新菜の家で行うはずだったベロニカコス&撮影が延期になってから数日。
俺は海夢ちゃんから渋谷に遊びに行くお誘いを受けていた。
グループライムでの発信だったので俺だけでなく新菜にもそれは伝わっており、新菜はそれを快諾。
しかし、俺は今回は敢えて所用があると嘘をついて辞退した。理由は勿論、わかまりのデートを邪魔しない為である。
新菜も海夢ちゃんも俺がいたところで嫌な顔などしないだろうし、むしろ新菜は俺がいない分緊張しそうな気もするが、今回はコスプレの準備等を含まないもの。ある意味ではわかまりの初デートとも言える。
そんな大事な一日に水を差したくなかったのだ。
正直、わかまりファンのオタクとして二人のデートをリアルタイムで生で見守りたいという気持ちはあったので、お断りのライムを返す時は断腸の思いでした。
『ごじょー君の服買う為に色々試着してもらったんだけど、全部カッコよすぎてマジ無理だった! あんな何でも似合う人存在するとかヤバヤバのヤバ!』
そんなこんなで無事にわかまりの二人きりで渋谷へと送り出した日の夜。
俺は海夢ちゃんとの個別通話で今日の出来事について話を聞いていた。
『でもごじょー君的にはどれもしっくりこなかったっぽくてさ、結局ごじょー君が買ったのは甚平だけだったわ~』
『その甚平もくっそ似合ってたんだけど!』と、テンション高く新菜について語る海夢ちゃん。
その声色から今日一日が彼女にとってどれだけ素敵なものだったのかが伝わってくる。
「最近の新菜は学校の制服か作務衣しか着てるとこ見てないなぁ。今度出掛ける時は俺も一緒に行きたいし、その時は二人で新菜に色んな洋服試着させてみようよ」
『オッケー、その時の為にまたメンズ服の店探しとくっ!』
「よろしく」
海夢ちゃんのセンスなら大丈夫だろうが、しかし海夢ちゃんは新菜に対して恋のフィルターが入るからなぁ。
新菜は身長高いし体格もいいから確かに何着ても似合いそうではあるけど、派手なのは彼の雰囲気には合わなそうだ。
俺が選ぶ時は落ち着いた感じのコーディネートにしてみよう。
そんな事を考えながら新菜に似合いそうな服について話していると、話題は次に新菜がベロニカコスの手伝いを断ってきた話へと移行した。
『ごじょー君にベロニカたゃのコス断られた時はマジ何事って思ったんだけど、理由訊いたらあたしの下乳想像して恥ずかしがってたの! もぉ~、ごじょー君エロすぎ! でも照れてるごじょー君も可愛かった!』
実際それを言われた時は海夢ちゃんも顔を真っ赤にして照れていただろうに、それを感じさせないテンションで海夢ちゃんがスマホの向こうで笑う。
きっと家では喋るだけでなくバタバタと悶えているだろう事が容易に想像できた。
「確かにベロニカは露出高いもんね、新菜ならそういう反応になりそう」
『……けど、あーいう反応だったって事は~……ちょっとはあたしの事意識して、くれてんのかな~? みたいな……』
さっきとは打って変わって今度は照れ臭そうに、そしてどこか不安そうに海夢ちゃんが呟く。
自分ばかりが新菜を意識して、その逆があるのかどうか気になるのだろう。
「間違いなく意識はしていると思うよ。新菜はこれまで女性とお近付きになる機会自体なかったからね」
『それはそうなんだけどー、そういう意味じゃなくてってさ~』
望む回答を得られなかったからか、海夢ちゃんが不満そうに唸る。
「気持ちは分かるけど、そこに関しては新菜の口から直接聞いたわけじゃないし、俺からはなんとも言えないよ。ただ、喜多川さんの事を大事に思っているのは間違いない。大事にしているからこそ、ベロニカコスの手伝いを辞退したんだと俺は思う」
通話の向こうで海夢ちゃんが黙り込む。
海夢ちゃんに言った通り彼女の気持ちは分かるが、新菜の思いは新菜のもの。十中八九新菜は海夢ちゃんを意識しているだろうが、それを無暗矢鱈に第三者である俺が勝手に代弁するわけにはいかない。
しかし、新菜の気持ちを大事にしたい思いがあるのと同時に、海夢ちゃんの不安を取り除いてあげたいのも本音だ。
なので俺は少しだけ海夢ちゃんが素敵な恋路をこれからも歩けるように少しだけ後押しする。
「心配しなくても、喜多川さんという存在はちゃんと新菜にとって大事な部分にいるよ。だから今は、焦らずに新菜との時間を積み重ねていけばいい」
『……うんっ』
通話の向こうで海夢ちゃんが元気よく頷くのが分かる。
海夢ちゃんは元気いっぱいで自分に真っ直ぐで、そして恋に全力な姿が良く似合う。
このひと夏で彼女が、そして新菜が素敵な思い出を沢山作ってくれるのを知っている俺はその時が来るのを楽しみにしながら、海夢ちゃんの言葉に耳を傾けるのを再開した。
喜多川さんと渋谷に出掛けた日の夜。
彼女が次にコスをする予定のリズきゅんへの理解を深める為に『サバこま』を読んだり、デフォルメされていたり隠れている部分の衣装のデザインを考えているうちに夜更かしをしてしまった。
そろそろ寝る準備をしなければ、と思っていると守優からのライムが届く。
まだ眠気も来ていないし断る理由もなかったので、俺は彼との通話に応じた。
『……健康的になったか?』
どうしよう、通話に応じたのをちょっと後悔した。
「からかわないでよっ!」
