから」

 

「なるほど」

 

喜多川さんの言う事に何となく共感する。

確かに久しぶりに家族と会うなら少し豪華なものを食べたいと思うものだ。

そして喜多川さん一人の食事となれば……まぁ、うん……

 

「守優の親戚が遠方に住んでいて、毎年この時期になると大量に送ってくるそうなんです。それで、食べきれない分を(うち)に持ってきて一緒に食べるんですよ。親戚の地元では名産らしく、コシが強くて美味しいんです」

 

「へ~! 楽しみ~!」

 

以前見た冷凍チャーハンに色々乗った写真を思い出しつつ、俺は事情を説明する。

守優はいつも申し訳なさそうにするが、俺としては美味しいものをお裾分けしてもらっているのでむしろありがたいくらいだ。

なにより、誰かと美味しいものを共有する食事というのは楽しい。

後程三人で食卓を囲むのを想像しつつ、俺達はコスプレの準備を再開――

 

「じゃ、着替えよっかー」

 

喜多川さんがおもむろに服を捲り上げた。

俺の目の前に真っ白な肌が無防備に曝け出される。

 

「先にファンデ塗らなきゃだけど。ごじょー君、後で背中塗るの手伝ってもらっていーかなー さっきもマジ手こずってさ~」

 

くびれのついた細い腰。

それと対照的で豊満な喜多川さんの……!

 

『健康的な下乳を見ると健康になれるから最高‼』

 

『分かる』

 

以前喜多川さんが言っていた言葉を、それに守優が共感していた事を思い出す。

こういう、事なのか……

 

「なるほど……分かった気がします……」

 

理屈ではない何かを理解したのを自覚しつつ、俺は片手で顔を押さえる。

手のひらから感じる温度が熱い。きっと俺の顔は今真っ赤だろう。

 

「ちょっ、顔真っ赤じゃん‼ 熱中症⁉」

 

突然喜多川さんが慌てはじめる。

 

「へ? 俺は全然なんとも……」

 

「ヤバい……‼ どーしよ‼ とりあえず水……‼」

 

ワタワタとうろたえながら喜多川さんが立ち上がった。

彼女の足元にはさっきまで持っていたファンデやマスカラが落ちているし、床にはお盆に載せたお茶やコップも置いてある。それらを踏んだり激しく動いて倒れたりしたら大変だ。

 

「喜多川さん、俺は大丈夫ですから落ち着いて――」

 

「わっ⁉」

 

喜多川さんを落ち着かせようと、思わず彼女の手を握ってしまった。

それが良くなかったのだろうか。

俺に静止された反動で、喜多川さんは俺の方へと倒れ込んでくる。

 

「――ぇ?」

 

喜多川さんの驚いた顔が徐々に赤くなりながら迫ってくる。

何故かスローモーションのようにゆっくりと近付いてくる彼女の顔を俺はただ見つめる事しか出来ず……

 

ごっ‼

 

「「~~~~ッ‼」」

 

俺と喜多川さんは互いの額を強くぶつけ合った。

仰向けに俺が倒れ、その上に喜多川さんが馬乗りの状態で(うずくま)る。

 

()ったぁ~‼」

 

「だ、大丈夫ですか、喜多川さん⁉」

 

額を押さえながら悶える喜多川さんに声を掛ける。

互いに額をぶつけたのだから俺も当然痛いが、そんな事はどうでもいい。まずは喜多川さんだ。

 

「すみません、俺がいきなり手を引いたりしたから……!」

 

「~~っ、大丈夫……あたしこそ、一人でパニクっちゃってごめん……」

 

互いに謝りながら、同じタイミングで体を起こし合う。

痛みに潤む赤い瞳と目が合った。

 

「「…………」」

 

先程まで感じていた額の痛みも忘れ、俺はただじっと喜多川さんの瞳を見つめる。

彼女もまた、俺の瞳を静かに見つめ返していた。

まるで時が止まったかのように、俺達は身動き一つせずにただ見つめ合う。

 

「なんかドタバタしてるみたいだけど、大丈……ぶ……」

 

「「‼」」

 

いきなり襖が開いて守優が顔を覗かせる。

俺達が騒がしくしたから様子を見に来たのだろう。

だけど、今のこの状況は……‼

 

 

「……あ~……その…………ごめん、お邪魔だった?」

 

 

やっぱり誤解された!

その後、俺と喜多川さんは慌てて守優に訂正する事になり、本題であるベロニカたゃのコスプレは喜多川さんの額が腫れてしまったので延期となった。

 

 

 

 

.

原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について

  • 内容的に違和感がなければ登場してほしい
  • 登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
  • 執筆者の自由にしたらいい
  • 原作準拠であまり出さないでほしい
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