『声デカ。ウケる』
思わず出た大声で抗議すれば守優はケラケラと笑いながらそれを受け流した。
守優の言葉もあり、この部屋で喜多川さんの下乳を見てしまった事を思い出してしまう。
また顔に熱が籠るのが分かった。
『断った理由もなんとなく喜多川さんから聞いてるよ。で、凄く納得した。新菜らしい理由だってさ』
彼の声にはさっきまでの揶揄う事を目的とした色がない。
言葉の通り俺が断った理由に理解を示したのが分かったが、守優は「でも」と言葉と続けた。
『コスの手伝いをするのが無理でも、せめて一回くらいはコスした姿見てあげな? ベロニカのコスだって、新菜と喜多川さんの努力の賜物なんだから。『見るのが恥ずかしい』なんて理由で箪笥の肥やしにされたら衣装が浮かばれない』
「……確かに、そうだね」
露出が高くて目のやり場に困るという理由で着られる機会を奪うのは確かに衣装が可哀想かもしれない。
これまでの中で一番早く出来上がった衣装ではあるが、決して手を抜いたわけではない。雫たんやブラックリリィ、ブラックロベリアの衣装と同様に自分の持てる知識や技術を使って作った大事な作品だ。
そう考えると昼間に渋谷で喜多川さんが写真を送ると言ってくれたのに断ったのが悔やまれる。
『今更自分からお願いするのも気が引けるだろ。俺の方から喜多川さんにそれとなく言っておくよ』
「うん、お願い」
なんとなく察してくれたのだろう、守優の言葉に俺は甘えてさせてもらう事にした。
『それで、どうだった? コスの準備とか関係なく友達と出掛けてみて……』
ふいに投げかけられた質問。
その言葉に今日の出来事が脳裏を駆け巡る。
慣れない自分の服を選び、ラーメンを一緒に食べ、ベロニカたゃのコスについて語り、始めての漫画喫茶で次のコスについて話し合った今日一日を。
「……楽しかったよ」
自分でも驚くほど簡単にそのを言葉を口にしていた。
「慣れない服を沢山着てみたり、初めて漫画喫茶に入ったり……凄く楽しかった」
俺一人じゃ絶対しなかった事をして、絶対行かなかった所に行って……喜多川さんといると初めての連続で、とても新鮮だ。
元気いっぱいな喜多川さんには時に巻き込まれ、引っ張られる事もあるけれど。
それでも本当に、彼女との時間はただただ楽しかったのだ。
『……そうか。なら良かった』
守優が呟く。
彼が零した言葉にはどこまでも優しい思いが滲んでいた。
まるで俺の幸せを願うようなその言葉を、きっと親友は穏やかな笑顔を浮かべて口にしているのだろう。
喜多川さんが俺の手を引いて新しい世界を見せてくれる人なら、きっと守優は俺の背中を押して支えてくれる人だ。
彼がいるからこそ、今の俺がある。
月見里守優という一人の人物は、俺にとってなくてはならない存在の一つだ。
そんな人が俺の幼馴染として、親友として傍にいる。それはどれだけ幸福な事なのだろう。
「今度は守優も一緒に行こうよ。喜多川さんと三人で』
喜多川さんと過ごす時間は大切だ。
だけどそれと同じくらい、守優と過ごす時間も大切なのだ。
だから今度は、この三人で同じ思い出を作りたい。
『…………』
「……守優? どうかした?」
守優が黙り込み静かになってしまった事に気付いて声を掛ける。
俺の思いは俺が勝手に抱いていたものだ。もしかして、守優にとっては迷惑なものだったのだろうか?
『……いや、なんでもない……そうだな、また今度三人で出掛けよう』
「! うんっ」
返ってきた守優の言葉に俺は思わず嬉しくなって返事に力が入ってしまった。
何故なら彼の言葉には確かに喜びの感情が含まれているのが分かったから。
彼ほど聡いつもりはないけれど、これくらいは俺にだって分かる。
だって俺は月見里守優の親友で、彼が俺の事を大切にしてくれているのと同じくらい、俺も彼の事が大切だから。
「そうだ、今度喜多川さんが『サバこま』っていう作品のキャラクターのコスプレをするんだけど――」
『デフォルメされた衣装のデザインについてか。これは俺の意見だけど――』
親友との通話に花が咲き、更に夜は更けていく。
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今回はちょっぴり難産でした。
わかまりのデートを邪魔しない立ち位置になってもらった結果このような形になりましたが、場面自体はほとんど動かないという……!
次回はちょっとオリジナルな話になると思います。
原作に登場しないキャラクター(主人公の身内や乾家両親、アオイさん等)の登場・オリジナル設定について
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内容的に違和感がなければ登場してほしい
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登場するのはいいが必要最低限にしてほしい
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執筆者の自由にしたらいい
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原作準拠であまり出さないでほしい